170. ニコニコ動画最底辺P戦記(音楽制作2)前編 (2011/3/27)


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今回は148. 音楽製作 (2007-1-8)の続きになる。前回はDAW(Digital Audio Workstation)に触れたところで終わっている。今回はようやくそのDAWを手に入れて最初に音楽を作るところから、どんどん機材を買い足し、コミュニティサイトで他の人の力を借り、2ちゃんねるやニコニコ動画に曲をアップし、いくらかのリアクションを得たものの、最終的に大した成果も上げられずにつまらなくなって音楽制作をやめるところまでの話をする。

■とりあえず作った最初の曲

いきなり文章ばかりなのもなんなので、まずは最初に完成させた曲を示すことにする。ニコニコ動画とピアプロというサイトにアップしているのでそっちが良いのだけど、登録していない人はいちいち登録するのが面倒だろうから、直ダウンロードもできるようにしておく。とりあえずこの曲の簡単な紹介からしていこう。


【ニコニコ動画】【初音ミク】バナナ売り切れワロタw【オリジナル曲】
【直ダウンロード】【初音ミク】バナナ売り切れワロタw【オリジナル曲】

軽快なギターポップを目指して作った曲。なにせ最初だから多少パクり臭くてもいいやと思って適当にギターでリフ(繰り返しのフレーズ)を弾いたら、ド〜ド〜ドドレミファ〜、ファ〜ファ〜ファファソラシ〜、というあきれるほどシンプルな出だしになってしまった。そのあと歌に入るとなぜか急に転調して暗くなる。歌は初音ミクに歌わせた。歌詞も初めてのミクで照れくささもあって、当時バナナダイエットが流行っていたのでそれを茶化すようなコミカルなネタに逃げている。ギターはなぜかBOSSのMetal Zoneというコンパクトエフェクタを噛ませてギンギンのメタル音にした。動画はうちの猫で最後ドッキリつき。

■最初の機材

▽E-MU 0404 SE

前回書いたように私が最初に買った機材は以下のとおりE-MU 0404 SEというPCI用サウンドカードだった。

Creative Professional E-MU 0404 Second Edition
http://jp.creative.com/products/product.asp?category=237&subcategory=239&product=10447

藤本健という人がインプレスのAV Watchというウェブサイトで連載している音楽系機器の解説記事で取り上げていたので知った。このサウンドカードには付属ソフトがてんこもりだった。

その中でまず私が選んだのは、Cubase LEというDAWソフトだ。Cubase LEはSteinbergというドイツのメーカーが作ったCubaseというソフトの制限版で、キーボードやサウンドデバイスなどのハードウェアにおまけとしてつけられている。体験版じゃないのでこれだけで問題なく曲作りができるのだけど、使いこなそうとすると制限が多いので、ちゃんと製品版を買ってね、ということになる。

とりあえずこのCubase LEでこれまでどおりMIDIの曲を打ち込んでみた。そのときのスクリーンショットを友人にメールで送ったときの画像ファイルが残っていたので示す。

左上が全体を見渡すウィンドウで、パソコンにキーボードをつないでいるとこの画面だけでキーボードで弾いたとおりに曲を入力できる。右上には五線譜が描かれたウィンドウがあるけれど、使い勝手が悪いので実際にはほとんど使わない。右下には音符の代わりに横棒であらわしたウィンドウがあり、ここでマウスを操作して横棒を置いていって曲を入力することができる。左下は音のタイミングを細かく編集したいときに使うウィンドウであまり使わない。

ここまでなら単にシーケンサーと呼ばれるMIDIだけの作曲ソフトと変わらない。DAWがすごいところは、録音して音声ファイルにしたものを自由に切り貼りしたり編集したり加工したりできる点だ。実際に先の最初の曲にはギターとボーカルが入っている。

