J/
ファンキーでポップな映画…軽いアメリカの青春映画くらいに思って観に行ったのだけれど、どうして結構シビアで泣けてくる映画で、
実に面白かった。
B/
『ゴースト・ワールド』ってタイトルからして、オカルト映画かと思っちゃうわよね。
J/
ファースト・シーンが異様でね。アパートの部屋をキャメラが一軒一軒覗き見?していくのだけれど、なぜかみんな同じテレビ番組を見て
いる。安っぽいミュージカルのワン・シーンでね。
B/
マサラ・ムービーの音楽なんだそうよ。ラジニカーント氏よりももっとムキムキの男たちが腰を振って踊っていて、それに合わせてテレビ
の前の視聴者たちが、踊っているの。ものすごく太ったおばさんとか、冴えないおじさんたちが。最後に主人公の女の子の部屋に入ると、
やっぱり踊っていて、なんという始まり方だろうって思った。
J/
冴えない日常・・・寂れた町・・・もうバスも来なくなってしまったような町。こういう風につながってくるんだね。お決まりのハンバーガー・
ショップ、時代錯誤の50年代カフェ、ドラッグ・ストアーに、場末のバー。そうこの町が「ゴースト・ワールド」だったんだね。
B/
寂れた感じを出し方がうまいわよね。卒業した後、何もやることがなくって彼女たちが観察した町の大人たちの異様なこと。全身ピンクに
スキン・ヘッドの男と歳がいっているのに少女みたいな格好をしているおばさんのカップル、彼女たちの言うところでは「悪魔崇拝者」(笑)
J/
バスが来ないバス停留所で、スーツを着て毎日バスを待っている老人。ムキムキの上半身を誇示して、ヌンチャクを振りまわすイカれたお
兄さん。この平凡な町からもはみ出してしまう異様な大人たち。
B/
卒業式の後、ポッカリ心に穴があいて、それでそんな人たちの後をつけていったりするのね。退屈しのぎに。
J/
あの卒業式のあとのパーティーのシラケタ気分なんだかとってもわかるね。そんなに仲良くもなかった子がケラケラケラって話しかけてき
たりして。それもなんだか、女優になるとかいってんの。ヘンなジェスチャーをするダサイ子なのに。
B/
早くもう卒業しちゃいたいって思ってたのに、いざ卒業して自由になってみると、なんだか寂しいような。なんだか取り残されちゃったみ
たいな気分になってていうのは、なんだかとってもよくわかるのね。
J/
とってもそういう気分がよく伝わってくるよね。自分たちが高校生だった頃も今も変らないんだね。誰にでも経験あるんじゃないかな。
B/
そんな退屈しのぎの中で、新聞の出会い系広告の男を呼び出して観察することを思いつく。それで呼び出された男っていのうが、スティー
ヴ・ブシェーミ。柄にもなく、ミルク・シェーキを注文してひとりで飲んでいるその姿の侘びしいこと。私から見ると、ちょっと可愛いか
ったりもするのだけれど、若い子から見たら、なんともお寒い。
J/
結局誰も来なくって…当たり前だね(笑)、イライラしながら帰っていくのだけれど、車にぶつけられそうになったり散々で、本当に冴えな
い。
B/
後をつけていってからかいたくなるのもわからないでもない。翌日改めて家に出かけていったら、ガレージ・セールをやっているのね。そ
れで彼がブルース・オタクっていうのがわかる。他の町の人とは何か違う雰囲気があるの。からかい半分に色々と音楽のことを訪ねたら、
まあ、次から次へとよくしゃべること。
J/
ちょっとでも相手が興味を示したのをいいことに、自慢の一品をわざわざ自分の部屋から持ち出して見せるあたり、結構キテます。(笑)
物をコレクションするっていうのは、究極の自己満足の世界なんだよね。他の人に見せたからって、興味のない人にはなんら価値がない。
せいぜい同好の嗜に見せて嫉妬と羨望のまなざしを受けるくらい。殺し文句は「限定生産」(笑)
B/
でも彼に他の大人にはないものを感じちゃうのよね。こだわりがある大人。自分の世界を持ちつづけている大人…それが彼女の価値観の部
分でピンっときちゃった。「ダサイけれど良くなってきたのを通り越してやっぱりムカついてきた」って。
J/
彼女自身、自分の価値観でもって世の中を生きている。他の人からヘンだって言われても「今日はパンク日和よ」って突っぱねちゃう。退
屈な町の退屈な大人たちを見ていて、自分は彼等とは違うって突っ張っている。だからある部分オタクの生き方がカッコよく見えちゃった
んだね。
B/
仕事をもってちゃんと食べていくってことは、社会のルールに従わなくてはならないし、自分も曲げなきゃいけない部分も出てくる。やっ
ぱりその辺は知らず知らずのうちに諦めていくものなのね。
J/
僕は、彼女の気持ちがわかる一方で、ブシェーミの気持ちもとってもわかってしまった。観ている時には気づかなかったのだけれど、回り
を見回したら、観客の年齢層は自分よりずっと下、これではどちらかというと、ブシェーミのほうに年齢は近い。トイレの鏡で自分の顔を
眺めちゃったね。自分は彼らにどんな風に見えてんだろうって(笑)
B/
大体がこんなところで、映画の話なんかしていること自体が、オタク的だしねぇ。
J/
