「 シンちゃんさぁ・・
・・・・・・・
・・・私のこと、
・・・
どう思ってる? 」
「 ・・え・・ 」
きつねにつままれたような 顔のシンジに
ミサトがにっこりと笑いかけた。
「 な ・・・ なんですか?
・・・ い、 いきなり ・・ 」
思ってもみなかったミサトの質問に、
シンジはうろたえた。
「 ちょっと聞いてみたかっただけよ〜
ね、・・・・
シンちゃんにとって 私ってなあに? 」
興味津々といった顔で ミサトが聞くが、
「 な・・なぁにって ・・ いわれても・・
・・・・よく・・・・わからない・・・・です・・・」
シンジはうつむいてしまった。
しかし、
そんなシンジを ミサトは楽しそうにながめつつ・・
「 ん〜っと・・・
優しくて綺麗なお姉さん? 」
「 ・・・・え?・・・・・」
「 違う?
そいじゃー・・・ あ!もしかして〜〜
大好きな 憧れの人とか!?」
「 な、な、なんでそうなるんですか!」
からかわれていると分かっているのに、
顔が赤くなってしまう。
「 え〜 違うの?
残念だな〜・・」
「 ・・・・・ 」
赤い顔で困っているシンジを
ミサトはニヤニヤと 楽しそうに見ている。
その後も 少しの間、
シンジをからかっていたミサトだが、
ふいに ふざけた表情をやめると
・・ 彼に優しく 笑いかけた。
「 それじゃ・・・さ・・
・・・
・・・・・お母さん・・・・ってのは どう? 」
「 え? 」
それは、
シンジにとって・・
思っても無い言葉だった。
素敵な日曜日 :後編
「 ・・・ 駄目かな? ・・・・ 」
シンジの瞳を見つめながら
ミサトはすこし 首をかしげる。
「 ・・・・・・ 」
「 そうね ・・ お母さんって 感じじゃないわよね・・
・・・ 私は ・・・ へへへ ・・・・ 」
とりつくろうように 苦笑いをするミサトに、
シンジは小さく言った。
「 お母さんって・・・
その・・・
家とかで・・いつもどんな感じなのか・・・
僕は・・知りません・・ 」
「 ・・ あ ・・ 」
シンジの母親は
もう この世にいない。
“母親という感じ” と言われても
彼にはピンとこない。
「 ・・ ごめん ・・
・・・・ シンちゃん ・・・ 」
「 あ ・・・ ち、違うんです
・・・そんなつもりじゃ・・」
すまそうに謝るミサトに
シンジは慌てて答えた。
「 ・・・・・ 」
「 ・・・・・・・・・・ 」
「 ・・・ミサトさんは・・ 」
「 ・・え?・・ 」
「 ミサトさんは・・・ミサトさんです・・
他の・・なにものでも・・ないです・・・・」
シンジの言葉に、
ミサトの心は 熱くなった。
「 そっか・・
・・・ そうだね ・・・」
「 ・・・ 」
「 私だって シンちゃんが 自分にとってなんなのかって・・
そう聞かれたら 困っちゃうもの・・ 」
ミサトは今日の夕食の時の
友人達の質問を思い出しながら、
にっこりと笑った。
・
・
「 ねぇ・・シンちゃん・・」
しばしの沈黙の後・・ ミサトが口を開いた。
「 ・・・なんですか? 」
また なにか変な事を言い出すんじゃないかと
シンジは身構える。
すると・・
「 シンちゃんの思う お母さんって・・
どんな感じ? 」
ミサトは やさしく声で聞いた。
「 ・・・僕の・・ 」
「 そう・・
お母さんって言われたら・・どんなこと 想像する? 」
「 ・・・う・・んっと・・・」
「 ・・・ 」
「 ・・・あ・・あの・・・ 」
「 うん・・・ 」
「 や、やさしくて・・」
「 ・・・うん・・・」
「 ・・・たまに・・・ し、叱ってくれたり・・・ 」
「 うん・・それで? 」
「 料理が上手で・・・ 」
「 料理? 」
意外な顔をしたミサトに
シンジは 小さく頷くと
「 え・・ええ・・・ その・・・
よく おふくろの味とか なんとか・・
言うじゃないですか・・」
「 うん・・・」
「 そういうの・・・食べた事なくて・・
いつか・・
食べてみたいな・・・・って・・ 」
「 シンジ君・・・」
ミサトの目が
とても優しい色になる。
「 ・・・ そ ・・ そのくらいです ・・ 」
「 ・・・そっかー ・・」
彼女は腕を組むと、
そのまま 考え込んだ。
( ん〜〜やさしくしてるし・・・
たまに叱ったりもしてるし・・・
・・・・料理・・・・料理ねぇ・・)
「 ど・・どうしたんですか? 」
急に難しい顔をした ミサトに、
シンジが心配顔で聞くが、
ミサトはぽんっ!と膝を叩くと、元気な声で
「 ん! よし!
