99 トレーディングカードゲーム (2001/4/7)


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職場に H先輩というシミュレーションゲームの好きな人がいたので、私はその先輩に終業後に何かゲームで対戦をしたいとたびたび言っていたら、じゃあトレーディングカードゲームならどうだということになり、急遽買いに行くことになった。H先輩とそのころ仲の良かった Sさんという私から見れば後輩にあたる人と三人で、秋葉原の駅前にあるラジオ会館へと向かった。徒歩10分も掛からない恵まれた環境である。

■ガンダム

三人の趣味には結構幅がある。私とH先輩はファンタジー系が比較的好きなので、トレーディングカードゲームの中で元祖であり一番流行っていたマジックというものが第一の候補となった。また、H先輩とSさんとはポケモンというゲームの仲間でもあったので、ポケモンのものもまた候補となった。結局、三人ともガンダムは知っているということで、ガンダムのトレーディングカードゲームに決まった。

ところでトレーディングカードゲームとは、元祖のマジックがブレイクしてから、さまざまなものが生まれた。遊戯王という漫画原作のもの、ポケモンやドラクエなどのゲーム原作のもの、ガンダムなどのアニメや漫画が原作のものなど、かなり色々なものがある。

トレーディングカードゲームは、二人(またはまれに三人以上)で対戦するゲームなので、戦いまたは競争の要素が必ず必要である。だから、題材自体に戦いがあるものの方が扱いやすい。ガンダムの場合、地球連邦軍とジオン公国軍とか、もともと戦争を扱ったアニメ(漫画・小説)であり、なおかつシリーズがたくさんあるので題材に困らない。同じアニメでも、名探偵コナンのトレーディングカードゲームがあったが、どうやって対戦するのかよく分からない。探偵のゲームなのだから、先に犯人を見つけた方が勝ちなのだろうが、互いに足を引っ張り合うような競争の要素があったら原作を損ねてしまうだろう。

■使うカード

トレーディングカードゲームの特徴は、カードゲームでありながら使うカードが人によって千差万別なところにある。たとえばトランプなら、52枚の基本的な数字のカードに、ジョーカーを使うとか使わないとか、あるいはゲームによってはこの数字のカードだけを使う、といった程度のものはあるが、基本的にゲームによって使うカードが決まっている。ところが、トレーディングカードゲームは、プレイヤーが自分の好きなカードを使うことが出来る。

トランプは一組あれば何人かでゲームが出来る。例外的に、二組以上のトランプを使うゲームもある。しかし、一組かそれ以上のトランプを使って全員で遊ぶことには変わりがない。しかしトレーディングカードゲームは、一人のプレイヤーが一組のカードを持ちよる。しかも持ちよるカードは自分の好きなように選べる。プレイヤーの持っている互いのカードは、混ざり合わないように注意しなければならない。逆に言えば、混ざり合わせなくても遊べるのである。

プレイヤーの持つ一組のカードのことをデッキと呼ぶことが多いので、ここでもデッキと呼ぶことにする。

トランプには 53種類のカードしかないが、トレーディングカードゲームの場合、多いものになると千種類以上のカードがある。そもそものなりたちが、タバコのおまけのカードがもとになっており、単に集めるためだけのカードが起源なので、持っていて集めるだけでも楽しめる。

ではどのような形でカードが売っているのかというと、数十種類とか数百種類で一つのシリーズとなっており、その一つのシリーズのカードのうちの何枚かがランダムに入っているパックが数百円くらいで売られているのだ。マジックの場合、15枚で定価が 500円、安いところでは 380円で売っている。ガンダムの場合は 10枚で定価が 330円、安いところでは 240円。遊戯王の場合、ターゲットが小学生なせいか、5枚で 150円という小さい単位で売られている。このようなパックで売られているため、いくつパックを買ったら全種類揃う、というものではなく、ぜんぜん手に入らないカードもあれば、何枚も手に入るカードもある。

■スターター

トレーディングカードゲームをはじめるには、まずスターターと呼ばれることの多いパックを買う必要がある。このパックには、ゲームをやるために最低限必要なカードが数十枚入っている。ところが実際には、このスターターを 1パック買っただけでは満足にゲームをすることが出来ない。なぜなら、入っているカードがバラバラだからである。入っているカードがバラバラでもゲームはできるのだが、ある程度まとまりを作らなければ弱いのだ。

まとまりがどういうものかを説明するにはルールを少し説明するほうが良いのだが、そこまでするまえにできるだけ簡単に説明してみよう。サッカーにたとえれば、得点を取るための作戦が特化されていないのである。サイドから攻める場合、左右に平均的な選手がいるよりも、右だけに強力な選手がいる方がいい。それに、ドリブルのうまい選手よりも、パスのうまい選手がいたほうがサイドを攻めるには良い。また、年棒の高い選手ばかり揃えることが出来ないという制約もある。野球にたとえるのも同様である。特色のあるチームが強いのだ。企業にも言える。戦略や商品を一点に固めた方が強いのだ。

