63. ブック型ベアボーンキット (3) (2000/6/8)


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ブック型ベアボーンキットに関する話を三回に分けて書いている。第三回目の今回は、静音化改造を施したレポートを書く。

■いまそこにある不満

私はこのベアボーンキットから作ったマシンにある程度満足しているが、不満は色々と尽きない。中でも、Celeron しか入らず Pentium !!! が使えないとか、周波数設定が飛び飛びなのでオーバークロックに向いていないとか、シリアルポートが一つもないとか(なぜかパラレルポートはある)、拡張スロットが一切ないとか、いくつか思うところはある。しかしそれも低価格と引き換えであることを思えば当然だと思う。いやむしろここまで低価格でよくぞやってくれたと感謝するべきかもしれない。

それでも私にはどうしても気に食わない点が一つあった。それは、このマシンが非常にうるさいことである。

一番うるさいのは、CD-ROM ドライブである。ベアボーンキットについてきた CD-ROM ドライブはなんと 52倍速である。最近の高価なドライブの中には、ヘッドをいくつも用意することで低速に 50倍速以上の読み込みを行うことの出来るものがあるのだが、私の CD-ROM ドライブは単純に音楽 CD の 52倍の速度で CD をぶん回すのである。CD-ROM の円盤が風を切る音がケースの中からでもブンブン響いてくる。まあ CD-ROM ドライブなんて、ソフトのインストールとかバックアップデータの読み込みのときぐらいしか使わないし、CD-ROM ドライブが回りっぱなしという状況はゲームをプレイするときぐらいなのだが、このマシンでゲームをする予定はいまのところないので、CD-ROM ドライブの騒音については目をつむることにした。

ところでこの CD-ROM ドライブは多分欠陥品で、PC をリセットした前後のタイミングで CD をイジェクトすると、CD-ROM が回転したままイジェクトされ、CD-ROM の外周一部に傷がついてしまうのである。これには悪い汗をかかされた。ドライブが壊れることよりも、大切なデータかもしれない CD-ROM の方を守って欲しいと思う。これは下手な欠陥よりも始末が悪い。安いものを買うとこういうことになるという良い教訓を得た。まあ取り外して別のドライブをつけることも出来るので、いざとなれば交換してしまえばよい。

一番うるさい CD-ROM が全く動いていないときでも、このマシンはまだうるさいのである。何がうるさいのかというと、ファンがうるさいのである。ファンは二箇所についていて、一つはケースの裏側にあるケースファン、そしてもう一つは CPU を冷却するためのファンである。  

■静かなマシンを作ろう

私は自分の買ったベアボーンについて、インターネットで色々と情報を集めたのだが、その中に静音化改造を行っているページがあった。そのページでは、CPU のファンを大き目の放熱フィンに置き換え、ケースファンも高価で静かなファンに付け替えるという作業をやったところ、マシンの動作時の騒音が非常に低くなったと報告していた。それを見た私は、当然私も同じようにマシンの動作音を下げようと思ったのであった。

そこで昼休みにパソコン工房一号店でファンを物色することにした。しかしケースファンで普通の製品は高い。見るからに安いファンもあるのだが、普通以上のファンは大体 2,500円以上はする。考えてみれば当然で、たとえ 6cm 四方のファンであっても、平べったい高性能なモーターがついており、回転数まで制御するものがあるのだから無理もない。現に私が目をつけたのは、星野金属工業製の WinDy 60 というファンで 3,200円もするのである。放熱フィンもそれなりの値段がする。私がその店で見つけた放熱フィンは 1,500円以下で買える比較的安いものであった。用心深い私は、私がいま仕事に使っているマシンについていた放熱フィンがかなり大きかったのを思い出し、この放熱フィンで果たして大丈夫なのかと心配になって、そのときは店をあとにした。

■同期のMさんの様子をみる

私が会社に帰ってみると、同期のMさんが偶然ケースファンを買って帰ってきた。彼の話を聞いているうちに、どうやら彼もまた私と同じようなベアボーンキットを買ったということが分かった。彼の場合、親にマシンを作ってあげたらしいのだが、さすがに人に使わせるマシンにしては騒音が気になったのだろう。安くマシンを組めたのは良いのだが、やはり小さいマシンは排熱のためのファンの騒音問題は避けて通れないようである。

