122. ウルティマオンライン (2002/4/1)


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どんなに時間があっても、人間というのは一度にやれることが限られるのではないか。私の場合、日中色々なことに忙殺したあとでは、夜になって寝るまでにいくらか時間が余っていても、すぐにベッドに入って眠りたくなってしまう。あまりに時間が早すぎる場合、頭はすぐにも眠りたいのに体が眠らせてくれないことがあって、どうにもうっとうしい。

そんなわけで私はウルティマオンラインをやめた。仮想世界に自分の分身を作って遊ぶオンラインゲームは本当に中毒になる。気が向いたときだけ遊ぶ、という選択肢もあったのだが、この世界を自分の頭の中から追い出さなければ、いつまでも自分の頭の中に一定の場所をとって居すわり続けて、非常にうっとうしかったからである。

このゲームは、私の理想とするオンラインゲームに限りなく近かったと思う。多人数参加型オンラインRPG の始祖にして、いまだにこのゲームを超えるゲームは現れていないと主張する人さえいるゲームである。この評価は私にとっても今でも説得力のある主張でありつづけている。

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という前置きはさておき、まずは知らないかたのために一通りこのゲームについての簡単な解説をしておこう。

■ウルティマオンラインとは

要するに、ドラゴンクエストのようなコンピュータRPG をネットワーク上で数千人規模でやろうというゲームである。

ネットワーク上に一つの世界があり、その中に大陸や島があり、城や町があり、森や街道や平原や砂漠や山があり、洞窟があってモンスターが住んでいる。その世界に同時に数千人が接続して、一人一人のキャラクターとしてその世界の住人として暮らすのである。

プレイヤーが数千人もいると、最後のボスを倒してゲームを終わらせることはできない。それに、全員が全員ヒーローになれるわけではない。最強クラスのモンスターを倒して讃えられる人もいれば、森の中にいるウサギと戦ってキャラクターを鍛えている人もいる。モンスターと戦う人だけでなく、彼らのために武器やアイテムを作る人もいる。

■はじめてのプレイ

私がこのゲームを始めたのは、ちょうどインターネットを ADSL の常時接続で利用できるようになった直後のことである。せっかく常時接続になるのだから、接続時間を気にせずにできるインターネットのゲームで遊びたいと思ったのだ。

なぜウルティマオンラインを選んだのかというと、単に店で一番安かったからである。もちろん、名前をよく知っていたというのもある。

ゲームを始める前に、まず自分の分身となるキャラクターを作る。名前、性別、髪の色や形、服の色などを決める。ゲームの中の世界で自分が何をしたいのかにあわせて、キャラクターの最初の能力を決める。私は単純に戦士を選んだ。剣を振り回していれば遊べるお手軽なキャラクターだと思ったからである。

キャラクターを作り終えると、最初に世界の中のどの街からゲームを始めるかを決める。それが終わると、最初はゲームのルールを知るための練習場のようなところへ放り込まれる。そこで一通り、ドアの開け方、敵の倒し方、買い物の仕方などを学ぶ。そのあとで今度は初心者の街と呼ばれる場所へ飛ばされる。この街の周辺には弱い敵しかいないことに加え、ゲーム世界でプレイヤーが困っているときに助けてくれるスタッフが重点的に配備されているらしい。もっとも、適当に遊んでいる限りは彼らも話しかけてこない。私がスタッフに話しかけられたのは、ゲーム開始後しばらくして必ず一回はプレイヤーがゲームになじめたかを確かめる調査のようなものだった。

こう書くと、なんだかとても面倒なゲームのように感じるかもしれない。実際、操作方法を覚えてプレイに慣れるまでには多少時間が掛かる。とはいっても、慣れたあとでプレイする時間に比べればほんのわずかなことである。それから、サポートスタッフは通常ほとんど接触してこない。

■孤独感

まず感じるのは孤独感である。周りに人がまばらである。とにかく街を歩き回って、どんなものが売っているのかを見てみたりする。一通り見終わると、じゃあ敵を倒しにいってみようか、ということになって街の外に出る。そのあいだ、ずっと一人である。

