「 シンちゃんさぁ・・

  ・・・・・・・

  ・・・私のこと、

  ・・・ 

  どう思ってる? 」

 

 

「 ・・え・・ 」

 

 

きつねにつままれたような 顔のシンジに

ミサトがにっこりと笑いかけた。

 

「 な ・・・ なんですか?

  ・・・ い、 いきなり ・・ 」

 

思ってもみなかったミサトの質問に、

シンジはうろたえた。

 

「 ちょっと聞いてみたかっただけよ〜

  ね、・・・・

  シンちゃんにとって 私ってなあに? 」

 

興味津々といった顔で ミサトが聞くが、

 

「 な・・なぁにって ・・ いわれても・・

  ・・・・よく・・・・わからない・・・・です・・・」

 

シンジはうつむいてしまった。

 

しかし、

そんなシンジを ミサトは楽しそうにながめつつ・・

 

「 ん〜っと・・・

  優しくて綺麗なお姉さん? 」

 

「 ・・・・え?・・・・・」

 

「 違う?

  そいじゃー・・・ あ!もしかして〜〜

  大好きな 憧れの人とか!?」

 

「 な、な、なんでそうなるんですか!」

 

からかわれていると分かっているのに、

顔が赤くなってしまう。

 

「 え〜 違うの? 

  残念だな〜・・」

 

「 ・・・・・ 」

 

赤い顔で困っているシンジを

ミサトはニヤニヤと 楽しそうに見ている。

 

その後も 少しの間、

シンジをからかっていたミサトだが、

 

ふいに ふざけた表情をやめると

・・ 彼に優しく 笑いかけた。

 

 

 

「 それじゃ・・・さ・・

  ・・・

  ・・・・・お母さん・・・・ってのは どう? 」

 

 

 

「  え? 」

 

 

それは、

シンジにとって・・

思っても無い言葉だった。

 

 

 

  素敵な日曜日 後編


 

 

 

「 ・・・ 駄目かな? ・・・・ 」

 

シンジの瞳を見つめながら

ミサトはすこし 首をかしげる。

 

「 ・・・・・・ 」

 

「 そうね ・・ お母さんって 感じじゃないわよね・・

  ・・・ 私は ・・・ へへへ ・・・・ 」

 

とりつくろうように 苦笑いをするミサトに、

シンジは小さく言った。

 

「 お母さんって・・・

  その・・・

  家とかで・・いつもどんな感じなのか・・・

  僕は・・知りません・・ 」

 

 

「 ・・ あ ・・ 」

 

 

シンジの母親は

もう この世にいない。

 

“母親という感じ” と言われても

 

彼にはピンとこない。

 

 

「 ・・ ごめん ・・

  ・・・・ シンちゃん ・・・ 」

 

 

「 あ ・・・ ち、違うんです 

  ・・・そんなつもりじゃ・・」

 

すまそうに謝るミサトに

シンジは慌てて答えた。

 

「 ・・・・・ 」

 

「 ・・・・・・・・・・ 」

 

「 ・・・ミサトさんは・・ 」

 

「 ・・え?・・ 」

 

 ミサトさんは・・・ミサトさんです・・

  他の・・なにものでも・・ないです・・・・」

 

シンジの言葉に、

ミサトの心は 熱くなった。

 

「 そっか・・

   ・・・ そうだね ・・・」

 

「 ・・・ 」

 

「 私だって シンちゃんが 自分にとってなんなのかって・・

  そう聞かれたら 困っちゃうもの・・ 」

 

ミサトは今日の夕食の時の

友人達の質問を思い出しながら、

にっこりと笑った。

 

 

 

 

「 ねぇ・・シンちゃん・・」

 

しばしの沈黙の後・・ ミサトが口を開いた。

 

「 ・・・なんですか? 」

 

また なにか変な事を言い出すんじゃないかと

シンジは身構える。

すると・・

 

「 シンちゃんの思う お母さんって・・

  どんな感じ? 」

 

ミサトは やさしく声で聞いた。

 

