coelacanth


「公園課の高橋という者ですが。市民から通報がありましてね、、、」

。。。当局のお咎めがあるかも知れないとは少しは思っていたが、とうとう来るべき日が来たようである。

「公園の木を切っている男がいると通報があったのでね。ちょっと話を聞かせてもらいましょうか。ははぁ。これねぇ。ま、とりあえず現場を見てみますから。しっかしねぇ。罪悪感ってーもんはないんかねぇ。」

私が全く動じていないのが不満な様子で半ば非難するように、半ば独り言のようにいろいろ言う。私は心の中では「何が罪悪感だ、ふざけやがって。こちとら貴重な昆虫の住処になりそうな朽ち木があちこちの公園で景観保護等という馬鹿な理由でゴミとして伐採して捨てられて来ているのをいくつも見ているんだ。罪悪感というならそっちの方が持って当然と言いたい所だ。(と役人に向かって言うのも実は気の毒で、そもそも虫や落ち葉や朽ち木のことなんか金輪際理解しようとせずにゴミ扱いする住人が悪いのである)」と思っているから全然平気なのだが、そんな態度で食ってかかるのではただの馬鹿だからもちろんニコニコ、あるいは平身低頭、面従腹背、

「いやー、完全に枯れた木なもんですからねぇ。落ち葉やゴミを掃除するのと大差ないかなーなんて思いましてね。」

などと応じている。

「そういうわけにはいかんだろう。この切ったブロックだってほんと言えば戻してもらいたい位だ。(そりゃちょっと無理だねぇ、前に持ってっちゃった部分もあるし、、、)。枯れ木だって一応公園の所有物なんだから。所有者がいるとは思わなかった?」

「いやーそう言われましてもねぇ。どこに相談したもんかもよくわからなかったし、あくまでゴミをかたずけるようなものだと思ってましたもので。」

車から離れ、そろそろ現場に着いて木を眺めつつ、

「いやーしかし無許可でこういう事やってもらっちゃ困るなー。まぁ確かに現場を見ると枯れてはいるけど、ここへ来るまでは窃盗犯として訴える事も考えていたんだけどね。」

「いやーそうですかぁ、そこまではちょっと考えてみなかったものですから(ほんとは考えていた)」

「それにこれ、この切り口もこういう風にしといてみっともないとか何とか、何とも思わないの?」

「はぁ別に、、、(そんなしょーもない事よりこの100万円級の貴重さがわからんかなぁ、、、わかるわけないが)」

「こんなのどうすんの。ボロボロで彫刻に使えるとかでもないでしょうに。」

「いやー実は趣味でクワガタを飼ってましてね。この朽ち木は産卵木として最高の状態なんですよ。それを市の方ではどうせゴミとしてかたずけちゃうでしょうけど、それはあまりにももったいないなーっていつも思うんですよね。」

「へー。そういうもんかね。まぁ私も趣味がないわけじゃないから気持ちはわかるけどやっぱり無許可じゃまずいでしょ。」

「では許可を取ってなんとかできないでしょうかね?」

んーむなんだかこっちのペースに巻き込んでいるようだ。

「んーそれじゃぁねぇ。かくかくしかじか、、(書くべき事柄について教えて頂く)、、の文書を2部、公園課に提出してもらって、、、切るんだったらちゃんと根本の方からきれいに切って云々かんぬん、(いろいろと説明)、、」

「はい、わかりました。では明日にも早速提出に伺いますので。どうもご足労頂いてしまって申し訳ありませんでした。」

というわけで許可申請を出す事になった。家に帰って早速文書を作成し明日に備えた。 翌日提出したものの全文は以下の通りである。事情により固有名詞等は架空のものに変更してあるが。



平成9年11月25日

夜鷹市公園課課長殿

椎羅漢須


榎木魔似亜公園の枯れ木伐採許可のお願い


榎木魔似亜公園脇のエノキの枯死したものを一部伐採、採取させて頂きたく、公園課の許可をお願いいたします。現場のエノキは数本の巨木が重なって生えているものですが、中心の一本を残して完全に枯死しており、朽ちて散らばるばかりとなっています。放置しておけばいずれは市の方でゴミとして伐採、撤去されるものと思われますが、この枯死木は私の趣味であるところのクワガタムシの産卵木としてこれ以上ない程の最上の状態になっており、是非とも採取させて頂きたくお願いするものです。採取にあたっては植え込みを踏み荒らさないよう、また現場にゴミなどを散らかさないよう注意すると共に樹木の生きている部分に傷をつけないように最善の努力をし、枯死部分もきれいに取り去って景観が損なわれないようにするつもりです。よろしくお願いいたします。


夜鷹市藪蛇町1−2−3 電話12−3456

署名捺印




我ながらなかなかの名文だ。翌朝9時、この書類を携えて単身市庁舎に乗り込んだ。


入り口から受付を経て5Fの「緑と公園課」へ到着。書類を提出したい旨を告げると係りの人は「ああ、事情は課長から聞いています。少々お待ち下さい。」と言って書類を2部とも持って引っ込んでしまった。さぁどうなるのだろう。これまでの行為に対して注意やお咎め、あるいは始末書。結局許可が出なかったらどう抗議しようか、、、、何時間かかるだろう。あるいは後日改めて許可が来るのか。。。。等と考えながら待った。

