今日は木曜日…

 

…待ちに待った木曜日…

 

私の番…

 

 


ね こ よ う び

〜 レイの場合 〜

by XXXsさん


 

 

「 昨日は… アスカがねこの日だったから…今日は私の番なの 」

 

そう言うと、みんな変な顔をしていた。

だから、少し説明してあげたの。

 

「 いかりくんが…うんと…うんと…気持ち良くなれるように…

  私、頑張るの…。

  そう…いかりくんが私の上で眠ってしまうまで…。

  そして…私もそのまま眠りに就くの…。

  それは…とても…とても…気持ちのいいこと… 」

 

そうしたら、洞木さんが顔を真っ赤にして、

 

「 不潔っ!!不潔よぉっ!! 」

 

って叫んでどこかへ走っていってしまった。

 

他のみんなも顔を赤くしていたけど…何か変だったかしら?

 

ねぇ、いかりくん…

 

こうして…私の膝の上に頭を乗せて…

 

気持ち良さそうにしているいかりくんの…

 

髪を撫でることは…

 

とても…とても…気持ちいいの…

 

いつも…いかりくんが私にしてくれるように…

 

優しく…優しく…いかりくんの頭を撫でるの…

 

それだけで…

おなかの中が…

ぽかぽかして来るの…

 

なにか…

暖かい塊が…

ふくらんで来る感じ…

 

とても…とても…いい気持ち…

 

 

 

ねぇ、いかりくん…

 

私も…

 

眠くなってしまった…

 

おやすみなさい…

 

いかりくん…

 

 

 


ね こ よ う び

〜 ミサトの場合 〜

by COCHMA


 

 

< 以上! 優勝に沸きかえる

  祝賀会 会場より中継でしたっ! きゃっ! 冷たいっ! >

 

ビショビショに濡れながらも、

なんとかレポートをしめくくった女性キャスターの頭の上から

ドバドバと 新しいビールがかけられた。

 

かけたのは 文字通り 優勝の嬉しさに酔いしれた

青いユニフォームを着た 選手である。

 

< いやぁ〜 大変な賑わいでしたねぇ ・・ >

 

< ええ 何と言っても 30年ぶりの優勝ですから

   喜びもまた 格別のものなのでしょうね・・ >

 

マイクを返された スタジオの男女のアナウンサーは

今だに 映像だけが送られてくる 優勝祝賀会の模様を

目を細めながら 見ている。

 

プシューッ ・・ ガシャ!

 

玄関のドアが開いたのは

ちょうど その時だった。

 

 

「 うぃー ・・ たっ だーいま・・ 」

 

 

リビングのドアの向こう ・・ 玄関から

ミサトの気だるい声が聞こえる。

 

シンジは傍らに置いてあったリモコンで

テレビの音を小さくすると、

ソファーに座ったまま リビングのドアの方を見た。

 

「 おかえりなさい ・・ ミサトさん 」

 

ドアを開けて入って来た女性は

いつもの赤いジャケットを脱ぎながら、

小さくため息をついた。

 

「 今日はキツかったー ・・

  もー へとへと ・・

  あれ? アスカと ・・ レイは? 」

 

「 部屋だと思います、

  もう こんな時間だし ・・・ 」

 

シンジに言われて、

ミサトが壁にかかっている時計を見ると

 

すでに 10時30分を回っている ・・

テレビでは 夜のスポーツニュースをやっているようだ。 

 

「 あちゃー ・・ もーこんな時間なんだ ・・ 」

 

ジャケットを リビングの椅子の背に掛けながら、

ミサトは 頭を掻いた。

 

「 御飯とお風呂 ・・ どっち先にしますか? 」

 

そんな彼女を見上げながら、

シンジは 新婚の奥さんみたいなセリフを言う。

 

「 ん〜 ・・ どーしよっかなー 」

 

気だるそうなミサトは ぶつぶつと唸りながら、

シンジの側にやってくると、彼の隣りに

ペタンと 座り込んだ

 

「 ・・ そんなに大変だったんですか? 今日 ・・ 」

 