「 ・・・僕の・・ 」

 

「 そう・・

  お母さんって言われたら・・どんなこと 想像する? 」

 

「 ・・・う・・んっと・・・」

 

「 ・・・ 」

 

「 ・・・あ・・あの・・・ 」

 

「 うん・・・ 」

 

「 や、やさしくて・・」

 

「 ・・・うん・・・」

 

「 ・・・たまに・・・ し、叱ってくれたり・・・ 」

 

「 うん・・それで? 」

 

「 料理が上手で・・・ 」

 

「 料理? 」

 

意外な顔をしたミサトに

シンジは 小さく頷くと

 

「 え・・ええ・・・ その・・・

  よく おふくろの味とか なんとか・・

  言うじゃないですか・・」

 

「 うん・・・」

 

「 そういうの・・・食べた事なくて・・

  いつか・・

  食べてみたいな・・・・って・・ 」

 

「 シンジ君・・・」

 

ミサトの目が

とても優しい色になる。

 

「 ・・・ そ ・・ そのくらいです ・・ 」

 

「 ・・・そっかー ・・」

 

彼女は腕を組むと、

そのまま 考え込んだ。

 

( ん〜〜やさしくしてるし・・・

  たまに叱ったりもしてるし・・・

  ・・・・料理・・・・料理ねぇ・・)

 

「 ど・・どうしたんですか? 」

 

急に難しい顔をした ミサトに、

シンジが心配顔で聞くが、

 

ミサトはぽんっ!と膝を叩くと、元気な声で

 

「 ん! よし!

  明日のお弁当は 私が作ってあげる! 」

 

まさに名案!

といった感じだ。

 

「 え?・・・ええ!?

 な・・・なんでですか! いきなり! 」

 

「 いーから いーから! 遠慮しないで!」

 

ミサトがひらひらと 手を振る。

 

「 い、いいですよ!別に!僕・・」

 

しかし、シンジが反論しようとした

その時・・

 

「 んもぉ ・・・ うるさいわねぇ ・・

  ・・・ 寝られないじゃないのよ ・・」

 

「 あ・・アスカ・・」

 

いつのまにか リビングの入り口に立っていた、

くしゃくしゃの髪の毛のアスカが

寝ぼけまなこで ふたりをにらんでいる。

 

「 あ・・ごっめーん! うるさかったわね・・」

 

ミサトの言葉に、

アスカは のそのそとリビングへ入ってくると、

そのまま シンジのとなりに 腰掛けた。

 

「 ったくぅ ・・・ なに騒いでんのよ

  ・・ 明日は早いんだから・・・ 」

 

しょぼしょぼする目で

二人を見るアスカ。

 

「 いや・・・その・・」

 

「 あ、ついでに アスカのお弁当も 作ってあげるわね!」

 

またまた名案!

とばかりに ミサトが言う。

 

「 ・・・ は? 」

 

眠い頭のまま、アスカが間の抜けた声をあげた。

 

「 明日のお弁当・・

  ミサトさんが作るって言うんだよ・・」

 

そんな彼女に 隣のシンジが疲れたように言った。

 

「 ・・・・え・・・えええええ!?」

 

一気に眠気を吹き飛ばして、

アスカは驚きの声をあげた。

 


 

パーン!

 

パーン!!

 

青い空に、 火薬のはじける音が響く。

 

凄い歓声がわきあがり、 教室の中にいても熱気が伝わってくる。

 

「 アスカ! 障害物リレー出るんでしょ?がんばってね!」

 

バッグから タオルと弁当箱と 水筒を出していたアスカに

体育着に着替えたヒカリが 近づいてきた。

 

「 ん! まかしといてよ!」

 

自信まんまんといった顔で、アスカが言う。

 

「 そうよね〜 アスカ運動神経いいから・・ 」

 

「 へへ〜 このあたしがいれば 優勝なんてチョロイチョロイ!

