ソフトウェアライセンス

DATE : ( 1999/11/29 )

誰がこんな頭の良いものを考えついたのだろう。ビル・ゲイツだろうか。

あなたがソフトウェアを買ったとしても、あなたはソフトウェアの所有権を得たわけではない。あくまで使用権を得ただけである。あなたがソフトウェアを買うと、ライセンスという条項の書かれた文章を見つけることになる。そこには堂々とそんなことが書かれている。

あなたの購入したソフトは、他人に譲渡することすら出来ないのである。まして売ることなど出来はしない。それから、免責事項というところを見ているとさらに腹が立つ。このソフトウェアを使用して発生したいかなる損害も保証しません、などと書いてあったりする。

それでいてバグは当たり前である。ソフトウェアハウスには、バグを直す義務はない。ただ信用を失うだけである。それでも、他のソフトウェアハウスもそんなに信用が高くないため、堂々と商売が出来る。もっとも、そのソフトウェアが動くための OS がそもそもバグの温床なのだから、完全な製品は作ることが出来ないというのもあるだろう。

私が最近頭に来たのは、一昨日買った AGE of EMPIRES II というゲームがバックアップできなかったことである。というかそのことが元でこの文章を書いている。発売元のマイクロソフトは、ライセンスにはっきりと「(一組だけ)媒体のバックアップを取ってよい」と言っているにも関わらず、実際の製品はバックアップできないようになっているのである。私は詳しくは分からないのであるが、マイクロソフトはどうやら違法コピー防止用に Safedisk という技術を使っているらしい。これは、CD-R では書き込めないようなエリアに、製品版CD-ROM に何かしらのコードを焼いておき、実行時にこのコードが存在するかどうかを確かめているらしい。

なぜマイクロソフトがこんなことをするのかというと、やはり違法コピーが大量に出回るからだろう。ソフトウェアハウスはこれまでにも違法コピーによる被害を被ってきた。と少なくとも彼らはそう言っている。もちろん我々はバグや機能不全や理不尽なライセンス事項によって被害を受けてきた。それはいいとして、噂によると初代 AGE of EMPIRES の拡張パック RISE of ROME は、ネットを通じて大量にコピーされたらしい。そこで彼らも自分たちの利益を守るためにこのような措置をしたのだろう。

しかし、ユーザー側も大したもので、コピーできないとみるや今度は CD-ROM に焼かれている特別なコードをチェックしにいかないよう改造するツールがネットで公開されている。私が思うに、このツールは我々の、メディアをバックアップする権利を保護するためのやむをえないものであるため、これは明らかに合法なのではないだろうか。ただし、改造ツールの作成というのは、リバースエンジニアリングつまりソフトウェアの解析に当たり、これは違法ということになりそうな気はする。しかしそうしなければ我々の権利は誰が保障してくれるのだろうか。

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ソフトウェアがこのように法律で擁護されているのは、ある意味では仕方が無いともいえる。それは、現在ハードウェアは PL法により保護されているが、もし PL法が日本の高度成長期に制定されていたとしたら、恐らく 10年後 20年後の大会社が生まれなかったかもしれないからだ。PL法とは、製品をメーカーが保証しなくてはならない法律で、少しでも危険な製品を作って消費者に渡らせたらメーカーに多額の賠償金などが掛けられる法律である。

最近のニュースでは、東芝がアメリカで 1100億円相当の賠償金を払って和解したケースがある。これは、特殊な場合においてフロッピーディスクの中身が壊れる可能性があるという事実だけでこれだけの賠償金になったのである。東芝には、実際にフロッピーの中身が壊れたとの報告は一切届いていないのに、である。東芝はこの訴訟によって、これまでにアメリカで販売して得た利益全てに相当する損失を被ることになるらしい。こんな訴訟がソフトウェアになりたつようでは、マイクロソフトなぞ瞬時に潰れるだろう。こんな訴訟が成り立つような法律が作られそうになった時点でマイクロソフトの株は紙くず同然になると見て良い。

まあ東芝の場合は、アメリカの訴訟社会という全くの病的症状によるところが大きいらしい。いまアメリカでは、消費者の権利を守るためと称して、非常にくだらない取るにたりないことで、下手をすると産業自体を破壊しかねないほどの訴訟が起こされている。話によれば、アメリカの小型機産業では、やれちょっと視界が悪くて滑走路にいたトラックにぶつかっただの、本当にちょっとした操縦者のミスとしか思えないようなことでも訴訟が起きて、小型機のたとえばセスナ社だとか数社が多額の賠償金を払うはめになり、産業自体が潰れかけているらしい。

だから、現在のソフトウェア業界が、バグ当然で違法コピー当然なのは、若くて成長段階にあるからであり、そこを単純に「ソフトウェアハウスが無責任で技術力が低いから」とか「ユーザーのモラルが低い」と言うのは、事実ではあるが真実ではない。

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ところで、現在たとえばゲームメーカーなんかが、中古販売をやめろとか言っているのは私には腹立たしい。彼らの巧妙なところは、ユーザーに対して「中古店に売るのはやめろ」と言うのではなくて、あくまで販売店にやめろと言っているところである。

彼らの掲げるライセンスというものほど高慢不遜なものはない。ゲームソフトもライセンスによりユーザーが使用を認められているものなのに、ゲームソフトにはっきりとしたライセンス文書は付いて来ない。まあ、子供がそんなものを見ても理解できないからだというのもあるだろう。ライセンスに関して、ゲーム業界はなるべく目につかないところに押し込めようとしているように私には思える。それでいて雑誌広告に「中古販売だめ」みたいな特集をしたりする。まさに成長産業の特権とも言える汚い構造である。

余談だが、ソフトウェアの中には数千万円もするものがある。もちろん業務用である。私は前の仕事でそのソフトウェアを使用した。このソフトウェア、本当にひどいバグだらけであった。いまも売られているし開発も続いている。



 
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