初心者用の街は寂しい。まわりが慣れていない人だらけなので、彼らもただ歩き回っているだけだったりする。会話らしい会話はいっさい交わされていない。それから、いくら初心者用の街だといっても、わりとこれが広い。街はそれなりにリアルに出来ていて、中心部には建物が密集しているのだが、郊外へいくと牧場があったりして、建物がまばらになっていく。その先はただただ深い森がある。

森の中には、色々な動物がいる。最初は動物と戦うことになる。あまりに弱い人はウサギや乳牛と戦う。倒すと肉や革が手に入る。だけど、肉は食べれないし、革も最初はなんだか分からない単なるカタマリのように見えて、おまけに重くてそんなに持てない。しょうがないので、放っておいてひたすら動物を叩く。最初のほうは、動物に攻撃があたるたびに、自分のキャラクターの能力値が増えていくメッセージが出続ける。キャラクターを強くしておくのは必要なことだろう、と思いつつ、一人でひたすら動物を倒していく。これは非常に孤独な作業だ。

動物と楽に戦えるようになると、もっと森の奥へと進んでいき、モンスターと戦うことになる。モンスターは強いので、油断しているとやられてしまう。初心者のうちは、やられても街の治療院に飛ばされるだけである。だから気楽に戦うことができる。モンスターは倒すと金を持っているので、その金でもっといい装備を買うこともできるようになる。

■疎外感

そのうちに、初心者の街のある初心者の島から追い出されるときが来る。キャラクターの能力値が一定以上になるか、プレイ時間が一定時間を超えるかすれば自動的に追い出される。

追い出される先は、世界にちらばる街のうちのどれかである。私の場合、最初にこの世界でもっとも大きな街ブリタニアを選択していたので、人口の多いこの街に飛ばされた。街を適当に見回ってみると、周りは走っている人だらけである。馬に乗っている人が多い。ところどころで会話が交わされているのを見ることができた。

周りに自分以外のプレイヤーのキャラクターが沢山いることが分かり、やっと自分がネットワークゲームをしているのだという実感がわいてきて、さきほどまでの孤独感は消え失せる。しかし今度は疎外感がやってくるのだ。周りの人たちはなかよくゲームをやっているのに、自分は一人で何をやっているのだろう。

これらの孤独感や疎外感を感じないようにするには、友達を誘い合わせてプレイするほうがいいだろう。私のように一人でやると、他の人と知り合うまでが寂しい。

■出会い

この世界は慣れないと非常に広く感じる。街の中ですら迷うくらいだ。一歩街の外に出ると、本当に帰ってこれなくなりそうになってしまう。

そろそろ屋外にいるモンスターとは気軽に戦えるようになったので、私は一番簡単なダンジョンまで行ってみることにした。それまでは、街の墓場で戦っていたのだが、墓場は他のプレイヤーが多すぎて、敵を取り合っている状態である。無言で敵を取り合う風景というのも一種異様なのだが、みんな自分のキャラクターを強くしたいと思っていることだし、キャラクターを育てるときというのは知り合いとは別行動でやっているからだろう。そんなわけで、私は新たな狩場を求めて遠出をすることにしたのである。

ところが、市販本で地図を手にしていたにも関わらず、私は迷ってしまった。地図といっても大雑把なものなので分かりにくい。とにかくマップが広いので、街へと帰る方法も分からない。あたりには、プレイヤーの建てた家が山沿いにたくさんあるのだが、誰もいる気配のない寂しい家並みである。そうそう、このゲームでは、マップ上の特定の場所を除いたすべての場所に、自分の好きな家を建てることができる。このシステムには重大な問題があるので後述するとして、私はそんな場所を一人寂しく歩き回っていたのである。

そこへ一人の人がやってきたので、私はすかさず話しかけてみた。ここはどのへんですか? みたいなことを言ってみた。すると彼は、ブリタニアの北あたりだと答えた。なにしろ半年くらい前の話なので詳しいことは忘れた。帰るための道のりを聞いたあとに、話が武器防具に及んだので、プレイヤーの経営する店で買い物をする方法を教えてくれた。これは最初の練習では教えてくれないので、教えてもらうことができてよかった。なんとこのゲームではプレイヤーも店をもてるのである。