  さ、 グランド 行くわよ! ヒカリ。 」

 

言いながら アスカはタオルと水筒を持ち・・

弁当箱を持とうとした その顔に

どんよりとした 黒い線が走った。

 

「 ? どうしたの?アスカ・・」

 

「 ん・・・いや・・なんでもないわ・・ 」

 

「 お弁当? いつもいいわね、

  好きな人のお弁当が食べられて! 」

 

教室にあまり人がいないからか、

ヒカリの大胆なセリフに アスカの顔が真っ赤になった。

 

「 ち、違うわよ! ば、バカな事いわないでよ!

 ・・・あいつは 別に・・・

  料理くらいしかとりえがないから いーのよ!」

 

「 ムキになっちゃって〜 アスカは素直じゃないんだから 」

 

「 ヒカリ! 」

 

「 ふふ・・ 」

 

「 んもぅ・・

  ・・・でもね・・ 今日はシンジのお弁当じゃないのよ。 」

 

「 え? 違うの? 」

 

「 そ 」

 

「 もしかして・・・自分で作ったの? アスカ 」

 

「 ・・あ・・・あたしが そんなことするわけないでしょ?」

 

「 じゃあ・・・誰が?」

 

「 ・・・・・・・

  ・・・・・・

  ・・・・・・ミサトよ・・ 」

 

苦虫をつぶしたような顔のアスカ。

 

「 え? ミサトさんが作ってくれたの? 

  へ〜〜 いいなぁ〜 そーゆーの・・・」

 

「 よくないわよ!

  ヒカリはあいつの料理を知らないから・・・」

 

「 え? 」

 

なんのことだかわからないヒカリは、

アスカに うらやましいような そんな視線を向けた。

 

「 でもさ、 なんか お母さんのお弁当って感じがするんじゃない?

  アスカにとっては♪ 」

 

 

「 ほ・・ホントに作ったの! 」

 

朝の葛城家のリビングに アスカの悲痛な声がする。

 

ミサトが お弁当を作ってあげる宣言をした ちょうど5時間後。

アスカの前のテーブルには、

2つのお弁当箱が、すでに きちんと並んでいた。

 

「 言ったじゃない〜 作ってあげるって、

  期待してて! とーっても おいしいからね!」

 

台所から、 長い髪を ポニーテールにして、エプロンをつけたミサトが

意気揚揚と現れた。

 

とてもうれしそうで、張り切っている彼女を見ていると、

『 怖いからいらない・・』 とか 『 シンジのほうが・・』

とは言えないアスカだった。

 

「 ・・・ 」

 

彼女がふと、テーブルにすでに座っているシンジを見ると、

彼は朝のスクランブルエッグとサラダを食べながら

今にも泣きそうな顔をしている。

 

「 シ・・・シンジ?・・・」

 

アスカが心配そうな声を出すと、

シンジではなく ミサトが

 

「 あ、そうそう ついでに今日は朝ご飯も私が作ってあげたから!

  さめないうちに食べてねん! アスカ! 」

 

「 ・・・はぁ・・・」

 

アスカはうなだれて 席についた。

 

 

お弁当を作って 朝ご飯を作って・・

そんなことをやっていると、今日のミサトはすっかり 自分がこの二人の母親

みたいな気分になっていた。

 

「 ハンカチ持った? タオルは? 」

 

玄関で、 靴をはいている シンジとアスカに

ミサトはあれこれと 楽しそうに 注意する。

 

「 あーもー! うるさいわねー 大丈夫よ!」

 

「 それじゃあ 行ってきます ミサトさん 」

 

「 おっけー! いってらっさい!

  私は 9時ごろ行けば いいのね?」

 

「 はい、確かそのはずです。」

 

「 ホントに来るの? あんた。」

 

「 あったりまえでしょー?

  自慢の家の子たちの 晴れ舞台なんだから!