というわけで、どんなトレーディングカードゲームでも、スターターを 2パックは買わなければ満足に遊べないという常識がある。なぜそうなのかを知らなかった私は、財力のなかった高校生か大学生初期のころにマジックを 1パックだけ買おうとして、店員さんに止められた覚えがある。そのとき私は、なぜ 2パックも同じパッケージの商品を買わなければならないのか疑問に思い、お金もなかったこともあり、結局買うのをやめた。それで良かったのだろう。後述するが、このゲームは最低限の財力が要求されるのだから。

■デッキ

私のやったガンダムのトレーディングカードゲームは、正式名を GundamWar と言う。この GundamWar は、一人のプレイヤーが 50枚のカードで遊ぶ。マジックの場合は確か 60枚である。つまり、スターターを 2パック買うと、100枚または 120枚のカードが手に入るので、そのうちの 50枚または 60枚を自分で選んでゲームに使う。繰り返すが、この 50枚または 60枚のカードのことをデッキと呼ぶ。

デッキには、プレイヤー個人個人の戦略が現れる。たとえば、野球なら足の速い選手ばかりを集めたり、メジャーリーグから強力な助っ人を呼んできて彼の一発に依存するとか、サッカーならパスでつないでいくとか、フラットスリーで中盤を厚くするとか、守りを固めてカウンターを狙うとかである。デッキには通常、特徴に応じて名前がつけられる。カウンター狙いのデッキのことをそのままカウンターデッキと呼んだりする。余談だが、名探偵コナンのトレーディングカードゲームには目暮警部デッキというものがあるらしいのだが、どんなデッキなのか知りたいものである。

デッキは通常「組む」と言う。自分の持っているカードの中から、決めた戦略をもとにカードを組みあわせて作るからだと思う。

■高いハードル

トレーディングカードゲームは、はっきり言うと、とてもとっつきにくいゲームである。その最大の理由は、一人では遊べないからである。その次の理由は、ルールそのものがとても複雑だからである。そしてその次が、本格的にやろうと思うとお金が必要になることである。

一人で遊べないというのは、将棋とかと同じである。だから、将棋のように、コンピュータ相手に遊ぶこともできるし、最近ではネットワークを通じて見知らぬ相手と対戦することも出来る。だが、多分将棋よりもコンピュータ向きではないので、あまり強いコンピュータが作れないだろうし、そもそもこのゲームの最大の醍醐味である幅広い戦略をコンピュータにやらせることも難しい。

ルールが複雑なのは、一人で遊べないこととあいまって、相手を探すのに苦労する原因ともなる。私が思うに、誰でも遊べるのは UNO やトランプのババ抜きや神経衰弱や七ならべくらいのものだろう。大貧民(地方によって呼称が異なるらしいが)も、ルールを知らない人に教えてから遊ぶのはそれなりに手間が掛かる。ナポレオンやブリッジとなると、本人に最低限の知能とそれなりのやる気がなければ遊ぶ気になれないだろう。ルールがかなり難しい割に広く遊ばれているのが麻雀だが、ルールを知らない人を無理に誘って遊んだことのある人にはその苦労が分かる。金を巻き上げるためだけなら楽なものだが。

そしてもっとも泥臭いのが、このゲームを本格的にやろうと思えば、パックを何個も何個も買って出来るだけカードを揃えなければならない点である。小学生が四万円以上つぎこんで親がクレームをつけた例もある。トレーディングカードゲームは、カードを多く持っているからといって勝てるゲームではないのだが、最低限のカードを揃えようと思ったら一万円くらいは必要になる。

■デッキを組む

話は最初に戻る。初めてトレーディングカードゲームを買ってきた我々三人は、さっそく適当にデッキを組んでみた。繰り返すが、デッキを組む、とは自分の持っている沢山のカードから 50枚なり 60枚なりルールと戦略に合わせて選びだすことである。

▼シンボル

ほとんどのトレーディングカードゲームには、ほとんどのカードに色がついている。マジックの場合は、赤とか緑とか茶色とかで確か六色ぐらい色があり、それぞれ火と緑と土ということになっている。ガンダムの場合は、青が地球連邦軍系で緑がジオン公国軍系という風に決まっている。

デッキに使う色は、初心者の場合は少ない方が良い。なぜなら、強いカードを使うには、色ごとにシンボルを集めなければならないからである。つまり、簡単に言えば、アメリカ製品を買うにはアメリカドルが、日本製品を買うには日本円が、中国製品を買うには中国元が必要なのである。赤い製品を使うには一定の数の赤いシンボルが必要になる。