一通りの買い物をして、装備についての基礎知識を彼から学んだあと、金が足りなかったのでおまけに装備の一部を買ってもらったりした。普通なら、彼と仲良くなって今後のゲームを一緒に楽しむ方向にいくのが良かったのだと思うのだが、私はそれほど孤独や疎外感が苦にならなかったので、彼とはその場で別れた。別れる前に、彼の家の場所と、大体いつごろにどのへんにいるのかを聞いておいたので、タイミングが合えば会えるでしょう、というようなことを言っておいた。

私の高校時代の知り合いで、私よりも早くこのゲームをやって一カ月でやめた人がいるのだが、彼の場合はこういう風にして出会った人と一カ月を共に過ごしたそうである。一カ月だけでゲームをやめたとはいえ、充実した時を過ごせたと言っていた。

■家問題

このゲームには最終目的がない。だから、プレイヤーはそれぞれ自分のやりたいことをやっていればいい。ダンジョンで最強と呼ばれるモンスターを倒すのも、強力な魔法の武器防具を探すのも、ひたすら金を儲けるのも、いくつかの勢力に分かれてプレイヤー同士で戦いをするのも、気ままに旅をするだけなのもいい。

ただ、一番分かりやすい目標は、自分の家を建てることである。家は、市販されているものの中では最も高価である。それに、小さくても自分だけの城をこの世界の上に作るのには、代えがたい喜びがある。なんと文字通り城を建てることすらできる。ただし、城は大変高価で、相当金を儲けなければ手に入らない。城を手に入れるために何人かと協力して金を儲けていくのも面白いだろう。

というのはゲームデザイン上の話であって、実際には大きな問題がある。なんと、土地が足りないのである。これだけ広大なマップでも、家を建てられる場所には限りがある。なにしろ日本だけでもプレイヤーが 8万人以上いるらしい。

さすがにこれだけの人が全員同じ世界で遊ぶことはできず、いくつかのシャードと呼ばれる並列世界が用意されている。さらに、一つのシャードには、ファセットと呼ばれる鏡面世界のような二つのそっくりな世界がある。噂によれば、一つのシャードでは同時に四千人で遊ぶことができるらしい。8万人が同時に遊ぶことはないし、それにこの数字は厳密には人数ではなくアカウントと呼ばれるゲーム権なので、一人で何人分も登録している人もいる。しかし、彼らがみんな家を建てようと思ったら、世界中が家で覆い尽くされてしまう。

実際にこの世界を歩き回ってみると、ちょっと開けたところにはかならず家が建っている。森の中の空き地や小道だけでなく、ちょっと木がまばらなところに強引に建っているものもある。ある大平原にはぎっしりと家が並んでいたりして、通行に不便な場所すらある。また、南海の小さな孤島にまで家が建てられたりしていて、家のない場所はほとんどないのだ。

だから当然、家の価値は高い。家の建築の権利書としては 3万5千gp ぐらいから売っているものが、土地に建てられた家となるといっきに数十万から数百万gp ぐらいの値段で流通している。こんなに稼げるのか、あるいは、こんなに稼いでまで家が欲しいのか、と疑うような値段である。

家を始め、ゲーム中には入手の難しいアイテムが沢山あり、それらが高価な値段で流通している。どこで流通しているのかというと、各種ホームページでユーザ同士が取引をしているのである。ホームページによっては、ゲーム内の金と現金とを交換する人たちまでいる。家に関しては、ひたすら空き地を探して家を建てては売るのを繰り返す通称「不動産屋」という人たちまでいる。

つまりこのゲームは既得権益の塊なのだ。いったん手に入れた家は、特別なことが無い限りずっと所有しつづけることができる。また、家は好きなように内装外装を飾ることができる。だから、家が並んでいる通りを歩くと、色々な飾りのある家があって最初は面白いのだが、飽きてくると通行の邪魔でしかなくなってくる。また、ベテランプレイヤーはドラゴンなどの強力で大きいモンスターを手なずけて町なかを歩き回る。最初は驚いて眺めていたのだが、慣れるとこれまたうっとうしくて仕方がない。特に街の銀行前は混雑していて、通行するとネットワークの負荷が重くなって、ひどいときには時々ゲームが固まってしまう。