明日のお弁当は 私が作ってあげる! 」
まさに名案!
といった感じだ。
「 え?・・・ええ!?
な・・・なんでですか! いきなり! 」
「 いーから いーから! 遠慮しないで!」
ミサトがひらひらと 手を振る。
「 い、いいですよ!別に!僕・・」
しかし、シンジが反論しようとした
その時・・
「 んもぉ ・・・ うるさいわねぇ ・・
・・・ 寝られないじゃないのよ ・・」
「 あ・・アスカ・・」
いつのまにか リビングの入り口に立っていた、
くしゃくしゃの髪の毛のアスカが
寝ぼけまなこで ふたりをにらんでいる。
「 あ・・ごっめーん! うるさかったわね・・」
ミサトの言葉に、
アスカは のそのそとリビングへ入ってくると、
そのまま シンジのとなりに 腰掛けた。
「 ったくぅ ・・・ なに騒いでんのよ
・・ 明日は早いんだから・・・ 」
しょぼしょぼする目で
二人を見るアスカ。
「 いや・・・その・・」
「 あ、ついでに アスカのお弁当も 作ってあげるわね!」
またまた名案!
とばかりに ミサトが言う。
「 ・・・ は? 」
眠い頭のまま、アスカが間の抜けた声をあげた。
「 明日のお弁当・・
ミサトさんが作るって言うんだよ・・」
そんな彼女に 隣のシンジが疲れたように言った。
「 ・・・・え・・・えええええ!?」
一気に眠気を吹き飛ばして、
アスカは驚きの声をあげた。
パーン!
パーン!!
青い空に、 火薬のはじける音が響く。
凄い歓声がわきあがり、 教室の中にいても熱気が伝わってくる。
「 アスカ! 障害物リレー出るんでしょ?がんばってね!」
バッグから タオルと弁当箱と 水筒を出していたアスカに
体育着に着替えたヒカリが 近づいてきた。
「 ん! まかしといてよ!」
自信まんまんといった顔で、アスカが言う。
「 そうよね〜 アスカ運動神経いいから・・ 」
「 へへ〜 このあたしがいれば 優勝なんてチョロイチョロイ!
さ、 グランド 行くわよ! ヒカリ。 」
言いながら アスカはタオルと水筒を持ち・・
弁当箱を持とうとした その顔に
どんよりとした 黒い線が走った。
「 ? どうしたの?アスカ・・」
「 ん・・・いや・・なんでもないわ・・ 」
「 お弁当? いつもいいわね、
好きな人のお弁当が食べられて! 」
教室にあまり人がいないからか、
ヒカリの大胆なセリフに アスカの顔が真っ赤になった。
「 ち、違うわよ! ば、バカな事いわないでよ!
・・・あいつは 別に・・・
料理くらいしかとりえがないから いーのよ!」
「 ムキになっちゃって〜 アスカは素直じゃないんだから 」
「 ヒカリ! 」
「 ふふ・・ 」
「 んもぅ・・
・・・でもね・・ 今日はシンジのお弁当じゃないのよ。 」
「 え? 違うの? 」
「 そ 」
「 もしかして・・・自分で作ったの? アスカ 」
「 ・・あ・・・あたしが そんなことするわけないでしょ?」
「 じゃあ・・・誰が?」
「 ・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・ミサトよ・・ 」
苦虫をつぶしたような顔のアスカ。
「 え? ミサトさんが作ってくれたの?
