ある 晴れた日の午後・・
駅前のカフェテラスで
アスカと レイと ヒカリの3人がお茶をしていると、
急にヒカリが こんなことを言い出した。
「 ねえ・・・
碇君と一緒に暮らしてるって・・
アスカと綾波さんにとっては 幸せな事だと思うけど・・
やっぱり いろいろ困る事って あるんじゃない? 」
「 ちょっと・・
なんで シンジと一緒だと幸せなのよ・・ 」
このごに及んで、そんなセリフを言うアスカ。
だが、 顔が赤いので 説得力は無い。
「 ・・・ 私は ・・ 幸せ 」
アスカと違って、 レイは素直だ。
アスカはわずかに こめかみを震わせながらも
気を取りなおして ヒカリを見た。
「 まあ・・ それはともかく・・
で?・・・ いったいなによ・・
困ることって・・ 」
アスカの隣りに座っている レイも
向かいの席の彼女を見る
ヒカリは シナモンティーを一口飲むと
「 だって・・ 同じ家に暮らしてるってことは
いつも一緒にいるってことでしょ? 」
「 う・・・うん
・・ まあね ・・ 」
アスカの言葉に同調するように
レイもこっくり うなずく。
「 好きな人と いつも一緒なのは羨ましいけど・・
気が抜ける時がないんじゃないか?って 思って・・ 」
”好きな人”という単語に アスカがまた赤くなるが
もはやヒカリは気にしない。
彼女は やや 身を乗り出して
言葉を続ける。
「 だって 服とか 髪とか・・・ なにも考えずに
だらけちゃう時って 絶対あるじゃない?
自分の家の中なんだから・・ 」
ヒカリの言葉に アスカとレイは顔を見合わせると
「 ・・・ ん〜〜・・
そりゃあ あるわよ・・
学校から帰った時とか・・
お風呂上りとか・・ 」
アスカの言葉に レイが続く
「 御飯を食べたあと・・
朝、起きた時も・・ 」
二人の答えに
ヒカリはうなずくと
「 でしょ?
だったら そういう時の 自分のだらしない姿を
碇君に見られても 平気なのかな?って 思って・・ 」
ヒカリの言葉に・・
アスカとレイは 考え込んだ。
表通りに面したカフェテラスの、窓側の席。
街を歩く人々が 時折
店内の二人の少女を
チラチラと 興味深そうに見ながら通り過ぎる。
それだけ この二人の美貌は 異彩を放っている。
アスカとレイと 一緒にいると
ヒカリは他人の視線を いつもの10倍くらい 多く感じる。
しかし 本人達はそんなこと
あまり気にしないのであろう。
アスカは 自分の紅茶を スプーンでかきまわしながら、
「 だらしないって言っても・・
せいぜい タンクトップにタンパンとか・・
バスタオルのみ・・・とか・・
・・・ あ ・・・
じゅうぶん だらしない・・か・・ 」
紅茶を口元に運ぶ手を止めて
アスカが苦笑いする。
「 でも
いかりくんのだらしない姿も見てるから
へいき・・ 」
バナナシェイクのストローを
人差し指と親指でつまみながら
レイが 恥ずかしそうにぽつりと言った。
「 あ! そーよね! レイ!
それはあるわよね! 」
楽しそうに話すアスカとレイの前で
ヒカリが眉間を押さえている。
「 二人とも・・
仮にも うら若き乙女なんだから
もうちょっと 気をつけなさいよ・・ 」
ヒカリの言葉に アスカは小さく肩をすくめると、
「 気をつけるもなにも・・
シンジとあたし達は 言わば家族だもん・・
そんなに深刻な問題じゃないわ 」
「 そう・・ 問題じゃないわ 」
「 それに シンジは そーゆーカッコでからかうと
すぐに真っ赤になって可愛いから おもしろいし・・ 」
「 ・・ そう ・・ おもしろいし・・ 」
「 あのねぇ・・ 二人とも・・・ 」
あきれた声を出すヒカリに
アスカは意味ありげに笑うと、
「 ヒカリも 鈴原と 同棲でもしてみれば
すぐにわかるわよ・・
お互いのいろんな面を見る喜びとゆーか・・
空気のような存在とゆーか・・・ 」
「 ・・・・ とゆーか 」
「 レイ・・
いちいちあたしの語尾を反復すんじゃないわよ 」
『 ど・・ど・・どーしてそこで
鈴原の名前が出てくるのよ! 』
案の定 ヒカリは 顔を真っ赤にして叫んだ。
綺麗になるためには
「 ・・ やっぱ 相手の好みを知る・・ってのが
一番 てっとり早いわよねぇ・・・ 」
「 ・・・・ うん ・・・ 」
「 でも 問題は それをどーやって 知るか?