驚いたことに、このような現象が起きているのは、世界広しといえども日本と韓国だけなのだそうである。日本人と韓国人の土地信仰や家願望、資産をため込む気質が、そのままゲームの世界に凝縮されているのだ。私はこの現実を本当は笑い飛ばしたいところだが、どうにも複雑な思いである。

■MUGEN誕生

げんなりしていた私に、興味深い情報が入ってきた。新しいシャードつまり世界が生まれるそうである。

新しいシャードというと、去年 MIZUHO と呼ばれるシャードがオープンして、一時期にぎわったそうである。ちなみに日本にあるシャードにはすべて日本っぽい名前がつけられている。YAMATO, ASUKA, HOKUTO, WAKOKU, IZUMO そして新たに加わった MIZUHO と合計で六つのシャードがある。MIZUHO が出来た当初は、新しいまっさらな世界だということで、人が殺到したらしい。短時間のうちに金を稼いで自分の家を建てて、それで満足した人がまた去っていって、いまでは閑散としているらしい。あっというまに土地は全て埋まり、もう家を建てることはほぼ不可能になってしまった。しかも家の持ち主は滅多にここにはこない。

ところが、今度は新たに、他のシャードとは毛色の異なったシャードがオープンするらしい。その名を MUGEN と言い、ハードコアルールと呼ばれる厳しいルールが適用される。物の市価が 10倍に、そして基本的に街の商店ではプレイヤーが作ったり手に入れたりしたものを一切買い取ってくれないという厳しいルールである。これならなかなか世界が家で埋まらないだろうし、私にとっては初めてのまっさらな世界である。

このシャードの一番大きな特徴は、二つのファセットが同じルールになっていることである。当初ウルティマオンラインは、犯罪も殺人も自由にできる世界が一つだけあった。ところが、ゲームを始めたばかりの初心者からすれば、街の外に出たら PK と呼ばれるプレイヤーキャラクターにいきなり殺されたりすることもあって、理不尽に思えることもあった。そこで、世界が二つに分けられ、フェルッカと呼ばれるファセットは従来のなんでもありの世界にし、トランメルと呼ばれるファセットはプレイヤーキャラクターが殺人や犯罪を一切できない世界にした。これで、初心者と生産者にとっては住みやすい世界となった反面、従来のなんでもありの世界には多少なりとも覚悟のある者しかこなくなった。古参のプレイヤーほど、世界の分割を否定的にとらえ、古き良きウルティマオンラインが失われたことを嘆く傾向が強いようにみえる。

そこで運営側は、新たになんでもありのシャードを作った。それが MUGEN である。このゲームに慣れた人のために、さらに厳しいルールを適用した。ゲームを始めたばかりの頃に味わった、生活していくだけでもツラい、だけど緊張感にあふれた魅力的な世界をもう一度作り出そうとしたのだ。

私は、このゲームを初めてから一カ月もたっていなかったが、従来のサーバがあまりに煩雑すぎるので、MUGEN に移ることにした。移るとはいっても、好きなシャードにそれぞれ 5人までキャラクターを作って遊ぶことができるので、主に遊ぶシャードを変えるといった意味合いしかないのだが、これまで使ってきた愛着のあるキャラクターをもうあまり使わなくなるのにはそれなりの決意が必要だった。もちろん、最初に出会って色々教えてくれた人ともほぼ出会うことがなくなるのだ。

■MUGENでの生活

MUGEN の運用開始は、ある日のある時間からだと決まっていたので、その時間にまだかまだかと試しに入ろうとしたがなかなか始まらなかった。なにかのトラブルで予定が遅れたせいだった。ようやく始まり、私は始まった直後に入ることができたのだが、なにしろ恐らく大量の人がいっきに入ってきたせいか、非常に動作が重い。キャラクター作成直後にまずできるだけ空いていそうな街を選んだつもりだったのだが、その街は実は孤島なのに交通の便がいいみたいなので、ゲートによって次々と人が一定の方向に進んでいった。私は、あまりの重さに、ゲートを出た直後に歩行が不可能になり、しばらく周りの様子だけ見ていた。人々が口々に「重いー」と叫ぶのを聞いた。画面内のこのキャラクター一人一人を人間が操作していることがはっきりと分かり、妙な感動があった。私のキャラクターは歩けなくなったまま直る見込みがなかったので、いったん世界を出て、もう一度入ろうとしたのだが、最大数を超えていたらしく入ることができなかった。しかたなくその日はもう寝ることにした。夜も結構遅かった記憶がある。