へ〜〜 いいなぁ〜 そーゆーの・・・」
「 よくないわよ!
ヒカリはあいつの料理を知らないから・・・」
「 え? 」
なんのことだかわからないヒカリは、
アスカに うらやましいような そんな視線を向けた。
「 でもさ、 なんか お母さんのお弁当って感じがするんじゃない?
アスカにとっては♪ 」
・
・
「 ほ・・ホントに作ったの! 」
朝の葛城家のリビングに アスカの悲痛な声がする。
ミサトが お弁当を作ってあげる宣言をした ちょうど5時間後。
アスカの前のテーブルには、
2つのお弁当箱が、すでに きちんと並んでいた。
「 言ったじゃない〜 作ってあげるって、
期待してて! とーっても おいしいからね!」
台所から、 長い髪を ポニーテールにして、エプロンをつけたミサトが
意気揚揚と現れた。
とてもうれしそうで、張り切っている彼女を見ていると、
『 怖いからいらない・・』 とか 『 シンジのほうが・・』
とは言えないアスカだった。
「 ・・・ 」
彼女がふと、テーブルにすでに座っているシンジを見ると、
彼は朝のスクランブルエッグとサラダを食べながら
今にも泣きそうな顔をしている。
「 シ・・・シンジ?・・・」
アスカが心配そうな声を出すと、
シンジではなく ミサトが
「 あ、そうそう ついでに今日は朝ご飯も私が作ってあげたから!
さめないうちに食べてねん! アスカ! 」
「 ・・・はぁ・・・」
アスカはうなだれて 席についた。
お弁当を作って 朝ご飯を作って・・
そんなことをやっていると、今日のミサトはすっかり 自分がこの二人の母親
みたいな気分になっていた。
「 ハンカチ持った? タオルは? 」
玄関で、 靴をはいている シンジとアスカに
ミサトはあれこれと 楽しそうに 注意する。
「 あーもー! うるさいわねー 大丈夫よ!」
「 それじゃあ 行ってきます ミサトさん 」
「 おっけー! いってらっさい!
私は 9時ごろ行けば いいのね?」
「 はい、確かそのはずです。」
「 ホントに来るの? あんた。」
「 あったりまえでしょー?
自慢の家の子たちの 晴れ舞台なんだから!
バッチシ応援してあげるわよ!」
ミサトはアスカにウインクする。
『家の子』 と言われて アスカはなんとなくうれしい気持ちになったが、
顔に出さないよう 気を付けながら 不機嫌な声を出した。
「 ま、 しっかり あたしの勇姿を見てなさいよ。」
「 行こうか?アスカ」
「 うん 」
「「 行ってきまーす 」」
「 がんばってね!」
こうして 二人は家を出た。
・
・
( お母さんの お弁当・・・ねぇ・・・ )
アスカは グラウンドに 体育座りをして、お弁当箱を見たまま、
複雑な表情をした。
「 どうしたの?アスカ・・・」
となりに座ったヒカリが 心配そうな声を出した。
「 う・・うん・・・なんでもないよ。」
アスカが 慌てて返事をする。
「 そう?・・・
あ、それより アスカ、 碇君の番だよ?」
ヒカリはそう言って グラウンドを 指差した。
「 え?・・・あ!ほんとだ!」
アスカが目をやると、シンジがちょうどスタートラインに立ったところだ。
どきどきどきどき・・
自分が走るわけでもないのに、アスカの鼓動は早くなってしまう。
「 位置についてー・・・・
よぉーーーーい ・・・」
パァン!!
ワアアアアアアアア!
迫力のある男子の徒競走だ。
歓声も今までで 最も凄い。
( シンジ! )
胸の前でぎゅっと手をむすんで、
アスカは ハラハラと シンジを視線で追う。
一緒に走っている人に あまり早い選手がいないせいなのか、
シンジは今のところ トップだ。
「 がんばれー! 碇君! がんばれーー!」
となりでは ヒカリが声をあげている。
「 ほらほら、 アスカ!応援応援!」
「 え・・え・・・でも・・」
シンジを応援したいのに、
なんだか恥ずかしいアスカは うろたえた。
ワアアアアアアアア!!