私はガンダムのトレーディングカードゲームにしか詳しくはないのでガンダムで説明する。ガンダムの場合、シンボルは国力と呼ばれる。そして、国力を得る一番簡単な方法は、ジェネレーションカードを場に出すことである。国力は場に出されたジェネレーションカードの枚数によって決まる。

ちなみにマジックの場合、シンボルはマナ(mana)と呼ばれ、マナを発生させる土地(land)のカードを場に出すことで得られる。実は私は、マジックのルールは英語版のものをさらっと読んだだけなので、詳しいことはよく分からない。

カードを使うには、ガンダムの場合は国力があるかどうかだけを見るのに対して、マジックの場合は必要なマナを消費する。つまり、ガンダムの場合は国力以下のカードであれば何枚でも出すことができるのに対して、マジックの場合はマナを消費してしまうので一度に多くのカードを出すことはできないのである。慣習的に、シンボルを多く必要とするカードを「重いカード」と呼び、あまり必要としないカードを「軽いカード」と呼ぶことが多い。

とにかく、デッキに入れるカードのうち、二割から四割くらいはシンボルを集めるためのカードを入れることになる。残りの八割から六割が、実際になんらかの効果を持ったカードである。赤い色をしたカードを使うには赤いシンボルが必要で、緑の色をしたカードを使うには緑のシンボルが必要である。

▼ユニット

トレーディングカードゲームの勝敗にもっとも大きな影響を持つのが戦闘であり、実際に戦闘を行うカードがユニットである。ガンダムではそのままユニットと呼ばれ、マジックではクリーチャーと呼ばれる。

ちなみに、シンボルだとかユニットなどという呼称は私の用語であり、トレーディングカードゲーム一般を論ずるときに使う正規の用語ではない。本来ならば、トレーディングカードゲームの元祖であるマジックに敬意を表わして、マジックの用語をそのまま使いたいところである。しかし、ガンダムのユニットはロボットなので、ロボットのことをクリーチャーと呼ぶのには違和感がある。ポケモンならなんとかクリーチャーと呼んでもいいかもしれないが、あのかわいいモンスターにクリーチャーはないだろう。

トレーディングカードゲームの多くは、相手にダメージを与えていくと勝てるようになっている。そのダメージを与えるための一般的な方法が戦闘であり、戦闘を戦うのがユニットである。

▼特殊カード

初心者がデッキを組む場合、四割くらいをシンボル関係のカード、四割くらいをユニットのカード、残りの二割をそれ以外のカードにすると良いようである。ここでは便宜上、それ以外のカードのことを特殊カードと呼ぶ。

特殊カードにはいくつかの分類がある。単独で使うカードと、他のカードを組み合わせて使うカード、という分けかたがまずある。それから、使ったらその時点で何かが起きておしまいのカードと、場にある限りいつまでも何かあるカード、という分けかたもある。戦闘のときだけ使えるカードもあれば、いつでも使えるカードもある。

とにかく色々な種類のカードがある。あまりにも色々なカードがありすぎるため、一つのカードがどういうカードなのかをめぐって解釈の違いが生まれてしまうこともある。だが、このような分かりづらかったり誤解を生みやすいカードはすべて、カードの発売元に関係のある機関が厳密な説明をすることになっている。あるいは、コミュニティつまりプレイヤー同士の集まりがあり、その中で多分こういうことだろうという共通認識を持つようになっている。それほどまでに複雑なのである。ただし、一度分かってしまえばたいていのことが分かるので、むしろこの複雑性がゲームの戦略に指数関数的な奥行きを持たせている。

■ゲームの構造

トレーディングカードゲームも UNO のように山札と手札がある。ババ抜きと違い、すべてのカードを全員に配るのではない。自分のカードと相手のカードは独立しており、自分の使うカードは最初すべて山札であり、ゲームの開始時に何枚か取ってきて自分の手札とする。

手札の中にユニットがあったとしても、そのユニットはすぐには戦闘することができない。まずは、そのユニットのカードを場に出す必要がある。場に出すためには、シンボルを集めなければならない。だから、まずシンボルを発生させるカードを場に出さなければならない。当然のことながら、シンボルを発生させるカードを場に出すのに対してはシンボルは必要としない。

ゲームの進行には、自分の番とか相手の番という区別がある。このゲームの複雑なところは、自分の番か相手の番かというのは、場に出すことの出来るカードの種類が異なるだけで、相手の番であろうと規則に従ってさえいればカードを出すことが出来る。

