32. Linux ってなに? (1999/4/9)


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最近 Linux が目覚しい。Linux 自体は早くから完成されていたのだが、メジャーなマスコミにまで取り上げられ始めたのは最近のことである。あの話題に疎い朝日新聞でさえ取り上げているのだから、かなり表に出始めていると言っていいだろう。ただし、流行は朝日新聞に取り上げられた時がその流行のおしまいであるという噂もあるようだが。私のよく読む週刊誌「週刊文春」にも取り上げられていた。1999/4/2 には日経Linux という雑誌(まだムック)が出て、日経も本腰を入れて取り上げ始めている。私の友人が記事を書いたので驚いた。

ではそもそも Linux とはなんなのか。今回はそこを取り上げたい。ただし、最初の方の話は、既に知っている人にとっては退屈なものとなるだろう。

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Linux というものがどんなものかということは、新聞を読んでいるだけの普通の人にはよく分からないだろう。ごくごく簡単にいえば、Windows の代わりになるものである。この説明はかなり乱暴すぎるだろうから、もっと詳しく説明していきたい。ちなみに、Windows を知らない人にはさすがにこれ以上説明できないのであしからず。

我々が普段パソコンと言っているものは、実はコンピュータの機械そのものと、その中に入っている OS と呼ばれているものである。コンピュータの機械だけではパソコンは動かない。その上に OS と呼ばれるものを載せなくてはならない。OS は、そのパソコンで動くソフトウェアには無くてはならないものである。この感覚を理解してもらうのは難しいだろう。

あなたが本を読むとする。本は紙で出来ていて、ホッチキスや糊で製本されている。だが、文章が印刷されていないと単なるメモ帳である。この状態が、パソコンの中の「コンピュータの機械そのもの」を差している。そして、文章がソフトウェアに当たる。では、OS とは何を差すのだろうか。本に書かれた文章は、元々は原稿用紙に書かれたものである。作家が汚い字で原稿用紙にバリバリ書き込んだものが本来ソフトウェアである。それを編集者がきっちりと文字のポイント(大きさ)や構成を決めて、紙にどのように印刷するのかを決めて、はじめて本が出来る。この編集者の役目を果たすのがいわゆる OS である。

本には色々な種類がある。文字だけの本があり、絵が入ったものがあり、カラーのものがあり、縦書きがあり横書きがあり、複数の作家が同じテーマで作品を書いていたり、同じ作家が色々な短編を書いていたりする。パソコンも同じである。そんなこんなを OS がうまく裁いているのである。OS が無かったら、作家が段組を考えたりしなくてはならないので、作家は原稿用紙ではなく製本される紙と同じ大きさの紙に、製本される時と同じような活字のような大きさの奇麗な文字で文章を書かなくてはならない。

あなたがこのページを見ているブラウザもまたソフトウェアである。このソフトウェアは、OS なしには動かない。なぜなら、ブラウザは OS に対して「このくらいの大きさでこんな文字を書け」と指示することにより動いているからである。ブラウザは、たとえば「太陽」という文字を表示するときに、この「太陽」という文字の形を知っている訳ではない。「太陽」という文字の形は OS が持っているのである。本も同じで、本には活字が印刷されており、作家の直筆ではない。作家の直筆はあくまで記号として編集者に読まれ、どこから写植屋さんなり編集者なりコンピュータによって活字になる。

このペースで話をしていくとかなり長くなってあくびが出てきそうなので、話を少し飛躍させる。飛躍させなければ、OS の起源とか仕組みとか発展について長々と書いてしまいそうだ。

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OS はソフトウェアの一種なので、当然どこかのソフト会社が作るものである。だが、個人で作れないことも無い。事実、初期の OS は個人が作ったものであった。いまでは、大きな会社が沢山の人材を投入して長い時間掛けて作られるものになっている。Linux は、一人の人間が、OS というものについて勉強するために試作したものがベースとなっている。この Linux の変わっているところは、作った人間がそのあと会社を作って売り出そうとしたのではなく、ネットを通じて色々な人の協力のもとで作りつづけていったことにある。こうして作られた Linux は、商品ではないので誰でも無料で手に入れることが出来る。

Linux は無料で性能が高かったので、世界中に広がってもおかしくはないはずだと考えられるのだが、色々な理由によってそうはならなかった。理由は大体以下の通りである。

1. 企業レベルでコンピュータを使う時には、無料ながら無サポートのソフトウェアを使うわけにはいかない場合が多かった。

2. 時が経つにつれて、マーケティング力の強い会社が作った OS が主導権を握り、またソフトウェアを作る多くの会社が単一の OS を求めたため、この OS 以外の OS は使われなくなったしあまり開発されなくなった。

3. 現在パソコンは広く普及し、機械オンチの人も使うようになってきたため、使うことが簡単な OS しか使われなくなった。

一つずつ説明していこう。

1 については説明が難しくなるので簡単に説明する。企業関係の人間は、コスト意識に敏感なので、無料で手に入るソフトウェアには進んで手を出すように思えるかもしれないが、同時に、無料で手に入る物の価値を信用できない傾向が高いようである。たとえ客観的なデータを示されて、無料のソフトウェアの方が性能が高いのだと説明されたとしても、いざというときに障害が発生したときにどうにもならなくなるのではないかと思うようである。企業によっては、あるソフトウェアに障害が起きたら莫大な損害を受けることがあり、金で買ったソフトでそういう損害が出れば訴訟によって損害賠償を受けることが可能だが、無料のソフトではそうはいかないのである。