だが、
他のクラスの男子生徒が
どんどん シンジとの差は縮めている、
ついに二人は並んでしまった。
ズキッ!
アスカの胸に痛みが走る。
その途端、 アスカは思わず 立ちあがって叫んでいた。
「 シンジ!!がんばんなさいよ!!
負けたらしょうちしないわよ!」
「 あ・・・アスカ・・」
彼女の迫力に ヒカリは冷や汗を流した。
・
・
それと 時を同じくして、
ミサトも 家族の観覧席で 椅子に座って それを見ていた。
( お! お! トップじゃない! やるぅ〜 シンちゃん!)
ニコニコと 幸せそうに見ていたのだが、
どんどんと 追い上げてくる生徒の姿に
ミサトもだんだんと 腰を浮かせて 身をのりだし始めていた。
( あ! 並んじゃう! シンちゃん! )
と、 その時 となりから
「 和也ちゃーん! がんばってー! 」
ミサトがとなりを見ると、 ケバケバしい 厚化粧の太ったおばさんが
追い上げているその男の子に 黄色い声援を送っている。
どうやら あの子の 母親のようだ。
むっ!
「 シンちゃーーーん! がんばれえーー!!」
負けじと 声を張り上げるミサト。
むっ!
「 和也ちゃーん! 追いぬけーーー!」
すると そのおばさんも 声をあげる。
「 絶対 ぬかれちゃだめーーー! シンちゃん!!」
「 和也ー!!」
おばさんは 横目で キッ!と ミサトをにらんだ。
もちろん、ミサトも負けじと にらみかえす。
二人の闘いが 火花を散らした その時!
ワアアアアア!
大きな声援とともに シンジがゴールした。
「 よっしゃあ!! 」
思わずガッツポーズな ミサト。
「 くっ・・ 」
くやしそうな おばさんの声も手伝って
ミサトのうれしさは100倍だった。
・
・
それから 各種競技が行われ、
アスカが障害物リレーで ぶっちぎりで優勝したり、
レイがパン食い競争で なかなかパンが食べれなかったり
いろいろあったが、
あっという間に お昼ご飯の時間となった。
「 午後のメインは なんといっても借り物競争よね!」
パンフレットを見ながら、ミサトが言う。
「 ええ、 得点も一番大きいですから。」
となりに座ったヒカリが ミサトに言った。
シンジとアスカ
そして ヒカリとトウジは
ミサトも加えて まるくなって お弁当をひろげている。
「 えっと・・誰が出るんだっけ?」
ミサトの反対側のとなりに座っているシンジが
お弁当箱をあけながら、言うと・・
「 バカ! あんたでしょ!出るのは!」
アスカが答えた。
ちなみに ケンスケは 撮影係として かなり多忙なようで
お昼もたべずに そこらじゅうを走りまわっている。
「 そういやぁ ワイも出るんやったなぁ 」
シンジのとなりの トウジが言う。
得点の高い借り物競争は 各クラスから
2名が出て 競うのだ。
「 がんばってね、二人とも 」
ヒカリがにっこりと 笑った。
「 綾波は・・出ないの?」
ミサトの正面に座って、 サンドイッチをもぐもぐとしていたレイに
シンジが聞いた。
「 ・・・・旗もち・・・ 」
どうやら レイは うらかたなようである。
「 あ・・そ・・そう・・がんばってね・・」
・・・こくん・・・
「 せんせーには 負けられんなぁー 」
「 お手柔らかにたのむよ、 トウジ 」
運動神経の良いトウジに シンジがなさけなさそうに言った。
「 なんや、 シンジかって さっきの徒競走 一位やったやないか 見とったで?」
「 あ・・うん・・」
うれしいのだが、とても恥ずかしそうに シンジが答えた。
「 そうそう! シンちゃん! もう さいこーーにカッコよかったわ!」
興奮を思い出したミサトは
となりのシンジの頭のうしろに手をまわすと
ぐいっと 自分のほうへ引き寄せて 抱きしめた。
「 ミ・・ミサトさん!」
「 あー! せんせー!」
「 ちょ! ミサト! なにしてんのよ!」
「 もー シンちゃんのお姉さんで 良かったわ!私!」
誇り高い我が子を胸に抱いて、
ミサトはとてもご満悦だった。
・
・
( これより 午後の競技が始まります・・各選手は・・ )
あれから にぎやかにお昼ご飯を食べ、
食休みを終わり、
放送が流れはじめた。
