ジューーーッ・・・ジューーーッ・・・
油でいためる おいしそうな音・・
「 ・・・・・ 」
醤油が焦げる なんともいえない 良い匂い・・
・・・ごくっ・・・
リビングのテーブルに ほおずえをついて
『 特集! 10倍 自分を綺麗に見せる方法!!』
と書いてある雑誌をめくっていた アスカが 思わず 喉をならした。
パタ・・
本を閉じて、 台所から見える 背中に視線を向ける。
台所には、いそがしげに・・
しかし、 どこか楽しそうに動いている 少年の姿がある。
( 取り柄ってのは 誰にでもあるものよねぇ ・・・・ )
アスカは思う。
それほど頭が良いわけでもなく、
スポーツが天才的なわけでもない。
確かにととのった顔をしてはいるけど、 絶世の美男子というわけでもない。
そんな 碇 シンジ 14歳だが・・
「 はい、 アスカ・・ おまたせ〜 」
彼の言葉と共に、
目の前に ならべられた 沢山の料理を見て
「 料理だけは、 うまいのよねぇ〜・・・」
アスカが感心した声を出した。
「 え? なにかいった? 」
「 ん〜にゃ ・・ なんでもないわよ、 バカシンジ♪ 」
不思議そうな顔で 自分を見たシンジに
アスカは楽しそうな声で 答えた。
「 な、なんだよぉ・・ 」
「 いーから はやく食べよ!
もう あたし おなかぺこぺこ・・ 」
「 そうだね・・・・アスカ、 お茶碗とってよ。」
「 うん・・・
・・・・・・ はい・・・
・・・ところでシンジ・・ 」
「 なに? 」
アスカの言葉に、
ほかほかのごはんを よそいながら、シンジが答えた。
「 ミサトは? また残業なの? 」
そういえば 昨日もいなかった ビール好きの保護者を思い浮かべながら
アスカが言う。
「 さっき 電話があったんだけど、
リツコさんと一緒に 今日は 大学時代の友達と遊びに行ったらしいよ? 」
「 遊びに? 」
「 うん・・・だから 晩御飯はいらないんだって・・・・ 」
「 へぇ〜・・・めずらしー 」
アスカが体をそらして、
頭のうしろで 手を組んだ。
「 きっと 高いコースの料理でも食べてくるんじゃないかな・・
・・うらやましいね・・・ 」
シンジがなさけなさそうに アスカに笑いかけた。
しかし、
アスカは まゆげをへの字にまげると・・
「 ふん! どーせ あの女は
なに食べても 味なんてわかんないわよ!」
そう言って 鼻を鳴らした。
「 ・・・・はは・・・そうかもね・・」
「・・・・・・・・
・・・それに・・・・
・・・あたしは別に ・・うらやましくもなんともないわよ・・・」
「 え・・? なんで? 」
「 だって、 シンジの料理のほうが ぜんぜんおいしいもん 」
しあわせそうな顔で、言いながら
アスカはシンジの手から お茶碗を受け取った。
「 ・・・あ・・・ありがと・・・アスカ・・」
( それに・・・・
おかげで ふたりっきりだしね・・・)
恥ずかしそうにお礼を言うシンジを見ながら
こっそりと アスカが心の中で 付け加えた。
素敵な日曜日 :前編
「 そんなの別れて当然よ! 」
ショートカットの女性が 興奮して言った言葉に
うんうんと ミサトは 相槌をうった。
「 だ・・・だってぇ・・ 」
今現在、 話の ネタの中心となっている黒い髪の女性が
しょんぼりとした声を出した。
「 あのねぇ、ミユキ!
好きな女の誕生日すら覚えて無い男なんて
話になんないわよ! 別れたほうがよかったの!
・・そのほうが 幸せなの! 」
大きな声に、
まわりの席の客も 何事かという感じで
視線をこちらにむけている。
「 で・・・でもさ、カオリ・・・
カオリはもう結婚してるから そんなことが言えるのよ・・
こっちはもう 世間から 売れ残りって目で見られて
あせってるんだもん! 」
女性の反論に、
またまた うんうんと ミサトが 相槌をうつ。
・・ すると、
どうやら その隣に座っている 金髪の美女・・
赤木リツコも 同様に うんうんと 相槌をうっている。
・
場所はとある おいしいと有名なレストラン。
・
かつての 女子大生たち 7人ほどは さきほどから
自分達の恋愛体験を 酒のさかなに、
わいわいと楽しい夕食の時間を過ごしている。
いつもの責任重大な任務から開放され、
安心できる仲間といるためか、 ミサトもリツコもずいぶんと楽しそうだ。
・
・
「 そ・れ・で♪ 聞いてよ聞いてよー!」
ビールを水と同じものと考え、
『 水道の蛇口から ビールが出てこないかしら・・ 』
などと
たまに真剣に考えているミサトはあたりまえとして、
冷静な リツコまで
今日は赤い顔で 時たま 楽しそうに笑い声をあげている。
「 ええ〜〜!