次の日、彼が静音化に成功したかどうかを聞いてみた。ダメだったそうである。彼の話によると、彼はまず 500円の安い CPU クーラーを買って、CPU クーラーのうちファンを取っ払って放熱フィンだけを利用したそうである。そちらの方は問題なく、この改造により CPU ファンの騒音だけは無くすことが出来たようである。ところが、2,400円近く出して買ったケースファンの方は、大した静音化の効果をあげることが出来なかったようである。彼が買ったファンは普通のファンだったのだが、彼の話によるとどうやら静音ファンというものも店にあったらしいので、今日はゴネて昨日買ったファンを返却し、静音ファンの方に取り替えてもらうつもりらしい。そこで私は、モルモットとして働いてくれる彼の様子を見て、成功したとの話を聞いてから自分のマシンを改造することにした。

また次の日。彼から成功したと聞いた。普通のファンを「これ間違って買ったみたいで…。5.5cm のファンはありますか?」と、実際には存在しない規格のファンが店にないかどうかを店員に聞き、当然そんなものはないのでまんまと静音ファンと交換したそうである。この男の信条は「はったり」だそうである。彼は現在プログラマをやっているが、
「俺、こういう仕事向いてないんじゃないかな、って思うんスよ。営業なら自信あるんですけどね」
と言っていた。面白い人間である。

彼が買いなおしてきたファンなのだが、静音ファンだけあって厚いのである。我々の買ったベアボーンには 100W という小さな容量の電源がついており、その電源についているファンがケースファンとしても働いていたのであるが、電源が小さいために厚さ 1cm のファンしか取り付けられない。静音ファンは 2.5cm もあるのである。なぜ厚いのかというと、多分ファンの回転数をただ押さえてしまうと風量が落ちてしまうので、風量を維持するためにファンを厚くして多くの風を送れるようにしているのだと思う。

彼がその静音ファンを買いにいく前に、E先輩が彼に良い助言をしていた。電源内部にファンをつけることをあきらめて、いっそ電源の外にファンを取り付けたらどうだろう。その提案に彼は膝を打ち、彼はファンを電源に内蔵することをあきらめて、外に取り付けることを前提にして静音ファンを買ってきたのだった。それで昨日作業を済ませ、テストをしてうまくいったみたいなのだが、そこでちょっとしくじったらしい。電源を組み立てなおす前に、試しにうまくファンとマシンが動くかどうかやってみたそうである。電源とファンがうまく動いたことを確認したところまでは良かったのだが、どこがどう悪かったのだろう、電源内部のヒューズを飛ばしてしまったらしい。ヒューズというのは、過大な電流が回路に流れるのを防ぐために、過大な電流が流れた直後に回路を断線させるための部品である。彼の話によると、おそらく剥き出しの回路裏面に金属かなにかの導通するものを接触させたかなにかしたのではないかということだった。


Figure 1. 電源ファンを外付けケースファンとしてケースの外に出す改造を施したあと

なにはともあれ、この方法でうまくいくことが彼によって証明されたのであった。私は労せずしてまんまとノウハウを手に入れた。音もかなり静かになるらしい。

■パーツを買いに行く

というわけであとは私は彼の真似をするだけである。必要なのは、CPU 用の放熱フィンと、6cm x 6cm x 2.5cm の静音ケースファンである。この中で、ケースファンに関しては、私は既に星野金属工業製の WinDy 60 というものを購入しようと大体決まっていたので、CPU 用の放熱フィンを中心に探すことにした。昼休みになり、早足で近くの弁当屋でパンを買い、万世橋へ続く道でパンを平らげ、一路電気街へと向かった。

昼休みは 50分しかない。電気街へつくと大体 10分くらい時間を使う。戻る時間も考えると、電気街での物色時間は 30分ぐらいしかない。だから私はいつも、どのあたりの地区で買い物をするかを決めてから店に向かう。万世橋だとパソコン工房一号店しか店がないので、同じ店でじっくり悩むときには便利である。ソフマップのシカゴ館や LaOX のコンピュータ館や TSUKUMO パソコン本店やぷらっとホーム近辺を一周するコースだと、半分くらいの店を普通に回るには良いが、熟考するには厳しい。DOS/V パラダイスや T-ZONE PC DIY 館、果ては ZOA や WAVE EYE のあるあたりまで行くとなるとほとんど駆け足である。店舗あたりざっとしか見て回れないのだが、ここまで来ると品揃えが良くて安いので、時々このルートを通る。今回は、ちょっと特殊な CPU ファンを探したかったので、後者の DOS/V パラダイスや ZOA ルートを回ることにした。