さらに自分の番とか相手の番というのは、細かく段階に分かれている。山札からカードを引いてくる段階とか、場にカードを出す段階、戦闘を行う段階、などなど、各段階は順番に訪れ、その段階で可能なことしかできない。段階は厳密に区別されるので、戦闘を行う段階に入ってからユニットを場に出すことはできない。また、段階を区別するために、自分の番のときは次の段階に進めるたびに相手に断らなければならない。麻雀で言うと、次の番の人がツモる前にポンをしなければならないことと似ている。

なぜ番だとか段階が区別されているのかというと、さまざまな特殊カードの効果が、細かく段階を必要とするからである。つまり、特殊カードの具体的な説明抜きには、なぜこのゲームが複雑な構造をしているのかが理解できないだろう。このゲームの一番重要な部分は多分戦闘にあるのだが、戦闘は基本的に強いか弱いかという話なので後回しにする。

■特殊カード

特殊カードには様々なものがあり、とてもではないがそのすべてを紹介することはできない。また、特殊カードに対する特殊カードだとか、いくつかの特殊カードを組み合わせると相乗効果で強力な効果を発揮するカードがあったり、単体ではあまり意味のないカードなんかがあったりもする。

▼強化系

一番わかりやすいのは、戦闘の主役であるユニットを強化するカードである。ユニットがクリーチャーの場合、なにしろ怪物なのだから、魔法で大きくすることでユニットを強くすることのできるカードがあったりする。ささやかな強化しかできないものから、無敵に近い強化ができるカードまで、さまざまなものがある。ただし、効果の強弱は、出しやすさに関わるので、強い効果を持ったカードばかりを使おうとしても、なかなかシンボルがたまらずに場に出すことが出来なければ、カードを出す前にやられてしまう。

ユニットの強さは、大きく攻撃力と防御力に分かれていることが多いので、どちらか一方だけを強化するものとか、逆になんらかのペナルティと引き換えに大きな強化ができるものなど、たくさんの種類がある。ユニットを強化できる期間もさまざまで、戦闘が終わるまでという短い期間から、なんらかの理由により強化が打ち消されるまでずっと、というものまである。マジックでは、効果が持続するものをパーマネント、そのときだけのものをスペルと呼ぶらしい。ガンダムのゲームでは、前者がオペレーション、後者がコマンドと呼ばれている。

▼ダメージ系

自分のユニットを強くするのではなく、相手のユニットや相手そのものに直接ダメージを与えるのがダメージ系である。ダメージ系の利点は、自分がユニットを持っていなくても相手を攻撃することができることなどである。ただし、このような形で与えられるダメージを無効にできるカードもあるので、確実性という点では強化系に劣る。

▼無効系

特殊カードにはありとあらゆるものがあるが、と同時にそれらのカードの効果を打ち消すことの出来るカードもありとあらゆるものがある。先に述べた強化系やダメージ系を無効にするもの、ユニットや自分自身へのダメージを無効にするもの、さらには無効にするカードを無効にするカードまである。私はよく知らないが、マジックではロック系と呼ばれるらしい。

▼制限系

ゲームに制限を加えるものが制限系である。たとえば、戦闘できないだとか、一度戦闘に出たカードをまた戦闘できる状態に戻すことができなくするとか、なにかするたびにペナルティを与えるとか、その他さまざまな制限を場に与えるものである。

▼特殊ユニット

特殊な効果を持つのは特殊カードだけではない。ユニットもまた、特殊なカードを持つものが多い。ある条件を満たせば強くなるものや弱くなるものがある。また、ある組み合わせで特殊な効果を発揮するものがある。

■知り合い同士のゲーム

ルール説明に時間を使いすぎた。

それなりの量のルールブックを読んだ我々三人は、各自で適当にデッキを組み、最初の対戦をしてみた。とにかくルールを確認しながらのゲームなので、本来であれば 10分から 20分くらいで終わる一回のゲームが 30分以上かかるのも仕方がない。

プレイしてみて分かったのは、スターター二箱では弱いデッキしか組めないことであった。少なくとも、デッキに入れるカードの色を二色かできるなら一色にしなければならないなと思った。というのは、バラバラの色でデッキを作ると、シンボルが足りなくてカードが出しにくいからである。強いユニットや強いカードを出すためには、同じ色のシンボルをまとまった数だけ出さなければならないのだ。

というわけでその日から、我々のカード集めが始まった。H先輩は最初に買ったカードを見て、満足げに「これはハマりそうだ」と言った。なにしろ、アニメに出てきたロボットやキャラクターやイベントが沢山題材になっているのだ。ガンダムなので、ガンダムとかザクとかズゴックなどといった有名なロボットのほかに、ゴックとかアッガイなどのマイナーなロボットがあったり、キャラクターではアムロやシャアといった有名どころのほかにマ・クベとかランバ・ラルとかがある。ガンダムにはかなりシリーズがあるので、我々のまったく知らないロボットやキャラクターもあるのは残念であるが、きれいな絵と簡単な説明があるので分かりやすい。

