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カエル 英国映画祭通信bS『鳩の翼』


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@そして彼女は来なかった…

AJack&Bettyの「だから映画祭通いはやめられない!」


@そして彼女は来なかった…

ヘレナ・ボナム・カーター来日。舞台挨拶ありの報に私は浮き足だった。 ヘレナ・ボナム・カーターは数いる英国女優の中でも、本格派。祖父は 労働党の首相。母方の祖父も大使という本物の上流階級の出身。 20才の時の『眺めのいい部屋』から14年。同じイタリア、貴族の娘役、 恋愛映画。それが『鳩の翼』。

デビュー当時は、いかにも育ちの良さを感じさせる優雅な振る舞い。無垢 な感じさえする童顔。一方意思の強そうな太い眉。繊細で知性的なブラウ ンの瞳が誠に魅力的だった。英国映画ブームで「貴公子」ばかりがもて はやされる中で、唯一咲いた薔薇の花。それが彼女だった。
この月日の中で彼女がどのように成長したか。聞けば、この映画は彼女の 最高傑作との呼び声も高い。期待はいやが上にも高まる。

そして、当日。彼女は…来なかった。
当初の予定通りか、最初の上映の日に空席があったことが原因か、それは わからない。(前売りは完売だったはずなんだけど…) くやしい。やっぱり初日に立ち見でも何でも行くべきだった。 「彼女ってぇ、『フランケンシュタイン』でぇ、デ・ニーロにぃ、殺され ちゃった人でしょぉ。でぇ、今日は来ないみたいよぉ」
「でもぉ、なんかぁ、けっこうおばさんよねぇ。」
あちゃー。おばさんとちゃうんよ。おばさんと。
それでも、2回目の上映にもかかわらず、会場は大量の立ち見がでる盛況振りだ。 ドイツ語の教科書に読みふけっている、女子高生。お洒落してきている母 娘。得意そうに女の子に「黒澤」を語る、若い男。「Hanako」を片手に 映画談義に話をさかせる元ギャル風OL。英国大好きそうな「エレガント おばさま。」それからもちろん外人。1時間あまり並ぶ間に、階段は1階 から5階まで、開場を待つお客さんで埋め尽されてしまった。

映画は期待に違わぬ出来であった。14年の月日が流れ、彼女の顔から幼さ はなくなり、すっかり大人の女になった。しかし、あの意思の強そうな眉と 知性的で情熱を秘めたブラウンの瞳はそのままで、さらに演技には磨きが かかった。体当たりの演技。理知的でいて情熱的。嫉妬に狂うその様のすごい こと。複雑な女心を見事に演じ、その成長振りに心が熱くなった。
シャーロット・ランプリング、アリソン・エリオット、ライナス・ローチ他 出演者それぞれに持ち味を出し切っていて、大満足の101分だった。

では、ここでいつもの通りJack&Bettyさんに登場いただいて、この映画について 思う存分語り合っていただくことにしましょう。

AJack&Bettyの「だから映画祭通いはやめられない!」

CASTジャック&ベティ


B/ あらあら、改めて紹介なんかされると、まるで私たちが舞台挨拶するみたいな気分よね。せっかくこの部屋 にも落ち着いてきたっていうのに。(笑)

J/ SADAガエルさんよっぽど、がっかりしたんだよ。舞台挨拶見れなくって。僕もその気持ちわかるな。

B/ 素晴らしい映画だったものね。久しぶりに見た70ミリの大画面。美しかったわね。

J/ 正確には「シネマ・スコープ」サイズの35ミリらしいけどね。左右いっぱいに広がった画面をとてもうま く使った映画だった。

B/ 時代は1910年、英国。没落した中産階級の娘、ヘレナ・ボナム・カーターが主人公。没落したっていって も色々あると思うけれど、彼女の家の場合は、とりわけひどい状態で。お父さんはお酒ばっかり飲んでるの。 しかも、場末の安酒場で。家もロンドンの貧民街の小さな安アパートで、鉄パイプのベッドが一つしか置いて ないような、寒そーうな部屋に住んでるの。

J/ ところが、彼女はすごい素敵なかっこうをしている。つばの大きい帽子をかぶって、狭い地下鉄になんか乗 って。あの帽子はそもそもそんなところでかぶるようには出来てない。そうすると、レディが普通こんなと ころに来ないもんだから、若い男が思わず席を譲っちゃったりなんかしてね。きれいな格好はしてるけど、 お金は持ってないんだね。なんだろう。映画はそんなところから始まるね。

B/ それで、なんでこんな格好をしているかっていうと、実は金持ちの叔母さんがいて、これシャーロット・ラ ンプリングなんだけれど、彼女が娘を保護してるからなのね。

J/ 叔母さんは子供がいないんだよね。彼女はお金を持っているけれど、貴族の称号はない。それでこの娘の保 護者になって、あわよくば没落している貴族と結婚させて、それを手に入れよう。そう考えてるわけ。

B/ これって『タイタニック』もそんな話だったわよね。貴族の娘のケイト・ウィンスレットがお金に窮乏して、 お金持ちのアメリカ人と結婚させられそうになるっていうシチュエーションが。あれは1912年の話だか ら時代も一緒よね。当時はこういうことが本当に多かったのよね、きっと。