ってことだし・・・ 」
リビングのテーブルに向かい合って座りながら、
アスカとレイは なにやら 話し合っている。
そのテーブルの もう一方の側に座っているミサトが
野菜炒めを もぐもぐと食べながら
そんな二人を見ている。
「 洋服・・
アクセサリー・・ 」
「 そーそー・・ やっぱ そーゆーものにこだわるしか
ないわよねぇ・・ 」
レイの言葉に アスカが腕を組む。
ちなみに テーブルにいるのは女性陣のみ・・
シンジは台所で 後かたずけをしているようだ。
ネルフからの帰りが遅かったミサトは
今ごろになって ひとりで晩御飯を食べている。
先に食べ終わっていた アスカとレイが
食卓でなにやら話し合っているのだが・・・・
ミサトが 御飯を食べながら聴いていた会話を総合すると、
どうやら
”綺麗になるためには どーしたらいいのか?”
という 問題らしい。
( まあ・・・早い話が、
シンちゃんにもっと自分のことを見て欲しい・・
って ことかしらね・・ )
半分飲んだ お味噌汁の中に
御飯を放りこんで 『 猫飯 (ネコマンマ) 』 を作りながら
ミサトが 頭の中でつぶやく。
口に出したら 途端、
赤面したアスカに 反論されるだろう。
しかし・・
どうやら 昼間の・・他愛も無い女の子同士の会話は
別段 気に止めることはないもの・・のはずだったのだが、
改めて 家に帰って来て、
シンジを目の前にしてみると・・
アスカとレイにとって 案外 重要な問題になったようである。
「「 う〜ん・・ 」」
二人が 声をそろえてうなっていると、
お味噌汁・・・ 改め ネコマンマを食べ終えたミサトが
口を挟んだ。
「 さっきから聴いてるけど・・
別に特別な事はしなくてもいーんじゃないの?
こう言ったら変だけど・・
あなた達の外見は もう十分に綺麗よ? 」
ミサトの言葉に アスカとレイが
彼女の方を見る。
「 まあ・・
それは そーなんだけどさ・・ 」
無意味に胸を張りながら アスカ
「 綺麗・・ですか?
・・私・・
ミサトさん・・ 」
心配そうに レイ
「 うんうん・・
私が男だったら まずほっとかないわよ 」
ミサトは頷きながら 食後の麦茶に
手を伸ばす。
「 でもさ・・・
あたしが美しいのは当然なんだけど、
たゆまぬ努力とゆーか・・
なんとゆーか・・は 重要じゃない? 」
アスカが よくわからない顔で
よくわからないことを言う。
「 ふふ・・ アスカ・・・
つまるところ・・ 問題はシンちゃんなんでしょ?
要するに・・ 」
アスカが明言しない部分を ミサトはあっさりと口にする。
「 ちっ・・ ちがうわよ!
