85. おとしめられる日本 (2000/11/18)


戻る前回次回

■日本を悪し様に言う外国人たち

私は最近、海外の BBS をのぞいてみた。その BBS は、中世の戦争を扱ったゲームのファンサイトの中にあり、歴史を語るページであった。私はまず、日本のことでどんなことが言われているのだろうかと思い、Japan というキーワードで検索してみた。そうやって調べているうちに、韓国系アメリカ人と中国系アメリカ人が定期的に日本軍の残虐性について主張しているということがわかった。

彼らの主張は大体以下の点である。

  1. 日本軍は南京で 30万人以上民衆を虐殺した。
  2. 日本軍はアジア全土で数千万人を殺害した。
  3. 日本軍は条約を破って捕虜を虐待した。
  4. 日本軍は朝鮮の女性を虐待した。
  5. 5. 日本軍はアジアを植民地化して搾取した。

私は非常に腹がたったので、つたない英語で一つ一つ反論していくことにした。それぞれについて簡単に説明する。

▼南京事件

私が実際に確認した限りでは、韓国系アメリカ人の一人がまずこの南京事件の話題を持ち上げた。しかし、私がこの場所に来る前に、既に中国系アメリカ人が何回かこの話題を持ち上げていたようだった。この場所は本来中世の歴史について議論する場所なので、第二次世界大戦前後で特に政治的な内容のポストはするべきではないようだったので、私が来た頃には彼はおとなしくなっていたようだった。

私が事実だと思っているのは以下である。

  1. 日本は意図して民衆を殺したわけではない。
  2. 中国軍の司令官が逃亡したので、一般兵が町になだれ込み、国際条約違反であるゲリラ戦となった。
  3. 日本軍は偽装した中国兵を殺したり、捕まえたあとで養いきれなくなったために殺した。捕虜を殺す前に国際条約上不可欠な裁判をせずに殺した点のみがとがめられるが、それ以外は特に問題はない。
  4. 日本軍は偽装した中国兵のほかに、誤って市民を捕まえて殺した可能性はある。
  5. 中国人の死者は多くても四万人くらいである。

私がこう主張すると、中国系アメリカ人や韓国系アメリカ人は大いに反発した。彼らは語気を強め、アイリス・チャンという中国系アメリカ人の書いた偽書「レイプ・オブ・ナンキン」を持ち出してきた。この本は既に、多くの誤った写真や資料を寄せ集めて書かれたことが日本では広く知られている本であり、私がかつて日本のとある BBS で南京事件に関して論争をしていたときにも、日本軍は大量虐殺したと信じる人からもあからさまに偽書と判断されているものである。私はご丁寧にもその事実を彼らに伝えたのだが、彼らは一顧だにしなかった。

そののちオーストラリア人が話に入ってきて、彼はエンサイクロペディア・ブリタニカを持ち出して「日本軍が 30万人殺したのは百科事典に書いてあるので確かである」と主張してきた。そこで私は、日本の BBS で得た情報を元に、エンサイクロペディア・ブリタニカには「四万人から三十万人」との数字が書かれていると逆に言い返した。他に、同じ BBS で自由主義史観という団体が作った英語のページへのリンクを教えてもらっていたので、そのリンクを彼らに示した。

私は最終的に、南京事件は実はよく分かっていない事件であり、我々のうちの誰もが生の資料を吟味したわけではない、我々は偏向した情報しか受け取っていないのだ、と主張した。そのうち、彼らが納得したのか、あるいは私が困った教育を受けた人間であると判断されたのか、この話題は収束していった。

▼アジアで数千万人?