  バッチシ応援してあげるわよ!」

 

ミサトはアスカにウインクする。

『家の子』 と言われて アスカはなんとなくうれしい気持ちになったが、

顔に出さないよう 気を付けながら 不機嫌な声を出した。

 

「 ま、 しっかり あたしの勇姿を見てなさいよ。」

 

「 行こうか?アスカ」

 

「 うん 」

 

「「 行ってきまーす 」」

 

「 がんばってね!」

 

こうして 二人は家を出た。

 

 

( お母さんの お弁当・・・ねぇ・・・ )

 

アスカは グラウンドに 体育座りをして、お弁当箱を見たまま、

複雑な表情をした。

 

「 どうしたの?アスカ・・・」

 

となりに座ったヒカリが 心配そうな声を出した。

 

「 う・・うん・・・なんでもないよ。」

 

アスカが 慌てて返事をする。

 

「 そう?・・・

  あ、それより アスカ、 碇君の番だよ?」

 

ヒカリはそう言って グラウンドを 指差した。

 

「 え?・・・あ!ほんとだ!」

 

アスカが目をやると、シンジがちょうどスタートラインに立ったところだ。

 

どきどきどきどき・・

 

自分が走るわけでもないのに、アスカの鼓動は早くなってしまう。

 

「 位置についてー・・・・

  よぉーーーーい ・・・」

 

パァン!!

 

ワアアアアアアアア!

 

迫力のある男子の徒競走だ。

歓声も今までで 最も凄い。

 

( シンジ! )

 

胸の前でぎゅっと手をむすんで、

アスカは ハラハラと シンジを視線で追う。

一緒に走っている人に あまり早い選手がいないせいなのか、

シンジは今のところ トップだ。

 

「 がんばれー! 碇君! がんばれーー!」

 

となりでは ヒカリが声をあげている。

 

「 ほらほら、 アスカ!応援応援!」

 

「 え・・え・・・でも・・」

 

シンジを応援したいのに、

なんだか恥ずかしいアスカは うろたえた。

ワアアアアアアアア!!

 

だが、

他のクラスの男子生徒が

どんどん シンジとの差は縮めている、

ついに二人は並んでしまった。

 

ズキッ!

 

アスカの胸に痛みが走る。

その途端、 アスカは思わず 立ちあがって叫んでいた。

 

「 シンジ!!がんばんなさいよ!!

    負けたらしょうちしないわよ!」

 

「 あ・・・アスカ・・」

 

彼女の迫力に ヒカリは冷や汗を流した。

 

 

それと 時を同じくして、

ミサトも 家族の観覧席で 椅子に座って それを見ていた。

 

( お! お! トップじゃない! やるぅ〜 シンちゃん!)

 

ニコニコと 幸せそうに見ていたのだが、

どんどんと 追い上げてくる生徒の姿に

ミサトもだんだんと 腰を浮かせて 身をのりだし始めていた。

 

( あ! 並んじゃう! シンちゃん! )

 

と、 その時 となりから

 

「 和也ちゃーん! がんばってー! 」

 

ミサトがとなりを見ると、 ケバケバしい 厚化粧の太ったおばさんが

追い上げているその男の子に 黄色い声援を送っている。

どうやら あの子の 母親のようだ。

 

 むっ!

 

「 シンちゃーーーん! がんばれえーー!!」

 

負けじと 声を張り上げるミサト。

 

 むっ!

 

「 和也ちゃーん! 追いぬけーーー!」

 

すると そのおばさんも 声をあげる。

 

「 絶対 ぬかれちゃだめーーー! シンちゃん!!」

 

「 和也ー!!」

 

おばさんは 横目で キッ!と ミサトをにらんだ。

もちろん、ミサトも負けじと にらみかえす。

二人の闘いが 火花を散らした その時!

 

ワアアアアア!