それからせっせと金を使い、カードを集めた我々は、いちおうまともにゲームができるようになっていった。買ったカードは 500枚くらいになっていた。それでも、色が六つあるので、一つの色でせいぜい 100枚がいいところである。ガンダムのゲームは 50枚で一つのデッキになるので、たとえばジオンだけのデッキを組むとすると、100枚の中から 50枚を選ぶことになる。カードの中には、組み合わせによって使いやすいカードや使いにくいカードがあるので、とてもではないが 100枚程度ではそんなに強いデッキができない。となるとさらにカードを買わなくてはいけないのだった。

という展開に入ったとき、Sさんが事実上脱落した。彼は仕事が忙しいということもあり、ゲームにとれる時間がなくなってきたのが大きな理由である。念のため言っておくが、我々は仕事中にゲームをしていたわけではなく、放課後もとい勤務時間後ようするに仕事を切り上げたあとにやっていた。結局 Sさんは 100枚か 200枚程度しかカードを買わなかったのだったと思う。というわけで、ゲームは私と H先輩の二人だけで行うようになった。

■H先輩の遠征開始

あるとき、H先輩が大会に出ることを決めた。大会とは、カードを売っている店で行われるトーナメント大会のことである。そもそも二人だけでゲームをしていたのでは、本当にゲームのやりかたがこれでよいのかが分からないし、ほかの人がどういう風にゲームを進め、どういうデッキを組んでいるのかを知ったほうがいいからだという。

しかしその大会というのが、サラリーマンを想定していないせいか、午後六時に始まるのである。我々の会社は秋葉原にあるので、新宿まで余裕を見て四十分くらいの時間をみておくと、仕事を五時二十分くらいまでに切り上げて、会場に向かわなければならない。これは普通のサラリーマンにとっては厳しい。まあ我々は開発系であることが幸いし、フレックスタイムをうまく使えば、前日に多く働いておくとか、次の日にまわすとかすれば問題がない。ただし、この H先輩というのは平気で午前11時とか、ひどいときになると午後二時くらいに会社に姿をあらわして、ろくに仕事をしないうちに五時過ぎに会社を出るのである。

大会というのは、比較的大きいカード専門店には大体、カードゲームをやるための専用の場所があって、そこで定期的に色々な種類のトレーディングカードゲームの大会があるのである。私の知っている限りでは、新宿にあるイエローサブマリンという店の場合、一週間のローテーションでさらに一日を前半と後半に分けて、十種類くらいのトレーディングカードゲームの大会が毎週行われている。大会といっても、だいたい 16人くらいでトーナメントあるいはスイスドローというなるべく少ない試合数で順位を決めることのできる方式で行われる、比較的小規模のものである。

はっきりいって私は、自分では大会に参加しようとは思わなかった。いくら麻雀が好きな人でも、町の雀荘でフリーで打つ人はかなり少ない。それと同じである。多くの人の場合、麻雀は気心の知れた友達と一緒に何か話しながら打つから楽しいのであって、麻雀を真剣勝負で楽しんでいる人は少ない。私も、トレーディングカードゲームを真剣勝負でやろうとは思わなかったからである。なぜ真剣勝負をやる気にならなかったかというと、そこまで実際のところ熱があったわけではないし、それに真剣勝負をするためにはカードを沢山集める必要があるからである。

前述したように、トレーディングカードゲームというのはまとまった金を必要とする。ということは、サラリーマンを想定していない大会だと対戦相手はそんなにカードが揃っていないのではないか、と私なんかは想像していた。しかし、結論を先に言ってしまうと、まとまった金をどんどんつぎ込んでカードを集めていた H先輩が、ことごとく一回戦で負けていったのである。学生といっても大学生とかならバイトで金を持っているし、高校生とかでも早い人はバイトをしているし、それに小遣いの少なくとも半分はカードにつぎ込む人が多いようである。

■金か時間か

H先輩に言わせると、ゲームの強さに、金はそんなに関係ないという。問題は、デッキを組んで戦略を練ったり、ひたすら対戦して経験を積むための、時間の問題なのだという。

私はいまいちこの H先輩の言葉が信じられなくて、最低限のカードがなくてはまず話にならないと思っている。というのは、私は H先輩と対戦すると勝率がかなり悪かったのだが、それは私が H先輩の大体半分から三分の一程度の金しかカードに使っていないからだと思っているのである。H先輩からすると、ゲームの勝敗を金のせいにする私は、ゲームを本気でやっていないということになるらしい。