リツコってそうなのお??」
「 そうそう!!
研究に 男なんていらないわ!・・とか言ってるくせにさぁ〜 」
「 ちょ! ミサト! いいかげんなこと言わないでよ!」
話が リツコのことになったのをいいことに、
ミサトが嬉々として いろいろと話し始めると
リツコは慌てて それを妨害し始める。
「 いいじゃない! もっと教えてよ!
それで?それで? 」
「 そんでねー リツコの部下にひとり・・
とびっきりの美少女がいるのよー!」
「 ええーーー! ホント?」
ミサトの言葉に色めき立つ友人達。
「 ミサト!」
「 それで!? ねえ?
ミサト、 早く!早く! 」
「 それでね、 わたしの素晴らしいカンによるとね、
・・ どうやら ・・ その美少女は ・・」
・
・
ごにょごにょ・・
・
・
「 きゃーーーー! あっっぶなーい!! 」
「 リツコったらー! 」
沸き立つ 黄色い歓声
「 ちょっと ミサト!
あることないこといってんじゃないわよ!」
「 またまた〜 リツコ! 冗談よ 冗談〜!」
真っ赤な顔で叫ぶ彼女の前で ひらひらと手を振って
ミサトはなだめたのだが・・
「 冗談になってないわよ・・まったくぅ・・」
少し心当たりでもあるのか、
リツコは落ち着かない 様子である。
そうこうしていると・・
「 ・・ で? で?
リツコはわかったけど、ミサトはどーなのよ!」
「 え? ・・わ、 わたし? 」
「 そーよそーよ、 浮いた噂なら あんたも無いじゃない!
なにか 隠してるでしょう!? 」
まわりの友人達は 今度はなんと
ミサトの顔をのぞきこみはじめた。
「 あ ・・・ ほら ・・ いたじゃない
・・ 大学のころ ・・・ なんていったっけ ・・
そう・・加持! 加持って人! あの人は?」
「 そうそう、 有名な 女ったらし だったわね!」
「 かじぃー? やめてよ!
あんなのとはもーとっくに切れたわよぉー 」
ミサトが慌てて手を振る。
「 ええー そうなの?
じゃあ 今は? 」
「 そうよ、そうよ、
結婚してもいいかなー みたいな相手とかは?」
「 い、いないわよぉ〜 そんな人・・・」
完全に 話の矛先が 自分の方へ向いてしまい、
ミサトは困った顔で 頭をかいた。
しかし・・
「 あ〜ら・・いるじゃない? 素敵な男性が ・・ 」
さっきのおかえしとばかりに、
ミサトの横から リツコの意外な声が・・
「 え!」
驚いたミサトを尻目に、 まわりの女性達は リツコに殺到した。
「 なになに!教えて!リツコ!」
「 誰? いくつ? どんな人? カッコイイ? 」
「 ねーリツコー もったえつけないでよぉー 」
身を乗り出さんばかりの勢いで聞いてくる友人達に
意味ありげな笑みで答えると
リツコはゆっくりと口を開き・・
「 ふふ・・・・ 結構 いい感じよ?
若くって ・・・ かわいくって ・・
しかも ・・・ なんと ・・・・・・」
リツコは 一旦言葉を切り、
自分を見つめる 友人達を ぐるりと見まわした。
「 ち・・ちょっ! む!むぐぐぐ・・」
なにか言おうとしたミサトの口が 友人たちの手によってふさがれた。
それを確認した後で、リツコは
ゆっくりと・・
「 なんと・・・・・もう ふたりは
同棲 してるのよ・・・」
「・・・・・・・」
「 ・・・ 」
「 えええ〜〜!!」
「 ど、どうせい〜〜!!!」
「 名前は!?どんなひと!?」
騒ぐまわりを気にせず、リツコは
「 ・・・ちょっと待っててね・・・・ 」
そう言いながら、
なにやら 自分のバックの中を ごそごそとやりはじめた。
「 ちょ! リツコ! 」
いきなりな展開に、ミサトが叫ぶが、
おかまいなしの彼女は
自分のバックから、 シンジの資料についていた何枚かの写真だけを
抜き出すと それを机のうえに置いた。
「 ほら? この子よ 」
写真には 線の細い、 繊細そうな少年が
学校の制服を着て、歩いている姿が写っている。
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・・・ 」
「 ・・・リツコ・・・ この子って・・・いくつ?・・」
沈黙していた友人のうち、 一人がおそるおそる 聞いた。
「 十四歳 ・・・ 中学生よ 」
・
・
「 きゃーー!