▽Aria Pro magna

たしか社会人一年目ぐらいの頃に買ったギター。いくらで買ったのか忘れたけれどたぶん七万円ぐらいのものだったと思う。弟が持っていたAria Pro IIのベースの出来が良かったので、同じメーカーのものにしようと思い、その中でナチュラル仕上げで木目がキレイだったものを選んだ。当時あまりギターが弾けなかったので、試し弾きは店員さんにやってもらった。見た目は華奢なストラトキャスターもどきなのだけど、ピックアップ(金属の弦の振動を電気信号に変換するコイル)がハムバッカー(ノイズが少ない二連型のピックアップ)二発なので結構音が太い。ブリッジ(ボディと弦のつなぎ目の部分)がフロイトローズというアーミング(キーボードで言うところのピッチ(音程)を変えるレバー操作みたいなもの)に適した複雑で強力な仕組みのものだったので、弦を張り替えるのがいちいち面倒くさかった。

ギターは大学に入ったぐらいの頃から弟のものを借りたり一万円ぐらいの格安のギターを買って練習していたのだけど、別に大学でバンドをやることもなく家でテレビを見ながら弾いているうちに飽きてから一度離れていた。社会人になってお金が手に入るようになって急にそれなりのギターが欲しくなってこのギターを買ってから、またテレビを見ながら弾く日々を送ったのだけど、やっぱりそのうち飽きて放置していた。今回急に音楽制作でギターを弾くことになったので、だいぶブランクのある状態から再開することになった。

もともとギターは早弾きメインでやっていてろくにコード弾きをやってなかったため、今回リフ(繰り返しのフレーズ)を弾くにあたって、聴いていただければ分かるようにリズムが全然取れていない。でも一応ブラッシング(弦を手の腹で押さえながら弾いてノイズ音を出す奏法)もちょろっと使っているので、なんちゃってカッティング(ダイナミックにギターをかき鳴らしてリズムを取るようなノリのこと?)でそれっぽくなっているように思う。

▽Boss Metal Zone

エレキギターというのは普通アンプで歪ませるほかにエフェクターという機器を使って様々な加工をする。ギタリストがよくステージで足元のペダルを踏んでギターの音を変えているのをライブやPVなんかで見るのがそれ。このとき私はBOSSという有名なメーカー(というかRolandのブランドの一つ)のMetal Zoneという音をメタルっぽくギンギンにするエフェクタを使った。弟が一人暮らしをするときにこれ要らんと置いていった中で歪み系(オーバードライブやディストーションといった波形を潰す系統のエフェクタのこと)といえば使えそうなのがこれしかなかったので仕方なくこれを使った。

で、ギターからの出力をエフェクタの入力に入れたあと、じゃあエフェクタの出力をどこに入れたのかというと、当時はろくに知識がなかったのでなんとマイク入力に直接入れていた。ギターの出力は微弱なので、ギター用のアンプにつなぐ場合は余計なことを考えずにそのままつなげば良いのだけど、パソコンも含めたオーディオ用の機器につなぐ場合は普通はアンプシミュレータやダイレクトボックスといった機器を間に噛ますことで信号を増幅したり整えたりする。でも歪み系エフェクタにも増幅効果があるので、パソコンのマイク入力に直結しても少なくとも音量は取れた。しかし聴いていただければ分かるように音がやけに乾いていて変な感じがする。まあこういうギターもなくはないんだろうけど。

▽クリプトン・フューチャー・メディア CV01 初音ミク

ご存知(かどうかは人によるだろうけど)、ヤマハが開発した合成音声歌唱エンジンVocaloid 2を利用して、クリプトン・フューチャー・メディアが声優の藤田咲に音声データを録音させてバーチャルアイドル「初音ミク」として仕上げた、アニメ声で好きに歌わせることのできるソフト。動画共有サイト「ニコニコ動画」で爆発的にヒットし、このソフトを使って作られたオリジナル曲のなかにはCDで発売されオリコンチャートにもランクインしたものがあるほど。バーチャルアイドルとしての初音ミクの人気もとどまる事を知らない。