すっかり言い忘れていたのだが、トレーディングカードゲームの世界では、一枚買いと言って、特定のカードを単品で売っているのである。通常のパックの場合、カードはランダムに入っているので、どのカードが当たるか分からない。だから、たくさんパックを買っても、あるカードが何枚も手に入る一方で、あるカードはまったく手に入らないということもある。そのために、ショップ側でパックをあけて、それらを一枚一枚に分けて売っているのだ。それらの値段は、当然カードによって異なる。カードには、需要の高いカードと需要の低いカードがあり、流行のデッキや戦略に必要なカードは概して高く、また使い勝手の極めて悪いカードなんかは安く売られている。

H先輩の場合、一枚千数百円のカードを何枚も買っている。トレーディングカードゲームを遊び尽くすには、一枚買いは不可欠である。しかし、私にはどうしても生理的にこの一枚買いができなかった。たった一枚のカードが、種類によって一枚 10円から数千円まで、マジックの場合はさらに数万円するものがあるのだ。

私は一ヶ月に大体一万円くらいをカードに費やしたのだが、少なくとも二三ヶ月ではカードが満足に揃わなかった。もっと時間を掛ければよかったのだが、私は勤務先が変わってしまったので、H先輩と別の職場になり、自然にトレーディングカードゲームから足をあらってしまった。H先輩は非常に思い切りがいい人で、価値があると思ったものには必要だと思った分だけ金を掛けるのだが、私は彼についていけなかった。最終的に私の手元には二千枚くらいのカードが残ったのだが、この程度では駄目なのだ。

しかし、その H先輩が新宿の大会で、一回戦にもなかなか勝てないのだ。H先輩は自分のことを、自他ともに認める新宿最弱のプレイヤーだと言っていた。これがトレーディングカードゲームの世界である。

■コンピュータ版

そんなわけで、あっさりと私のトレーディングカードゲームライフが終わった。ビールを飲みながら会社の空きスペースでゲームをプレイしていた頃がもう思い出となっている。

実際のところ、私がトレーディングカードゲームを本当に面白いなと思い始めたのは、やめる一週間くらい前からであった。それまでは、できれば同僚と、パソコンの戦略ゲームをやりたかったのだ。しかし、その手のゲームは大抵、時間がかかるとか、アクション性のあるのは嫌だとか、いくつかの条件に引っかかってしまい、なかなか習慣へと結びつかなかった。それで、トレーディングカードゲームなら、ということで話がまとまったのが冒頭の部分である。

H先輩と離れてからも私は、いまだ未練がましくカードを買おうかどうか悩んだ。どうにも我慢できなかったので、10枚入りのものを一つだけ買ってみたが、全部持っているカードだった。それで、もう本当にやめる時が来たのだと思った。

そこで思い出したのだが、そういえば以前、マジックの英語版の入門セットを買っていたのだった。その中に入っていた入門用 CD-ROM で遊んでみることにした。これがなかなか、思ったよりよくできている。コンピュータでは面倒なのではないかと思った複雑なルールがちゃんと再現されている。そこで、入門用ではなく、ちゃんとしたフルセットのコンピュータ版を買ってみるのもいいなと思った。どんな製品があるのか考えてみたところ、三年前に発売されたマジックのコンピュータ版が廉価パックで安く売られていたのを思い出した。そこで急遽それを買って遊ぶことにした。

マジックは現在、英語版は版を重ねて第七版まで出ている。ところが私の買ったものは三年前のものを元にしているので、第五版が元になっているようであった。それでも、多分基本は同じはずである。トレーディングカードゲームの場合、版が新しくなったり、新しいパッケージが出ても、カードのバランスが変わるだけで、基本的なルールにはほとんど変更がない。以前かなり強力だと言われていたカードに、新たに対抗するためのカードが追加されたりして、弱くなることはある。バランスの変化により、これまでかなり強いとされていたデッキや戦略が弱くなり、新しいカードを使ったあらたなデッキや戦略が強くなることが多い。

そんなわけで、第五版と古いものの、少なくとも第五版以降のマジックを知らない私からすれば、私の買ったコンピュータ版は十分満足のいくゲームであった。私は現在クエストモードをやっているので、思うようにカードが揃わないのだが、カードが揃わないという条件がまたプレイ意欲を大きくしてくれている。カードによる対戦が中心なのだが、主人公が世界を歩き回り、村や街を訪れ、村長の頼みを聞くことでライフやカードが増えたり、中ボスの手下どもと戦って中ボスを牽制しつつ、最終目的である中ボスと大ボスの打倒に向けてがんばっているところである。

ただ、トレーディングカードゲームの本当の面白さは、コンピュータとの対戦では味わえない人間同士での戦いである。私の買ったゲームは、オンラインでも対戦できるようになっている。いまとなっては三年前のゲームにどれほどユーザが残っているのか分からないが、もし残っていなければ、また対戦用のソフトを買うこともできる。