中学生の男の子と同棲ーー!?」
「 えええ〜〜!ミサト
歳下 育ててるの〜!やるぅー! 」
「 かわいいー! この子 今度逢わせてよ!ミサト!」
「 そ、そんなんじゃないわよぉ〜!」
もりあがる友人達を 赤い顔のミサトが手で抑える
( ちょっと〜〜 リツコ・・ あんたね〜)
横目でミサトが となりをうらめしそうに見るが、
リツコは 「 おかえしよ 」 と言わんばかりのすました顔だ。
「 え? じゃあ ミサトが養ってあげてるんだ?この子!」
「 え・・・あ・・・・まぁ・・」
「 養ってあげてる というより・・・養ってもらってるって言ったほうが
正しいわね、 カオリ 」
「 え? どういう意味?リツコ・・」
「 だって 掃除洗濯はもちろんのこと、
その他家事全般は当然として、
なんと三食みーんな
このシンジ君が作ってくれてるんだから、ミサトに。」
「 ええええ〜〜!!!」
「 うそ!!ほんとに?ミサト!」
「 すご〜〜い!」
「 う・・うん・・・・まぁ・・・ 」
「 こんなにまだ子供なのに 料理まで できるんだ〜 」
「 うまいの?彼?料理・・ 」
問われたミサトは
別に嘘をつく理由もみあたらないので、うなずいた。
その隣で、 リツコが くっくっくっ と 笑いをこらえている。
「 な・・なによぉ〜・・リツコ・・」
ミサトが不機嫌そうに 彼女をにらむ。
「 だ・・だって・・・ミサト・・・
そう言えば、あなた・・・
彼にお弁当まで 作ってもらってるじゃない?・・」
「 あ・・・あれは・・」
「 きゃーーーー!!ほんと〜?!」
「 え!え!いいな〜 いいな〜〜!」
「 ねぇ、ミサト、 どーゆー関係なの?」
「 そうよそうよ、 あんたと このシンジ君って子!」
「 ど・・・どーゆー関係・・・といわれても・・」
( わたしと シンちゃんの関係?・・・
ん〜・・・っと・・・・いちおう・・・上司と・・部下・・・よねぇ・・・
でも、そんなこと ここで言う訳にもいかないし・・ )
思わず沈黙する ミサトだが、
こういう場合の沈黙は 逆効果である。
「 もしかして・・・言えないような関係なんじゃないの?ミサト!」
「 きゃー!!14歳でしよ?マズイわよぉ〜〜!」
「 そうそう、16歳以上じゃないと 法律に引っかかるのよ!?」
「 国家公務員でありながら、若くてこんなにかわいい子を!
うらやまし〜〜!」
「 え?・・ち・・違うわよ! そんなんじゃないんだって!」
「 もしかして・・ ミサト・・
・・ほんとに食べちゃったんじゃないでしょうね・・」
「 きゃー! ミユキったら!」
「 た・・食べ・・
そんなこと するわけないでしょ!」
トマトのように顔を赤くしたミサトは
話を めちゃくちゃな方向に向ける友人達に叫んだ。
・
・
「 へぇ〜 親戚の子なんだ〜 」
「 なるほどねぇ〜・・」
結局 そろそろ助けてあげるわ・・
という感じで リツコが登場し
シンジはミサトの遠い親戚ということになった。
事故で 両親が死んでしまったので 仕方なくミサトが引き取った・・
といった 具合だ。
「 でもシンジ君 かわいそ〜
お母さんも お父さんも死んじゃって・・・」
「 ・・・ わたしは それよりも
ミサトの家で暮らすことのほうが 可愛そうだと思うわよ・・」
あっさりと言ったリツコを
ミサトが横目で見た。
「 ど ・・ どーゆー意味よ・・
それ・・」
「 あ〜ら? そのままの意味だけど?
