すべての始まりは
1995年に始まった、
大規模な 『 南極調査計画 』 にあった。
オゾン層破壊による環境汚染の調査や
北極や南極に落ちた 太古の隕石内部から
見つかる 地球外の小さな生命体の捜索。
人々の夢や浪漫… そしてフロンティアスピリットを
大いに刺激する宣伝をぶち上げ、
資金を得た二人の日本人科学者が
大勢のスタッフを引き連れ地球の果てへと飛び立った。
… しかし
期待はずれと言うべきか、
パッとする発見も無いまま終わるかと
思われたこの計画は、
調査開始から約4年後の
1999年 …
誰もが予想すらしなかった …
そう、 今から思えば
“見つけてはいけなかった” あるモノを …
分厚い氷の下から
偶然 発見してしまったのだった。
6/15 エバひな 第一話
〜ようこそ!またたび荘へ:E〜
「 ぐ … ぐぎ …
あ、あと … もーちょい … 」
椅子にロープで縛り付けられたまま、
シンジは足を必死に伸ばして
床に落ちている テレビのリモコンを引き寄せる。
「 く … くそっ … 」
先ほどから格闘しているのだが
靴下がすべって どうも上手くいかない。
助けを求めようにも
シンジをグルグル巻きにした あの女性達は
本当にどこかへ行ってしまったらしく …
いつまで待っても誰も帰ってくる気配がなかった。
かと言って この “またたび荘” から出る事もできず、
他に何もする事がないので シンジは仕方なく
テレビでも見ようと … 先ほどから情けない
『 リモコンとの格闘 』 をしていたのである。
・
・
<< では 本日最初のニュースです … >>
「 ふひぃ〜 … やっととれた … 」
足の指で器用にリモコンボタンを押すと
どうにかテレビがついた。
シンジはしばらく グッタリと疲れきった様子で
その画面を眺めていたのだが …
<< 先ほどの緊急情報にもありました通り、
本日正午過ぎ、 カミングスーンが放送されました >>
画面がニュース映像に切り替わると
途端に真剣な表情になり …
食い入るようにブラウン管を見つめた。
<< 今回のカミングスーンは 東京都 千代田区でした。
まずはその様子をご覧ください。 >>
落ち着いた中年のアナウンサーの声と供に、
画面が切り替わり VTRが流れ始めた。
「 言いか!よく聞け!!
愚かなる人間どもよ!! 」
凄まじい内容の叫びと供に画面に登場したのは
なんともド派手な衣装を着た 若い女性である。
色とりどりに染められた髪は逆立ち、
顔には赤や黄色や青のペインティング。
衣装はキワドイSFチックなボンテージ。
まるで大昔に流行った ビジュアル系ロックバンドの
ステージ衣装そのままである。
「 本日 夕方の4時!
我が霧島軍は
この練馬へ侵攻する! 」
高いビルの屋上で撮影されたのであろう …
その ド派手な女性は、
まるでこの世の支配者のような演説口調で叫び、
眼下に広がる 練馬の街を見下ろした。
「 命の惜しい者は
即刻立ち去るが良い!!
逃げ惑え!
恐怖に震えるのだ!