私は日本軍がどれくらい戦闘時または非戦闘時に人を殺したのかさっぱり分からないので、アジアで日本軍が数千万人も殺したと主張する彼らには、数字による反証をすることはしなかった。にしても数千万人は明らかに誇張しすぎである。第二次世界大戦で大敗したドイツでも、兵隊は七百万人しか死んでいない。ちなみにソビエトの兵隊は二千万人死んだらしい。たしか日本軍の死者は四百万人ほどで、そのうちのかなりが餓死によるものと聞いている。いくらなんでも数千万はありえない。

私はまず、日本軍の司令官たちが中国では無能だったということを認めた。彼らが、戦略的に何の利点もない状況でも戦闘を継続したのは事実みたいだからである。なぜ私があえてこれを認めたのかというと、彼らは日本軍が野蛮人だったと信じているようであったからである。私はかなり呆れていたが、根気よく説得することにした。私は彼らに、日本軍は野蛮だったのではなく官僚主義に陥っていたのだと伝えた。しかし彼らは容易には納得しなかった。私は最後にこう言った。野蛮だったから戦争した、と説明できるとしたら、あらゆる歴史研究は単純なものとなるだろう。と私は高らかに発言したのだが、よく分からないうちに話題は収束した。

▼日本軍は捕虜を虐待したか

この頃、さきほどのオーストラリア人が私に反論するようになっていた。あとで私の友人から聞いた話だが、オーストラリアは第二次世界大戦のときに、日本に占領されてしまうのではないかとビクビクしていたらしい。が、彼に関して言えば、第二次世界大戦に自分の祖国であるオーストラリアがいかに関与したかを誇りたいようであった。というのは、私が紹介したページに、日本軍の潜水艦がシドニーを攻撃したとの記述を彼が見つけ、シドニーは自分のいま住んでいる場所の近くだとはしゃいでいたことからもうかがえる。

さて、私はその前に、日本軍は世界で最もノーブルな軍隊の一つだと言ってしまったので、彼はどうやらその記述が気に入らないようであった。というのは、彼は学校教育の一環として、第二次世界大戦の退役兵から直接話を聞いていたからだった。その退役兵は日本軍に捕まって、殴られたり酷使させられたりしたらしい。クワイ川に橋を掛けるために奴隷のように働かされた捕虜がいた、という主張もしていた。

私は、日本軍が捕虜を少なくとも大切には扱わなかった或いは扱えなかったことを一応知っていたため、彼に対しては回り道で反論をした。

  1. 日本軍は食料をロクに持たずにひたすら歩きまくったので、捕虜もそれにあわせて歩かされた。
  2. 白人はこれまで有色人種を奴隷のように扱ってきたが、近年になって捕虜を大切に扱えというのは虫の良い話ではないか。
  3. 飢えた捕虜にゴボウを与えた親切な日本人がいたが、彼は捕虜から「木の根っこを食べさせられた」と訴えられて処刑された。まず文化の違いを考えるべきである。

イギリス人に捕まった日本人の体験談も彼に説明した。イギリス人が有色人種にタバコを与えるときは、手渡しせずに地面に落として拾わせた、とか、イギリス人女性は有色人種に裸を見せるのを恥ずかしがらなかった、とのエピソードを紹介して説明した。

私は一応、日本軍の捕虜も虐待された事例があることを知ってはいたが、結局タイミングを逸して説明せずに終わってしまった。川の中州に置き去りにされて疫病におかされた日本軍捕虜の話である。この話はするべきだったと後悔したがもう遅い。次の機会があればそのときに紹介したいと思っている。

▼慰安婦

韓国系アメリカ人は、日本軍が朝鮮人女性を強制的に徴発して慰安婦にしたと主張していた。私は、これを誤りだと指摘した。強制的に徴発したという証拠が何一つないのは確かであるからである。朝鮮人の慰安婦は存在したが、生活していくためか金を得るためである、と私は言った。韓国では日本軍が朝鮮人の少女まで慰安婦にしたと信じられているという情報を私は本で知っていたので、その点についてもいかに韓国のマスコミがいい加減であるかを伝えた。

ついでに、酷なようではあるが、北朝鮮と韓国は日本の影響を受けすぎていると私は主張した。北朝鮮はかつての日本の軍国主義を受け継ぎ、韓国はかつての日本の巨大財閥を真似たと私は主張した。また、日本軍が測量のために朝鮮の山々に杭を打ったみたいなのだが、朝鮮人たちはそれを日本軍による風水的な呪いであると信じているらしい。これはどうやら韓国の新聞紙上にも書かれているらしい。その点について私が彼らに問い合わせたところ、どうやらそれは本当らしい。彼らのうちの一人は、日本軍による杭が地中深く埋められていたのだ、と主張し、あくまでも呪術的な目的があったと反論してきたのである。

▼日本はアジアを植民地化し搾取したか?