すぐそばにある、彼女の黒い瞳を見ながら

シンジが聞くと、

 

「 ん〜 ・・

  ちょっちミスが見つかってさーぁ ・・

  シンちゃんのお弁当も 片手間に食べたぐらい忙しかった 」

 

「 そうなんですか ・・ 」

 

「 でも この時間までかかって

  なーんとか終わらせて ・・ 

  ふぁ ・・ もー疲れたのなんの ・・ 」

 

言いながら ミサトは口に手を当てて

あくびを噛み殺した。

 

「 ご苦労様でした 」

 

シンジは 声にいたわりの色を込めて

ニッコリと笑った。

 

すると、 ミサトは横目でチラッと

そんな少年を見て

 

「 えらい? 」

 

短く聞いた。

 

「 え? ・・ ええ・・

  ・・ 偉い ・・ ですよ ・・ とっても 」

 

突然のことに

シンジは戸惑いながらもそう答えた。

 

すると

ミサトは嬉しそうな顔をして、

ずずっと シンジのほうに 顔を近づけた。

 

「 じゃ ほめて 」

 

・・・

 

「 あ ・・ あの ・・ 」

 

思わず 彼は身を引くが、

ミサトはさらに顔を近づけて

 

「 ほめてほめて! 」

 

と 駄々をこねる。

 

・・ アルコールも入っていないのに、

仕事が上手くいったせいか?

今日のミサトの機嫌は すこぶる良いようだ。

 

もちろん、そんな彼女に

シンジが逆らえるわけもない。

 

「 ・・ わかりました 」

 

しばしの沈黙の後

シンジはため息混じりに答えると

目の前の女性の頭に そっと手をのせて

 

何度か “ いーこ いーこ ” をしてあげた。

 

どういうわけだか知らないけれど、

葛城家の女性は皆、 シンジの “これ” が好きらしい。

 

「 へへ・・ やったね 」

 

ミサトはまるで 小さな子供のような笑顔になると、

 

突然

そのまま ぽてっと 上半身を倒して

シンジの膝の上に 頭を乗せる格好になった。

 

「 ちっ ・・ ちょっと・・ ミサトさん 」

 

シンジの膝の上に 暖かい重さと、

長い黒髪が 流れる様に広がった。

 

「 ん〜 ひざまくら 」

 

シンジの抗議など 最初から聞くつもりの無いミサトは

心地よい まくらを 頭の下に感じながら

うっとりと 目を閉じた。

 

「 ・・ 御飯 食べないんですか?

  そんなに大変だったなら お腹すいてるでしょ・・ 」

 

シンジは 自分の膝の上に視線を落としながら、

小さな声で聞いた。

 

流石に アスカやレイの時とは違い、

それほど恥ずかしくは無いのだが ・・

それでも 鼓動は ちょっと早くなってしまう。

 

しかし ミサトは

少年のそんな微妙な心の揺れなどお構いなし、

 

「 ・・ もー ぺっこぺこ ・・

  でも 食べるのめんどくさい ・・ 」

 

なにをするのも 気だるいと言うように、

ミサトはごろんと寝がえりをうつと

シンジのお腹に もごもごと 顔をうずめた。

 

「 ちょっ・・ くすぐったいですよ ・・

  あ ・・ それに 今日はミサトさんの好きな 煮魚ですよ 」

 

彼女の頭に手を置いて

勝手な行動を阻止しながら、

シンジは魅惑的な言葉を口にした。

 

「 ん〜 ・・ マジで? 」

 

「 マジで 」

 

・・・・

・・ しばし 沈黙が流れ、

小さくしていた テレビの音が あたりに広がった。

・・

 

しかし、

 

「 ん〜〜 煮魚も捨てがたいけど ・・

  このまま寝ちゃいたい気分・・ 」

 

ゆるい声で言いながら

ミサトは仰向けになり、目を閉じた。

 

「 ・・ ほらほら ・・

  その前にお風呂も入ってこないと ・・

  お湯 まだ抜いて無いんですから 」

 

