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カエル 不思議な国日本!


映画を観ると、とみに最近日本人出没の機会は増えつづけ、「ああ不思議な国日本!」が世界を駆け巡る。
オードリー・ヘプバーンの『ティファニーで朝食を』。これに登場する日本人の名は、正体不明の「オニユ シ」さん。分厚い牛乳ビンの底眼鏡をかけ、やたらがなりたてるミッキー・ルーニーおじさんの趣味?は部屋 に提灯を飾ること。これが本物の日本人ならば、かなりの変人と私は見た。
トリュフォーの『家庭』では、アントワーヌ・ドワネル君の浮気相手はキョーコという名の日本人。彼女の家に食 事に招かれた我らのドワネル君、使い慣れない箸に悪戦苦闘するその足元を見てみると、なんと土足であぐら を組んでいる。もちろんそれを見ても彼女は何も言わない。それは別に当たり前のことだから?
『コンタクト』。アメリカ映画で和式トイレが出てきたのはGOODだったけれど、そのトイレに正月でもないの に「鏡モチ」が飾ってあったのは、形が形なだけにブラックなものを感じる。
『ガン・ホー』では、モーレツ(なんかこの時代遅れの言葉がしっくりとくる)社員たちが、社内で「乾布摩擦 」をおこなっている。朝から深夜までの過酷な仕事を乗り切るためには、やっぱり「健康一番」。日本でもっ ともポピュラー?なこの健康法は、朝礼で「社歌」を歌うより理にかなっているかもしれない。そう思おう。

いったいどこから生じたこの誤解…。

英国でジャパン・フェスティバルというのに遭遇したことがある
。 大英博物館では浮世絵の展示が行われ、蜷川幸雄の「タンゴ冬の終わりに」、宝塚の公演、玉三郎の「鷺娘」 大相撲のロンドン公演など多彩なイベントが催された。当時のパンフレットを紐解いてみると、その他能、ク ラシック、映画などなど日本文化がくまなく紹介された大規模な催し物だったことがわかる。現代日本ということで ことでは、秋葉原に象徴される技術大国日本ということが、アピールされていた。

しかし、多岐にわたっていることは確かではあるが、何かが足りないという感じがして仕様がなかった。どう しても話題は、日本の伝統芸能の類に集中し、日本の現実の人々の暮らしなどには一切焦点が当てられていな い。いかにも西洋人が好みそうなクラッシックな日本にテーマが偏り過ぎているきらいがある。
ラッシュ・アワーはどこへ行った!スポーツ誌を賑わす話題はどこへ行った!原宿のストリート文化(当時)はどこにあ るのだ!日本人は休日に何をやっているのか。むしろ、伝統文化などに日頃接している日本人のほうが少ない ような気がするのだが…。

一方、今年開催されれている「英国祭98」。
こちらは、人々の暮らし振りまで丹念に紹介する極めの細やかさが印象に残る。その見せ方のうまいこと。 まずは入り口で「科学博」と題して英国の産業革命の輝かしい成果をたっぷりと見せる。クラッシック・カーが ある。あの有名な、教科書に必ず登場する蒸気機関車、織り機などの工場の機械、天体望遠鏡や『1984年』や 『ガタカ』などに登場するクラシカルな研究機材の類いがならぶ。見てもよくわからないものもあるが、目玉 も多く、一回りすると結構疲れるほどのボリュームがある。

今ブームになっている「ガーデニング」、「機関車トーマス」「スノーマン」「パディントン」「ウォレスと グルミット」などのファンタジー、絵本の世界。誰もが英国といえば思い浮かべる「紅茶の文化」。これらと 「科学博」をはさむような形で、「英国の生活誌」といったコーナーがある。ひとつの大きな展示を見て、丁度 一休みをしたくなるようなそんな空間に位置しているところが、とても心憎い。もし、この展示が入り口にあ ったらどうであろう。終わりのほうにあったら、スーッと通り過ぎてしまうだろう。このちょっと一息つきた い空間にこれが位置すること、ここが技である。

ここでは、普通の人の普通の日常が紹介されている。ショッピングをして、学校や職場に通い、家族団欒の食事 をして、趣味を楽しむ等身大の人々の生活の様子が、コンピュータのボタンをクリックすることによって、まる でその人の日記でも読むかのように知ることが出来る。写真とともに紹介されているので、本当に身近な感じで こちらに様子が伝わってくる。地味だけれどもその国の生活を知る上で、こんなに良い方法はない。自分の気に 入った人のボタンを自分自身の手でクリックするところがまた良いのだ。

休憩がてらにできるこうした地味だけれど、大切な自国のアピール。「ジャパン・フェスティバル」の時に感 じた「何かが足りない」という感覚は、実はこういったことだったような気がする。国家とか伝統文化の背後 の、そこで生活する人の姿がまるで見えてこない。息使いがまるで聞こえてこない。イベントは華やかで立派 なものではあるけれど、うわべだけをとらえたようなそのアピール方法に問題があるのではないか。ゆえに映画 の中の日本の日常生活で、突然伝統文化があってはいけない場所にひょっこりと顔を出す。こんなことが後を 絶たないのではないか。両国の自国のアピール法の違いを目の当たりにして、そんなことを考えずにはいられ なかった。

『英国祭98』の詳細は下記のホーム・ページで紹介されています。
U.K Festival '98


メイルちょうだいケロッ

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