大きな声援とともに シンジがゴールした。

 

「 よっしゃあ!! 」

 

思わずガッツポーズな ミサト。

 

「 くっ・・ 」

 

くやしそうな おばさんの声も手伝って

ミサトのうれしさは100倍だった。

 

 

それから 各種競技が行われ、

アスカが障害物リレーで ぶっちぎりで優勝したり、

レイがパン食い競争で なかなかパンが食べれなかったり

いろいろあったが、

あっという間に お昼ご飯の時間となった。

 

「 午後のメインは なんといっても借り物競争よね!」

 

パンフレットを見ながら、ミサトが言う。

 

「 ええ、 得点も一番大きいですから。」

 

となりに座ったヒカリが ミサトに言った。

 

シンジとアスカ

そして ヒカリとトウジは

ミサトも加えて まるくなって お弁当をひろげている。

 

「 えっと・・誰が出るんだっけ?」

 

ミサトの反対側のとなりに座っているシンジが

お弁当箱をあけながら、言うと・・

 

「 バカ! あんたでしょ!出るのは!」

 

アスカが答えた。

 

ちなみに ケンスケは 撮影係として かなり多忙なようで

お昼もたべずに そこらじゅうを走りまわっている。

 

「 そういやぁ ワイも出るんやったなぁ 」

 

シンジのとなりの トウジが言う。

 

得点の高い借り物競争は 各クラスから

2名が出て 競うのだ。

 

「 がんばってね、二人とも 」

 

ヒカリがにっこりと 笑った。

 

「 綾波は・・出ないの?」

 

ミサトの正面に座って、 サンドイッチをもぐもぐとしていたレイに

シンジが聞いた。

 

「 ・・・・旗もち・・・ 」

 

どうやら レイは うらかたなようである。

 

「 あ・・そ・・そう・・がんばってね・・」

 

・・・こくん・・・

 

「 せんせーには 負けられんなぁー 」

 

「 お手柔らかにたのむよ、 トウジ 」

 

運動神経の良いトウジに シンジがなさけなさそうに言った。

 

「 なんや、 シンジかって さっきの徒競走 一位やったやないか 見とったで?」

 

「 あ・・うん・・」

 

うれしいのだが、とても恥ずかしそうに シンジが答えた。

 

「 そうそう! シンちゃん! もう さいこーーにカッコよかったわ!」

 

興奮を思い出したミサトは

となりのシンジの頭のうしろに手をまわすと

ぐいっと 自分のほうへ引き寄せて 抱きしめた。

 

「 ミ・・ミサトさん!」

 

「 あー! せんせー!」

 

「 ちょ! ミサト! なにしてんのよ!」

 

「 もー シンちゃんのお姉さんで 良かったわ!私!」

 

誇り高い我が子を胸に抱いて、

ミサトはとてもご満悦だった。

 

 

( これより 午後の競技が始まります・・各選手は・・ )

 

あれから にぎやかにお昼ご飯を食べ、

食休みを終わり、

放送が流れはじめた。

 

「 よっしゃ! じゃあみんな がんばってきてね!」

 

ミサトはそういって 再び観覧席のほうへ 戻っていった。

シンジたちも

各々の位置へと 散っていったのだが・・

 

「 ・・・ 」

 

アスカは シンジのお弁当箱を見て、沈黙していた。

まあ、

前に食べた夕食よりは いくらかマシだったが、

それでも アスカにはミサト弁当を半分食べるのが精一杯だった・・・

だが、シンジのお弁当ばこは 綺麗に空だった。

 

「 ・・・うそ・・ 」

 

いくら運動して お腹がすいてるとはいえ・・

 

( シンジ・・・あんた 味覚おかしくなったんじゃないの?・・・ )

 

グラウンドのほうへ 歩いて行く 後姿を見ながら

アスカは心配そうに 胸の中でつぶやいた。

 

 

午後の競技も 着々と進み、

アスカが女子リレーでアンカーを務めて 見事一位だったり

レイが 二人三脚で シンジとペアで 幸せそうだったり

いろいろあったのだが、

遂には 最後の競技、 借り物競争になった。

 

ワアアアアアアー!

 

この競技での 高得点が 優勝を文字通り左右するので

声援も 熱気も ハンパではない。

 

その真っ只中に クラスを代表して シンジとトウジの姿があった。

 

「 位置についてー ・・・

  よぉーーーーい ・・・」

 

パァン!!