「 よっしゃ! じゃあみんな がんばってきてね!」
ミサトはそういって 再び観覧席のほうへ 戻っていった。
シンジたちも
各々の位置へと 散っていったのだが・・
「 ・・・ 」
アスカは シンジのお弁当箱を見て、沈黙していた。
まあ、
前に食べた夕食よりは いくらかマシだったが、
それでも アスカにはミサト弁当を半分食べるのが精一杯だった・・・
だが、シンジのお弁当ばこは 綺麗に空だった。
「 ・・・うそ・・ 」
いくら運動して お腹がすいてるとはいえ・・
( シンジ・・・あんた 味覚おかしくなったんじゃないの?・・・ )
グラウンドのほうへ 歩いて行く 後姿を見ながら
アスカは心配そうに 胸の中でつぶやいた。
・
・
午後の競技も 着々と進み、
アスカが女子リレーでアンカーを務めて 見事一位だったり
レイが 二人三脚で シンジとペアで 幸せそうだったり
いろいろあったのだが、
遂には 最後の競技、 借り物競争になった。
ワアアアアアアー!
この競技での 高得点が 優勝を文字通り左右するので
声援も 熱気も ハンパではない。
その真っ只中に クラスを代表して シンジとトウジの姿があった。
「 位置についてー ・・・
よぉーーーーい ・・・」
パァン!!
ワアアアアアアアー!!
「 シンジーーーーー!!!」
「 ・・・ 」
「 ほらほら、鈴原 一位よ!ヒカリ!応援応援!」
「 で・・でもぉ・・・ 」
さっきと 立場が逆の二人である。
「 ほらぁ〜 ヒカリ! 負けちゃうわよ!?」
「 え・・えっと・・
す・・すずはらー 」
「 聞こえないわよ! そんなのぉ!」
・・・・
なんてことを やっていると・・
「 はぁ・・はぁ・・・い・・イインチョー!!」
なんと 走っていたトウジが 借りてくるものが書いてある
紙切れをにぎりしめて、 アスカ達の目の前に立っていた。
「 な!? どうしたのよ あんた!」
「 イインチョー!一緒にきてーな!」
「 え?・・ええ!?」
「 あ!借り物の条件が ヒカリなのね?」
「 そや! 惣流 すまんけど ちょっくらイインチョー借りるで!」
言った途端、 トウジはヒカリの腕をつかんで なかば無理やりに立たせると
そのまま手を引いて 走り出した。
「 え?わ!す・・・鈴原!」
ヒカリの顔は もう真っ赤を撮り越して 火が出ている。
「 ヒカリ!がんばって! お似合いよー!!」
「 あ・・アスカ!」
赤い顔で親友に怒鳴りながらも、 ヒカリは引きずられるように行ってしまった。
( ふふ・・・ ヒカリったら あんなに赤くなって・・
・・・・・
・・・でも・・・ちょっと うらやましいな・・・
あたしも・・・シンジに・・・ )
アスカがそんなことを思いながら、
グラウンドに目を向けると、
紙を持ってキョロキョロしていたシンジが
なにかを見つけたように、 観客席に走り寄ったところだった。
( あたしは ここなのに・・・・
シンジったら・・・
・・・って・・・・ )
「 え・・・ええええ!? 」
アスカは シンジが手を引いて グラウンドに連れ出した人物を見て
驚きの声をあげた。
・
・
「 ミサトさん! 」
「 え? 」
目の前に来たシンジは 息を切らしながら
彼女の方へ 手を伸ばした。
「 わ・・・私? 」
信じられないといった顔で指で
自分を指すミサト。
「 そうです! 来てください!」
言われるがままに、
ミサトは驚いた顔で 観客とグラウンドをわけるロープをこえて、
グラウンドへ出た。
「 さ、早く!」
「 え?え?・・・うん! 」
一位のトウジが ヒカリを連れ出しているのを見たシンジは
慌ててミサトの手をつかんで 走り出した。
「 ね?ね? シンちゃん、
紙にはなんて書いてあったの?」
グラウンドを走りながら、ミサトは隣のシンジを見た。
すると
「 ・・ あ ・
・・・あとで教えます!」
彼は 何故か顔を赤くして、
早口にそう言った。
「 ? 」
( はは〜ん・・ さては 会場で一番美人な人とか 書いてあったのね〜
シンちゃんッたら 素直なんだからも〜 )
勝手な想像をしつつ
ミサトはニヤリと笑うと、
「 よっしゃ! こーなったら 狙うは一位のみよ!