2 は簡単である。パソコンで動くソフトウェアは、OS の機能に依存しているために、ある OS の上で動かすにはこういうプログラムを、また別の OS の上で動かすにはこういうプログラムを、と作り分ける必要が出てくる。となると、ソフトウェアを作る側もコストがかさむので、ソフトウェア(ハードウェアも)を作る側としては、世の中に OS は一つしかない方が良いに決まっている。そんな中で、マーケティング力の強い会社が大々的に自社の OS を広めたために、その OS は他の OS に数において圧倒的な差を付けた。そうなると、この OS よりいかに機能の高い OS が作られようと、ソフトウェアを作る側からしてみれば今まで通りの OS を使った方が開発コストも低くなり、またその OS の方が数が圧倒的に多いので、売れ行きも他の OS 用のソフトウェアより売れる。このような状況はパソコン以外にも容易に起こる。たとえば、いまから関西弁を日本の標準語にしようと思ってもなかなか出来ない。…この例はあまり良くないか。スーパーファミコンが広く圧倒的に普及していたときに、いかに高機能なプレイステーションやセガサターンが売り出されても、始めのうちはなかなか広まらないので、ゲームソフトメーカーはそのままスーパーファミコン用のソフトを作りつづけ、一部のメーカーしか新型ゲーム機用のソフトを作らない。この例も、ゲームをやらない人にとってみれば関係ないか。ハイビジョン放送なんかはどうだろうか。現行のテレビが広く普及しているいま、いかに画質が良くても、新たにハイビジョン放送用のテレビを買おうとする人は少ない。これと同じである。

3 も簡単で、Linux はいまのところ難解である。最近は簡単に使えるよう新しい仕組みが整えられつつあるようではあるが。

だが、実のところ、上の三つの条件が全く関係ない用途が存在する。つまり、無料で無サポートでも全く問題がなく、必要なソフトが既に存在し、かつ専門の技術者が操作すればいいために簡単である必要がない用途である。それが、サーバ用途である。現に Linux は、サーバ用途ではかなり使われている。だが、一般に騒がれている Linux は、このサーバ用途とは無縁である。

ここで重要のは、なぜいままで、Windows の有力なライバルとなる OS が出てこなかったか、という点である。たとえば、家電製品の場合は、ある製品のシェアが一時的にかなり高くなったとしても、他社がその製品より性能の高いものや安くて良い物を販売すれば、新しい製品がまたシェアを上げることになる。こうして健全な競争のもとに、我々は時代が進むにつれて安い値段でより良い製品が買えるわけである。

Windows は非常に欠陥の多い製品である。そして、Windows よりも性能が高くて安い OS はいままでにいくつか発売されている。にも関わらず、Windows は OS の中で圧倒的なシェアを得つづけることが出来た。なぜだろうか。その答えが、さきほど述べた三つの条件のうちの 2 である。

ここ最近人々は、この欠陥の多い Windows という OS と、それを開発し販売している Microsoft に対して不満がつのってきた。そこでようやく、この状況を打破するかもしれない一つの OS に関心が集まったのである。それが Linux である。ここまで説明してきた通り、Linux には大きく三つの弱点があるのだが、これからその弱点が克服される日が来ることが徐々に現実的になってきている。

1 については、大手の企業が Linux のサポートをするサービスを始めようとしている。Linux 自体は無サポートであるが、Linux を提供するサービスを有償で行うことは可能である。

2 については、いかに市場独占的な製品でも、性能に欠陥があり、かつ価格面でも高すぎるということになれば、いつかは人々に捨てられてしまうものである。その上、Linux は入手方法によっては基本的に無料で手に入る。サポート込みの製品を買っても 5000円以内で買える。それに引き換え Windows はどんなに安く買っても 15,000円である。もっとも、Windows はパソコンに最初から入っている場合が多いため、実際には消費者は Windows に金を払っているのだが、感覚的には無料で手に入れているのだと錯覚している場合も多いため、この点に関してはいまのところ Windows が有利ではある。

3 については、linux の上に簡単なインタフェース(見た目やメニューやボタンなど)を載せることで Linux を簡単にしようという動きがあり、いまのところ二種類のインタフェースが有力視されている。Linux は、仕組みが非常に柔軟であるため、ソフトウェアによって様々な外観や操作方法を与えることが出来るのである。というか、Linux 自体は MS-DOS と同じように文字だけのシステムが基本であり、何かインタフェイスを載せないことには、外観や操作方法がかなりシンプルになってしまう。Linux にはいまのところ、X Window System というインタフェイスがもっとも人気があるのだが、これだけではまだ初心者には厳しいものがあるし、なにより操作体系が統一されていないのである。そこで、この X Window System の上に覆い被さって操作体系を簡単にしてくれるソフトが開発されており、まだ完成とまではいっていないようであるが期待されている。

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他に現在の Linux が Windows に確実に劣る具体的な点を挙げる。これらは、元をたどれば上の 2 の問題から来るものである。

1. 対応ソフト・ゲームの少なさ

仕事に必要なソフトは全部 Windows 用のものだったり、やりたいゲームがみんな Windows 用だったりするのである。
2. 対応周辺機器の少なさ
プリンタやスキャナとか USB 機器だとか、一般に売られている周辺機器のほとんどは、基本的に Windows や Mac でしか使えない。
3. 日本語が弱い
漢字変換が貧弱である。
極論してしまえば、いまの Linux はさっぱり使えないといって良い。ただし、一部のソフトに関しては Windows と互角以上のものがあるため、そういうソフトを使う分には Linux は強力である。たとえば、Windows で Photoshop という 16万ぐらいするソフトを使うよりは、Linux で GIMP というソフトを使えば、基本的に似たようなことが出来ると言われている。

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今回は、書いていて自分でもつまらなかった。これらの情報は、色々と WWW を歩き回ったり雑誌を読めば分かることである。まあ、そもそも OS とはなんなのかということを説明できたのは良かったと思う。


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gomi@din.or.jp