思えば短い人生だった …
幸せだったかどうかなんて よくわからない。
友達もあまりいないし…彼女なんていたこともない。
ただ … 叶えたい夢はあった。
どうしても
叶えたい夢が …
6/8 エバひな 第一話
〜ようこそ!またたび荘へ:D〜
「 うっ … 」
暗闇の中で、襲い掛かってくる赤い髪の少女や
ぬらりと光る日本刀にうなされていたシンジは
ひんやりと冷たいタオルの感触で意識を取り戻した。
「 あ!気がついたみたい! 」
まぶしい光に 薄く目を開けると、
そこには廊下ですれ違った
そばかす少女の心配そうな顔があった。
「 ごめんなさい … 大丈夫ですか? 」
冷たい水で冷やしたタオルが
頬に当たるのが心地良い。
「 ホント、 あんた達は
加減ってもんを知らないんだから。
いくら特別な身分とは言え …
しまいには傷害罪でつかまっちゃうわよ? 」
「 せ、正当防衛よ! 」
「 …… そうです。 」
何やら声が聞こえる。
目が慣れてくると …
部屋の中に 自分を取り囲むようにして
先ほどの女性達の姿が見えて来た。
どうやらシンジはあの時、
水色の髪の少女の攻撃(?)により
完全にノックアウトされてしまったようだ。
「 あの … 」
何よりも、まずは事情を説明して
誤解を解かねばならない。
「 先ほどはすみませんでした。
… その … お騒がせして。 」
布団から起き上がると、
彼は申し訳なさそうに頭を下げた。
「 僕は … 碇 シンジと言います。 」
「 碇? 」
すると、先ほど“ミサト”と呼ばれていた
黒髪の女性が 驚いたような声を出した。
「 あの ・・ 何か? 」
「 んにゃ、なんでもない。 … それで?」
うながされて、シンジは改めて
自分がこの旅館へやって来た理由。
そして 赤い髪の少女に追いかけられた
時の事などを 細かく説明した。
その結果 …
「「 なるほど … 」」
信頼 … とまでは行かないが、
とりあえず誤解を解く事には成功したようだ。
ただ … 赤い髪の少女だけは
不機嫌そうに ふんと鼻を鳴らしている。
「 けど … シンジ君は
リツコとは どういう関係なの? 」
この中では一番の年上であろう
ミサトと言う女性が、興味ありげに聞いた。
「 親戚か何か? それとも … 」
「 いえ ・・ 親戚じゃありません。
リツコおばさんは ・・ 前に
僕の家に遊びに来ていて …
僕が小さい頃に よく面倒を見てくれたんです。 」
どことなく照れくさくてシンジは頭を掻く。
… しかし
「 ふん! … 怪しいわね …
適当な事言って
ここに潜り込もうとしたんじゃないの!? 」
裸を見られたのが 偶然とは言え
よほど腹に据えかねているらしく、
黄色いタンクトップに着替えた 赤い髪の少女は
やたらとシンジに突っかかってくる。
「 う、嘘じゃないよ! 」
「 どーだか!
だいたいね! ここは旅館じゃなくて
女子りょ … 」
「 アスカ! 」
突然、ヒカリが たしなめるように
彼女の言葉を鋭く遮った。
同時に 赤い髪の少女は
“しまった” と言う顔で舌をペロッと出した。
どうやら この少女は “アスカ” と言う名前らしい…。
けれど シンジにはそんな事よりも
今 アスカが言おうとした言葉のほうが気になった。
「 あの …
ここは旅館じゃないんですか? 」
シンジの問に、
女性達は一瞬困ったような表情を浮かべたが
ミサトと言う女性が 観念したように口を開いた。
「 … それは昔の話。
今はね … 女子寮なの。 」
「 じょ ・・ 女子寮!? 」
確かにリツコおばさんから旅館の話を聞いたのは
彼がまだ小さかった頃の事だ。
しかし よりにもよって 女子寮とは …
これでは 男であるシンジが
“泊まる” “泊まらない” の話ではない。
結局無駄骨だったと言うわけだ。
「 … そうなんですか …
でも … 一体、何の寮なんですか?
学校とか … 」
シンジは 当然の疑問を口にしたつもりだったのが、
「 残念だけど、
それは国家秘密なの♪ 」
ミサトはいたずらっぽく笑いながら
彼にウインクをひとつ。
「 … は … はぁ … 」
女性に免疫力がまったくないシンジは
顔を赤らめて、あっさりと誤魔化されてしまう。
「 …… 」
そんな彼を横目で見て、
ハカマ姿の 水色の髪の少女が
ピクリと 眉を動かした。
「 … で? これから こいつ、
どーする気? ミサト 」
腕組みしているアスカは
シンジを見下ろしながらそう言った。
自分とたいして歳も変わらぬ少女に
“こいつ” 呼ばわりされて 温厚なシンジも
ムカッと来るが、 女子寮に入り込んだ男で
ある事には変わりないので グッと我慢である。
「 どうするも何も …
リツコが帰って来てくれないと話にならないわ。
この寮の事は私が勝手に決めるわけにもいかないし。 」
どうやら リツコおばさんは女子寮になっても
ここのオーナーである事には変わりないようだ。
( リツコおばさんに会えれば …
もしかしたら何とかなるかもしれないな … )
シンジがそんな事を考え始めた時、
廊下から突然、けたたましいベルの音が鳴り響いた。
ジリリリリ!! ジリリリリ!!