掃除、洗濯まるで駄目、
料理も壊滅的に駄目で 極めつけは味音痴・・・
ガサツで ズボラな 同居人なら、
シンジ君も家事や料理が上手くなるにきまってるわ。」
「 そ・・そこまで言う? ・・あんた・・」
一度 ミサトカレーを食べているリツコの口調には
イヤミも 真実も たっぷりと 含まれている。
「 でも ミサト、 よかったじゃん、
こんな素敵な旦那様ができてさ!」
「 そうよー あたしなんてちっとも駄目なのに〜」
「 ・・だ・・・旦那様って・・・あのねぇ・・ 」
「 ま、 シンジ君の役割を考えると
お嫁さんをもらったって 感じだけどね・・」
リツコの言葉に、
まわりの友人達は一斉に笑い声を上げた。
( リ ・・・ リツコめぇ ・・・・
覚えときなさいよ・・ )
しかし、 あながち 事実無根なわけではない・・
とゆーか 限りなく 事実に近い。
( だから腹が立つのよ! )
ごもっとも
・
・
「 でもさあ? 別に無理やり家事をやらせてるって
・・・わけじゃないんでしょ? ミサト 」
友人の一人が
リツコへの復讐を誓っていたミサトに聞いた。
「 え ・・・ あ ・・・・ う・・ん ・・・
けっこう楽しそうにやってくれてるから・・・
だから お願いしちゃってるんだけどね ・・・
あは・・・あはははは・・・」
乾いた笑いをうかべながら、
ミサトはバツが悪そうに 頭をかいた。
言われてみれば、 確かに彼は
いつも文句も言わずに せっせと家事や食事の準備をしている・・
料理を作ってる時なんて とても楽しそうだ。
「 なるほどねぇ ・・・ そうなんだ ・・ 」
「 うん・・・ 」
「 えっへっへ〜〜〜 ミ・サ・ト! 」
「 ・・ な ・・・ なによ ・・・ メグミ ・・・」
「 私の推理によるとねぇ〜
・・・ たぶん このシンジ君・・・
・・・ ミサトの事 ・・・
・・・・好きよ・・・」
「 あ!あ!わたしも そう思う!」
「 え? な、・・なんで?・・」
「 だって そうじゃない?
嫌いだったら わざわざお弁当まで作ったりしないわよ〜」
「 そうよそうよ! 」
「 ・・そ、・・そうかなぁ・・・・ 」
突然の話に
ミサトはめずらしく顔を真っ赤にしながらたじろいだ。
彼女は “自分がシンジにどう思われているか?”
なんてことを あまり考えた事は無い。
ミサトにとって シンジはもっと こう・・・
自然な、 気兼ねの無い相手だ。
・・・・
自分とよく似てるからかも しれない。
( シンジ君が 私を ・・・ ねぇ・・・
・・・・まさかね・・・ )
でも、 シンジ君が自分のことを好きだ と思ってくれているのかも・・・
そう思うと 何故か ミサトはとてもうれしくなった。
しかし、にやけてしまいそうな顔を隠しつつ
彼女は まゆをひそめた。
「 変な事いわないでよぉ・・・・・ わたしとシンジ君は
15歳も離れてるのよ? ・・ わたしなんて・・ 」
すこし 恥ずかしいような・・
なんともいえない気持ちになったミサトだったが、とりあえず否定した。
しかし、
「 そんなことないわよぉー・・ 確かに歳は離れてるけど、
ミサトはまだ “おばさん” ってわけじゃないんだから・・・
・・・ただでさえ 若く見えるんだし・・」
彼女の言葉に まわりも そうよそうよ と同調する。
確かにミサトは 性格的にも 外見的にも
実際の年齢よりも だいぶ若く見られがちだ。
「 え? そ〜お? 若く見える?
えへへへ・・」
照れたように頭を掻くミサトを
リツコが冷ややかな目で見ながら、
「 一番子供で 成長して無いのよ・・ ミサトは ・・・ 」
「 リツコ!