このソフトが生まれる前は、歌ものを作るには自分で歌うか誰かに歌ってもらうしかなかった。素人にとっては必然的に自分でシンガーソングライター(自分で曲を書いて歌う人)をやるか友達に頼むかしかなかった。それがこのソフトのおかげで、アニメ声が良いかどうかはともかくとして、女性シンガーに歌ってもらうことを前提とした曲づくりが一人で簡単にできるようになった。

でもさすがに自然に歌わせるのは非常に難しい。どうしても機械的な歌声になりがちだ。私の曲を聴いていただいたら分かるように、特に最初の曲は非常に不自然な歌い方になっていると思う。

▽三洋電機 Xacti DMX-CG9

音楽制作とは関係ないけれど、動画共有サイト「ニコニコ動画」にアップすることを考えて、なんらかの動画をつけなければならないと思って動画を撮れるカメラを用意した。いまでは動画なんてデジカメ(デジタルカメラ)どころか携帯電話ですら撮れる時代になったけれど、そのさきがけとなったのはこの三洋電機のXactiシリーズだと思う。基本的にはデジカメだけど動画を撮りやすい機能と形をしている。

買った当初はこんな小さいもので普通に動画が撮れるなんてすごいと感動したのだけど、いつしか感動は色あせていった。個人でビデオカメラなんて持ったところでどうせ大したものが撮れるわけではないことに気づいたからだろう。でも飼い猫の媚態は簡単に撮れてかわいくて万人受けするのでこれを使うことにした。

■2ちゃんねるとニコニコ動画にアップ

▽2ちゃんねるのDTM板の自作曲スレ

完成した曲はまず知り合いに聴かせたのだけど、やはりネット上で発表して不特定多数に聴いてもらいたい。でも個人のホームページにアップしたところで聴きに来てくれる人は限られる。なのでどこかの掲示板にアップすることを考えた。そこで最初に浮かんだのが2ちゃんねるのDTM板の自作曲スレだった。ほぼ匿名の掲示板であり、殺伐とした雰囲気の場所なので、あまり大した反響はないだろうと期待せずにアップしてみた。するとしばらくして、複数の曲にまとめて一行ずつ感想を書く住人からコメントをもらった。どんなコメントだったか正確には覚えていないけれど、まあこういうのもアリじゃないかな、みたいな感じだった。

DTM板の自作曲スレには色んな人が曲をアップしていた。ゲーム系の曲やテクノ系(というか今はエレクトロニカと言うらしい)の曲が多かった。なぜかDTM板は合成音声系とくに初音ミクなどのVocaloid系が毛嫌いされる傾向があった。歌は自分で歌っている人がほとんどで、そうでない場合はバンドの代表の人が自分のバンドの演奏をアップしていた。それでもときどきVocaloidの曲をアップする人もいた。曲のレベルはまちまちで、信じられないぐらいすごい曲もあれば、楽器の経験がない人が作曲を始めて間もないようなものもあった。

曲をアップしても必ずしも感想やアドバイスをもらえるとは限らず、罵声を浴びたり無視されたりすることもあれば、好きだとかうまいなど好意的なコメントが寄せられることもある。すごくよくできた曲なのにつまらんと言われている場合もあれば、かなり下手な歌なのにわりと好意的に受け入れられる人もいて、はっきりいって曲の絶対的な評価を受ける場所としてはあまり良いところではないのだけど、アップしたら誰かしら聞いてくれて率直な感想をもらえるという点では素晴らしいところだと思う。

▽ニコニコ動画

当時も現在も初音ミクなどのVocaloidを使った曲の発表先として一番メジャーなのはニコニコ動画だろう。アクセス数やマイリスト(ブラウザで言うところのお気に入りみたいなもの)に入れられた数なんかがシビアに出るので、曲の絶対的な評価を受けるには明確に数字として出るので良い。

ただしいくつか問題がある。最大の問題は、動画サイトなので動画が必要になることだと思う。動画といっても静止画を一枚ずっと見せているだけでもよいのだけれど、絵も重要なので純粋に曲で勝負することができない。すごい人となるとPVとして普通のアニメ並みの動画をつけていたりする。一方で、あっさりした静止画一枚で十万以上の再生数を得る人気作家もいる。