 

ワアアアアアアアー!!

 

「 シンジーーーーー!!!」

 

「 ・・・ 」

 

「 ほらほら、鈴原 一位よ!ヒカリ!応援応援!」

 

「 で・・でもぉ・・・ 」

 

さっきと 立場が逆の二人である。

 

「 ほらぁ〜 ヒカリ! 負けちゃうわよ!?」

 

「 え・・えっと・・

  す・・すずはらー 」

 

「 聞こえないわよ! そんなのぉ!」

 

・・・・

なんてことを やっていると・・

 

「 はぁ・・はぁ・・・い・・イインチョー!!」

 

なんと 走っていたトウジが 借りてくるものが書いてある

紙切れをにぎりしめて、 アスカ達の目の前に立っていた。

 

「 な!? どうしたのよ あんた!」

 

「 イインチョー!一緒にきてーな!」

 

「 え?・・ええ!?」

 

「 あ!借り物の条件が ヒカリなのね?」

 

「 そや! 惣流 すまんけど ちょっくらイインチョー借りるで!」

 

言った途端、 トウジはヒカリの腕をつかんで なかば無理やりに立たせると

そのまま手を引いて 走り出した。

 

「 え?わ!す・・・鈴原!」

 

ヒカリの顔は もう真っ赤を撮り越して 火が出ている。

 

「 ヒカリ!がんばって! お似合いよー!!」

 

「 あ・・アスカ!」

 

赤い顔で親友に怒鳴りながらも、 ヒカリは引きずられるように行ってしまった。

 

( ふふ・・・ ヒカリったら あんなに赤くなって・・

  ・・・・・

  ・・・でも・・・ちょっと うらやましいな・・・

  あたしも・・・シンジに・・・ )

 

アスカがそんなことを思いながら、

グラウンドに目を向けると、

紙を持ってキョロキョロしていたシンジが

なにかを見つけたように、 観客席に走り寄ったところだった。

 

( あたしは ここなのに・・・・

  シンジったら・・・

  ・・・って・・・・ )

 

「 え・・・ええええ!? 」

 

アスカは シンジが手を引いて グラウンドに連れ出した人物を見て 

驚きの声をあげた。

 

 

「 ミサトさん! 」

 

 

「 え? 」

 

目の前に来たシンジは 息を切らしながら

彼女の方へ 手を伸ばした。

 

「 わ・・・私? 」

 

信じられないといった顔で指で

自分を指すミサト。

 

「 そうです! 来てください!」

 

言われるがままに、

ミサトは驚いた顔で 観客とグラウンドをわけるロープをこえて、

グラウンドへ出た。

 

「 さ、早く!」

 

「 え?え?・・・うん! 」

 

一位のトウジが ヒカリを連れ出しているのを見たシンジは

慌ててミサトの手をつかんで 走り出した。

 

「 ね?ね? シンちゃん、

  紙にはなんて書いてあったの?」

 

グラウンドを走りながら、ミサトは隣のシンジを見た。

すると

 

「 ・・ あ ・

  ・・・あとで教えます!」

 

彼は 何故か顔を赤くして、

早口にそう言った。

 

「 ? 」

 

( はは〜ん・・ さては 会場で一番美人な人とか 書いてあったのね〜

  シンちゃんッたら 素直なんだからも〜 )

 

勝手な想像をしつつ

ミサトはニヤリと笑うと、

 

「 よっしゃ! こーなったら 狙うは一位のみよ!

  いーわね?シンジ君!」

 

ぎゅっと にぎる手を強くして

シンジに言った。

 

「 え・・あ・・はい!」

 

よくはわからないが シンジもとにかくうなずいた。

 

「 いくわよぉ〜!」

 

そのまま、二人は全速力で走る。

ミサトのほうがわずかに早いが、

二人の速度は同じようなものだ。

 

ワアアアアアアアア!!