J/ 皮肉なことに、『タイタニック』を観て『鳩の翼』を観ると、話の厚みが全然違ってみえる。まあ、それは 置いといて。最初のパーティーのシーンが面白かったね。「あの娘を見てごらん。彼女のところお金に窮乏 して屋敷を維持していくのが、大変な状態なんだよ。こっちを観てごらん。ほら、金持ちの若い男がいるだ ろう。今に目をつけるよ。ほら、そっちに向かってる。よしうまくいったね。」なんて。さらりと、見せる んだね。そんなことを言って楽しんでいる貴族の男自身も、金持ちの家の娘がいないか虎視眈々と狙ってる ところが面白い。

B/ この映画の行方が、これだけで説明されちゃったみたいなね。もーう、貴族たちは金持ちの娘を狙い、新興の 金持ちは貴族の称号をねらって、でも上辺だけは、そんなところは見せずにあくまでもお上品に振舞うのだけ れど、なんかドロドロとしたものが…。

J/ シャーロット・ランプリングがいいね。計算高くて、冷たい女でね。パーティーで貴族の男と引き合わせる ために彼女がヘレナ・ボナム・カーターにネックレスをつけてやるんだけれど、あれは、姪に対する愛情で はなくて、もう自分の欲のため。(笑)目がね、優しくないんだよ。覚めた顔してるんだ。

B/ こんな人たちの間に天真爛漫な若いアメリカ女性が飛び込んできて、そこから話はますます面白くなってく るの。彼女は笑い方からして開けっぴろげで、もう一目見てアメリカ人って感じの女性でね。服装からして 自由な格好で、のびのびとしてて、あの中に入るとホント魅力的に見えるのよ。

J/ 彼女は実に魅力的に映るよね。しかも若くして遺産を相続して、大金持ちとくる。

B/ そんなんで、貴族の男は結婚相手を彼女に乗り換えようとするし、ヘレナ・ボナム・カーターまでそれに影 響を受け初めて、段々怖くなってくるのね。

J/ この原作者のヘンリー・ジェームズっていうのは、英国人とばかり思ってたら、ニューヨーク生まれのアメ リカ人なんだね。意外だった。幼い頃から、父親に連れられてヨーロッパをあっちこっち旅行し、英国にあ こがれて、のちにわたり、永住権を獲得した。そんな人なんだね。

B/ この作品『眺めのいい部屋』や『日の名残り』のジェームズ・アイボリーに通じるところもあると思ったら そういうことだったのね。

J/ 監督は英国人なのに、やっぱりそういう色が出てるから面白いね。実はヘンリー・ジェームズとアイボリー って他にも共通点があってね。父親が二人ともアイリッシュのアメリカ移民で、アメリカで成功を収めた とかで。本人は「ヨーロッパというヴィールス」に感染して。アイボリーの原点もここにあるのかもしれな いね。

B/ 確かアイボリーの映画『ボストニアン』の原作は、ヘンリー・ジェームズだったわよね。相当影響を受けてる のよ。やっぱり。

J/ 奇しくも『眺めのいい部屋』では、イタリアのフィレンツェが第2の舞台になっていたけれど、この映画で は、ヴェニスが第2の舞台になる。やっぱり恋愛映画はイタリアが映える。(笑)最初シネスコの画面をもて あましぎみに見えたカメラが、突然ヴェニスの風景に変わるときの鮮やかさったらなかったね。

B/ なんか、サイズは変わらないはずなのに、突然画面が広がったかのようなそんな印象だったわ。あれはわざ とだったのね。ヴェニスの町が美しかったわね。

J/ 古い歴史的建造物を改装したホテルの豪華なこと。月明かりだけの細い水路をゆったりと漕ぐゴンドラの 水飛沫のきらめき。仮面舞踏会のカーニバルの賑やかで妖しいこと。こんな背景の中で、中身の濃いドラマ が展開される。時にロマンチックに。時に残酷に。時に激しく感情的に。実に見ごたえあったね。

B/ アメリカ人の女性役、アリソン・エリオットが明るさの影にはかなげさも秘め、でも懸命に生きようとする 女性をとっても魅力的に演じてるの。

J/ ヘレナ・ボナム・カーターも、冷静さの奥に実に激しい感情を隠す女性役がすさまじかった。最近アメリカ 映画でそれなりにいい味を出し、『十二夜』でも情熱的で魅力的な役を演じて、その健在ぶりを見せてはい たけれど、ここまですごい演技はお目にかからなかったね。

B/ ライナス・ローチも揺れ動く心を上手に表現してたわよ。演技人がみんな見事だった。

J/ 登場人物たちが、みなそれぞれ、情熱を持っているんだけれど、様々な理由でそれをストレートにぶつけて いけないのが、とても英国のドラマといった感じがする。

B/ これは、ある意味ですれ違いのドラマなのね。二人が同じ通りを歩いてお互いに相手を探しているのだけれ ど、ほんのちょっとの差で出会うことができないみたいな。とっても切ないのよ。

J/ 切ないね。だけど、ハリウッド製のメロ・ドラマのせつなさとはだいぶ趣が違うね。もっと、シビアで皮肉 っぽさがあるね。そこがこの映画の良いところだね。

B/ 恋愛を通じて人間の本質にまでせまっちゃったみたいな。これは一般公開が決まってるので、ぜひぜひたく さんの人に観て欲しいわね。



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