いーわね?シンジ君!」
ぎゅっと にぎる手を強くして
シンジに言った。
「 え・・あ・・はい!」
よくはわからないが シンジもとにかくうなずいた。
「 いくわよぉ〜!」
そのまま、二人は全速力で走る。
ミサトのほうがわずかに早いが、
二人の速度は同じようなものだ。
ワアアアアアアアア!!
会場も、 凄いスピードで追い上げる二人に 声援を送る。
突然現れた美女と一緒にシンジが走っているので、
クラスメート達も 騒いでいる。
( ったく ・・・ なんでミサトとシンジが走ってんのよ・・
ふん! どうせ 一番 ズボラな 30代にあと1歩の女性とかなんとか
書いてあったにきまってるわよ・・・ )
アスカも その中で なぜか不機嫌な顔だ。
「 な・・なんやぁ?」
その声援に 前を走るトウジとヒカリは 思わず振り返った。
「 せ・・・せんせーやないか!?」
「 ミ・・・ミサトさんと 碇君!?」
驚いている時間は無い、
シンジとミサトはすぐそばまで追い上げている。
「 いかん! イインチョー!急げ!」
「 う・・うん! 」
二人はスピードをあげるが、いかんせん
ヒカリは女の子だ。
それに運動神経もそれほど良くはない。
「 くっ・・駄目か・・」
かといって トウジはヒカリを残して走るような男では無い。
彼女のペースに合わせて スピードを落とした その瞬間。
ゴー―――ル!!
シンジとミサトがテープを切った。
「 やった! シンジ君! 一位よ一位!」
「 わ!ミサトさん! 」
ミサトはぶんぶんと シンジとつないでいた手をふって
まるで子供のように喜んでいる。
困った顔をしながらも、 シンジはそんな彼女を見て
とても気分が良かった。
「 はぁ ・・・ はぁ ・・・ご・・・ごめんね・・・鈴原・・・ 」
肩で息をするヒカリが すまなそうに トウジを見上げた。
嫌われてしまったのではないかと とても心配そうだ。
「 あ?・・
・・別にイインチョーのせいやあらへん! 気にすんな 」
トウジはニッコリとヒカリに笑いかけた。
「 あ・・・う・・うん・・ありがと・・」
( 鈴原って・・・やっぱりやさしいな・・・)
ヒカリは赤面してうつむいた。
「 しっかし、せんせーに追いぬかれるとはなぁ〜」
ミサトとシンジが手をとりあって喜んでいると、
トウジが感心した声で 話しかけてきた。
「 はは・・ ごめんね、トウジ 」
シンジが済まなそうに笑うと、
丁度 スピーカーからアナウンスが流れた。
( 各走者は 指令の内容と 持ってきたものが合っているか
確かめますので、順位順に並んでください・・ )
ゴールした走者たちが ぞろぞろと
順位の書いてある旗を持った人のところへ散って行く・・
ミサトとシンジが 『 一位 』 という 旗を持った 人のところへ行くと・・
「 ・・あ・・綾波・・・」
「 ごくろーさん、 レイ 」
無表情で
レイが 青い旗をもって 立っていた。
「 ・・・・おめでとう・・・・ 」
彼女は ぽつりと そう言うと、
「 ・・・・・ 」
なにも言わずに
じっと シンジの手のあたりを見つめている。
「 あ・・ありがとう・・・」
お礼を言いながら シンジがつられて手を見ると、
「 あ・・ 」
さっきから ずっと自分が まだミサトの手をにぎっていたことに気がついて、
慌てて手を離した。
「 あん・・・なによぉ〜・・・
もっと 手 つないでようよ、シンちゃん! 」
しかし、ミサトはにこにこしながら
強引にまた シンジの手をにぎった。
「 あ・・ミサトさん・・・」
「 えへへ・・」
「 ・・・ 」
