89. 私が株をやらない理由 (2001/1/9)


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私は前から株に興味があった。しかし今にいたるまでまだ手をつけていない。理由は、損をするか、大して儲からないからである。仮に私が株をやるとしても、失敗したときのことを考えるのでそんなに資金はつぎ込まないだろう。だから、成功しても大して儲からない。とまあそういうことである。

他にも理由はある。

■持ち合い

日本の企業は、株を互いに持ち合うことが多かった。持ち合いの利点は、互いの企業の株価が安定することである。他にも利点はありそうだが、私には分からない。逆に難点なら私でもいくつか挙げることができる。持ち合いによる株主は、経営には口を出さないので、市場による企業の自浄作用が働きにくくなる。株価が企業の実態よりも高くなる。というのは、持ち合いによる株主はよほどのことが無い限り株を手放さないからである。

いまは企業同士の株の持ち合いが解消されつつあるという。しかしいまだに持ち合いが続いている企業もまだ多いのではないかと思う。こんな状況の中で、個人が株を買おうとするのは愚かなことではないだろうか。ある企業の株を買った直後に、その企業の株を持ち合っている企業が持ち合い解消に動いたら、株価は下がってしまう。逆のケース、つまりこれから企業が株を持ち合う、というようなことはあまり起こらないのだから、これから株を買う人は損をする確率が高いということになる。私が株を買うとしたら、一通り企業同士の株の持ち合いが解消してからにしようと思っている。

もっとも、企業の戦略的提携の手段として、互いの株を所有することで互いの経営に干渉しあうということも行われていくようなので、提携の好きそうな活力のある企業の株は買っても良いかもしれない。もっとも、そのような有望な企業の場合、その企業の未来の価値が既に織り込まれていることが多いので、買おうと思っても割高だったりする。

結局、株で儲けるには、人々の予想を良い方向に裏切るような企業を探さなければならない。単純に有望な企業の株を買っても、その時点で既にその企業の有望さが株価に繁栄されているわけだから、むしろ逆に割高で損をするだけである。人々の期待というのは大抵の場合過剰なので、期待されている企業の株を買うことほど馬鹿馬鹿しいことはないのではないだろうか。また、その手の人たちは値下がりを見込んでの空売りも一つの手として持っているので、ただ買って売るだけの一般投資家が太刀打ちするのは不利なのではないかとも思う。

■私の父の場合

私の父は株をやっている。とはいっても、私にはいまいち理解できない。というのは、私の父親はローンを抱えており、いますぐ株を売ってそのローンを返済した方が確実に得だからである。ローンといっても低金利なのでそれほどではないみたいなのだが、それでもそのローンの金利を上回る利益を株で得られるわけはないのだ。

株をやることの是非はともかくとして、私の父はそれなりに賢い買い方をしていると私は思う。というのは、自分の会社と近い業種の会社の、しかも極めて堅実な株を中心に、いくつか分散して買っているからである。

株をやるときに一番有利なのは、やはり情報をなるべく多く得ることである。しかし、自分のよく知らないことをして儲けている企業の情報をいくら集めたところで、その情報が何の意味を持っているのか分からない。だから、なるべく自分のよく知っていることをやっている会社が良いに決まっている。

私の父の買う堅実な株というのは、株価がどんどん上がることを期待するよりも、長く長く配当を得ていくことによって儲かる株のことを言う。堅実に配当を続ける中堅企業の株は安心できる。多少株価が下がってもそれがそのまま損につながることはない。極端な例では、株式時価総額よりも多くの資産を持つ企業があり、仮に倒産しても計算上は株の額面以上のリターンが得られる場合もある。ただし、株価というのは市場からの評価なのだから、そのような企業は先細ることが確実なのか、あるいは資産総額がウソなのかもしれない。

他に、時がたつにつれて安定して株価が上がっていくような株があれば一番良いのだが、低成長でなおかつ不況下ではそれを期待するのは無理だろう。

ほかになぜか父は NEC の株を持っている。そこそこ得をしたみたいなので良かったのだが、なぜ NEC なのか私にはよく分からない。

■陰謀かどうか

一時期、高金利の郵便貯金の期限が切れることにより多くの資金が株式市場に流れ込む、と言われていた。しかし実際のところあまり流れ込まなかったようである。流れ込んでいたとしたらいまごろ株価はもっと上がっていたはずである。

企業が株式の持ち合いを解消するためには、これまで持ち合っていた株を誰かが買う必要がある。買い手が少なければ株価はどんどん下がっていく。そこで、株を買う人間がいなければならない。企業はかなり株を持ち合っていたはずだから、それらを解消するにはかなりの買い手が必要である。