私は色々と駆け足で店を巡ったのだが、結局ケースファンと CPU 放熱フィンの両方を ZOA で購入した。この店は実にいい店である。店員の応対が良い。しかも女性のフロア主任までいて、他の店とは雰囲気が異なっている。CPU クーラーの品揃えも豊富で、私がちょうど欲しかった大きな放熱フィンを持った CPU クーラーがちょうどあった。難を言えば、私は放熱フィンだけが欲しかったのだが、ファンのついたものしかなかったのと、理想的な形とは少し離れていたのは残念である。こういう良い品が見つかると、ついでにどこの店にも置いてあるような部品までこの店で一緒に買う気になる。ポイントカードもちょっと嬉しい。良い店には繁盛してほしいものだと思う。

あとで考えてみると、CPU 用の放熱フィンに関しては、パソコン工房一号店にあった、ファンのついていない 1,400円ちょっとの放熱フィンを買った方が得だったと思った。というのは、そのフィンよりもちょっと効率が良さそうで形の良いフィンに、要らない小型ファンがついて 2,280円掛かったからである。同期のMさんは 500円の格安 CPU クーラーからフィンだけを取っ払って利用しているわけだから、この出費は不要なのではないかと思った。そういう冷静な考えをするには、やはり買い物には時間が必要だということだろう。ZOA が万世橋にあったら、パソコン工房一号店での買い物も増えるのではないかと思う。  

■TWO TOP 倒産に一言

ついでに言えば、TWO TOP (フリーウェイ) が倒産したとのニュースが出たのは前日である。私が買い物をしたのはその翌日で、丁度 11時から営業を再開していたらしいのだが、時間がなかったので私は店の前までいくだけにした。倒産の理由については、T-ZONE の大型店などの出店ラッシュで客足が遠のいたのが主な理由だとか言っていたが、まさにその通りだなと私は思った。というのは、やはり立地条件が悪いのだ。私のように昼休みに買い物をする人は非常に少ないと思うのだが、ビルの 3F 以上にあって、狭い階段を上ったり混んでるエレベータで上に上がるのは面倒なのである。週末ともなると客でごったがえして物色どころではなくなってしまう。

しかし私は TWO TOP はそれなりに良い店だったと思う。パーツ店のプライスリーダーとまでは言えないくらいに立場が下がっていたかもしれないが、この店の品揃えや価格は相変わらず他店に影響を与えていたと思う。ユニークな製品も相変わらず揃えていたし、値段設定もなかなか心憎かったのではないかと思う。店員の態度も悪くはないとは思うのであるが、週末なんかに行くと、他の客の手前いろいろと聞く気にはなれず、一箇所に落ち着いて商品を物色することが出来なかった。

TWO TOP は恐らく誰もが認める良い店の一つだったと思うのであるが、多分客たちは店の立地と混み様に、自然に敬遠するようになったのではないだろうか。T-ZONE PC DIY という最大規模の広さを誇る店舗が進出したのが多分大きかったのだろう。この店の価格が非常に巧妙で、最安値クラスのギリギリを維持した低価格に加えて、週末でもなんとか一商品の前で粘れるほどの広さを持っていたので、なんだかんだで非常に買い物がしやすい店であった。このクラスの店だと、物色するだけ商品を物色したあとで、買うものを決めたらその店より安い店を探すとかで客に逃げられるのではないかと思うのであるが、最近の客は値段にはあまり敏感ではないのだろうか。いくつもの小規模店を巡っても高々数百円得をするぐらいなら、いっそここで買ってしまえ、と思えるほどの価格設定が効いたのであろうか。  

■改造開始

買い物から帰ってきた私は、さっそくE先輩と同期Mさんに、買ってきたものを見せた。私は会社に自分のベアボーンマシンを持ってきているので、定時が終わったら作業に掛かるつもりだ、と二人に話した。するとE先輩が
「いまからやらないの?どうせ暇なんだし」
とんでもない先輩である。そんなわけで、勤務中なのだがすぐに作業を開始した。

まずは電源ファンの交換である。ベアボーンマシンから電源だけを取り除く作業は簡単である。ただし、なぜか電源がマザーに樹脂のようなものでひっついていたので、そこを同期のMさんにナイフで切ってもらった。彼はいつもナイフを持ち歩いているそうである。E先輩は「物騒だなあ。持ってたらやばいんじゃないの」と言ったので私は「何センチ以内なら大丈夫みたいですよ」と答えた。するとMさんが「これはやばいみたいですよ」と何気なく言う。銃刀法違反になるだろうか。