どうしてもリスナーに偏りがあるため、人気のある曲調というものがある。当時言われていたのは、リズム音楽つまりノリの良い曲であること、メジャーなアーティストが決してやらないようななにかしら極端な要素を持っていること、歌ものとしての魅力があること(歌詞も含めて)、といったところだろうか。このようなトレンドから外れると、信じられないぐらいすごい曲でも普通に埋もれたりする。埋もれる、というのは要はCDで言えば人気に火がつかないことを言う。

ニコニコ動画にアップされる動画というのは、アップ直後は新着のところに表示されるので視聴されやすいのだけど、一定の時間が過ぎると外部からのリンクをたどるとか検索で引っかかるなどしないとまったく視聴されなくなる。それまでに一定数以上のリスナーから気に入られると、外部の掲示板や口コミなどで広まっていって再生数が伸びる。再生数が一定以上になると、いくつかあるランキング集計サイトに乗るので、さらにそこから視聴数が増えていく。最終的に数万とか数十万以上の再生数に達する曲なんかが出てくる。そうなると作家ごとに固定ファンがつくのでますます人気に拍車が掛かるようになる。再生数の多い曲なんかはカラオケに入ったりCDで発売されたりする。

ニコニコ動画にアップしている人のことを、プロデューサの略で○○Pと呼ぶことが多い。面白いことにPの名前はリスナーがつけることになっている。もちろん自分からニックネームを名乗る人もいるけれど、なぜか多くの人はリスナーにP名をつけてもらうことを好む。大体最初のヒット曲に関連した名前になる。ヒットしなくてもつけてもらえる。なにやらそういう文化があるようだ。私は自分から「まぬけ屋」を名乗ったのでP名はつけてもらわなかったけれど、この文化を知っていたら最初は名乗らずP名をつけてもらいたかったとも思う。

▽ニコニコ動画関連の2ちゃんねるの板

ニコニコ動画にアップされる動画を扱う2ちゃんねるの板があって、そっちのほうではいくつかのカテゴリに分かれて作家とリスナーが動画について語り合っている。

作家はランクによって分かれていて、ランクごとにそれぞれスレが決まっている。ランクの分け方には諸説あるのではっきりしたことは言えないのだけど、アップしてから最初の一ヶ月で再生数1000以上とマイリスト獲得数5%以上つまり50以上をコンスタントに獲得できなければ最底辺Pと呼ばれる。私は結局この最底辺Pを「卒業」できなかった。目安として、よほどひどい曲でなければ、初音ミクなどのキャラクターの絵を使用していることを前提とすれば、再生数300と、資料的な目的でマイリストしている人がいるのでマイリスト3〜5ぐらいは獲得できると言われていた。私が最初にアップした曲も大体その域を出なかった。

その上は再生数5000前後とマイリスト獲得数10%程度つまり500ぐらいの人たちのクラスがある。再生数が十万を超えると殿堂入りとされ、Vocaloidを使ったヒット曲としてみなされていた。作る曲作る曲がコンスタントに再生数を数万以上とれる人が大体有名Pと呼ばれているのだと思う。これらの数字は私が活動していた当時のものなので今は違うかもしれない。

最底辺Pの集まるスレが結構面白かった。なにせ最底辺Pなので作る曲になにかしら問題のある人が多いため、曲作りに関する一般的な議論がよく行われる。割と突っ込んだ話や殺伐としたやりとりがあったり、傷のなめあいのような馴れ合いがあったり、どうしてこんな曲が人気出るのかといった恨み言だとかがよく聞かれた。これ以上のランクのスレとなるとあまり技術論は語られず、ヒット曲のどこに魅力があるのかとか、流行に関する話が多かった気がする。というか上に行けばいくほど作家の数が少なくなっていくのであまり盛り上がっていなかったんだったと思う。