私の心配は全て杞憂だった。ものの数分で、職員の人が戻って来て書類の片方を返しながら言う。「ではこれ承りましたので、伐採する時にはこれを携帯して、誰かに何か言われたら見せて下さい。無許可ではこういう事はなさらないようにお願いします。」

「あ、はいはい。どうもお世話になりました。」

書類に市の受領印のついたものを受け取った。うーむ、あまりにあっさりしている。拍子抜けだ。第一、実行日についてうだうだ取り決めたりしなければならないかという心配もまるで不要だった。ひょっとして未来永劫有効な許可証だろうか?(そんなわけはないが有効期限もなんも書いていない。受け付けた日付だけだ)役所というものがこんなに融通が効くとは考えた事もなかった。しかし案外先に中途半端に削ってしまった実力行使が効いていて、もう徹底的にやらせるしかないと思わせたのが効いたのではないかという気もしている。もし無傷な時に申請すると、現場の視察を面倒がったり、わざわざそんな許可出すメリットがないのなんのと、、、勘ぐり過ぎだろうか?それで不許可だったら全く藪蛇になってしまうというのがまぁ勝手に始めてしまった大きな理由だ。それにしても役所がこんなに親切だとほんとにありがたい。とりあえず訴えに勝ったという事で記念にこんなものを撮影しておいた。どこまでも馬鹿である。


さぁ、こうして葵の紋所を入手してしまえば、怖いものはない。こうなると良くしたもので、幼稚園の子供友達経由の妻の友達で植木屋さんがいて、なんとエンジン式のチェーンソーまで借りれる事になったのである。正に鬼に金棒に原子爆弾状態である。こうしてすぐに第5次エノキカッパギツアーが告知され、土曜が雨だったので11/30に都合のついた懐かしのT隊員(現在ではタカさん)及び、先週に続いての登場となったK.Suzuki氏を引き連れ、徹底的なカッパギが行われた。1時集合だったが、K.Suzuki氏はやや遅れ、なんだかんだで現地でカッパギを開始したのは2時頃になってしまった。




チェーンソーは初めて使ったので、始めはよく分からず、チェーンが外れたり安全装置が入って動かなくなってわからなかったりと悪戦苦闘したが、同時に借りていた刃渡りの長い鋸もかなり強力で、作業はかなりはかどった。どうにもならないのでチェーンソーについてはもう一度借りた家に取り扱いの指導を受けに行き、それからは無事に使いこなす事ができた。チェーンソーはさすがに素晴らしく強力だ。相手が朽ち木なので特に柔らかく、刃を入れるとまるでケーキを切るように気持ち良くブィーンと食い込んでいくのだ。あっという間に100キロ以上にも及ぶと思われる良質のエノキ材を切り出し、お持ち帰り用に細分した。もっともタカさんもK.Suzuki氏も持ち帰る量に限度があり、役所との約束上残った材やフレークは全て私が引き取り、以前から備蓄してあったものと合わせると自宅の在庫も100kgにも及ぶ事態となった。

K.S氏は「いやー許可を持ってるとなると誰かに見せたくなりますよね。誰か何してんのか聞いてくれませんかね?」などとはしゃいでいる。しょうがない奴だ。しかし実は私も全く同じ気持ちだった。実際その後、興味深そうに見ていたおじさんに何をしているのか尋ねられた時には、「こういうわけなんですよ」などと格好付けて微笑みながら許可証を見せてしまった。なるほどねぇ、というわけで少し話し込んでしまったが、どうもこのエノキは数十年前に落雷で上部が折れ、枯れたものであるという事をこの時教わった。上が折れている原因がわかった。それにしてもそんなに年月をかけてこのカワラタケははびこったのか!?




こうして大量の素晴らしい材をそれぞれ持ち帰ってツアーは無事終了したが、開始予定1時だったのがK.Suzuki氏の遅刻やチェーンソーの扱いのもたつきなどで遅れ、もう暗くなってしまったので、切ったエノキの最も根本部分あと50cm位の台の部分は今回は諦めた。更にすごい事にこれでもまだたったの1本切っただけで、右側の巨大な1本や後ろ側はまだまだ全く手付かずなのだ。後日すぐにK.S氏から「次はいつやりますか?来週の予定は、、、」などとメールが来たが、ちょっと待て!もう置き場所がないからといって余った分は全部俺が引き受けて裏庭にストックしてあるというのにこれ以上採取してどうすんだ!そう指摘したメールに来た返事は、「いやーそうですよね、全く何も考えていない馬鹿だという事がばれてしまいました。全く反省してませーん。でも初めて使ったチェーンソーがあまりに楽しくて、、、」。うーむ困った奴だ。こういう輩がアイスホッケーのお面を被って夏のキャンプ場にチェーンソーを持って乗り込むのに違いない(全然違うぞ!)。