私の目下の疑問は、トレーディングカードゲームの販売元は、コンピュータ版についてどのように思っているのか、ということである。というのは、トレーディングカードゲームのビジネスモデルが、とにかくカードを買わせることにあるからである。もしかしたら、コンピュータ版はあくまで販促グッズのようなものなのかもしれない。私が驚いたのは、マジックがこれほど流行しているにも関わらず、私が手に入れた三年前のソフト以降、新しいソフトが出ていないようであることである。いや、これは単に私の調査不足かもしれないので、早まったことは言わない方がいいかもしれない。

■販売店

私からみれば、トレーディングカードゲームは、いつのまにか流行していた。とくに、普通の本屋やコンビニでもカードを扱い始めたことには驚いた。

ところで、トレーディングカードゲームにはいろいろなものがある、と私は言った。しかし、人気のあるのはごく一部である。それ以外のカードは、ことごとく処分価格で消えていくのである。販売する側も、そのあたりを見極めなければ損をする。コンビニなんかで売られ始めたのには驚いたが、やはりカードはたくさん買うものなので、専門店の方が価格競争力があるように思える。

カードを安く買うための一番よい方法は、カードが処分品となるまで待つことである。しかし、そのようなカードを買ったところで、遊ぶ相手がいない場合がほとんどなのであまり意味がない。しかし、カードが処分品となるのは、すたれたからという理由以外にもあるのである。それは、その店その店が、そのカードをすたれたと判断したときか、あるいは店自体が閉店するときである。

現に聞いたところによると、マジックのような人気のはっきりしているカードではありえないのだが、ガンダムのような有名な題材でしかもバンダイが背後につきながらいまいちメジャーになれていないカードの場合、販売店が見切りをつけたのか、ほぼ処分価格といっても良い値段で売られていたらしい。

それと、店自体の閉店というのはなかなかめぐり合えないものである。店の閉店というのは、おもちゃの文化にとっては悲しいことである。まあ、新しい店もまた出来るのだから、単に小売業界での敗者なのだとしたらそれもまた悪くはない。私にとって運の悪いことに、家から一番近い場所にあったガンダムのカードが売られていたおもちゃ屋が、私が行ったときには昨日付けで閉店していたことがあった。これはとてもくやしい。少し前に来たら、処分価格で何か買えたかもしれないからである。閉店の張り紙の横では、シャッターが下りていなくて、中で棚とかを解体している店員が働いていた。

それにしても、おもちゃ専門店の凋落は著しい。私の昔の地元には、そのあたりではかなり有名なおもちゃ屋があり、ミニ四駆と呼ばれる走る車の模型が流行っていた頃には非常に盛況していた。しかし最近たまたまわざわざバスであたりまで出かけたついでに寄ってみたところ、休日なのに人はまばらで、誰にも使われていないミニ四駆のサーキットが店の多くのスペースを相変わらず占めていた。ついでに言うなら、カードはほとんど売られていなかった。私がこの店を経営していたとしたら、多分カードを取り入れていただろうと思う。この店にはいまだに、一昔いや二つ昔くらいのマグネットのレール上を走る小さなレーシングカーのサーキット場が置いてある。おそらくこの店の経営者は、よほど昔が懐かしいのか、それとも単に無能なのだろう。

■社会問題

流行するということは、トレーディングカードゲームが社会問題にもつながるということである。

▼カードに金をつぎ込む子供

私が見た中で一番大きな記事は、小学生が四万円もカードにつぎ込んだ親が抗議をした、というものである。この記事を H先輩に見せたところ、非常に理にかなった意見を言ってくれた。この親は自分の子供への教育不足と管理不足をカードのせいにしているのだから、問題をはきちがえている、という意見である。これは非常にもっともである。この親は子供にこづかいをあげて、好きに使えばいい、その代わり無駄遣いは駄目よ、みたいに子供に教育していたのだと思うのだが、単にその教育が行き届かなかっただけだ、ということである。

私に言わせれば、長期間バイトしては旅行に出かける学生たちの方がよほど無駄遣いである。その旅行で何か経験を積んだとか勉強になったのであればいい。しかし、大抵は友達と楽しく旅行に行ったに過ぎない。しかも一回の旅行で数日で数万円は確実に使う。これはカードゲーム以上に贅沢なことである。まあこれは私の意見なので、旅行好きの人は気分を悪くしないでほしい。本当に旅行好きの人であれば、自分が何に金と時間を使おうが、自分にとってそれでいいのだから何が悪いのか、と主張するはずである。ちなみに私は、旅行して勉強になったとか良い経験をしたとか言う輩についても否定的なのであるが、彼らは少なくとも自分の時間と金の使い方に意見を持っているので、その点は私が文句を言うところではない。