とにかくいろいろなことがあったので、ちゃんと思い出して書けば丸々一回分かそれ以上の内容になると思うのだけど、だいぶ忘れてしまったし今はとりあえず自分の曲の解説を優先するのでこの程度の説明にしておく。

■歌ものとしての形式を意識した二曲目

一曲目はとりあえず歌ものを作ろうというだけで作った曲なので、次はちゃんと歌ものとしての形式を踏襲することにした。

まず最初に、いかにもサビというメロディが思い浮かんだ。じゃあもうこのサビを最初にもってこよう、といわゆるサビ先の形式でいくことにした。

サビ-Aメロ-Bメロ-サビ-Aメロ-Bメロ-サビ-ギターソロ-サビ

形から入ったので、二番か三番まで作ることにした。曲調は四分から五分程度と決めた。二番と三番の間には間奏があったほうがいいので、間奏としてギターソロを入れることにした。それが以下の曲である。


【ニコニコ動画】【初音ミク】スカとロックとあなたとわたし【オリジナル曲】
【直ダウンロード】【初音ミク】スカとロックとあなたとわたし【オリジナル曲】

そもそもこの曲は、ギターのカッティングをメインにもってこようと、リズムの裏にストロークを入れてみたところ、知り合いから「カッティングというかスカ風だねぇ」と言われ、2ちゃんねるのDTM板の人からもラテン風だという感想をもらったので、堂々となんちゃってスカを名乗ることにした。でもスカだったら派手なブラス(金管楽器)が欲しいところだ。なんとこの曲のベースは右にパン(音の方向)を振っている。常識的にはベースは常に真ん中に振るのが正しく、やはり右にあると違和感がある。Aメロでいったん落ち着いてから、Bメロがなぜかロックに(HR/HMか)なった。そこで二つ合わせてスカとロック、スカトロック…という言葉遊びを取り入れてみた。2ちゃんねるの最底辺Pスレで少しウケた。

恥ずかしいことに歌詞は自分でつけた。最初にメロディを作ってしまったので、自分で作詞する以外になかった。ふざけずにちゃんとした歌ものにするために、黒歴史(思い出したくもない過去のこと)になることを承知で女目線の思いっきり恋愛ものの歌詞を書いた。書いている途中で耐えられなくなって、思いっきり男をバカにするような歌詞を入れてしまった。ニコニコ動画ではその部分で「ヒドすwww」というある意味うれしいコメントをもらった。いまから思えば、曲の完成度の低さの割にこの曲の再生数とマイリスト数が意外と伸びたのは、イラストをピアプロという創作サイトからもらってきたことが一番の理由としても、この変な歌詞のおかげもあったんじゃないかと思う。

いま改めて見てみたら、このミクが持ってるギターはフェンダーのムスタングかデュオソニックっぽいな。次の年に流行った、かきふらい「けいおん!」のアニメで、中野梓という後輩ギタリストキャラが持っているギターがそれなのだけど、ショートスケールでちょっと短いので小さい人にぴったりらしい。

▽ピアプロ

楽器を作って売っている会社というのは、こういう言い方をすると身も蓋もないのだけど、自社の製品を売るために購入者に発表の場を設けていたりする。ヤマハなんかはアマチュアクリエイターが曲を発表するためのサイトを用意している。他にもコンテストみたいなものだとかデモテープを送る窓口みたいなのがある。レコード会社なんかだと自社が儲けるために売れそうなアーティストを発掘して育てるというのが仕事の一つになっているのだけど、楽器会社の場合は極端な話お客が売れようが売れまいが関係ない。とはいっても、有名なアーティストが自社の製品を使ってくれると宣伝になるし、自社の製品を使っているアーティストが有名になると結果的に宣伝になるので、十分力を入れるに値する重要な仕事だと言える。

そんなわけで初音ミクという音楽ソフトを開発したクリプトン・フューチャー・メディアという会社は、初音ミクというキャラクターの二次使用の条件を緩くすることで初音ミクをネット上のバーチャルアイドルとして育て、さらにそれを後押しすべくネット上の人々がピアプロダクション(協業?)するためのコミュニティサイト「ピアプロ」を運営している。