シンジは・・か・・関係無いわよ・・ 」
「 いかりくんのことなんです・・
ミサトさん・・・ 」
「 こら!レイ! なにはっきりいってんのよ! 」
「 ほらほら・・アスカ・・
今更 隠したって遅いんだから・・ 」
レイにくってかかるアスカを ミサトが両手でなだめる。
「 なにが 今更なのよ!もぉ! 」
「 ミサトさん・・
なにか いい考えはありますか?・・ 」
「 そおねぇ・・・・
まあ 常識的に考えたら 服装とか 髪型とか お化粧とか・・
あ・・それと 性格的なものとか・・
にじみ出るものを 磨いていくってのも あるわね・・ 」
「 にじみでるもの・・ 」
「 なによそれ・・
もっと 具体的なものは無いのぉ? 」
二人の言葉に ミサトはしばし 黙って考えると、
「 ん〜・・
あ、・・そうそう・・・
綺麗になるための 最強の武器ってのがあるけど・・・ 」
聞き捨てならないことを 言い出した。
「 なに?それ・・ 」
「 教えてください・・ ミサトさん・・ 」
二人は興味津々といった顔で
ミサトの方へ 身を乗り出す。
しかし ミサトはちょっと困った顔をすると、
「 教えたいのは 山々だけど・・
この最強の武器は、人に教わると 効力が無くなっちゃうのよ・・ 」
「 え? 」
「 ??? 」
よくわからない・・ といった顔で
首をかしげる二人。
すると ちょうど台所から
エプロンをつけたシンジが 現われた。
「 ミサトさん・・ 食べ終わりましたか? 」
「 あ・・ うん・・ ごちそーさま。
今日もとってもおいしかったわ 」
言いながら ミサトは 食器をシンジに手渡す。
「 今、デザートの果物むいたから・・
持ってきますね。 」
両手にいっぱい お皿をもって
台所に戻っていく シンジの背中を見ながら
ミサトは言葉を続ける。
「 自分で見つけないと いけないの・・
自分で気がつかないと、
駄目なのよ 」
「 ・・・・ 」
「 ・・・ 」
アスカとレイは 顔を見合す。
ミサトは そんな二人を見て
楽しそうに微笑むと、
「 ま、 そんなことより・・
やっと給料も出たし・・
明日は 日曜日だし・・
てっとりばやく 綺麗になるために
みんなで買い物でも行く?
服くらいなら 買ってもいーわよ? 」
そう言って
片目を閉じた。
草木も眠る うしみつ時・・
葛城家の洗面所の カガミの前に
なにやら 妖しげな人影がある。
すっと 伸びた長い足と、
細い腕。
水玉模様のパジャマを着た少女が
薄暗い洗面所で
先ほどから じっとカガミの中の自分を
睨んでいる。
「 ・・・・・ 」
洗面台の上には なにやらいろんなものが
ならんでいる。
少女はやがて
白いカチューシャを取り出すと、
それを 頭にもっていった。
ぐぐ・・
前髪を上げて・・
おでこを完全に出した状態で
再び カガミの中の自分を見た。
「 ・・・・・ 」
満足そうに 小さく頷くと
今度は 左手に ミサトにもらった白いコンパクト・・
右手には 肌色の化粧用パフ・・
コンパクトの中のファンデーションを
ぽふぽふと パフにしみこませると・・
「 ・・ すぅ ・・ 」
レイは 息を止めて
やおら
ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた!
猛烈な勢いで ファンデーションを顔中に
塗り始めた。
ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた!
「 けほっ・・ けほっ・・ 」
すこし やりすぎか・・
ともかく 元から色が白くて 肌が綺麗なところに
濃い目のファンデーションをぬりたくったため
なんだかよくわからないまだら模様になったレイは
気を取りなおして
今度は右手に 口紅を持った。
「 ・・ すぅ ・・ 」
レイは 息を止めると
再び やおら
ぬりぬりぬりぬりぬりぬり・・
口紅を ぬりはじめた。
ぬりぬりぬりぬりぬりぬり・・
もとから あまり上手でない塗り方にくわえ、
この口紅は 彼女には色が強すぎる。
ともかく もともとの唇より 1.5倍くらい太くなって
たらこ唇・・・ というより タコ入道のようになったレイは
恐る恐る カガミを見る。
「 ・・・・・・・・ 」
カガミは
現実をきちんと うつしだしてくれる。
「 ・・ しくしく ・・・ 」
さめざめと泣く 綾波レイ 15歳。
______ と
その時、 彼女の背中の方で
ギギギ・・っと
突然 洗面所のドアが開いた。
「 はぁ・・・
なーんか最近 トイレが近いのよねぇ・・
もう 歳かしら・・ 」
ぶつぶつ言いながら 洗面所に入って来たミサトは
薄暗い 空間の中にたたずむ
妖しげな人影を見つけた。
彼女は足を止めて、緊張した声で
その人影に話しかけた。
「 ・・・ 誰? ・・ 」
ミサトの声に
レイは ゆっくりと振りかえった。
「 だいたいね?
レイくらいの女の子が 化粧する必要なんてないの・・
わかる? 」
場所はミサトの部屋。
時間は さっきから 約10分後。
幽霊かと思って 絶叫してしまったミサトの手によって
強制的に顔をゴシゴシ洗われたレイは
タオルで顔をふきながら こくこくと頷く。
「 化粧なんてしなくたって、
すっぴんでじゅーぶん可愛いんだから!
