白の世界

2003/10/13  






 電車の中で話をする女子高生の、その会話の内容に思わず耳を傾けた。
「ねえねえ、こういう事ってなーい?」
「どーいう事?」
「夜、目を開けると、一面真っ白なの」
「何?それ」
「目の前が、真っ白な世界になってるのよ」
「無いよ。そんな事」
「えー?有るよー」
「何よー。シーツでも被ってるんじゃないのー?」
「えー?」


 そんな事を体験した事が有るのは、私だけかと思っていた。
 しかし他にも、そういう人がいるらしい事が分かった。
 本当はもっとポピュラーな事なのかも知れない。この文章を読んで、「私も知ってる」と言う人が何人もいるのではないだろうか。


 夜眠っていて、ふと目が覚めた時に、その状態に入る。
 目を開けた場所が、白い平面の上なのだ。
 純白の白ではない。薄暗い中での白で、平面上は波打っているように見える。波は動いているのではなく、柔らかい布にできた皺襞しわひだのような感じだ。
 喩えて言うと丁度シーツを一面に敷き詰めたような世界。だが決してそれはシーツを見ているのではない。
 私がそれを見た時にはしま模様のシーツを敷いていた事も有った。その時でも、視界に入った世界は縞模様ではなく白かったのだ。


 その時の自分の身体からだは、平面の上に横たわっているのではない。
 見え方からすると、鼻の少し上辺りまでが埋まっているような具合だ。
 言い方を変えると、白い水面の上に目までを出して見ている状態のような感じ。
 本当の水面に顔を出している時であれば、上の方を見る事ができる。しかしその状態の時には顔が前傾している為か、上の方は見れない。
 首を動かす事ができないのだ。目だけを動かして、辺りをうかがうしか無い。
 視界の片隅に地平線のような物が。その上には暗黒が広がっているのが見える。


 視覚だけが、どこか違う場所に飛んで行ってしまったような感じもする。


 その平面は視界と相対的位置を保っている。だから、上を向いて寝ていても横を向いて寝ていても、平面は目の下に広がっている事になる。


 その状態に入っている時、自分の身体については意識しない。身体を意識する事を忘れている。
 身体を意識する事ができれば……。
 その状態の時に自分自身に身体が有る事を意識できれば、目の前に自分の手をかざしてみた時にはどうなるか?を確認できる。
 今までそれをした事は無いが、寝ている自分の姿も見えず、自分が寝ている部屋さえも見えない状態なのだ。
 きっと手も見えないに決まっている。


 その状態は、あっという間に回復してしまう。
 目が故障した。
 そう思って目を閉じてしまう。するとそこで寝ている自分自身を感じる事になる。掛けている布団の感触が分かるのだ。
 そうなったらもう、白の世界には戻れない。
 もう一度、どんなだったかを確認しようと思っても、見る事は叶わないのだ。
 少し残念な気分になったりする。
 金縛りの時のような、怖い感じは全くしない。


 これがありふれた現象であるならば、もう少し世間でも取り沙汰されてもいいのではないか、と思う。




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久米仙人がいい



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