レイはむっとした顔で ミサトを見ている。
そんなことをやってると、
目の前に シンジの担任の教師がやってきた。
「 碇君・・・紙を・・渡してくれるかね? 」
「 あ・・はい・・」
シンジから紙を受け取った老教師は ていねいにその紙を開くと、
ゆっくりとミサトを見た。
「 ・・・・・ 」
老教師は 一瞬 彼女を見て 少し驚いたような表情をしたが、
すぐに なにかに気がついたように、
やさしいまなざしになり、にっこりと笑った。
「 碇君の おかあさんに・・・
・・・間違いありませんね? 」
「 ・・え・・ 」
老教師の ゆっくりとした 確認の声に
ミサトは驚いたように シンジを見た。
手を繋いだまま、
シンジは 恥ずかしそうに 顔を赤くして
下を向いた。
「 お・・・おかあさんって言われて・・・
その・・・・僕・・・ミサトさん以外・・・・思い・・つかなくて・・・・ 」
「 ・・・シンジ君・・・・ 」
彼の言葉に、 ミサトは うれしくて
少し涙が出そうになった。
「 ・・・ありがとう・・・・・ 」
小さく シンジにお礼を言うと、
ミサトは 老教師を見て、 笑顔で言った。
「 ええ・・・
私が この子の 母親です。 」
ジューージューーーー!
「 それでね〜! 紙一重だったのよ!紙一重の差で
あたしの胸がテープを切ってね〜〜!」
「 はいはい、 わーったわよ 」
葛城家のその夜の 食卓・・
ミサトは台所から誇らしげに 武勇伝を話すが、
アスカは 机にほおずえをついて、てきとーな返事だ
「 ・・ったくもぉ・・・ 」
アスカは 隣に座ったシンジを見る。
シンジは 困ったような、 うれしそうな・・なんともいえない顔で アスカを見た。
「 別にさ、 優勝したんだから どーでもいいのよ、 今日の運動会は。
それよりもあたしが問題にしたいのはね・・ 」
「 はい! おまたせ〜〜 !!」
ミサトが ほかほかと 湯気の昇った 怪しげな料理を机に並べた。
「 なんで 晩御飯まで ミサトが作るのかってことよ!」
「 いいでしょ? たまにわね!」
「 よかないわよ! もぉ・・ 」
「 アスカ・・冷めないうちに 食べようよ。 」
「 そうよ?たーーーっくさんあるんだから
どんどん食べてね♪ 」
「 う〜〜〜 」
アスカは うなりながら、・・恐る恐る
もぐもぐと 食べ始めた。
( ど・・どうやったら こんな味になるのよぉ〜 )
想像通りの味に、もはや半泣きのアスカは
「 ん!我ながら おいしーわ!」
うれしそうに言うミサトに ますますげんなりした。
「 どうどう? シンちゃん!
私の 料理もなかなかでしょーー? 」
( もはや 処置無しだわ・・あの味音痴は・・ )
すると・・
「 ええ・・ おいしいですよ ミサトさん。」
シンジのうれしそうな 声がした。
( な!!
いくら アンタがやさしいからって
それは 無いわよ! このバカ! )
アスカが慌てて隣のシンジを見る
( そんなこと言うと ミサトがまた作るなんて
言い出し ・・・ シンジ ・・? )
アスカは となりのシンジの顔を見て
呆然とした。
なぜなら 彼が 心の底から おいしそうに
ミサトの料理を食べていたからだ。
「 シンジ・・・あんた・・
やっぱり 味覚おかしくなっちゃったのね・・・ 」
愕然とした アスカの声。
「 ありがとう・・・シンちゃん・・」
自分の料理を にこにこと 笑顔で食べているシンジを見つめながら
ミサトはいろんな思いを込めて
やさしく そういった。
ずっと食べたかった 『 おふくろの味 』 を
シンジはその日
初めて味わう事が出来た。