私みたいになったら 化粧して誤魔化さないといけないけど・・ 」
自分で言っておきながら、
ミサトはため息をつく。
「 ・・・・・ 」
タオルを手に持ったまま
神妙な顔で レイはうつむいている。
そんな彼女を見て
ミサトは やさしく微笑むと
「 でも・・・
まあ 明日はみんなで デパートにお買い物に行くわけだし?
シンちゃんと 一緒に出かけるから、
少しでも 綺麗になりたいって気持ちは
わかるけどね? 」
ぼっ!
「 ・・・・ 」
図星を突かれて 真っ赤になったレイが
慌ててミサトを見上げる。
「 綺麗になりたいって気持ちは 女の子として当然の気持ちよ・・
別に 恥ずかしがることじゃないわ? 」
ミサトは レイのことが可愛くてしかたない・・
といった口調で話すと
少し席を外して、
後ろに置いてあった 自分の化粧道具箱を
なにやら ゴソゴソやりはじめた。
「 ・・・・ 」
レイは黙って そんなミサトの背中を見ている。
「 でもね・・
レイみたいに 若くて ピチピチした子は、
足りない所を補うだけでいーの・・っとぉ・・
あ、 あった あった。 」
ミサトは くるりと レイの方に向き直ると
ずずっと レイに近づいた。
「 ほら・・ 上を向いて? ・・レイ 」
素直にレイが ちょっとアゴを上げると
ミサトは腰を浮かせて 膝を床につけると
彼女の唇に 持っていた 無色透明のリップを
丁寧に 塗り始めた。
「 化粧がしたいなら、こーゆー色の無いリップだけでいいのよ・・
こうしておけば 唇が カサカサにならなくて
大丈夫・・・っと・・
ほいっ!
できあがり。 」
「 ・・・・ 」
「 唇がいつも しっとりすべすべだと、
シンちゃんとキスする時だって 大丈夫でしょ? 」
「 ・・・ きっ・・・ き・・ 」
ミサトの言葉に、
レイが 首まで真っ赤になったのは
言うまでも無い。
( 綺麗になりたい )
ミサトの言う通り、
レイは そう思う。
昨日、委員長に言われたとおり・・・
いつも 綺麗な自分でいたい。
綺麗な自分を
シンジに見て欲しい。
なので 思わず
”化粧をしてみる” という行動に出た
レイであったが・・
今だって シンジのとなりを歩きながら
ぼんやりと そのことばかり 考えていた。
「 どうしたの?
綾波・・ ボーっとして・・ 」
シンジが ちょっと心配そうに言う。
「 うん・・
・・なんでも・・ない・・ 」
レイは 彼の顔を見上げて
そう つぶやいた。
「 ・・ そう? ・・
それなら いいんだけど・・・
・・・・
でも 晴れてよかったね・・
今日は。 」
シンジはそう言うと
ニッコリと レイに笑いかけた。
「 ・・ うん ・・ 」
アスカの真似をして
シンジの隣りを歩いているレイは
ちょっと赤くなった。
( ぜったいに・・
ぜったいに 綺麗になりたい・・ )
うつむいた レイは
そっと 手をのばして、
シンジの腕に それを絡めた。
・
・
( 綺麗になったら・・ )
婦人服売り場に向かう エスカレーターに乗って
ぼんやりと シンジの背中を見つめながら
レイは 思う。
( 綺麗になったら
もっと いかりくんが 私を見てくれる )
それは 素晴らしい事だ。
考えただけで どきどきする。
でも・・
そのためには
いったい どうしたらいいのだろうか?