それと、私が旅行に対してうるさいのは、私の親がなぜか旅行ならどんどん金を使え、みたいな考え方の持ち主だったからだと思う。しかも、私のもっとも大きな興味の対象であるコンピュータに金を使うと、なにか冷めたような態度を取っていたので、ますます私は旅行というものに対して否定的になったのである。

話を元に戻すが、多分この親も、自分の子供が旅行に四万円使うのだとしたら、何も文句は言わなかっただろう。それは、親がカードというものについてほとんど知らず、なにかよくわからない得体の知れないもの、という意識があったからだと思う。むしろ、親の方がカードについて知っておかなければ、子供に教育を行うことが出来ないと私は思う。

カードは確かに金がかかるが、実際のところ、それ以上に頭と時間を使うのだということになかなか考えが及ばないようである。

▼イスラム圏

これは最近のニュースだが、サウジアラビアでポケモンのトレーディングカードゲームが発売禁止になった。理由はとても面白い。まず第一に、ポケモンのアニメかなにかの真似をして屋根から飛ぼうとして大怪我した子供がでた事件がある。次に、トレーディングカードゲームが反イスラム的なギャンブル性を持つということがある。そして最後が、ポケモンカードの中にダビデの星つまりユダヤ人のパレスチナ建国を肯定することをほのめかすシンボルが使われている、というものである。

この記事は朝日新聞にも出たので多くの人が知っているだろう。私は偶然、マジックの情報を得るためにネットサーフィンしていたら、あるコミュニティで CNN のこのニュースを取り上げて盛り上がっていた。面白かったのは、ポケモンが本当に一部の人たちの間で憎まれていることであった。憎まれる理由にはいくつかあって、まずポケモン自体に嫌悪感を持つ人たちがいて、それからマジックが元祖なのにポケモンのカードの方がメジャーになってしまったことに嫌気を感じるカードゲームマニアたちがいる。彼らの悪意のある書き込みに対して、一部の良識家たちがたまに弁護していたりして、それがなかなか見ていて面白かった。ポケモンカードはマジックへの導入になる、その証拠に徐々にマジックに移る人が増えている、という現象を説明する人がいた。また、ポケモンがまず禁止されたことで、マジックが次に禁止されるであろう、ということを危惧する人もいた。一方、マジックにもイスラムに対してネガティブなシンボルが描かれているカードがあるのではないかということを心配する人がいて、それに対してマニアが大丈夫そんなカードはマジックにはないと返答していた。

■これから

とにかく私が驚いたのは、昼食を食べに出かけたときに、公園で小学生六人ぐらいが、カードを前にワイワイと遊んでいたことであった。その子らは背格好から想像すると多分小学校低学年だと思う。そんなに小さい子供たちが、これほどまでに複雑なゲームをみなで楽しんでいるのだから、私の驚きは、女子高生が電子メールを使いこなしているのを見たとき以来のことである。

小学生の間で流行っているのは、多分「遊戯王デュエルモンスターズ」というトレーディングカードゲームである。コンビニや書店で売られているカードの大体がこのカードであることからも、その流行の大きさが分かるというものだ。発売元はテレビゲームで有名なコナミであり、コナミは当然のことながらそのコンピュータ版もすでに続編に続編を重ね四作目までは私も確認している。このゲームソフトまでも書店で売られており、そのソフトを親にアピールする子供まで見た。

ついでに言えば、もともとこれらのゲームは「遊戯王」という漫画が元になっている。この漫画はそもそも色々な遊びに焦点を当てているのだが、その中でもカードを使ったゲームを出したときに特に読者の反応が良かったので、いまではカードが主な内容になっているらしい。

私の職場で、人の親となっている何人かの人も、子供にカードを買ったことがあるらしい。際限なくせがまれて困る、という声を聞かないのが意外である。どうやら友達同士で交換しあったりして、あまり金を使わずに遊んでいるらしい。それとも、私の周りの親たちがあまり金を持っていなかったりケチなせいもあるのだろうか。

子供というのはコレクションしあうのが好きなものである。私はちょうどビックリマンと呼ばれるおかしのおまけのシール集めの世代だった。私の子供の頃にトレーディングカードゲームが流行っていてくれたらなと本気で思う。

親は多分、この流行に金を費やされることになるだろう。しかし、トレーディングカードゲームは結構頭を使うので、ここで費やされる金は子供にとって無駄にはならないと私は保証する。多分、私がちょっとした気持ちでカードを集め始めてゲームをやろうと思っても、しばらくは小学生たちにも負けつづけることになるだろう。それほど奥が深く頭を使うゲームが流行することはとても良いことだと私は思う。


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