マニアって言ってよ。マニアって(ブリブリ)…でもそんなに変わりないかぁ。映画を観て、色々ごちゃごちゃ言っているのと、ブシェー
ミがブルースについてアレコレ言っているのは。(苦笑)ますます彼に共感してきた。
B/
自分の価値観の中だけで生きていくっていうことは、世間との接触ができなくなってくるってことなのだけれど、そういう意味では、ブシ
ェーミの場合オタクっていっても、自分でオタクってことを認めているし、仕事もキチンとしている。どこか控えめのところがあってね。
常識も持ち合わせているわね。
J/
その辺の大人とそんなに違わないのだけれど、彼女にはそのへんの温度差はわからないだろうな。
B/
彼女の場合は、友達が、就職して徐々に変っていくのに対して、次第にあせりを感じていく。このあたりの友達とのすれ違いがいいわね。
生活時間が合わない。会話にもズレが出てきて。それで、ブシェーミおじさんに段々と肩入れしていく。行き場所がなくなった自分を受け
容れてくれる唯一の人だから。
J/
彼自身もアウト・サイダーだからね。
B/
唯一、彼女が希望を見出すのは、卒業の補習授業の美術の時間で、先生に認められたことだったのだけれど、この美術の先生が相当にいか
がわしい。作品にこじつけの解釈を加えて、「素晴らしい、素晴らしい」っていっているの。どこか偽善の臭いを感じちゃうわね。
J/
彼女をニューヨークかなにかの美術学校に推薦するっていういい話も、展覧会での大人たちの偽善で、ダメになってしまう。彼女が新しい
世界、社会に旅立とうとすると、世の中のルールという壁が立ちはだかってしまう。それでますますはじかれていくんだね。
B/
頼みのブシェーミおじさんと夜ベッドを供にしてみれば、失望しか感じないし…それにしても男って馬鹿よねー。相手がシラーとしてしま
ったのに気づかない。もう、たった一夜の出来事ですっかり舞い上がってしまって、せっかくの恋人もフイにして、ずっと年下の彼女に
入れあげてしまうなんて。
J/
僕も、イヤな予感がしたんだ。おいおいやめとけって。『アメリカン・ビューティー』にしても『ロリータ』にしても『痴人の愛』にして
も、おじさんが、若い子に入れあげるとロクなことにならないんだから(笑)
B/
ああいう紳士ヅラの人に限って、いったん取り乱すとねぇ。
J/
なんだか気の毒になってきたよ。
B/
まあ、それはさておいて、結局彼女は行き場を失ってしまう。もはや、来ないバスを待ちつづける老人だけが、自分のことをわかってくれ
る人だって。でもその老人までが、来ないはずのバスに乗ってどこかへ行ってしまう。彼の行くところは、亡くなった奥さんのところの
ような気がする。幸せな思い出の世界への旅立ちね。
J/
本当に短いひと夏の出来事に過ぎないのだけれど、その間に変っていく彼女の心境、最後に味わう挫折感、この映画の表現力にはすごい
力があると思う。その最後の極めつけが、いつもからかっていた、あの老人だったというのが、すごいね。そしてその老人と同じように
来るはずのないバスに乗って行くんだものね。
B/
ラストは厳しいわね。ポップで明るく始まったこの映画がこんな結末を迎えるなんて想像ができなかったわね。
J/
どこに行くのか行く先の表示されていないバス…誰もが乗ることのできないバス…それがどんどん遠ざかっていく。決してバスに乗った主
人公のアップが映されることもない。『卒業』のラスト・シーンに見られるように、大抵は1回アップを映しといて、それから遠ざかるバ
スを見せるというのが、映画の定石なのだけれど。
B/
遠ざかっていくのをキャメラはただ、その場で見つめるのみなのね。バスの前から主人公を映すと希望。『モダン・タイムス』のラストみ
たいに遠ざかっていくのを後ろから映すというのは、前途に厳しいものを予感させるような効果があるわけ。ただ『モダン・タイムス』
には、前に道が広がっている。その先には何がしかの希望があるかもしれない。ところがこの映画は、車の雑踏の中に消えてしまっていく
のでそれさえない。
J/
まあ、僕は「死」といことではないとは思うけれどね。彼女は混沌とした世の中の中で結局アウト・サイダーとして生きていく道を選んだ
という風に考えたい。社会との決別…そこにはあんまり一般的な意味での幸せはないかもしれないけれどね。孤独でね。
B/
ありきたりの青春映画というのとは一線を画する、見事な映画だったわね。映像もいいし、音楽もいい、おまけにお洒落でこれだけ深い
青春モノってそうはないわよ。
J/
ソラ・バーチがよかったねぇ。ブス顔なんだけれど、とてもお洒落で個性的。若いのに存在感のある女優さんがまた出てきたなァと。
B/
脇のおじさんたちも、非常にヨロシイ。ブシェーミおじさんといい、ソーラ・バーチのお父さん役、ボブ・バラバンも。それにしても
ブラッド・レンフロってすごく芋っぽいお兄さんになっちゃって、一体どうしたのかしらん?まあ、それはまた別の話なんだけれど(笑)
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