「 ・・ 」

 

シンジの言葉に

ミサトは目を閉じたまま 何も言わない。

 

「 ミサトさん? 」

 

仕方なく つんつんと

頬っぺたのところを シンジが指でつつくと

 

ミサトは薄く目を開けて ・・

 

「 なんかさぁ ・・・ “その前にお風呂入ってこい” って ・・

  ちょっとエッチな響き ・・ 」

 

シンジの顔を見上げながら

ニヤリと 口元をゆがめた。

 

「 な ・・ 何バカな事言ってるんですか。 」

 

予想通り 真っ赤になったシンジを

満足そうに見ながら

 

「 んしょ ・・ 」

 

ミサトはむくりと起きあがると、

バサバサになってしまった髪を

片手で 後ろに撫でつけた。

 

彼女がいつも出かける時につける香水の香りが

わずかにシンジの鼻をくすぐる。

 

・・・ 

一連の言葉と 仕草は

シンジをからかうために 全部ワザとやっているものなのだが、

 

まだ それに気がつかない少年は

ドギマギしながら 身を強張らせていた。

 

ミサトは楽しそうに微笑むと

 

「 んじゃ ・・ お望み通り 綺麗にして来るね  」

 

トドメのセリフを 小さく呟き、

そっと シンジの右のほっぺたに

唇を当てた。

 

 


 

 

それから 30分ばかり 過ぎた頃 ・・

 

テレビの前の 小さなテーブルの上には

湯気の立ち昇る 美味しそうな晩御飯が並べられ、

 

それを幸せそうに食べる お風呂上りのミサトと、

その隣りで ミカンの皮をむいているシンジの姿があった。

 

「 何十年かぶりの 優勝とかで ・・ 

  さっきからずっと 大騒ぎしてるんですよ ・・ 」

 

ミカンをひとつ ほおばりながら、

シンジがあまり興味なさそうに言う。

 

「 ほんとだー どのチャンネルもそればっか ・・ 」

 

お箸を片手に持ったまま、

ミサトがパッパッと リモコンでチャンネルを変えるが、

どの画面も 優勝が決まった試合の録画されたものや

祝賀会の中継ばかりだ。

 

「 知らなかったんですか? 」

 

意外 と いった口調でシンジが言うと、

 

「 地下にこもってると、

  世俗の流れにうとくなってのぉ・・ 」

 

ほうれん草のおひたしに 数滴 醤油を落としながら、

ミサトは肩をすくめた。

 

別に 地下がどうこうと言う問題でなく、

葛城家に 野球に興味のある人間が

1人もいないだけの話だ。

 

・・

 

しばらく シンジは黙ってテレビに目を向け、

ミサトは もくもくと 晩御飯を食べていた。

 

時刻は 11時を過ぎ ・・

アスカはともかく レイはもう眠くなっている時間だろう。

 

・・

 

「 ・・ なに? 」

 

シンジが さっきからずっと、

横目で 自分の事を見ているのが気になって、

ミサトは お味噌汁のお椀から 口を離した。

 

「 いえ ・・ なんでもないです 」

 

柔らかく微笑みながら、

シンジは 首を横に振る。

 

「 よく食べるなぁ って 言いたいんでしょ? 」

 

煮魚を お箸でつつきながら

ミサトは すねたように口をとがらせた。

 

シンジは まるで “その通り” と言うかのように

笑顔で そんなミサトを見ている。

 

「 好きなオカズだし ・・ お腹すいてんだもん 」

 

珍しく ミサトは恥ずかしそうに顔を赤くすると

もぐもぐと 食事を続ける。

 

「 沢山食べてもらえるのは、

  僕としては すごく嬉しいです・・ 」

 

ふいにシンジはそう言うと、

心の底から 嬉しそうに 微笑んだ。

 

料理を作る人間の最大の喜びは

食べる人が美味しいと 思ってくれること。

 

使い古された言葉だが

それは事実である。

 

「 ・・・・ 」

 

なんと答えていいかわからず ・・

けれど ミサトは 思う存分料理を味わうことで

 

