2006年8月8日 久遠
珍客!疑惑のお客様
朝、担当のレジへと向かう私の頭上で、開店を告げるファンファーレが鳴り響きました。
開いたドアから、開店を待っていらっしゃったお客様方が入っていらっしゃいました。
「いらっしゃいませー!」
とご挨拶し、さあレジに入ろうとした私に近寄ってくる祖母くらいの年代のお客様が一人。
「ビールはありますかのぉ」
「はい、ありますよ。どんなビールをお探しですか?」
「ええとねぇ」
とお客様がおっしゃるビールの銘柄と量を手持ちの紙にメモする私。
お聞きするうちにふと「おや?」と思ったことがあったので、それをお客様に確認。
おっしゃる単位が「本」ではなく「箱」。
身内の集まりでもあるのかと思っていたのですが、それにしては多い量を仰います。
「あの、『本』じゃなくて『箱』ですか?」
「はい、箱でお願いします」
このお客様、何と・・・
ビールAを3箱、ビールBを15箱に別のサイズのものを2箱、大瓶を4ケース 以上を注文なさったのです。
この時点で合計20箱と4ケース。
普通、買いだめなさる方でも2ケース、集まりごとでも3ケースがいいとこです。
念を押して「本」ではなく「箱」であることを確認し、取るものも取り合えずお酒・飲料担当の人のところへ。
開店直後の忙しい時間です、普通なら2箱3箱なら売り場とレジを往復して運んで差し上げればいいのですが、流石にこの量はもう私ではどうにも出来ません。
担当の人を捕獲してメモを渡し、お客様のお車(軽トラでご来店でした)の件をお話して準備をお願いしました。
年配の担当の人が「小売業の人だろうか」と呟く横で、実際に運び出しを担当する若いお兄さんがちょっと遠い目をしていたのが忘れられません。
しかしまだ話は終わりません。
量が量だけに準備に時間がかかることをお伝えし、レジに戻ってしばらくすると・・・
先ほどのお客様がカゴにジュースを入れていらっしゃいました。
「ちょっとお姉ちゃん」
「はい?」
「悪いんじゃけど、これ全部5箱ずつもらえんかのぉ」
「ご、5箱ずつ、ですか?」
お客様の籠の中には500mlペットボトルのジュースが6本。
6種類×5箱=30箱。
このとき私は心のうちで十字を切りました。
担当のお兄さん、頑張ってください。私には何も出来ません。
ああ、可哀想な担当のお兄さん!
先ほどとあわせて50箱+4ケースも軽トラの荷台に上げ下げせねばならないなんて!
本来ならその注文を聞いた私がお会計をするはずだったんですが、休日ラッシュによって問題のお客様は真向かいのレジへ。
多分私は、この合計金額を忘れることはないでしょう。
しめて16万8000円也。
カードが使えない店なのでもちろんのこと現金払いです。
去っていくお客様の背中を見つめながら私の脳裏に去来した言葉はただ一つ。
お客様、これは仕入れですか?
仕入れですね?
当店には時折飲食店勤務と思しき方が仕入れの間にあわなかった材料を調達しにいらっしゃいます。
が、ここまで大量に買い込んでいかれた方は初めてです・・・
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