109. BOSE (2001/9/3)


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前回オーディオ環境を整備したのをここにまとめてからいくらか時間がたった。私はまだ新鮮さを感じたまま音楽を聴く日々を送っている。それなのに早くも新しいものを買ってしまった。

■BOSE 111AD

結論から言うと、私は BOSE 111AD を買った。中古である。

秋葉原に出かけてから散策しているうちに、五年くらい前に KENWOOD LS-11 を買った店と同じ店をようやく発見したので、物色しようとしたところ、いきなり目に入ったのが BOSE のロゴであった。黒い定番の外見と、17,600円という値札を見て、私はその瞬間から買う気になって本当にこれでいいのか最後の確認を始めた。すると店員のおじさんがさっそく声を掛けてきて「これは 111AD だから 101 よりも中低音が出るよ」と一言。私は間抜けにも「中低音ですか」と答えてから、確認のため「これは中古ですよね」と聞いてみた。デッドストックがほとんどだけどこれ(111AD)は中古だね、ということだった。もう値段が値段なので私にとってはどうでもいいことだった。すぐに「これください」と言って購入を決めた。

111AD は、私がこのまえ買った 121 と定価はほとんど変わらない。調べた限りでは、世界的ベストセラーモデル 101 の後継の一つで、容積のわりに非常に豊かな低音を出すことができるという触れ込みであった。実際、家に帰って聴いてみたところ、イコライザで補正されたかのような豊かな低音が出たので驚いた。これで重量が一個 2.4kg で、中に入っているのは 10cm ちょっとの普通のフルレンジユニットなのだから、どういう仕掛けで音を出しているのかよくわからない。


Figure 1. 天井に吊るした BOSE 111AD

■天井へ

順序が逆になるが、私がなぜ BOSE 111AD を選択したのかというと、前に 121 を天井にぶらさげようとして買った金具を無駄にしたくなかったからである。その顛末は「新しいオーディオを買った」の回に書いたので詳しくは書かないが、結局それからせっかく数千円出して買った金具が押入れの奥にしまわれて、なんとなく後味が悪かった。友人が中古の BOSE を買おうかどうか考えているという話があったので、彼にあげてしまおうかとも思ったのだが、やはり私も一度天井に下げられたスピーカーから音楽を聞いてみたいという望みがあった。

私は当初、最悪の場合 101MM の新品を買おうとも思っていた。私の好きなページの一つ「今日の一言」(http://www.tomoya.com/)には、101MM の特性を分析した回があって、このスピーカーには多少歪みがあるにも関わらずリファレンスとして大量に使われているためマイナーチェンジもできないから歪みが放っておかれているのだろう、という結論を出していたので、101MM ではなくその後継の中から選ぼうかとも思っていた。しかし、つい最近 BOSE のスピーカーを買ったあとで、しかもただ天井からぶらさげて聞いてみたいということもあり、できることなら中古で安く済ませたいと考えるようになった。

■再利用

ところで前回新しいオーディオ一式を買ったことによって、私がそれまで使っていたアンプと CD プレイヤーとスピーカーが用済みとなっていた。それらは居間に持っていって、テレビ用のアンプとして利用しようと思っていた。

スピーカーを置く場所がなかったので、スピーカーは居間の本棚の上に置いてみたのだが、これで音楽を聴いてみると具合がいいということが分かった。上から音を出すというのは、本当は普通のオーディオの音を殺すだけなのだが、音が広がって出るようになるという利点もあるようである。

ところが、スピーカーは本棚の上に置けたものの、アンプと CD プレイヤーを置く場所がない。テレビの下のビデオラックは、前ならばちゃんとアンプと CD プレイヤーが入るほどのスペースがあったのだが、ここに引っ越してきてからケーブルテレビに加入してチューナーを置いたために、わずかに高さが足りずにアンプか CD プレイヤーの片方しか入らなくなっていた。仕方なくテレビの上の狭いスペースに引っ掛けるように置いていたのだが、そこは猫が本棚の上に上るときに踏み台にするので、しょっちゅうガタンガタンとテレビの通気溝の上に落ちてしまう。逆側に落ちたら多分壊れてしまうだろう。