それを返事とした。 

 

 

( ホントに ・・ 優しい子よね ・・ シンちゃんは ・・ )

 

よく冷えた ナシを食べながら

ミサトはぼんやりと テレビに目をやった。

 

台所の方からは

カチャカチャと 食器を洗う音がする。

 

ミサトが遅い晩御飯を食べ終わると、

シンジは冷蔵庫に入れておいた ミサト用のデザートを彼女に出して

テキパキと 彼女の晩御飯の食器を洗っている。

 

・・ これは随分昔から 決まっている事だ。

 

本来、国家公務員である ミサトの帰宅は

普通のサラリーマンより 早目 ・・ のはずである。

 

現に、1週間のうち ほとんどは 6時半や7時過ぎ頃に

帰宅しており、ミサトは アスカやレイやシンジと一緒に

晩御飯を食べている。

 

しかしながら ネルフという団体は

その性格上 いつ どんなトラブルや問題が発生するとも

わからず、 帰りが かなり遅くなる事も しばしばだ。

 

そうなると ミサトだけ別に ・・ 

1人で遅い晩御飯を食べる事になる。

 

・・ しかし

 

彼女の帰りが どれだけ遅くても、

シンジは決まって リビングでテレビを見ながら、

ずっと ミサトが帰ってくるのを待っているのだ。

 

そして、彼女がお風呂に入っているあいだに

晩御飯を温めなおして、ミサトの前に 並べてくれる。

 

さらに それだけでなく、

彼はいつも 晩御飯を食べているミサトのそばに

彼女が食べ終わるまで 一緒に座っていてくれるのだ。

 

別に そうしてくれと 頼んだ事は無い。

 

けれど、彼はまるで そうするのが当然と言うような顔で

いつも 彼女の隣りに いるのである。

 

( ・・ シンちゃんは ・・

  誰かと一緒に食べることの美味しさ・・ を、知ってるんだろうな ・・ )

 

ミサトは思う。

 

たとえ どんなに高級な料理であっても、

一人でする食事は 味気の無いものだ。

 

寂しさが どれだけ食事に影響を与えるかを知っているから、

シンジは ミサトのそばに ずっといてくれるのだろう。

 

 

「 ・・ そろそろ

  お風呂の火を落としてもいいですね ・・ 」

 

噂をすれば なんとやら ・・

 

食器を洗い終えて タオルで手を拭きながら、

シンジが台所から 戻って来た。

 

「 ねぇ ・・ シンちゃん 」

 

くわえていた つまようじを

お皿に戻しながら、ミサトがシンジを手招きした。

 

なんですか? と 言いながら

彼が誘われるままに ミサトの隣りに腰を下ろすと、

 

「 ・・・ 

  ・・・ ひざまくら して ・・ 」

 

ミサトは突然 そんなことを言い出した。

 

「 な ・・ なんですか!それ ・・ 」

 

「 さっき 気持ちよかったから 」

 

事も無げに言いながら、

楽しそうに微笑むミサトに

シンジは少し いぶかしげな顔になった。

 

「 今日 ・・ 変ですよ? ・・ ミサトさん ・・ 」

 

「 ・・ どこが? 」

 

ミサトがあっさりと切り返すと、

シンジは困った顔になり ・・

 

「 な ・・ なんとなく ・・・ 」

 

と 言いながら うつむいた。

 

その瞬間を チャンスとばかりに

ミサトはくるりと 背中を向けると

 

「 あ・・ ちょっと! 」

 

「 へへー 隙あり! 」

 

さっと シンジの膝に頭を乗せて、

寝転がってしまった。

 

「 ・・ 

  ・・ まったくもぉ ・・ 」

 

まだ少し濡れている彼女の髪が、

膝にあたって ひんやりと冷たい。

 

・・ こうなってしまうと、

優しいシンジには もうミサトを払いのける事はできない。

 

ミサトには完全に それがバレている。

 

「 ・・ 今日 ・・

  ・・ 何曜日か知ってる? 」

 