その途端、
その場にいた女性達の表情が引き締まった。
「 え? 」
シンジが不安気な声を漏らす。
「 噂をすれば なんとやら … かしらね。 」
ミサトは面倒臭そうにつぶやき …
他の女性達も、皆 立ち上がった。
「 なんなんですか? … このベルは 」
一人だけわけのわからないシンジが
キョロキョロとあたりを見回す。
「 電話よ、電話。 」
ジリリリリ!! ジリリリリ!!
本当に電話 … なのだろうか?
今の時代に こんな音の電話など
シンジは聞いたことがないのだが。
いや、そんな事よりも …
「 あの … 誰か出ないんですか? 」
シンジはまたしても当然の疑問を口にしたのだが…
彼女達はその問には答えず、
お互いの顔を見合って 何事か、深く頷いた。
・
・
「 ちょっ! なんなんですか!これは! 」
約一分後 …
部屋には ロープで椅子ごと
ぐるぐる巻きに 縛り付けられたシンジの姿があった。
「 や、やめてください! どうしてこんな!? 」
シンジはロープを解こうと、
もがき、暴れ始めたが …
「 … 大人しくして 」
「 ひっ! 」
水色の髪の少女に
日本刀を首筋につきつけられ、なすすべなし。
「 ごめん、シンジ君。
ちょっち悪いんだけど ・・
私たち出かけてくるから、
しばらく留守番しててね ♪ 」
そんな彼に ミサトは楽しげにそう言い、
ヒカリという少女も
すまなそうな顔で ごめんなさいと頭を下げた。
「 その間、この寮の中を
あんまりウロウロされると困るのよ。 」
アスカは冷ややかな目で
椅子に縛り付けられたシンジを見下ろした。
「 待ってください!! 僕は! 」
シンジの叫び声もむなしく、
よほど重要な予定でもあるのか?
女性達は何やら足早に部屋を出て行ってしまった。
「 …… 」
一人さびしく部屋に残されたシンジは、
突然の出来事に 言葉も出ない。
しばらく泊めてもらおうと、
おばさんの旅館を訪ねただけなのに、
どうしてこんな所で、まるで誘拐された
犠牲者のような格好をしていなくては
ならないのだろうか?
「 …… あ … 」
混乱していた頭の中を
落ち着かせようとしていたシンジだったが、
ふいに引き戸が開いて、先ほどのアスカ
と言う 赤い髪の少女が一人で現れた。
「 あれ … 出かけたんじゃ … 」
つぶやくシンジに ツカツカと歩み寄ると、
アスカはグッと 身動きの取れない彼に
顔を近づけた。
「 言い忘れたけど …
あんた … さっき見た事、
全部忘れなさいよ 」
少女とは思えぬ迫力に、
シンジはたじろぐ。
「 忘れないと殺すわよ。 」
「 そ … そんな … 」
可愛い顔してとんでもない事を言う。
… それに、逆にそんな事を言われると
先ほどの記憶を鮮明に思い出してしまう。
女性の裸はもちろんだが、
恋人など いたためしのないシンジは、
生まれてこの方 自分と歳の変わらない
女の子のオールヌードなど …
もちろん見た事がなかった。
( …… )
今は触れ合うほど近い彼女を
あらためて意識してしまう。
ほのかに香る石鹸の匂い …
日本人的な可愛い顔立ちの中で
一際印象的な 美しい青い瞳。
この寮にいた女性達はみな綺麗だったが、
この少女はその中でも一際美人である。
「 ちょっと!
聞いてんの!アンタ! 」
思わずボーっと見とれていたシンジは、
「 わ ・・ 忘れたよ! 忘れた! うん! 」
慌てて何度も頷いた。
… もちろん大嘘である。
ほんの一瞬の出来事だったのに
脳裏に焼き付いて離れない。
それほどまでに
この 少女の裸は
なんというか …
その …
「 ごくっ … 」
悲しい男のサガかと言うべきか、
思い出して再び頭のてっぺんまで赤くなった彼は、
思わず喉を鳴らした。
バチン!!
平手打ち一発で済んだ事を
喜ぶべきである。
・
・
「 … いったい何なんだよ …
… ここ … 」
頬に大きな モジミの跡。
テレビしかない広い部屋の真中で
縛り付けられた椅子ごと 床に倒れたまま…
シンジは呆然と溜息をついた。
つづく