 

会場も、 凄いスピードで追い上げる二人に 声援を送る。

突然現れた美女と一緒にシンジが走っているので、

クラスメート達も 騒いでいる。

 

( ったく ・・・ なんでミサトとシンジが走ってんのよ・・

  ふん! どうせ  一番 ズボラな 30代にあと1歩の女性とかなんとか

  書いてあったにきまってるわよ・・・ )

 

アスカも その中で なぜか不機嫌な顔だ。

 

「 な・・なんやぁ?」

その声援に 前を走るトウジとヒカリは 思わず振り返った。

 

「 せ・・・せんせーやないか!?」

「 ミ・・・ミサトさんと 碇君!?」

 

驚いている時間は無い、

シンジとミサトはすぐそばまで追い上げている。

 

「 いかん! イインチョー!急げ!」

 

「 う・・うん! 」

 

二人はスピードをあげるが、いかんせん

ヒカリは女の子だ。

それに運動神経もそれほど良くはない。

 

「 くっ・・駄目か・・」

 

かといって トウジはヒカリを残して走るような男では無い。

彼女のペースに合わせて スピードを落とした その瞬間。

 

 ゴー―――ル!!

 

シンジとミサトがテープを切った。

 

「 やった! シンジ君! 一位よ一位!」

「 わ!ミサトさん! 」

 

ミサトはぶんぶんと シンジとつないでいた手をふって

まるで子供のように喜んでいる。

困った顔をしながらも、 シンジはそんな彼女を見て

とても気分が良かった。

 

「 はぁ ・・・ はぁ ・・・ご・・・ごめんね・・・鈴原・・・ 」

 

肩で息をするヒカリが すまなそうに トウジを見上げた。

嫌われてしまったのではないかと とても心配そうだ。

 

「 あ?・・ 

  ・・別にイインチョーのせいやあらへん! 気にすんな 」

 

トウジはニッコリとヒカリに笑いかけた。

 

「 あ・・・う・・うん・・ありがと・・」

 

( 鈴原って・・・やっぱりやさしいな・・・)

ヒカリは赤面してうつむいた。

 

「 しっかし、せんせーに追いぬかれるとはなぁ〜」

 

ミサトとシンジが手をとりあって喜んでいると、

トウジが感心した声で 話しかけてきた。

 

「 はは・・ ごめんね、トウジ 」

 

シンジが済まなそうに笑うと、

丁度 スピーカーからアナウンスが流れた。

 

( 各走者は 指令の内容と 持ってきたものが合っているか

  確かめますので、順位順に並んでください・・ )

 

ゴールした走者たちが ぞろぞろと

順位の書いてある旗を持った人のところへ散って行く・・

ミサトとシンジが 『 一位 』 という 旗を持った 人のところへ行くと・・

 

「 ・・あ・・綾波・・・」

「 ごくろーさん、 レイ 」

 

無表情で

レイが 青い旗をもって 立っていた。

 

「 ・・・・おめでとう・・・・ 」

 

彼女は ぽつりと そう言うと、

 

「 ・・・・・ 」

 

なにも言わずに

じっと シンジの手のあたりを見つめている。

 

「 あ・・ありがとう・・・」

 

お礼を言いながら シンジがつられて手を見ると、

「 あ・・ 」

さっきから ずっと自分が まだミサトの手をにぎっていたことに気がついて、

慌てて手を離した。

 

「 あん・・・なによぉ〜・・・

  もっと 手 つないでようよ、シンちゃん! 」

 

しかし、ミサトはにこにこしながら

強引にまた シンジの手をにぎった。

 

「 あ・・ミサトさん・・・」

 

「 えへへ・・」

 

「 ・・・ 」

 

レイはむっとした顔で ミサトを見ている。

 

そんなことをやってると、

目の前に シンジの担任の教師がやってきた。

 

「 碇君・・・紙を・・渡してくれるかね? 」

 

「 あ・・はい・・」

 

シンジから紙を受け取った老教師は ていねいにその紙を開くと、

ゆっくりとミサトを見た。

 