シンジが 仕方なく そのままの体勢で座っていると、

ふいに ミサトがそんなことを言い出した。

 

「 金曜日 ・・ ですけど 」

 

シンジは言いながら

視線を自分の膝の上に落とす。

 

「 水曜日はアスカ ・・ 木曜日はレイ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 そんでもって 金曜日は ・・ 」

 

ミサトは言葉を切り、

すっと 自分の顔を指差して ニッコリと笑った。

 

「 な ・・ なに言ってるんですかっ! 」

 

よくやく 今日のミサトの態度の原因に気がついたシンジが

真っ赤な顔で 声を上げた。

 

「 自分の曜日になったら 甘えまくっていーんでしょ? 」

 

そんな彼の事をまったく気にせず、

ミサトは 彼の膝に体を預けたまま 腕を組んだ。

 

「 なに してもらおーかなー ・・

  ・・ ん〜 ・・ ちょーどいいから 耳そうじでも してもらおーかな♪ 」

 

「 や ・・ やですよ ・・ そんな ・・  」

 

恥ずかしそうに シンジがそっぽを向くが、

ミサトは少し上半身を浮かせて

 

「 えー いいじゃん、 ね

  私も後でしてあげるから ・・ 

  交代で 耳そうじ! これぞ恋人同士ってカンジ! 」

 

「 ・・ こ ・・ こいびとって ・・・ 」

 

困った顔で シンジは視線を泳がせた ・・ が、

突然 驚いた顔になると

 

「 ねー シンちゃ、むぐっ! 」

 

楽しそうに喋っていた 膝の上のミサトの口を

慌てて 手でふさいだ。

 

 

「 シンジ ・・ あんた いつまでテレビ見てるのよ ・・ 

  あれ? ミサトは? ・・ あいつまだ帰って来て無いの? 」

 

 

アスカの声だ

 

 

どうやら リビングのドアを開けて、

アスカが入って来たようだ。

 

「 あ ・・ いや ・・

  帰って来てるんだ・・ けど ・・ 」

 

しどろもどろな状態で シンジは言葉を濁した。

 

ミサトに膝枕をしているところなど

アスカに見られたら どうなるか、想像もしたくない。

 

「 お風呂 ・・ は電気ついてないから ・・

  トイレでも行ってんの ? 」

 

どうやら 立っているアスカには、

テーブルが盾になって、

寝転んでいるミサトの体は見えないようだ。

 

「 どうしたのよ ・・ シンジ 」

 

「 な ・・ なんでもないよ ・・ アスカ 」

 

アスカの視線に、

シンジは冷や汗を流しながらも

なんとか 平静を装って答える。

 

・・ しかし

 

「 ひぅっ ・・ 」

 

変なところを つんつんと触られて

思わずシンジは よくわからないうめき声を漏らした。

 

慌てて視線を落とすと、

口をふさがれたままのミサトが

いつもの よからぬことを企んでいる目で

ニヤニヤと シンジを見上げている。

 

「 え? ・・ どうしたの ?

  ・・ ちょっと ・・ アンタさっきから変よ?

  何か隠してるでしょ ・・ 」

 

勘の良いアスカは 怪訝な顔で

つかつかと シンジに近寄ってきた。

 

「 か、 か ・・ 隠してないってば! 何も! 」

 

これ以上 近くに来られては、

どう考えても 見られてしまう ・・

シンジは慌てて ぶんぶんと 首を振った。

 

「 ほんとにぃ? 」

 

アスカに いまいち信じられないといった顔で

ジロリと睨まれ、

 

「 本当だよ、本当 」

 

シンジはカクカクと 何度も頷いた。

 

「 ん〜 ・・ ま いーわ どうでも ・・

  ミサトに聞きたいことが あったんだけどなぁ・・ 」

 

アスカはぶつぶつと言いながら

元来た道を戻り リビングのドアに手をかけた。

 

「 ほっ ・・ 」

 

思わず シンジが安堵のため息をついた その瞬間、

膝の上のミサトが、 突然 パッとシンジの手をどけて

 

「 にゃーん 」

 