というわけで、どうせここではあまり使わないだろうということで、次は弟にあげようと考えた。弟は最近部屋の整理をしたので部屋にスペースが余っている。しかも弟は相変わらず古い満身創痍のミニコンポを使いつづけている。ここ最近では、ガス銃でテープデッキのプラスチックのフタをぶち抜いたりしたので、本当にみすぼらくなっていた。しかし彼は、最近は音楽を聴くこと自体に何かうっとうしさを感じると漏らしていて、ギターもほとんど弾かなくなっているようである。最終的に私が彼に「このオーディオいらないのか」と聞いたら「いらない」と答えたので、この時点で私自身が再利用することに決めた。

■バイアンプ

再利用するとなると、アンプも CD プレイヤーも音質は期待できない。それならせっかくの新しいスピーカーももったいない。では、再利用せずにパワーアンプを買うというのはどうだろうか、と一度考えた。というのは、私の買ったマランツのプリメインアンプには、バイアンプといってパワーアンプを増設することによってアンプ二つでスピーカー二組をドライブする機能がある。このパワーアンプが、プリメインアンプとデザインが統一されていて非常にカッコよく、しかも三万円ちょっとで買える値段なので、いつか買ってみたいと思っていた。

ただ、それだと再利用という目的が果たせなくなる上に、パワーアンプというのはプリアンプに従属した存在なので入力を選べない、つまりプリメインアンプとまったく同じ音を鳴らすだけである。同じ部屋で別の音楽を聞くなんてことは基本的にありえないのだが、たとえばゲームの効果音だけを片方のオーディオで聞いて、好きな CD を BGM にしてゲームをプレイできる。

スピーカーをまた新品で買ったというのならともかく、今回は中古で済ませたというのもあるので、パワーアンプの方は今回は見送ることにした。

■BOSE の音

というわけで結局 BOSE 111AD は安いアンプに古い CD プレイヤーにつなげて使っている。新しいオーディオの方から出力を引っ張ってくることによって、新しいオーディオで再生している音楽をそのまま古いシステムのアンプにつなぐことができるので、これで一応めでたくバイアンプの形をとることができた。

しばらく色々な CD を試しに聴いてみて思ったのだが、これぞまさしく BOSE の音なのだ。前に買った BOSE 121 は、亜流の BOSE なのである。111AD から出る音は、これまで私が調べた限りで言うところの「こんなのピュアオーディオじゃない」「PAだ」という評判と合致していた。

では 111AD の音の特徴はなんなのかというと、音が固めなのである。固めというと分かりにくい言葉かもしれない。普通のスピーカーの場合、原音に忠実に再生しているというのが分かる。だから、録音状態の悪い CD を聴くとすぐにアラが出てくるし、録音状態が良ければどの音もあくまで自然に鳴っている。それと比べると、111AD は何か音を寄せているような気がする。

コップを硬い机の上に置くときにカツッという音がなるとしよう。それを録音して、BOSE のスピーカーとそうではない高級オーディオの普通のスピーカーとで聴いてみるとしよう。普通のスピーカーから出る音は多分、録音したときに聴いた生の音とおそらくそっくりの音が出ているなと思うことだろう。それに対し、BOSE のスピーカーはおそらく、ちょっと違う音が出るような気がする。しかし、音は違うのだが、本当にコップがスピーカーの付近で実際に机の上に置かれたかのような錯覚を味わうのではないだろうか。

実際には BOSE 同士で聞き比べているのでヘンなのだが、121 と 111AD とを切り替えながら聞き比べてみると、あきらかに 111AD の音は違う音がしている。本物の音が正方形だとするならば、111AD の音は台形っぽく上辺が細くなっているようなイメージである。それだけ多分音としての情報は欠落していると考えてよい。121 の方が明らかにクリアな音が出ているのは確かである。ただ、まんまの表現をすれば、111AD の音は店で掛かっている音楽の音がする。それは当然店で BOSE や類似の PA が使われているからなのだが、なんというか言葉は貧弱だが臨場感としか言いようのない何かがある。