高金利の郵便貯金の預け入れ期限が切れる時期と、企業の株の持ち合い解消には、なにやら相関関係がなりたつような気がしてならない。ほとんどのマスコミは、預け入れ期限が来ることで株式市場が沸き立って株価が上がるのではないか、と報道した。しかし、そもそも郵便貯金という安定した場所に預けていた個人が、株式市場という危険な場所に資金を移動しようとするだろうか。また、企業の持ち合い解消という株価にとってかなりのマイナス要因があるのに、そんなにすぐに株価が上がると思っていたのだろうか。

経営が苦しくなった企業は、自分の資産を処分していかなければならない。有用な経営資源を売るわけにはいかないから、自社にとってあまり意味のないものから処分していくほうが良い。そうなったとき、もっとも意味のないものが持ち合い株なのである。

余っているものは安くなる。それが市場というものである。いま、株は余っている。だから安くなるのは当然である。値下がりを防ぐには、余らせないようにするしかない。株を発行している企業が強くなるか、強くない企業の株でも求められるように需要を増やすかである。しかし需要なんてそうそう増えるものではない。特に弱い株には。しかし、いまのような超低金利時代では、そんな弱い株でも買った方が得かも知れない。

そんなわけで超低金利は続く。これは仕方が無いというか当然である。銀行が超低金利で儲けているのは確かに腹が立つが、超低金利でも金を預ける人がいて、そこそこの金利でも金を借りる人がいる以上、銀行がボッていると言い切れるわけではない。そもそも私は、消費者金融が儲かるのは庶民が馬鹿だからであり、高い金利を払うような馬鹿が少なくなれば必ず借りるときの金利は下がるはずなのである。そうなれば、銀行が消費者金融に乗り出すことなんてありえないわけだし、全て馬鹿な庶民が悪い。そうとも言い切れないケースもあるだろうがそれはまれである。

ともかく、そうやって少しでも預金ではなく株式市場の方にまわす資金の流れを作ることで、企業とくに銀行の持っている株式が値崩れしないようにしたのではないだろうか。しかし、そもそも株式市場が儲かるのであれば、銀行や証券屋がそもそも株を買っているはずなのである。株で儲けることが出来るのであれば、銀行や証券会社は必死になって金を集め、その金を株につぎ込んで儲けようとするはずである。彼らのようなプロでさえ株に期待していないのだから、我々のような素人が手を出して成功する可能性なんて知れているのではないだろうか。

■株の買い時

私の描くシナリオはこうである。株式市場が下がるところまで下がり、さあこれから上がるぞというときになって、ようやく金利が少しは上がるはずである。そうなるころには今度は逆に「株は危ない」「金利が上がったので預金のほうがいい」というようなことが言われるのではないだろうか。しかし、金利が上がるということはむしろ、株で儲けやすくなることも意味するのである。

現在、金利が低くて預金しても仕方がないから、という理由で株を始めるのは勧められない。確かに銀行は含み損を多く抱えているので、利子をほとんどつけてくれないのだから、銀行を飛び越えて株に直接投資するのもいいだろう。しかし、結局その株も、経営の危ない企業が持ち合っていたりなど、常に売りの圧力が掛かっているのである。彼らは自分たちが生きるか死ぬかなのだから、株が下がらないうちに、少しでも値段が上がると、そのタイミングを見計らって徐々に処分して、出来るだけ良い値段で株を売り払うつもりだろう。

平均株価の上下で我々は一喜一憂する。平均株価が上がると景気が回復したと思うからである。しかし実際のところ、平均株価が上がって嬉しいのは、既に株を持っている既得権益者である。少なくとも私のような全く株を持っていない人間からすれば、一度日本が不況のどん底に入り、株価もそれにふさわしくどん底を這いずっている状況が望ましいのである。そうなれば私は株を買うだろう。なぜなら、株価がもし本当にどん底だとしたら、あとは上がるだけだからである。

不況なのに株価があまり落ちないというのはおかしいことだ。銀行などの企業の含み損を少なくするために株を買い支える、という政策が普通に行われている。しかも買い支えに使われる資金は国の予算の中から出されるのである。買い支えがなかったら値が下がっている株を買うために投資するなどということを普通の投資家がするだろうか。

この低金利時代に、株という選択肢に希望を見出したかたも多いかもしれない。しかし、株で儲かるなら銀行がまずやっているはずである。世の中にそうそうおいしい話はないものである。低金利だからといって株の方が良いというわけではないと私は思う。いまの株は、競馬と同じである。胴元である証券会社が一番儲かっている。競馬と同じようなノリでやるのでなければ、株をやっても損をするだけである。

株をやるなら、金利が上がってからにするべきである。


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gomi@din.or.jp