と 鳴いた。

 

・・・

 

部屋の中に一瞬、沈黙が流れ ・・

 

「 ・・・・ 」

 

アスカが ギギギ・・ と

油の足りないロボットのような動きで

シンジの方を 振り向いた。

 

「 なっ! なんでもないっ! なんでもないよ、アスカっ! 」

 

隠そうと思って 隠れる大きさのネコではないのに、

シンジは条件反射的に、

ぎゅっと お腹の上のミサトを 隠すように抱きしめた。

 

「 ん〜・・ 」

 

彼女が くぐもった声を上げた瞬間、

 

「 ミサトっ! 」

 

アスカは叫び、

ダッシュでシンジのところへ駆け寄り・・

 

「 あーっ!!

  なにしてんのよアンタ! 」

 

とんでもない光景に 眉を吊り上げた。

 

「 あ ・・ アスカ ・・ これは ・・ 」

 

何か言いかけたシンジの頭を

片手で 後方にぐぐっと押しやると、

 

「 こらあっ!ミサト!

  離れなさいよっ!! 」

 

平手で バシバシと

ミサトの黒いあたまを叩いた。

 

「 や ・・ やめなよ ・・ アスカ 」

 

「 うるさいわねっ! シンジっ!

  なんであんた よりにもよって

  ミサトにまで膝枕なんてしてやってんのよっ! 」

 

プリプリと怒りながら、いつも自分が膝枕をしてもらっていることを

自分からバラしてしまっている アスカ。

もちろん 本人は気がついていない。

 

そんな彼女をなんとかなだめようと、

シンジが 言葉を探していると ・・

 

叩かれていたミサトが

くるりと 向きを変えて、アスカを見上げた。

 

そして ・・

 

「 にゃん 」

 

・・・

してやったり と言った顔で

小さくつぶやいた。

 

・・ ぶちっ ・・ 

 

それでも平静でいられるほど、

アスカの堪忍袋は 上等では無い。

 

 

 

 

「 ぎぶ! ぎぶぎぶっ!! アスカ! 」

 

「 あんたわぁ〜〜!! 」

 

プロレスのワザなのか なんなのかよくわからないものを

アスカにかけられ、 ミサトは笑いながらバンバンと

床を叩いている。

 

「 だってー! いーでしょ!別に、

  アスカだってしてるんだからっ!」

 

「 それは関係無いでしょ! 」

 

「 おーありじゃないのー!

  レイだってしてるんだしぃ〜 」

 

「 なっ! 」

 

予想だにしない ミサトの言葉に

プロレスワザもどきが ゆるくなる。

 

「 世俗の流れにウトイわよ? アスカ! 」

 

その瞬間を逃さず、

ミサトは彼女の攻めから逃げ出した。

 

「 しかも〜 シンちゃんに ひざまくらしてあげてるのよ? レイ ・・

  いわゆる 立場逆転ってやつ・・ 」

 

得意げに続けるミサトの言葉に

アスカの顔が 真っ赤になる。

 

「 シンジっ! あんたそれ 本当なのっ! 」

 

「 ミサトさん!どーして知ってるんですかっ! 」

 

シンジも真っ赤な顔で

ミサトに向かって叫んだ。

 

「 あら 私はなーんでも知ってるわよん 」

 

 

 

 

なんだか ワイワイと賑やかな声に目が覚めてしまい ・・

なんだろう? と 思ってベッドを抜け出して

ここまでやって来たレイは

あちこち 跳ね上がった髪の毛のまま

ごしごしと目をこすった。

 

「 ・・・ 」

 

そのまま、 彼女は何も言わず しょぼしょぼする目で

リビングの中を見まわした。

 

暗い部屋の中から 急に明るいところに入ると、

目がうまく開かずに 何も見えない ・・

 

それにも増して とても眠いレイには

目に映ったものが なんであるか 考えるのも

おっくうだった。

 

なんか ドタバタと動いている

赤いものと ・・ 黒いもの ・・

 

そして それから少し離れたところにある ・・

あれは ・・

 