愚民どもよ! 」
彼女の演説は 身振り手振りを加えて
ますますヒートアップしてゆく。
まるで 自分の演説に
自分で酔っているかのようだ。
<< このように、今回の襲撃予告は練馬となりました。
このカミングスーンの後、 練馬から郊外へ向かう
道路はのきなみ混雑しており … 現在 >>
悪魔の帝王のような演説から
落ち着いたアナウンサーに切り替わり
「 今回は練馬か … 」
シンジは 小さくつぶやいた。
・
・
南極へ調査に向かった日本人は
霧島博士(きりしまはかせ)と
六文儀博士(ろくぶんぎはかせ) の二人だった
互いに助け合い、励ましあい …
極寒の地で 供に調査を続けていた
仲の良い二人の博士は、
1999年 … 分厚い氷の下の陸地に
とんでもないものを見つけてしまった。
それは 今までのどんな歴史の教科書にも
登場していない 未知の文明の遺跡だった。
見たこともない彫刻。
見たこともない様式の建物。
想像を絶する 大昔の巨大な街が
氷の中で 静かに眠っていたのだ。
調査団は皆 その素晴らしい光景に息をのんだ。
雪と氷の 極寒の世界は
逆に盗掘から この遺跡を守り …
ほぼ完全なカタチで
古代の街がそこには埋もれていたのだ。
… まさに世紀の大発見 …
科学者としての感動に打ち震えながら
二人の博士は その大発見を発表する事も忘れ、
遺跡の調査に夢中になった。
しかし、その街に眠っていたのは
芸術品や文化的遺産だけではなかったのだ。
調査を進めるにつれ、
次々と見つかる 不可思議な産物。
重力に逆らって宙に浮いている球体。
永遠に熱を持ちつづける泉の水。
銀河の星々の動きを
完全にシミュレートしている立体宇宙地図。
オーパーツ(OOPRTS:場違いな工芸品)
どころの騒ぎではない。 現代の科学ですら
到底作り出せないような作品がそこにあったのだ。
「 … ここは 神の街だ … 」
調査団の誰もがそう呟き、
自分たちよりも遥かに高度な文明に魅了された。
… そして
ついに二人の博士は 古代の神殿とおぼしき
大きな建物の中で、
見上げるほど大きな 人間が乗るための
巨大なロボット達を発見したのである。
…
その科学力は まさに驚異的だった。
遺跡に残されたモノはもちろんだが、
それに使われた科学技術を調べ、
自分のものにするだけで …
見当もつかない富や名声が得られるだろう。
いや、このロボット達を使えば
世界をすべて 自分の意のままにする事も
夢ではないかもしれない。
政治家でもなければ 軍人でもない
二人の科学者は、いつしかそんな事を考えるようになった。
そして …
「 この力は、
使い方を誤れば この世を滅ぼす事になる。 」
そう 確信を持った時、
霧島博士と六文儀博士。
二人の博士の間に 大きな亀裂が生じたのだった。
・
・
午後 4時 …
日の光も 段々とオレンジ色に変わって来た。
住民の消えた練馬の街は
息を潜めたように 静まり返っている。
そんな街の中、ビルの群れに紛れるように…
二つの巨大なシルエットが見える。
<< お茶の間の皆様、
ご覧いただけますでしょうか!?
我々報道陣は 規則により
これ以上近寄ることはできませんが、
夕日に照らされた
ネルフの二体の秘密兵器の姿を! >>
興奮した口調で喋るレポーターの声。
依然として 椅子にしばりつけられたまま
シンジはテレビを見つめている。
ブラウン管に映し出されているのは、
赤と青の … 人間と同じようなフォルムをした
巨大なロボットであった。
<< 今回の霧島軍は いったいどのような兵器で
戦いを挑んで来るのでしょう!?
そして ネルフは練馬を守ることができるのでしょうか?
街への被害も含めて、注目していきましょう! >>
レポーターの声が終わるやいなや、
「 はーっはっはっは!!
毎度のことながら
ご苦労だな!ネルフ! 」
静まり返った街に 高らかな女の笑い声が響いた。
声の主をレンズに写そうと、
カメラマンがあたりを探り …
一際高いビルの屋上に画面がズームした。
「 よく聞け!
神に逆らう愚かなる者どもよ!! 」
声の主は 先ほどの予告VTRに登場していた
あの ケバケバの女だ。
「 確かに前回は我々が負けた。
だがしかし!!
今回の我々は一味違うぞ!!
逃げるなら今のうちだ!! 」
彼女は陶酔しきった顔で叫ぶと、
夕日に向かって大きく手を振り上げた。
「 いでよ! 神の子! 」
その声とともに、
ゴオオオ・・ン!!!
両脇のビルがなぎ倒され …
巨大な シルエットが二体現れた。
ネルフの秘密兵器と同じような大きさだが、
人型のロボットであるネルフとは違い
シッポやツノのある 怪獣のようなロボットだ。
「 やれ!!
あの 赤と青のロボットを破壊するのだ!! 」
「 ゴアアア!! 」
咆哮にも似た轟音とともに
二体の怪獣はネルフのロボットへと襲い掛かかった。
・
・
ある意味で
霧島博士の抱いた懸念は
正しかったと言える。
遺跡発見から 約10年後の今年、
2009年の春。
霧島博士を総帥とした
世界征服をもくろむ 霧島軍と
国連の全面的な協力の元
六文儀博士を長官として創設された
特務機関ネルフの
文字通り世界を二分化する戦争は
終結のあてもないまま続いていた。
つづく