ピアプロの使い方は簡単で、ユーザー登録すれば自分の作品をアップロードしてみんなに公開できるとともに、他の人が作った作品を利用できるようになる。このサイトに登録されている作品は、他の人に利用されることを前提に公開されているので、他の人に利用されやすい形の作品が多く、利用のための許諾条件が非常に緩いものが多い。

ニコニコ動画で発表されるオリジナル曲にはたいていの場合、使用したボーカロイドのキャラクターの絵が使われている。私が前に発表した曲には飼い猫の動画をつけたのだけど、たぶんかなり浮いていたと思う。そこで今回は私も初音ミクのイラストを使わせてもらおうと、ピアプロにアップされている大量の絵の中から、ミロさんという人の「ギターミク」というイラストを使わせてもらった。このときは曲でギターを使っていたのでギターを持ったミクの、あまりアニメっぽい絵は避けて、すでに誰かに使われている絵ではなく、なるべく無難でうますぎない絵を探して選んだつもりだった。しかしこのミロさんという人は、貼り絵という独特な手法を使っていてそれなりに有名な人だった。こういう言い方をすると卑屈になるかもしれないけれど、ぺーぺーの最底辺Pの私からみて明らかに格上の人だった。まあそういう作品でも、使用許諾条件さえ守れば好きに使うことが出来るので、あとは曲がイラスト負けして自分が恥をかくかどうかの問題になる。一応礼儀として「使わせてください」みたいなコメントを作者のメッセージボードに書くことになっているけれど、作品の使用許諾条件さえ守れば別に無断で使ってもかまわないし、許可を求めてもまず断られない。

▽Zoom ZFX Plugin

前作のときのようにパソコンのマイク入力にギターのエフェクタの出力を直接ぶちこむと、どうしても音が変になってしまうし本当は機械としても良くないので、そういえば昔弟が使っていたZoomという会社のマルチエフェクタにはアンプシミュレート機能といって直接オーディオ装置につなげることのできる機能がついていたから、ちょうど手持ちのエフェクタも偏っていることだし自分もマルチエフェクタを買おうと思って調べていたら、いまはパソコンを使ってソフト的にエフェクタの機能を実現することが出来るらしいということが分かった。

ちなみにマルチエフェクタというのは、単品のエフェクタ数十種類分を一台にまとめたもので、さすがに数十種類分の回路をアナログで詰め込むと巨大になりすぎるので電子回路で実現している。そのため、単品エフェクタと比べるとアナログ的な音質が落ちるので、製品によって大なり小なり安っぽい音になったりデジタルの臭いのする音になったりする。

このZoomのZFX Pluginは、ギターから伸ばしたケーブルを接続できるジャックのついたUSBオーディオ機器とソフトウェアから構成されている。USBオーディオ機器として二種類用意されており、私はペダル操作のできる方の製品を買った。確かビックカメラで二万円弱ぐらいで買えた。

この製品の紹介をしているサイトには動画が用意されていて、ソフトの使い方が分かりやすく説明されていた。エフェクタの絵をマウスでドラッグするだけで好きに複数のエフェクタを連結したり、個々のエフェクタのつまみを好きな状態に回すことができた。USBオーディオ機器のほうについているペダルをどのエフェクタに割り当てるか決めることができるので、ワウに割り当てたらペダルでワウを操作できる。ワウを使うとギターの音がまるで乾いた人の声ような感じになる。ただしこの製品に入っているワウはあまり質がよくなかったし、そもそも私自身がワウなんていうトリッキーなエフェクタをろくに使ったことがなかったのでどうでもよかった。

なかなか面白かったし思ったより安かったので弟にも薦めたところ、弟もちょうどひさしぶりにギターを弾きたくなったみたいで、数年前にネックのねじれがあるため格安で売られていたという高いギターを買ってろくに弾かずに押し入れにしまいっぱなしだったのを取り出して弾きだした。私はスタジオではギターを弾いたことがないのでよくわからなかったのだけど、大学時代に軽音楽部でバンドをやっていた弟に言わせれば、このソフトはスタジオで大きなアンプを使って鳴らしたときの音にかなり近いらしい。そうこうするうちに弟の方がこのソフトを使いこなしているようだった。