「 いかりくん 」

 

こんな状態でも、

しっかりと シンジのことだけはわかる。

 

不思議だ。

 

 

「 あ・・ 綾波 ・・ うるさかったね ・・

  ごめん ・・ 目が覚めちゃったの? 」

 

リビングに入って来たレイに気がついたシンジが

そう 話しかけたのだが、

 

「 いかりくん ・・ ねむい ・・ 」

 

レイは唸る様に 何か言いながら ・・

 

恐らく シンジ以外 目に入っていないのだろう、

よたよたと おぼつかない足取りで

彼の所にやって来た。

 

そして ・・

 

「 あ・・ 綾波 ・・ 」

 

眠い頭で 何も考えていないのか、

レイはそのまま もぞもぞと シンジの

膝の上で まるくなってしまった。

 

「 今日は・・ 木曜日じゃないよ ・・ 」

 

「 ん・・ んふ ・・ いいの 」

 

「 いいのって ・・ よくないよ ・・ あ ・・」

 

もともと 半分以上眠っていたのだろう ・・

彼女はそのまま 目を閉じて、

すぅ すぅ と 小さな寝息を 立て始めてしまった。

 

「 寝ちゃった・・ 」

 

呆然と 膝の上の少女を見つめるシンジの頭に、

アスカの強烈なチョップが振り下ろされたのは

 

今更言うまでも無い事だった。

 

 

 


ね こ よ う び ・ お ま け

〜 彼女達の場合 〜

by COCHMA


 

 

 

僕の名前は 碇シンジ

 

何処にでもいる ・・ ごく普通の中学生。

 

・・ と僕が言うと

みんな決まって 首を横に振るのだけれど、

 

何処か 普通と違うのだろうか?

 

・・

僕にはよくわからない。

 

家族は ・・

僕も含めて 全部で4人

それと ペットのペンギンが一匹。

 

・・・ の はずだったんだけど ・・

 

今はなんだかんだで ・・

ネコが3匹 追加されたみたいだ ・・

 

僕の知らないうちに。

 

・・

 

・・ 困ったなぁ ・・

 

・・

 

 

「 はぁ ・・ 」

 

次の日 ・・ 机の上を台拭きで綺麗に拭きながら、

シンジは 重いため息をついた。

 

「 くぁ? 」

 

テレビの前で ペンペンが返事をする。

 

「 ペンペンだけだと ・・ 楽なんだけどね。 」

 

そんな彼に向かって 疲れた顔で微笑みながら

シンジは肩を落とした。

 

___ と その時

 

ふいに背後で ドアが開いた音がして、

 

「 いかりくん 」

 

レイが 入って来た。

 

「 あ・・ 綾波、どうし  ・・ た ・・ ・・ の ・・ 」

 

シンジは台拭きを片手に振り向き ・・

彼女を見て 完全に動きを止めた。

 

「 いかりくん ・・ あの ・・ 」

 

すると突然、

 

「 !!! 」

 

何か言いかけたレイを遮り、

シンジは持っていた 台拭きを放り出すと、

顔を真っ赤にしたまま レイに駆け寄り、

 

「 わっ 」

 

ガバッと彼女の体を抱きかかえると、

 

「 い ・・ いかりく ・・ むぎゅ ・・ 」

 

そのまま レイを小脇にかかえて

猛然と シンジはアスカの部屋へと 突進した。

 

 

「 や ・・ は ・・

  恥ずかしいわよ ・・ これ ・・ 」

 

「 だいじょーぶだって! メチャ可愛いわよ それ!

  今レイがお披露目に行ってるし!