( ・・・ お化粧は 失敗だった ・・・ )
昨日の教訓だ。
( お化粧が駄目なら・・
お洒落をしよう・・ )
なかなかの名案だ。
レイは自分でも そう思う。
( いかりくんの好きな服を着て・・
いかりくんの好きな髪型をして・・
いかりくんの好きなアクセサリーをして・・ )
夢見心地でうっとりと
レイは 妄想に浸る。
すると、前に立っているシンジが
向こう側のエスカレーターに乗っている
二十歳くらいの 綺麗な女性を チラッと見た。
ほんの 一瞬・・
1秒もないくらいだが、
レイは気になる。
( ねえ・・ いかりくん
いまのが いかりくんの好きな服? )
( ねぇ・・ いかりくん
いまのが いかりくんの好きな髪型? )
( 知りたいの )
( どうしても 知りたいの )
( 綺麗になりたいから )
頭のなかで 何度もつぶやいていると
売り場についた。
・
・
ともかく 何着か 選ばなければならない。
レイが 山のように有る服を前に
どうしていいかわからずに キョロキョロしていると
背中の方から アスカの声が 聞こえてきた。
「 シンジは どっちのが好き? 」
「 え・・
いや・・・ そのぉ・・ 」
レイが振り向くと、
店員とミサトが なにやら喋っていて、
その隣りで アスカが自分の胸に 濃い目の赤の洋服と
色違いの黒の洋服を 当てて、シンジに選択を迫っている。
「 ねぇー
どっちが似合うと思う? シンジは・・ 」
アスカの容赦無い攻撃に
シンジはしどろもどろだ。
彼はもともと こういった買い物が
あまり得意では無い。
「 ・・・ いや・・ その・・
あ、 ほら・・
僕よりミサトさんに聞いたほうがいいよ・・
・・僕は そういうのよくわからないし・・ 」
シンジが必死に逃げようとするが、
アスカはそう簡単に逃がさない。
「 いーの!
シンジが好きなのを聞いてるの!! 」
「 ど・・ どうして? 」
「 だって・・
・・・シンジと一緒にいる時に着るんだもん 」
「 ・・ え? 何? ・・」
なにやら アスカがごにょごにょと言ったが
シンジには聞こえなかった。
「 い・い・か・ら!
どっち? 」
「 えーっと・・ 」
・
・
「 む! 」
そんな二人のやりとりを見ていたレイは
負けてはいられない! と
何着か みつくろうと 急いでシンジの所へと走った。
「 ・・ いかりくん・・
どっちがいいか 選んで。 」
アスカの真似をして、
3つの色違いの服を 自分の胸に当てながら 聞いてみる。
「 え!?
綾波も?・・ か・・ 勘弁してよ・・ 」
シンジがびっくりしたように レイを見る。
「 こら!レイ!
今は わたしが先なの! 」
「 ねぇ・・
どっち?
いかりくん・・ これと・・ これと・・ これ 」
アスカが怒鳴るが、レイはおかまいなしに
次々と シンジを質問攻めにした。
・
・
そんなこんなで わいわいと買い物をして、
4人は賑やかに帰宅した。
結局 アスカとレイは ミサトに買ってもらった服だけでなく
自分のおこづかいも使って、
4着ほど
春と夏用の新しい服を買いこんできた。
ミサトも なにやらシンジに ”どっちがいい?” を聞いて
一着買っていたが、 それはまた別の話である。
・
・
「 ・・・ で? ・・
なんでまだ その服を着てるわけ? あんたは・・ 」
お風呂上りの ちょっと遅めの晩御飯・・
みんなでリビングのテーブルに座っているのだが、
普段着のアスカが 隣りのレイに 不機嫌そうに聞いた。
ちなみに レイは お風呂上りだというのに
今日買ってきた シンジに ”よ・・・よく似合うよ・・綾波・・”
と言われた 薄いクリーム色のブラウスを着て ニコニコしている。
「 レイ・・
気持ちはわかるけど・・ スパゲッティーだから
ケチャップが飛んで 染みになったらいけないから・・
普段着か パジャマ・・ 着てらっしゃい? 」
黄色いノースリーブと 短くカットしたジーパンという
いつものカッコのミサトが 苦笑いしながら レイに言った。
「 ・・・・ 」
しかし レイはとたんに 悲しそうな顔をする。
無理も無い。
せっかく ”綺麗になれる服” を買ってきたのだ。
シンジに披露しなくては 意味が無い。
「 そーよ・・
ケチャップは 簡単に落ちないんだから・・ 」
アスカも あきれた声で