私は、日本がアジアを植民地化したかどうかについては、したという結論に達せざるをえないと考える。日本は良いことをしたのだと主張する人でさえ、日本が主導権をとっていたのは植民地化していたからだと言われたら反論できないのではないか。

では日本は搾取したのか? 私は、日本は少なくとも一方的な搾取はしていないと考える。が、この主張を押していくのはやはり無理があると私は考え、英米との比較において日本の行為を正当化する試みを行った。

それにはまず、英米日の元植民地が現在どうなっているか、ということを示すことが効果的だと私は考えた。

アメリカ
南アメリカ、ハワイ、フィリピン
イギリス
アフリカ、インド、他
日本
朝鮮、台湾、中国、東南アジア

これらの地域を比較すると、日本の植民地だった地域が最も豊かになっていることは誰の目にも明らかである。北朝鮮の問題は日本のせいとは言いがたいばかりか、北朝鮮ではいまでも日本の古い機械が現役で動いているという噂まである。韓国は第二次世界大戦後に朝鮮戦争の当事者となったが、いまでは世界一の規模を持つ製鉄所を始めとした世界的大企業がいくつかある。台湾は、こんなに小さい島がいまでは世界のコンピュータ工場となり、VIA Technology はいまや世界最大の半導体メーカー Intel を猛追撃している状況にある。中国はいまや部分的であれかなり豊かになっており、またこれからの経済成長は誰もが予想するところである。東南アジアは、通貨危機があったものの、つまりはそれぞれの国が資本主義世界に参加しているプレイヤーであり、それだけ経済成長を遂げたということである。

南アメリカはアメリカの植民地とは言えないかもしれないが、強くアメリカに影響を受けてきた地域である。最近ではかなり経済成長してきているとはいえ、東南アジアの国々と比べればまだまだである。南アメリカの最大の国家であるブラジルは犯罪天国である。ハワイは日本も強く影響している。フィリピンは確かに国力があるが、貧富の差が激しいので社会は不安定である。

アフリカはイギリスだけに植民地化されたわけではなく、オランダやフランスなどがからんでいた地域ではある。アフリカの惨状は改めて私が言うまでもない。いまでさえ欧米資本に強く支配される地域である。インドは大国となっているが、欧州ほど近代化されているわけではない。インド固有の身分制の問題が大きいこともあるだろう。また、インドはイギリスから自分たちの手で独立を勝ち取った国の一つであり、それにはチャンドラ・ボーズを介して日本軍が絡んでいた。

■世界で繰り広げられる情報戦?

その後私は、国際情報誌 SAPIO で、中国が近年盛んに反日情報をばらまいているという話を読んだ。日本人はそれに対して、沈黙の美徳とか、あまりに馬鹿馬鹿しいとの理由で、世界という舞台の上ではロクに反論してこなかったらしい。その結果、世界中の多くの人々は、日本人(日本兵)が野蛮だったと本気で信じているようである。

私は、私自身の経験を持つことが出来たので、この現実にかなりの恐ろしさを感じた。私はたまたま議論が好きなのと仕事が暇だったので反論したのだが、多くの日本人はそもそも日本の軍部が悪かったとの教育を受けていることもあり、また英語が面倒または読み書きできないので反論しようとも思わないだろうしまたこのような現実に触れることもないだろう。かく言う私も英語は全く得意ではない。SAPIO の記事には、日本人の中で能力のある人間がこれまで全く反論してこなかったことに対して特に強く反省を求めているのが印象的であった。英語の出来る人間は、アメリカやイギリスに行って現地の文化を一方的に受け入れるだけで、自分たちのアイデンティティを持って正しい知識を得てきっちりと自己主張や反論をしてこなかったのである。詰まらぬ優越感で得意げに英語を喋るアホづらが目に浮かぶと言ったら言い過ぎであろうか。