樹脂を切って電源だけ取り出すと、いよいよ電源を分解して電源ファンを取り除く作業に入る。私はその電源をMさんに見せつつ、
「ここのネジを全部とればいいんですよね」
と言ったら、彼はそれを手にとって一通り検分した。どうやら完全に彼の持っている電源と本当に全く同じものらしい。電源には
「これ破くと保証しないよ」
と英語で書かれたシールが張ってあった。それを彼に破いてもらい、中を見てみた。私の前に電源を改造した彼は、一通り私に解説してくれるのだった。ここのコネクタをはずして、コネクタだけは利用して、ピンだけ抜いてそのままコネクタにつけて、黄色い線は回転数のセンサーですから、などなど。私は、最低限分解するだけで作業をするつもりだったのだが、彼は理想的な状況での作業が良いというので、ついに基板や各種コネクタまで抜き取って、文字通り電源を分解してしまった。

電源にはファンガードがついていて、ファンを外付けするとファンガードと干渉してうまくファンがまわらないことが分かった。そこで彼に聞くと、彼は既に風切り音対策として金ノコで取っ払っていたらしい。なぜなら、ファン本体がうるさいのもあるのだが、実際にはファンから出る風がファンガードに当たって風切り音で騒音が出ていることが多いのである。しかし彼によると、この電源のファンそのものが粗悪品なので、ファンガードを取り除くぐらいではろくに静かにならなかったそうである。

そこで私は、ソフトウェアの事業所に金ノコなんてあるのかな、と思いつつも道具箱をE先輩と一緒に物色してみたところ、先輩が「これじゃないの?」と、金ノコの替え刃らしきものを発見した。それをMさんに渡したところ、これこれ、と試しにファンガードに当ててギコギコ切り始めた。「さすがにちょっとうるさいですね」と彼は言いつつも「大丈夫です。いけますよ」と私に返した。私は事務所の隅の方でしゃがみこんでギコギコしつづけて、四箇所切り取ってうまくフィンガードを取り外すことに成功した。

まあそのあとは特に面倒なことは起こらず、配線を済ませてうまく電源ファンを交換することが出来た。ただし、勤務時間中に試して万が一にもブレーカーが落ちるような事態になるとエラいことになりそうなので、うちの事務所はフレックスで 9時30分〜18時30分で仕事を終わらせる人が多いということなので、テストは 18時30分まで待つことにした。

CPU 用の放熱フィンの取り付けは電源ファン交換と比べると非常にあっけなかった。ケースが低くて中が狭くて、フロッピーディスクドライブとの干渉が心配されたのだが、うまく買ってきた放熱フィンを取り付けることが出来た。この放熱フィンよりも大きなフィンも多分あるのだろうが、少なくとも私のベアボーンマシンに取り付けられるものとしてはこのあたりが限界だろう。


Figure 2. 巨大な放熱フィンを装着したあとの内部の様子

■電源オン

18時25分ごろに私は待ちきれずに電源をオンにした。幸いなことに何も起こらず、私のマシンは無事に立ち上がった。

騒音については、あまり気にならない程度にはなった。私の真ん前に、IBM の NetFinity というサーバマシンの中でも低級クラスの PC サーバが置いてあり、そいつの背面のケースファンの音が気になるようになった。それでも耳を立てていると、私のマシンに新たに装着した外付けファン WinDy 60 の音が聞こえる。さすがに無音とまではいかない。NetFinity の電源が落ちているときにでももう一度調べてみようと思う。

CPU ファンが無くなったので、CPU ファンの分の騒音は丸々なくなった。

静音化改造は、最近ウェブを検索してみると結構見かけることが出来る。たいていの場合、ケースファンと CPU ファンをなんとかすれば、今度はハードディスクのアクセス音が気になるものであるらしい。そこで彼らはハードディスクを六千円近くするアルミの消音ケースに入れたりするものらしい。しかし私のマシンの場合、音が静かなことで有名な Fujitsu 製の 5400rpm のハードディスクを装着しているので、アクセス音がほとんど気にならないのである。私が会社でメインに使っているマシンは、ケースファンなどの音はほとんど無いに等しいのだが、ハードディスクのアクセス音に関しては Quantum の FireBall の古いのを使っているだけあって結構カリカリいっている。私の家でのタワーマシンの HDD は Seagate の Barracuda ATA なのでこれまたカリカリうるさい。いま私がこの文章を書いているのは VAIO ノートなのだが、さすがにノートパソコンは人間に近い位置にハードディスクが置かれているためやはりコロコロと音がする。

■最後に

にしても今回の改造に際しては、同期のMさんにかなり世話になった。この翌日、ネコに噛まれて断線したと思われる SONY 純正の VAIO USB MOUSE が直らないかどうかを彼に相談した。そして現在、このマウスは使えるようになったのである! この話は「見たまんま」というコーナーで写真入りで話したいと思う。


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gomi@din.or.jp