■音響学私論

私はオーディオや音響学についてほとんど知らないのだが、漠然とこうではないかという考えをもっている。

生の音というのは、マイクで録音されるときに、やはり何か情報が欠落するのではないか。そして、その欠落する情報は、どんなに高性能な再生機材を使っても補修することができないので、結局作ってやるしかないのではないか。多分このあたりまでは多くの人が考えていることである。

そうでないと主張する人は、音なんてのは鼓膜を震わせるだけなのだから、空気の振動を忠実に録音してやれば何の問題もない、と言うかもしれない。だとしても、空気の振動を忠実に録音できているかどうかというのは誰も分からないことである。完全に忠実に録音できると信じている人はいないだろう。

それはいいとして、結局その欠落する情報とはなんなのか。非常に細かい高周波成分か? 音以前の空気の流れのような低周波成分か? 空気の振動の振幅の微妙な正確性がないからか?

さきほどコップの例を出したのを思い出して欲しい。究極のオーディオというものがあるとしたら、人間をだますことが可能であることは間違いない。コップの音だけでなく、人のしゃべり声、黒板を爪で引っかく嫌な音、耳元でささやく声などを、人工的にあたかも本物のように忠実に再現してみせなければならないだろう。ではそのためには何が必要なのだろうか。

自然界にある音というのは、二つの物体がぶつかって振動することによって初めて出るものである。ところが、スピーカーから出る音というのは、コーン紙が電磁石によって動かされて震えて出されたり、そうやって出された音がスピーカーのエンクロージャ(箱)の中を反響したりして出す音である。紙から出る音が豊かな音楽を奏でていることには驚かされる。実際には、高級スピーカーには紙だけではなく鉱物やバイオ系の素材が使われていたりする。なぜ紙や紙状にしてしまうのかというと、電磁石を使って敏感に動いてくれなければ困るからである(憶測)。

本物の音というのは、音が出るべくして出ている。本物の弦を弾いて音を出すのと、電磁石で強制的に弦を振動させるのとでは、おそらく音にかなりの差が出るはずである。おそらく電磁石だと思ったように弦が振れてくれないし、タイムラグも生まれるだろう。これをどうにかするには、信号よりも電磁石に余計に電圧を掛けるだとか、タイミングをずらすだとかする必要があるように思う。そうでなければ、共振をうまく利用して、電気信号の微妙な変化に紙や箱が敏感に反応するようにする。たとえば 440Hz の周波数でコーン紙の周りが振動すれば、電気信号が 440Hz である限り共振によって忠実な音が出る。

BOSE のスピーカーは箱鳴りが重要みたいなので、箱の共振を利用しているのではないかと思う。だからこそ、箱の共振周波数によって音が多少変わってしまい、その代わり本物っぽい音が出るのではないかと思うのだ。

■推奨できるケース

ウエストボロウと呼ばれる 121 などのシリーズ以外の普通の黒い BOSE は、多分アンプの性能にそれほどこだわらずに良い音が出るのではないかと思う。だから、もしあなたがミニコンポをすでに持っているとしたら、スピーカーだけを BOSE にしてみるのも良いかもしれない。

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ところで、今回買い物のために歩いた秋葉原で、ガード下の店に PIONEER PD-HL5 が私の買った値段よりも一万円も安い値段で売られていたのにはショックを受けた。49,800円が 39,800円だから大きい。また、marantz の PM17SA が八万で売られていたのにもびっくりした。ただ、その店は品揃えが少ないので、この店だけで何を買うか悩むことはできないだろう。店をまわって値段を比べ歩くような買い物の仕方をしなければここでの買い物はできない。学生のころならば多分そうやっただろう。いまはもはやどうでもいいことである。私が前回薦めた marantz の安めのアンプと CD プレイヤーがそれぞれ 29,800円くらいずつで置いてあった。ガード下かそれより万世橋側の道沿いにあるので、興味があれば覗くと良い。


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gomi@din.or.jp