季節は春。
爽やかな日差しと共に心地よい風が吹き、一人の女性の長く綺麗な髪と戯れている。
彼女は窓辺の席に座り、昼下がりのまどろみを楽しんでいるようにも見える。

不意に彼女の後ろから声が掛けられる。
「ちょっと、麻衣子。聞こえてる?」
「あら、どうしたの?」
麻衣子と呼ばれた女性は、声の聞こえてきた方へと身体を向けた。
その視線の先には、髪が短く、一目見るだけならば可愛い男の子という感じの
「ボーイッシュ」という言葉がぴったりの女性が立っていた。
「どうしたの?じゃないよー。麻衣子、はいこれ!」
「????。あらー。これ私の定期入れね。なんで陽子ちゃんが持っているの?」
声を掛けてきた女性は「陽子」という名前らしい。
「・・・・・・・。拾ったの!そこの廊下で!まったく、麻衣子はなんでそんなにおっちょこちょいなの?
いくら同じ物をもう一つ持っているっていってもねー。ほんっとに!」

「ほんとねー。」
麻衣子は微笑みながらそう言い放った。
「・・・・・・・・」
「あらあら、どうしたの陽子ちゃん。そんなところに座り込んじゃって。」
どうやら陽子は呆れるのを通り越して力が抜けてしまったらしい。
「もう!あんたはー。定期はもう一つあるからいいとして、その中に入ってる写真と手紙は一枚しかないんでしょう?
それまで落としちゃって。前にも落として泣きながら私の所に来たのは麻衣子なんだからね!
大切な物なら肌身はなさずもってなさい!」

そう言われて麻衣子ははっとし、素早い動作で定期入れの中身を確認し始めた。
中には「香坂さんへ」と書かれている折りたたまれた手紙と、制服を着て立っている男性の写真の切れ端が入っていた。
「、、、、あった。」
麻衣子はほっと胸をなで下ろした。
それを見て、陽子が言う。
「もうすぐでしょ?この町に帰ってくる日。あんたのだーいすきなか・れ・が。」
麻衣子は顔を一気に真っ赤にして、コクンとうなずく。
陽子はさらに追い討ちを掛けるようにおちょくり始めた。
「もしかしたら今日かもよ?麻衣子の愛しの王子様が白馬に乗って迎えにくるの。」
すると陽子は片膝を床にゆき、片手を前に差し出した。
「ああっ。僕の愛しい麻衣子。今帰ってきたよ!」
まあ、要は簡単な独り芝居を始めた訳だ。
麻衣子はその陽子の決して上手とは言えない芝居を見ながらお腹を抱えて笑っていた。
「もう陽子ちゃん。へんな事しないでー。お腹が、、、、お腹痛い!それに彼はそんな人じゃないわよー。」
こうなるともう止まらない。笑いのツボにはまってしまった。ヒーヒーいって笑っている麻衣子を見て
「元気でた?麻衣子。あんた最近元気なかったから心配してたんだよ。
確かに彼に会えなくて寂しいのはわかるけどね。」

麻衣子は笑うのを止め、陽子に「ありがとう」と礼をいった。
「じゃ、あたし行くね!これからサークルなんだ。とにかく元気だしなよ。そんな顔の麻衣子、彼も見たくないはずだよ。
わかった?」

麻衣子はもう一言「ありがとう」そう言った。



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