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4 煙草

普通の少年同様、私も父の煙草が大嫌いで、あんな馬鹿げたものは一生吸わないと固く誓っていた。それでも結局吸うようになってしまったのだから全く馬鹿げいる。小学生の頃に父がふざけて「吸ってみろ」とかいって吸わされ、当然ゲホゲしただけで益々吸う気にはなれなかったがこれが功を奏して20歳位までは全く吸わなかった。

それがなんでまた結局吸ってしまったのかというと、情けない話だが男に振られた女が吸い始めるのと同じで女に振られたからだ。まぁそういう時には精神状態がヤケクソになっているわけで、健康に悪くたってむしろそれで死んでしまえたら本望位な気分になっているわけだから、そんなことは全く障害にならない。ちょっと吸ってみてクラクラする程度のアホ臭い気分転換の為につい吸い始める。

で、これがしっかりとやめられなくなるのだから全く麻薬というのは困ったもんだ。止められなくなるほど吸う様にはなるまいと思ってから毎日2箱吸うまでには2年もかからない。何をするのも確信犯がいいという私は、やれ軽いだの害が少ないだのは気にするだけ馬鹿馬鹿しいし、周りに気遣って吸う位ならそもそも吸うな、という訳で味的に選んだ峰ばかりを傍若無人に吸うようになっていた。

煙草とか麻薬というのは困った事に、最初は気分転換になってもだんだん慣れてきて結局は「吸うと気分がいい」からひたすら「吸わないと不快」に移行する。愛煙家は煙草の効能を一生懸命訴えるがそんなものはない。禁断症状でまず不快にしておいてそこで吸うと極めて気分がいい、というのは私は効能とは認めない。煙草にもし本当になんらかの効能があるとしたら非喫煙者は全部能力を発揮しきっていない馬鹿だという結論になってしまう。本当の馬鹿はもちろん喫煙者の方である。

さて、そのうちいつか止めようとは思っていたが何度も止めようとしては癖になってしまい、しまいには「禁煙なんか簡単だ、俺はもう何度もやったぜ」ってな事になるので禁煙は一生に一度と決めていた。その機会はやはり結婚して子供ができたからだった。妻も喫煙者だったがつわりでそもそも吸えなくなり、それをきっかけについでに妻の誕生日だったのでその前日までは2箱、決行日以来もう9年間全く1本も吸っていない。妊婦やガキに気を使って吸うなんてのはまっぴらだ。止めた今は
他人の喫煙も気にならないし、禁煙地帯もへっちゃらという極楽状態になっている。

止めるのは簡単だ。吸わなければいいだけだ(笑)。冗談はさておき、最初の数日は本当につらい。そこで私は会社は1週間程休み、その間とにかく煙草を止める事に専念した。もう「人を殺すか禁煙を中断するか」という究極の選択なら人を殺す、位の覚悟でやる事が肝心だ。なんだかんだ理由を付けてくじけるものであるから、一切の弁明も抜き。周りに煙草を置いておくなんてやり方は駄目だ。私は吸いたくなったら酒を飲む、またしばらくして飲む、そのうち寝てしまう、というようなぐうた
らな生活をしてつらい時期をのりきり禁煙に成功した。そのかわりすっかりアル中になってしまった。





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