次の日、早めの時間帯から入ってみたら入れたので、狩場を探してうろついた。私はまだこのゲームにそんなに慣れていなかったので、多少ともコツをつかんだ戦士で再びプレイすることにしていた。そこで、すぐにでも自分のキャラクターを鍛えたいのだが、狩場はどこも混んでいた。ブリタニアの墓場は特に一杯だった。多分ダンジョンも一杯なんだろうなと思って、ロストワールドと呼ばれるまた違った場所へ行くことにした。この場所は南国をイメージして作られたところで、プレイヤーが家を建てることができないので、原始的な荒野や密林がそのままになっている。迷うとさっぱり道が分からなくなることがあって非常に面倒な場所でもある。ロストワールドのデルシアという街というか村を拠点に、街の外にいるオークたちと戦って鍛えることにした。

このデルシアの街で、私はようやく定期的に話をする人ができた。戦闘で疲れたあとは、鍛冶屋の前に集まった人々の輪に入って会話を聞いたり参加したりする。ここへきてようやくネットワークゲームの醍醐味を味わえたと思う。どこに行ったら効率よく金を稼げるか、どういう能力を伸ばしているのか、などなど様々な情報交換や雑談をした。私は副業で大工をやっていたので、木を切って自分で椅子を作ってちょこんと座って話に加わった。スケルトンから奪ったプレートアーマーを全身に着込んで「金持ちみたい」と言われたのだが、本当の金持ちは品質の良い高価なプレートアーマーを着ていて、普通の無印のプレートアーマーは単に重いだけで防御高価も大したことがないらしいことも教えてもらった。

最初のうちは平和だったが、そのうち PK と呼ばれる殺人者、プレイヤーキャラクターを殺して持ち物を奪っていく者が現れた。もともとこの MUGEN は、PK をやりやすくする、というか PK から逃れにくくするルールが適用されているので、PK の脅威は通常シャードよりも高い。PK もまた、この世界での一つの遊びかたである。普通の人々は、PK が襲ってくると戦うか逃げるかするしかない。そのうち、PK がどこに現れたとかの情報が流通しだし、団結して PK に立ち向かう人々も出てくる。そういったことをすべてまとめて、ゲームを楽しもうというのが、古き良きウルティマオンラインなのだろう。私のキャラクターも何度か殺されて金品を奪われた。非常に腹が立つが仕方がない。

■MUGENをやめた

私は結局 MUGEN をやめた。その理由は、コミュニケーションしていても面白いと思えなくなってしまったからである。

それを一番大きく感じたのは、MUGEN で一番色々教えてもらったベテランプレイヤーとの会話である。彼は色々なことを知っていたのだが、大体会話の初めには「○○も知らないのか」みたいな言葉が加わる。割合ぶっきらぼうな口調だとか、ベテランだということを誇示されるのも、まあそれほどには不快だったわけではないのだが、結局私をうんざりさせたのは、あまりに情報格差があったのと、その格差を楽しもうという人があまりいなかったことである。

私に言わせれば、あまりものを知らないプレイヤーの存在そのものが、ネットワークゲームでは一種のイベントである。ゲームのやりかたやコツや各種情報などを、初心者あるいは中級者くらいの人に教えたりするのも、ゲームの楽しみの一つのはずである。私は特に相手に失礼な発言をした覚えはなく、訊いたことには大抵答えてくれるのだが、以下の三つの点でどうにもコミュニケーションを楽しめなかった。

まず一つは、訊いたことに答えてくれた以上の話の広がりがそんなにないこと。たいていの場合、私が周りの人の会話に割り込む形で質問をするのだが、それから話が自然に発展したことはほとんどなかった。私が次々と質問を続けない限り、話が進まない。まあ、私の場合、このゲームはあまりよく知らなかったが、キーを打つのだけは速かったのでどんどん色々しゃべっていったのもあるだろう。それにしても、ゲームの中で「仲間」らしい関係になった人が、その場その場を除いてまったくなかった。これは現実世界にも言えることなのだが、仲間であるための条件がどうにも泥臭いことも大きな理由だろう。