あんた、なんか恨みでもあんの!?」
「 別に? ・・ 事実を述べただけよ・・ 」
彼女はすまして カクテルをかたむけた。
「 ・・・ったくもぉ・・・ 」
「 そんなことよりミサト・・ あなた
そろそろ帰ったほうが良いんじゃないの? 」
チラリと、
腕時計に目をやったリツコが ミサトに言う。
「 あ ・・・ そうね ・・
明日は早いんだったっけ・・」
そう言うと、ミサトは椅子の背にかけてあった
上着を持って 立ちあがった。
「 え? なんでよ、 終電はもうそろそろだけど・・
タクシー使えばいいじゃない?」
「 そうよ、 明日、日曜なんだから・・
休みでしょ? ネルフは・・」
まだこれから盛り上がるんだったのに・・
そう いわんばかりの友人達の視線をうけて、
「 ごめんね〜 みんな・・・ ちょっと明日は用事があってね。」
上着を小脇に挟んで ミサトは両手を顔の前で合わせた。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・ って
・・・まさか・・」
「 男 ・・ じゃないでしょうね ・・ 」
「 や・・やーねー・・違うわよ、
ほいじゃ またねー」
早口でそう言うと、 ミサトは詮索から逃れるように
いそいで 店を出ていってしまった。
「 ・・・ あの慌てぶり・・・ 思いっきり怪しいわね・・・ 」
「 ね、 リツコ ・・・
なにがあるのよ?明日・・」
友人達の視線を受けて、
リツコはグラスから 口を離すと
「 ふふ ・・・ 男 って部分は
ある意味、正解ね 」
そう言って 片目を閉じた。
「 やっぱり!! 」
「 なんでミサトばっかりいい〜〜!」
くやしがる友人達を見ながら、
リツコは楽しそうに笑った。
コツ ・・・ コツ ・・・ コツ ・・・
( シンジ君と わたしの関係ねぇ〜・・・ )
リーーー・・ リーーーーーー・・
虫達の大合唱が聞こえる 夜の街・・
駅から マンションまでの道を
ミサトはぼんやりと 考えながら歩いている。
コツ ・・・ コツ ・・・ コツ ・・・
( アスカが来てから ばたばたしてたから 気にしてなかったけど・・
そう言えば、 なんとも言えない関係よねぇ・・ )
美しい 深い青の夜空に、 青白い雲が 綺麗に流れている。
一番最初・・ 出会ったばかりのころは
彼女は シンジに対して 『 自分の部下 』 として 接した。
あたりまえだ。
ミサトは上司で
シンジはその部下であることに 間違いは無い。
しかし、 シンジは 違った。
上司ではなく ミサトに対して、 家族としての気持ちを 持とうとしていた・・
( 無理も無いわよね・・・ )
ミサトは思う。
相手は14歳の少年だ。
部下や上司などと言われたところで ピンとこないだろう。
そんな二人の間に 亀裂が生まれた。
( シンジ君が 家出した時・・・ )
ミサトは わずかに 歩く速度を落とした。
あの時・・
あの時 はじめてミサトは シンジの考えを知った。
ミサトを家族と考え・・接していきたいのに、
そう接してくれないミサトへの抵抗・・
それが 家出 だった。
( ・・・ シンジ君を受け入れることが 怖かったんじゃない・・
・・・シンジ君に 自分が受け入れられるのか・・・不安だったのよね・・ )
あの時の自分を ミサトはそう分析する。
そして、 それに気がついたミサトは シンジを追った。
間違っていたのが 自分だと気がついたから・・
そして 彼は 帰ってきた。
ミサトとシンジは 家族になった。
シンジはミサトに笑顔をみせてくれるようになり、
ミサトはシンジに自分の過去も話せるようになった。
日曜日に いっしょに買い物に行ったり・・・
レンタルしてきた映画のビデオを二人で見たりもした。
そして ミサトは
リビングで掃除機をかけている シンジの音を聞きながら、
サードチルドレンの観察日記を 破って ごみ箱に 捨てた。
・
・
「 ただいま〜・・・ 」
シンジやアスカを起こさないように、
小さく言いながら ミサトはドアを開けた。
結局 終電ぎりぎりだったため、
すっかり 遅くなってしまった・・・
ミサトは疲れた顔のまま ふらふらと 玄関に入った。
「 う〜〜・・・ 」
だるそうに ブーツのヒモと格闘していると、
リビングから 足音が近づいてきた。
「 おかえりなさい、 ミサトさん。」
見上げると、 すでにパジャマに着替えたシンジが
にっこりと ミサトに笑いかけている。
「 あ ・・・ まだ起きてたんだ ・・ 」
「 ええ・・ アスカはもう寝ちゃいましたけど・・・
あ・・・ミサトさん・・
ご飯、 少し残ってますけど おなかすいてますか?・・」
「 ん、 いい ・・・・ 沢山食べちゃったから・・」
ミサトは 自分のおなかを ぽんぽんと 叩いて見せた。
「 そうですか・・
じゃあ お風呂沸いてますから どうぞ。」
「 うん・・ありがと シンちゃん。」
ブーツを 脱ぎ終えたミサトは シンジを見た。
そして にやにやと 意味ありげな顔をする。
「 ? どうかしたんですか?・・」
「 そう言われれば そうね・・」
「 え? 」
「 シンちゃんて 私の奥さんみたいだもん。」
「 え・・な、なんですか・・・それ・・・・」
「 ふふ・・・じゃ お風呂はいってこよ〜っと・・ 」
「 ・・・・ 」
楽しそうに言うミサトに シンジは困った顔をした。
ちゃぽん!