■正しい物語があるとすれば…

これまで幾多の作家が、第二次世界大戦の勝敗が正反対になっていたとしたら、という仮定に基づいて物語を作ってきた。このような仮定は作家にとって魅力的なようである。私が読んだことのあるのは SF 作家ディックの「高い城の男」だけであるので、他の小説については何も知らないのだが、多くの小説は恐らく「奇妙な違和感」を読者に投げかけるためだけに仮定を利用しているに過ぎないのではないか。しかし、私は思うのだが、実は勝敗が正反対になったときの世界の方がよほど整ったストーリーが出来上がるのではないか。

第二次世界大戦は、列強の植民地支配時代の終焉をもたらした。日本がアジアを侵略して植民地化したことが強く非難されていることからも言える。しかし、世界で最も植民地を持っていたのは、連合軍の中でも中心的な存在であったイギリスである。だから、第二次世界大戦は、乱暴な言い方をすれば「イギリスが敗れて植民地が解放された」という筋書きが一番正しいのである。私に言わせれば、第二次世界大戦でイギリスが勝利したことは、人類の汚点であるとすら言い切っても良い。

もちろん日本も、この「正しい物語」からすれば大きな誤りを犯した。中国との戦争はするべきではなかった。他のアジア各国に対する侵攻は、私からすれば特に問題はない。というのは、多くの国は既に別の国に植民地化されていたからである。朝鮮に関しては、もし日本がアメリカに負けることなくそのまま統治しつづけていたら、恐らく朝鮮人の中から独立の機運が生まれてきて自然に独立することになっただろうと思う。そのときになって日本は悪者の一人として断罪されれば良かった。

アメリカは欲張りすぎた。太平洋はハワイまでにしておけば良かったのである。アメリカはスペインとの戦争によりフィリピンを得たので、アジアに執着しすぎた。アメリカが日本に戦いを挑むこと自体については私は特に判断しないが、少なくともアメリカは自分に有利な条件で日本との講和を結ぶことを考えるべきであった。アメリカはまた、原爆を落とすべきではなかった。アメリカが日本を無条件降伏に追い込むとしても、原爆さえ落とさなければ、ソ連が朝鮮半島を占領してアメリカが日本を占領して、いまよりもアジアは平和だったのではないだろうか。

「正しい物語」にこだわるのはあまりに馬鹿馬鹿しいのでここまでにする。しかし、いまの世の中が、イギリスの勝利による厚顔無恥なシナリオの上に乗っかっていることを、多くの人は自覚すべきである。最大の悪者にされたドイツは、当時まったく植民地を持っていなかったのだから。

■世界のいま

現在の世の中を見回してみていただきたい。主要先進国は六つ、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、日本、である。この中で、ほぼ有色人種の国は日本だけである。アメリカは移民の国であるが W.A.S.P. と呼ばれる白人が依然力を持っている。他の国も移民を受け入れてはいるが、宗主国だった頃の名残として旧植民地の国々の人々を若干受け入れているだけである。

日本以外に、有色人種つまり白人以外の人々が多数を占める国が、先進国に仲間入りできるとしたら、どの国が一番近いだろうか。

韓国は経済構造が未熟ではあるが進んだ国である。中国は人々の間で経済格差が開いているが間違いなく進んだ国となるだろう。しかし、この二国は本来同じ有色人種で同志である日本と政策的に敵対している。インドは身分制が根強く残ってはいるが核を持ち大国となっている。しかし、イギリスから独立するときにパキスタンとに分かれてしまい、紛争を抱えてしまった。

中東を見回してみると、アラブの先進国といえばイラクであった。しかし湾岸戦争は多くの人々の記憶に新しいところだろう。イラクがクウェートに武力侵攻したのは非難されるべきだが、そもそもクウェートという国がなぜあの場所にあのような形で存在するかということを、世界の人々は少しでも考えたのだろうか。

日本以外の有色人種の先進国に一番の名乗りをあげるのは恐らく中国だろう。中国は日本にとって嫌な国ではあるが、中国の台頭は世界にとって少しはプラスに働くと私は考える。私にはどうも、アジア各国がわざと仲たがいされているような気がしてならない。日本が中国を助けることは、長期的に見ると日本の利益となると考えるのは甘いだろうか。


戻る前回次回
gomi@din.or.jp