ちなみに、私が最初に買ったサウンドカードEMU 0404 SEには、IK Multimediaという会社のAmplitube LEというこの手のソフトの廉価版も入っていた。使ってみたこともあったのだけどすっかりその存在を忘れていた。そんなに大した機能もなかった気がするし、使うのが難しかった覚えがある。たぶんこのAmplitubeというソフトは、パソコンでギターアンプをシミュレートするソフトとしては一番メジャーでひょっとしたら最初のソフトかもしれない。

■3コードで分かりやすい曲にした三曲目

弟に薦めたZoom ZFX PluginにもDAW(音楽制作ソフト)の機能制限版であるSteinberg Cubase LE 4がついていたことから、弟にも曲づくりの楽しさを伝えて何か作らせようと思い、次はギターとベースとドラムだけという縛りでバンドものの曲を作って弟に聞かせようとした。さっきの二曲目はかろうじて歌ものになったものの、サビ先で展開のバランスが悪く、コード進行も危なげだったので、今度はもっと分かりやすい曲を作ろうと考えた。それなら基本に帰って3コードがいいだろう。そうしたら自分も何か作ってみようと弟が思うかもしれない。こうしてできたのが下の曲である。


【ニコニコ動画】【初音ミク】見えない敵と戦う歌【オリジナル曲】
【直ダウンロード】【初音ミク】見えない敵と戦う歌【オリジナル曲】

入浴中にこのまぬけなギターのリフ(イントロ)を思いついたので、シンプルなコミックソングにすることにした。知り合いに聴かせるには、クソまじめな曲よりもこういうふざけた曲のほうが恥ずかしくなくていいだろうと。作ってまず2ちゃんねるのDTM板の自作曲スレにアップしたところ、そこの住人たちから「ちょ 演歌だよ!wwww 」「リフがくそダサイw」という(ある意味)暖かい言葉をもらった。曲名の「見えない敵と戦う…」ってのは、勝手に自分の思い込みで周りを敵だと思って見当違いな書き込みをすることを言う。2ちゃんねるでよく使われる言葉だ。イラストもちょうどよくWEXさんの「Sick at heart」というミクには珍しい心の病を扱った作品があったので使わせてもらった。

この曲、私の作った曲の中では一番評判がいい。まず狙いどおり弟が触発されたほか、チャラい洋楽ばっかり聴いているというネット上の知り合いも私の曲の中でこの曲が一番だと言っていたし、ちょっとネットで検索してみたらこの曲を良いと書いてくれている人が一人いたほか、ニコニコ動画にも「ひっそりと評価されるべき曲」みたいなタグをつけてくれていた。理由はたぶん、曲の分かりやすさとまとまりに加え、歌詞が変わっていることが挙げられると思う。私はどうしてもコード進行やなんちゃって対位法など編曲を一番に考えるのだけど、この曲に関してはフレーズやメロディに一番気を使ったのが大きいと思う。歌詞には2ちゃんねる用語をてんこもりにした。ミクに2ちゃんねる用語を歌わせるもの珍しさも良かったのかもしれない。

曲の構成は以下のようになっている。

イントロ-Aメロ-Bメロ-サビ-Aメロ-Bメロ-サビ-ギターソロ-Bメロ-サビ-もう一回サビ-アウトロ

演歌のようだと言われたのはたぶんイントロのギターのことだろう。続いてAメロは、3コードといってもメロディとコーラスワークが変わっていて我ながら独特な感じがする。ミクを途中でピッチを上げる歌い方をさせているのは、ミクの使いこなし方みたいなサイトを読んで勉強してマネしてみた。Bメロはリズムを変えて溜めの効いた感じにして、サビ前にミクをシャウトさせたりギターでダイナミックなカッティングを入れて盛り上げように掛かっている。サビはどこかで聴いたことのあるようなちょっとポップな感じにした。