二つ目は、あまりに妙な用語が日常的に使われていたことである。たとえば、魔法を使うための技能である Magery という技能はなぜか「まげ」と呼ばれていた。ほかにも、あるモンスターを「緑先生」や「血イカ」など、およそ推測の不可能な用語で呼んでいたりする。質問するとちゃんと教えてくれるのだけど、どうにも閉鎖的な感じがしてならない。一時的に知り合って仲良くなってちょっと話をする、などというのは、現在の日本の若者にとってもっとも苦手とすることではないだろうか。たかがゲームでこんなことをいうのもなんだが、まさにゲームの中に現在の日本の社会が凝縮されているのだ。

最後の三つ目は、ゲームで長く遊んでいる人間ほど、ゲームの中の世界、ダンジョンや怪物をよく知っていて、既に「未知のダンジョン」や「まだ見ぬモンスター」の冒険を一通りやってしまっているのだ。そういう人たちばかりのところへ、ゲームを始めたばかりの人間が行ったところで、「じゃあどこどこへ行ってみよう」とついて行ってくれる人はどれだけいるのだろうか。そうなると、自分と同じくまだあまり冒険に行ったことのない人を探す必要が出てくる。しかし、このウルティマオンラインというゲームについて言えば、もうある程度ゲームが運営されてから日がたつので、この世界に暮らしている人のほとんどは慣れたプレイヤーである。最大で四年くらいやっている人がいる中で、一カ月程度の人間が、せいぜい三カ月程度くらいまでのプレイヤーを探すことが、どれだけ難しいか。見つかっても、その人がいっしょに自分の望んだところへ行ってくれるとは限らない。それに、たいていの場合既に親しいグループに入っていて、単独行動で知り合って間もない人とどこかへ行きたがる人は果たしてどれだけいるのだろうか。

ネットワークゲームの面白さの大半は「情報」によるものである。「情報」を共有、交換、取引できなければ、何も面白くないのだ。

■家のために韓国へ

MUGENから撤退した私は、どうしても自分の家を建てたくて、韓国にあるサーバのシャードでプレイすることにした。国際対応なので、日本語版 Windows 上の日本語のソフトで韓国語のハングル文字が踊るのが面白い。当然、話しかけられても意味がさっぱり分からない。I don't understand Hangeul と打つと、英語に言い換える人もいれば、sorry といって立ち去る人もいる。これはこれで面白い。荷物運び用のラマをいくらで買わないか? と言ってくる人がいて、no thank you と答えたり、会話はそれなりに通じる。

異国で一人、疎外感を感じつつ、ひたすら鉱山を掘って鉱石を作り、鉱石から武器や防具を作っては売却し、金を稼いでついに家の権利書を買った。前述の通り、小さい家の権利書なら二三日程度で金は集まる。問題は土地なのだが、韓国では目立った場所はさすがに埋まっているのだが、まだそんなにシビアではないので、非常に微妙な場所はまだあいていた。しかも私の愛着のあるデルシアの街の、洞窟をはさんだすぐ近くの場所の土地があいていたので、さっそくそこに自分の家を建築した。噂にたがわず、自分の家をこの世界に建てたことには喜びを感じた。

細かいことは省くが、その後、大量注文システムと呼ばれる鍛冶屋のためのシステムが新たにできたので、しばらく韓国のシャードでプレイしていた。しかしそれも飽きたので、私はこのゲーム自体をやめることにした。本当は店もやりたかったのだが、家の立地場所もそんなによくないし、好きでないと続けられないとの噂も聞くので、結局やらなかった。

■テーブルトークRPG

このウルティマオンラインは、テーブルトークRPG の系譜をもっとも濃く引くゲームである。テーブルトークRPG とは、ウルティマやウィザードリィ、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーのそもそもの元となった、コンピュータを使わない RPG である。コンピュータを使わない元々の RPG では、コンピュータではなく一人の人間が自分の裁量で、プレイヤーたちに自由な行動を認めている。たとえば、コンピュータRPG では王様を殴ろうとすることはできないが、テーブルトークRPG では大体可能である。もっとも、殴ろうとした直後に取り押さえられて、最悪処刑されておしまい、なんていうシャレにならない結末になることもある。