「 う〜〜・・ やっぱ お風呂よねぇ〜・・・」
湯船に ずっぽりと身を沈めたミサトは
お湯を手ですくいながら 言った。
( シャワーで簡単に済ますのも 時には良いけれど、
やっぱり 日本人なら お風呂よねぇ〜・・ )
ん〜〜っと、
両手を湯船のなかで 伸ばす。
いい気分で ミサトは目を閉じた。
( ・・・・・
そういえば・・・
シンジ君のおかあさんになろうと・・
そう思った時もあったっけ・・・ )
・
・
お互いを理解した後で
部屋で寝ている シンジを見て、
彼の母親代わりになろうと・・
そう 思ったことがあった。
・
・
「 ・・ うんしょ ・・ っと ・・・・・ 」
脱衣所で てきとうに髪を拭いたミサトは
自分のバスタオルを 体に巻いた。
「 ミサトさ〜ん・・
晩御飯の時に皮をむいた りんごが残ってますけど、
食べます?」
リビングから シンジの声がする。
「 うん・・・食べる〜」
答えながら ミサトはそのまま
ドアを開けて 脱衣所を出た。
「 じゃあ このフォークで・・って・・
そ、そんなカッコで 出てこないでくださいよ・・」
バスタオル一枚の彼女を見て、
シンジが顔を赤らめた。
こんな状況だと、ミサトはやっぱり
自分は この子の母親にはなれないな・・と 思ったりする。
「 へへ〜 サービスよ、 サービス!
どぉ? セクシーでしょ? 」
「 し・・知りません!」
バスタオルを繋ぎ目を押さえながら、
ミサトが悩ましく髪をかきあげてポーズをとると、
シンジは慌てて そっぽを向く。
「 んもぅ・・・ こんなことで 恥ずかしがって〜・・
ふふ ・・・ あいかわらず ウブねぇ・・シンちゃんは。 」
彼女は シンジのこういう反応が好きだ。
ちゃんと 彼が 自分を “女” として見てくれていると思うと、
彼女はなんだかとても うれしい気持ちになる。
「 と・・とにかく、
ちゃんと服着て 出てきてくださいよ!」
「 だって〜 着替え部屋なんだもん・・ 」
まったく 反省した様子も無く
ミサトは自分の部屋に 入って行った。
・
・
( 母親になるには・・・私は若すぎて・・
シンジ君は 大人すぎるのかもね・・ )
最後のひとかけらの りんごをほおばりながら・・
ミサトは 台所で りんごの入っていたお皿を洗っている シンジを見る。
( いつまで こんな関係で いられるんだろ・・ )
ミサトは いまの 不思議なこの関係が好きだ。
できれば ずっと
このままでいたいと 思う
でも
それは 無理な話だ。
「 安かったんですけど、
けっこう甘かったでしょ? りんご。」
パジャマの上に エプロンをつけたシンジが
手を拭きながら 現れた。
なんともかわいらしい そのカッコを見つめながら、
ミサトは口を開いた。
「 ねぇ・・・シンちゃん・・・」
「 なんですか?・・」
言いながら シンジは何気なく
ミサトの向かいに 腰を下ろした。
「 シンちゃんさぁ・・
・・・・・・・
・・・私のこと、
・・・
どう思ってる? 」
「 ・・え・・ 」
きつねにつままれたような 顔のシンジに
ミサトがにっこりと笑いかけた。
青い空と、白い雲・・
大歓声の中、
とても大切な思いでと共に
ミサトは 自分の気持ちと 彼の気持ちを知る
次回:素敵な日曜日 後編