ギターは左右で二本使っている。片方のギターでコード(和音)をダラッと弾き、もう片方のギターはミュートで低音弦でひたすらリズムを刻んでいる。ベースはほぼルート(コードの基本的な音)を刻んでいるだけ。リズムは8分音符で淡々としている。Bメロだけちょっと溜めを効かせている。ドラムに関しては、弟と電子メールでやりとりしたときに、弟がドラムのフィルイン講座みたいなのをやってくれたので、実はそれを丸パクリした。フィルインとは小節の切り替わり前にちょっと目立つフレーズを入れること。ギターソロは最初弟に弾いてもらうつもりで、その前に自分でも適当に弾いたものを入れてサンプルにしようと思ったのだけど、弟に送ったら「これでいいんじゃない?」と言われたのでこのままにした。チョーキングの音程がいい加減なのがいまでも気になっている。やたらとリバーブ(カラオケのエコーみたいなもの)を掛けていてさまになっているのだけど、2ちゃんねるの自作曲スレでちょっと掛けすぎじゃないかと指摘された。まあ確かにそのとおりだと思う。

DAW(音楽制作ソフト)にはリバーブ(エコー)だけでなく色んなエフェクトがついている。コンプレッサーなんていうのもそうで、声量の安定しない初音ミクに掛けることで音量を平滑にして聴きやすくすることができる。イコライザーなんていうのもあり、特定の周波数帯(音の高低成分)の音を増やしたり減らしたりして音質を調整できる。楽器ごとにおいしい周波数帯というのがあって、ミキシングエンジニアなんてのはそういうのを全部把握した上で調整しているらしい。自分もちょっと勉強してみたけれど、ここでその話をしても分かる人にしか分からないので省略する。

▽Edirol PC-50

私は高校生の頃にRolandのJV-30といういわゆるキーボードを親から買ってもらっていたので、このキーボードの音源部分はSc-55mk2という骨董品モノが搭載されていて今じゃ古臭いのだけど、MIDIキーボードとして使用することができたのでそのまま入力用キーボードとして使っていた。MIDIというのは楽器をコントロールするための規格で、どのキーを押したとかどの音色を選んだとかいうのを信号にして、楽器同士をケーブルでつないで操作できる。だから機能的にはそのままこいつを使い続ければ良かったのだけど、いかんせん大きすぎて場所を取る。パソコンを前にして、文字入力用のキーボードやマウスを手元に置きつつ、ピアノ鍵盤がついたキーボードを机の上に置くのは窮屈すぎる。本当は机の横にスタンドを置いてその上にキーボードを載せて使うのが良いのだけど、スタンドを置く場所もあまりないし、鍵盤を叩くたびに首を横に曲げるのもきつそうだった。

そこで、机の上に載るような小さめのMIDIキーボードとしてこのEdirolのPC-50を買った。EdirolというのはRolandのパソコン用楽器ブランドだ。名前のとおり50鍵しかない。ちなみにフルキーボードつまり本物のピアノは88鍵ぐらいある(もっと?)。JV-30は75鍵ぐらいだっけ。高校生の頃、ピアノが弾けるという生徒会長Rが私の家にやってきて何曲か弾いたときは、曲次第では曲の途中で鍵盤が足りなくなって弾けない!と言っていたのを思い出す。

MIDIキーボードとはその名のとおりMIDIの信号を出す機能しか持っていないため、単体では音を出すことができない。ただしこのPC-50にはパソコンソフトがついてきて、DAW(音楽制作ソフト)の体験版やらソフトウェア音源の廉価版なんかがいくつか付属していたので、パソコンにこれらをインストールすればちゃんと普通のキーボードとしても使えた。時代の進歩か、JV-30に内臓されている音源よりも音は良いと思う。それがいまはたった一万五千円で買える。JV-30は十三万ぐらいしたのに。

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思ったより熱が入って長くなったのでいったん切ることにする。
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gomi@din.or.jp