あらゆるネットワークゲームの中で、ウルティマオンラインの位置づけは、始祖にしてユニークである。数人とかでやるネットワークデームは以前からあったが、数千人をネットワークで同時参加させる試みはこのゲームが初めてである(いや詳しいことは知らないので他にもあるのかもしれないが)。それから、生産系と呼ばれる職業とスキルにより、ゲーム上の多くの品物を作成できる点で独特である。武器や防具に限らず、ケーキや指輪、家具や食器、魔法の巻物や薬、などなど、実用的か非実用的かを問わず、実に色々なものを作ることができる。それぞれには必要な能力が設定されているので、難易度の高いものを作るには、ひたすら色々なものを作って能力を鍛えるしかない。

数千人同時参加という初めての試みをするのに、もっと簡単なゲームにするのが普通ではないかと思う。そうではなく逆に、どうせ作るなら、という精神があふれていて、ゲーム史に残る偉大な一歩ではないだろうか。およそゲームとは関係ないものがゲーム世界にあふれているのである。おそらくこの考え方は、テーブルトークRPG から来たものだろう。そもそもテーブルトークRPG は戦闘だけのゲームではなかった。生産だけでも楽しめるこのゲームは、ウィザードリィの作者が「テーブルトークRPGの戦闘だけ遊びたくて作った」のに対して、「テーブルトークRPGの生産だけでも遊べるように作った」というのに等しいものがある。

ちなみに、テーブルトークRPG のほうは現在ではほとんど知られていない。というか、生まれた直後から今にいたるまで、表に出たことがない。このゲームやファンタジー世界にまとわりつく独特のオーラがそうさせるのだろうか。映画「ロード・オブ・ザ・リング」でファンタジーアレルギーは薄まるかもしれないが、ゲームとなると難しいだろう。演じるゲームということで言えば、有名な俳優たちにゲームをやらせれば面白いと思うのだが、カラオケと違って演じるのには抵抗があるのだろうし、少しでも複雑なルールになると多くの人はついていけないからだろう。私がゲームをやっていたときには、演じるという要素はほとんど排除されていて、ただ自由に行動できるという要素だけで楽しんでいたのだが、それはそれでやはり敷居があるのだろう。

職場の H先輩に、ウルティマオンラインとテーブルトークRPG とのかかわりについて言ってみたら、ウルティマオンラインのゲームの中にはサイコロが用意されているので、ゲームの中でテーブルトークRPG をやってみれば? なんていう思ってもみないことを言ってきて驚いた。まるで夢の中で夢を見るようなものである。

■ファイナルファンタジーXI

いよいよファイナルファンタジーXI のサービス開始へのカウントダウンが始まっている。なにしろ、累計数千万本売ったとされるファイナルファンタジーシリーズが、ネットワークゲームになるのである。このゲームはなにかを変えるだろうか。ゲーム機のゲームとしては、ファイナルファンタジーより知名度において差のあるファンタシースターオンラインが世界最大級のユーザ数を集めたことを考えれば、いくらネットワークゲームの敷居が高いとはいっても、百万を超えるユーザがプレイする可能性が高いように思える。そうなると一気にネットワークゲームとくに MMORPG と呼ばれる大人数同時参加型の RPG が市民権を得るのではないか。

■自作

ところで私も、大人数参加型の RPG もどきを作ろうとしていたことがある。1995年のことなので、ウルティマオンラインの影も形もなかったころである。当時、crossfire と呼ばれる、数人でダンジョンとかを探検するゲームがあって、大学のコンピュータ室や研究室で流行っていた。ほどなくしてゲームが厳しく禁止されてしまうのだが、私はそのゲームをはたで見ていてひらめいた。ドラゴンクエストのような平面の世界をネットワーク上に作って、チャットをしたら面白いのではないか。

そのころすでに私は、ドラゴンクエスト風のフィールド画面、つまり街や城や洞窟や外を歩き回るデモをパソコンで作ったことがあった。街の人まで配置して、彼らはランダムに動き回り、話しかけると何か言ってくるようにもしていた。だから、フィールド画面については問題なかった。グラフィックスは、フリーでちょうどいい素材を提供してくれている人がいたので、その素材を使った。見栄えはそこそこ良かったので、これはイケると思った。

