シネマ道楽の目次へ   ホームヘもどる
カエル 『映画日記』…2004年5月



<5月×日『浅草の灯』>
1924年、関東大震災直前の浅草が舞台。
冒頭天井桟敷からオペレッタの舞台が映し出され、花が投げられる。まるで『天井桟敷の人々』を思わせるファースト・シーン。 けれども、『天井桟敷の人々』はもちろん第二次大戦中に製作された映画というわけで、決してこの映画『天井桟敷』のまねをしたわけではない。 製作昭和12年、日本にこんなモダン、こんなヨーロッパの感覚を持った映画があったことが驚きである。

なぜなら昭和12年といえば、南京占領の年でもあり、日独伊三国同盟の成立した年でもある。 満州では満映が設立され、戦意高揚が図られた。戦時色がますます色濃くなってきた年なのだ。
当時の婦人雑誌が手元にたまたまあるのだが、「兵隊さんからの勇敢な手紙や戦争の美談、銃後の守り方、代用食の作り方」などなど 時まさに戦時色一色なのだ。
浅草オペレッタ、大正モダン、マルクス・レーニン、よくぞこんな映画が作れたと思う。

この映画の監督島津保次郎は、戦時中も軍部や聖戦にケチをつけてはばからなかっという。不敬罪ギリギリのところで映画を作っていた。 そんな監督だからこそ、時流に反した映画が作られたのだろう。
もちろん昭和14年4月5日に公布され、同10月1日より施行された映画法以前の映画であることは言うまでもない。

この映画の主役は上原健、高峰三枝子(すごく綺麗で愛らしくびっくりした!)なのだが、それ以上にびっくりだったのは、 オペレッタのプリマドンナ!をやった杉村春子!! (あの杉村先生がプリマドンナですぜぇ。)

しかも歌まで堂々披露してしまう。もちろん純情可憐のはずはなく、そちらはもっぱら高峰三枝子のほうにまかせているのではあるが… 彼女の役といえば、もうすでに糖が立って人気は落ち目なのにプリマドンナにしがみつくというとんでもなさ。 鉄成金から自分の劇団の資金を得るために、人気が出始めている高峰三枝子を彼に売ろうとする非情。 歯切れのよい杉村節が炸裂する。

高峰三枝子のことを好きで、救おうとする上原健(よぉ!フル・ムーンコンビ…古いか)は、安全な場所 ということで画学生のボカ長(夏川大二郎)の下宿に彼女を預けるのだが、ボカ長もまた彼女が好きで恋の行方も混沌ととする…というまあ他 愛ないといえばそれまでの話なのだが、それぞれの俳優の魅力でいやがうえにも惹きつけられてしまう。 その中心にいる杉村先生の貫禄。このとき映画デビュー2作目、まだ20代の若さというのだから恐れ入る。この人はいったい全体何者な のだろうか!!

もちろんこの映画の魅力は杉村春子を見ることだけではなく、当時の浅草の風俗、雰囲気これがフィルムに染み付いてること、これこ そ貴重。というのも、島津保次郎監督は浅草出身の正真正銘の大正モダン・ボーイであったから。
こういう古い日本映画もたまにはいいですね。

メイルちょうだいケロッ

トップに戻る   ホームヘもどる