  シンちゃんも喜ぶってー。 」

 

「 で ・・ でもぉ ・・ 」

 

アスカの部屋から漏れる声が

廊下を流れている。

 

シンジはそんなことに目もくれず、

ズカズカと アスカの部屋の前に辿りつくと

 

「 ミサトさんっ!! 」

 

バンっ!と ドアを開け放ち、叫んだ。

 

「 なんですかっ!これはっ! 」

 

シンジは真っ赤な顔で、小脇にかかえた

可愛らしい ふわふわした ネコの耳のついた

レイのあたまを指差した。

 

(ねこようび挿絵提供:春風紅茶様 m(__)m)

 

カチューシャと一緒に

頭にとりつけるタイプのやつである。

 

しかし ・・

 

「 ん? 」

 

何事かと シンジの方を見たミサトの頭にも

すでに黒ネコの 耳がくっついていた。

 

「 あ・・・ あ・・・・ ああ! 」

 

ミサトの座っている そのすぐ横に

『 東急ハンズ 』 とかかれた袋が転がっているのを見て

シンジは 情けない声を上げた。

 

「 パーティーグッズ売り場で売ってたの、

  ほらっ! シッポもあるよ 」

 

ミサトは嬉しそうに、

手にもった もわもわの毛のカタマリを

上下に振ってみせる。

 

そんな彼女の後ろで、

恥ずかしい所を見られてしまった、と

アスカが真っ赤な顔でうつむいていた ・・

 

当然 彼女のあたまにも

ふさふさの 可愛らしいネコのミミがくっついている。

 

「 アスカまで・・ 」

 

シンジは赤い顔を さらに赤くした。

 

「 気分でるでしょー? 」

 

「 どーしてそう、

  くだらないことばかり考えるんですかっ! 」

 

怒鳴るシンジの 小脇に抱えられたレイが

びっくりしたように 自分の耳をふさいだ。

 

しかし ミサトは少しの悪びれた様子も無く

 

「 ん〜 ・・ 

  そんなに怒るなんて ・・

  ・・・

  怪しいわね ・・ 」

 

逆に 興味津々と言った顔で立ちあがり、

彼に近づいた。

 

「 な ・・ なんですか? 」

 

レイを抱えたまま、シンジは数歩

後ろに下がる。

 

「 シンちゃん ・・ 」

 

「 や ・・ やめてくださいよ ・・ 」

 

「 んふふ ・・ どお? 似合う? 」

 

ミサトが顔を近づけると、

シンジは 彼女を直視できずに

視線をさまよわせている

 

「 ふふ ・・ やっぱり ・・ 」

 

ミサトは低い声でつぶやき、

 

「 な ・・ なんですか? 」

 

シンジは 赤い顔を引きつらせた。

 

すると ミサトはビシッと

シンジの顔に指をつきつけると、

 

「 シンちゃん ・・ あなた ・・

  ネコ耳好きなんでしょ! 」

 

「 ・・ ちっ ・・ 

  ・・・・ 違いますよ! 」

 

ミサトの言葉に

シンジは 燃えあがったように赤面して

首をぶんぶんと 横に振った。

 

(ねこようび挿絵提供:春風紅茶様 m(__)m)

 

「 ほらっ! こんなに顔 赤くなってるっ!

  アスカ!アスカ! 面白いわよ! 」

 

「 シンジ ・・ 」

 

ミサトに手招きされ、

アスカも立ちあがる。

 

「 わっ! ・・・ 」

 

シンジはただそれだけで

ビックリしたように 身を引いた。

 

「 へ〜 意外よね〜 ・・

  シンちゃん ・・ こんなの趣味だったんだー 」

 

興味深げに腕を組みながら、

ミサトはさらに シンジに顔を近づけ、

 

「 ほんとだ ・・ 真っ赤 ・・ ふふ ・・

  たーっぷり このあいだのしかえし してあげるから

  覚悟しなさいよ シンジ 」

 

アスカも シンジの優位に立って

すっかり気をよくしたのか、

不適な笑みを浮かべながら 彼の所へ歩いてきた。

 

「 これ ・・ 好きなの? いかりくん ・・ほんとう? 」

 

小脇のレイが 顔を輝かせて

彼を見上げ ・・ 

 

「 もう 勘弁してくださいっ! 」

 

シンジは悲鳴に近い大声をあげた。

 

 

(ねこようび挿絵提供:春風紅茶様 m(__)m)

 

 

(おーわり


 

 

 

後書き読むにゃん

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