一方私は、IRC と呼ばれるチャットシステムのプロトコルつまり仕組みについて、RFC と呼ばれるドキュメントを読んで勉強し、クライアントつまりソフトを実際に作ったこともあった。この手のシステムはサーバ側の方がずっと難しいのだが、一応インターネット上に独自の仕組みのサーバを作る技術は持っていたので、問題はなかった。

しかし結局解決しなかったのは、日本語の問題である。当時は大学のワークステーションしか使えなかったのだが、日本語環境が実に貧弱だった。私が作った IRC のソフトも、インタフェイスは Emacs という日本語エディタのマクロというかスクリプト言語で作っていたほどで、独立したプログラムで日本語を扱うのは非常に難しかった。X と呼ばれる画面まわりのシステムに国際化対応ライブラリを組み込むのも、研究室ではない普通のコンピュータルームのマシンにはできなかった。ついでに、これらのマシンのほとんどはモノクロのモニタだった。

パソコンの方に目をやると、当時ようやくインターネットを全面的にサポートした Windows 95 が出回り始めた頃であった。インターネットの接続サービスいわゆるプロバイダの料金もまだそんなに安くない頃だったこともあって、パソコンという選択肢は当時まったく考えていなかった。

当時念頭にあったのは、ハビタットであった。ハビタットとは、チャットに地図上で人々が歩き回る要素を取り入れた画期的なチャットシステムだった。しかし私は、そのあまりの欧米臭い匂いの絵にあまり魅かれなかった。おそらく日本人のゲーマーが求めているのはドラクエスタイルだろう、これならあるいは結構流行るんじゃないか、と思って開発を考えていた。私に十分な環境があれば開発できていただろう。

ただ、いくら私が過剰な自信にあふれて振り返っても、さすがにウルティマオンラインのような完成度のものをポンと出すことは、どんなに偶然が重なっても無理だっただろう。

そもそも一人でやるには限界がある。私は友人たちにも話を持ち込んだのだが、結局協力してくれる人はいなかった。一人で暖めるのはもったいないので、偶然知り合ったある人にメールで送ったところ、その人がさらに周辺の人々に配布して広めてくれたようであった。その中から、一人の人と親しくなり、その人がパズルゲームを作ったというので、私はそのパズルの面と曲を作って協力した。私は彼より多分圧倒的にプログラマーとして技術力があったのだが、コードには一切タッチしなかった。彼の書くコードは BASIC という比較的易しい言語で書かれていたが、非常によくまとまっていた。タイトル画面をしばらく見ていると自動的にデモが始まるのには感心した。そのゲームは雑誌にも載ってそれなりに良い評判を得たのだが、肝心の私の方の計画は霧散してしまった。このゲームに関しては、ささやかながら遺恨があるので後日、音楽関係の回を設けて語ることにする。結局、ゲームに限らないのだが、とにかく完成させること、それからアイデアが重要なのだ。

■まとめ

というわけで、最後の方は「クリエイター」だった頃の私の話も結構書いてしまったが、いまではもう面白いゲームが出ないかどうか期待する日々である。

ウルティマオンラインは今年に入ってからも新しいバージョンが出たし、細かい改良は日々続けられているらしい。オンラインのゲームなので、サーバ側で新しい趣向やらパッチやらによってどんどんゲームを発展させることができる。

MMORPG と呼ばれるこのジャンルは、始祖のウルティマオンラインのあとに次々と色々な作品が出ている。韓国勢が強いのも特徴で、日本の文化に影響を受けているために、欧米産のゲームと比べて絵が日本人に親しみやすい。記憶によると、もっともプレイヤーの多いゲームは韓国産だそうで、アメリカの会社も提携を申し出るなど勢いが強い。また、アメリカでウルティマオンラインと一二を争うほどのエバークエストは、ソニーグループが買収した。ガンダムというキラーコンテンツを持つバンダイも、ガンダムの世界自体をネットワークゲームにしようと計画を進めている。

私は、面白いゲームで魅力的な世界の中で遊べるなら現実なんてどうでもいいとさえ思っているぐらいなので、思いっきりハマれるようなゲームが出ないか心待ちにしている。


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