「 ・・・・・ 」

 

老教師は 一瞬  彼女を見て 少し驚いたような表情をしたが、

すぐに なにかに気がついたように、

やさしいまなざしになり、にっこりと笑った。

 

 

「 碇君の おかあさんに・・・

    ・・・間違いありませんね? 」

 

 

「 ・・え・・ 」

 

老教師の ゆっくりとした 確認の声に

ミサトは驚いたように シンジを見た。

 

手を繋いだまま、

シンジは 恥ずかしそうに 顔を赤くして

下を向いた。

 

「 お・・・おかあさんって言われて・・・

  その・・・・僕・・・ミサトさん以外・・・・思い・・つかなくて・・・・ 」

 

 

 

「 ・・・シンジ君・・・・ 」

 

 

彼の言葉に、 ミサトは うれしくて

少し涙が出そうになった。

 

 

「 ・・・ありがとう・・・・・ 」

 

 

小さく シンジにお礼を言うと、

ミサトは 老教師を見て、 笑顔で言った。

 

 

 

 

「 ええ・・・

  私が この子の 母親です。 」

 

 

 


 

ジューージューーーー!

 

「 それでね〜! 紙一重だったのよ!紙一重の差で

  あたしの胸がテープを切ってね〜〜!」

 

「 はいはい、 わーったわよ 」

 

葛城家のその夜の 食卓・・

 

ミサトは台所から誇らしげに 武勇伝を話すが、

アスカは 机にほおずえをついて、てきとーな返事だ

 

「 ・・ったくもぉ・・・ 」

 

アスカは 隣に座ったシンジを見る。

シンジは 困ったような、 うれしそうな・・なんともいえない顔で アスカを見た。

 

「 別にさ、 優勝したんだから どーでもいいのよ、 今日の運動会は。

  それよりもあたしが問題にしたいのはね・・ 」

 

「 はい! おまたせ〜〜 !!」

 

ミサトが ほかほかと 湯気の昇った 怪しげな料理を机に並べた。

 

「 なんで 晩御飯まで ミサトが作るのかってことよ!」

 

「 いいでしょ? たまにわね!」

 

「 よかないわよ! もぉ・・ 」

 

「 アスカ・・冷めないうちに 食べようよ。 」

 

「 そうよ?たーーーっくさんあるんだから

  どんどん食べてね♪ 」

 

「 う〜〜〜 」

 

アスカは うなりながら、・・恐る恐る

もぐもぐと 食べ始めた。

 

( ど・・どうやったら こんな味になるのよぉ〜 )

 

想像通りの味に、もはや半泣きのアスカは

 

「 ん!我ながら おいしーわ!」

 

うれしそうに言うミサトに ますますげんなりした。

 

「 どうどう? シンちゃん!

  私の 料理もなかなかでしょーー? 」

 

( もはや 処置無しだわ・・あの味音痴は・・ )

 

すると・・

 

「 ええ・・ おいしいですよ ミサトさん。」

 

シンジのうれしそうな 声がした。

 

( な!!

  いくら アンタがやさしいからって

  それは 無いわよ! このバカ! )

 

アスカが慌てて隣のシンジを見る

 

( そんなこと言うと ミサトがまた作るなんて

  言い出し ・・・  シンジ ・・? )

 

アスカは となりのシンジの顔を見て

呆然とした。

 

なぜなら 彼が 心の底から おいしそうに

ミサトの料理を食べていたからだ。

 

 

「 シンジ・・・あんた・・

  やっぱり 味覚おかしくなっちゃったのね・・・ 」

 

愕然とした アスカの声。

 

 

「 ありがとう・・・シンちゃん・・」

 

 

自分の料理を にこにこと 笑顔で食べているシンジを見つめながら

ミサトはいろんな思いを込めて

 

やさしく そういった。

 

 

 

 

 

 

 

ずっと食べたかった 『 おふくろの味 』 を

 

シンジはその日

 

初めて味わう事が出来た。

 

 

 

 


後書きでも読むか・・

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