ミサトに賛成する。
「 ・・・・・ 」
すっかり しゅん・・ となってしまったレイが
ものいいたげに シンジを見る。
「 あ・・・ えーっと・・
そ・・ そうだね・・ 」
悲しそうな顔のレイを見るのは辛いが、
湯上りの ほかほかした彼女が
よそ行きのカッコをしているのは やはりおかしいので
シンジも すまなそうに ミサトの案に同意した。
「 ・・・ はい ・・・ 」
レイは仕方なく とぼとぼと
自分の部屋に 着替えに戻った。
シンジが その後姿を見ていると、
「 シンちゃん・・ シンちゃん・・ 」
ミサトが手招きしている。
「 なんです? ミサトさん・・ 」
「 ちょっと 耳かして・・ 耳・・ 」
シンジは言われるがままに
ミサトのほうに 体を近づけると
・・・ ごにょ ごにょ ・・
「 なによ・・ あんたたち・・
ナイショ話なんかして・・ 」
アスカが不機嫌な声で言うと・・
「 ・・・ や・・・ やですよ・・
そんな・・ 」
シンジが顔を赤くした。
「 いーから いーから・・
ね? お願い。 」
ミサトが 顔の前で 手を合わせる。
「 でも・・ 」
「 あのままじゃ 可愛そうでしょ? 」
ミサトの言葉に
シンジはしばし黙ると・・
「 ・・
・・・ はあ・・・ まあ・・
わかりました・・。 」
・
・
それから ほんの数分後。
3人が 先にスパゲッティーを食べていると
レイが Tシャツと 水色のパジャマのズボンというカッコで
とぼとぼと 戻ってきた。
「 おかえり・・ レイ ・・
さ、 さめないうちに 食べなさい。 」
ミサトが 言いながら、
テーブルの下で シンジの足を 足でつつく。
シンジは いくらかぎこちなく
レイの方を見ると
「 そ・・
そういう 普通の服でも・・
と・・ とってもかわいいよ? ・・綾波・・ 」
「 え? 」
それまでの しょんぼりした顔は何処へやら、
レイは途端に 赤くなり
「 ほんとう?
・・ いかりくん 」
嬉しそうな顔で シンジを見た。
「 う・・うん・・・ 本当だよ・・ 」
シンジの答えに レイは幸せそうに微笑むと
フォークで うきうきと
スパゲッティーをぐるぐるまわしはじめた。
「 ふん・・
ばっかみたい・・ 」
アスカは スプーンを口にくわえたまま
小さく鼻を鳴らした。
( 以上のような アンケート結果からわかるとおり、
確かに優しさは大事ですが、
時には男らしく・・
時には女性に対して 優位に立つ事も やはり重要なのです。 )
「 ・・・・
・・なるほど・・ 」
男性向け 情報雑誌の とある1ページ
『 いまどきの 男女関係 』
という記事を読んでいた碇シンジ 15歳は
神妙な顔でうなずいた。
場所は 駅前の本屋
夕食の買い物の帰り道に
いつも マンガの雑誌をここで立ち読みするのが
彼の日課なのだが、
今日は なんとなく・・
マンガではなく、 その隣りに置いてある
大人向けのファッション雑誌を手にとってみたのだ。
そして パラパラとめくっていて・・
さっきの記事が 目に入ったというわけだ。
・
・
「 ・・・・・ 」
本屋を出て、横断歩道の信号待ちをしながら
シンジはぼんやりと 紫色に染まり始めた空を見上げた。
まわりには 帰宅する会社員や
買い物がえりの主婦などが 何人か 同じように信号を待っている。
「 ・・ そう・・ 言われてみると・・
・・・ そうなのかなぁ・・? 」
ぽつりとつぶやくと、
信号が変わり、 人波が動き始めた。
その波に流されるように、シンジも 歩き出す。
横断歩道を渡り、しばらく進むと
商店街が途切れて、 高台が現われる。
葛城家のあるマンションは 山の方向にあるので
シンジは家に向かう坂道を歩いて行く。
・
・
確かに 僕はあまり男らしくない・・のだろうか・・
自分では あまりそうは思わないけど・・
まあ・・・
別に野球部とか ラグビー部とかに所属しているわけでもないし、
それほどイカツイ顔をしている・・・と いうわけでもなし・・
筋肉が ものすごいあるわけでもないし・・
声が低いわけでもないし・・・
「 ・・・・ 」
でも・・
外見的なものは どうでもいいじゃないか・・
「 ・・・問題は
・・・中身・・・ だよな・・ 」
さきほどから ぶつぶつと考え込んでいるということは、
あの雑誌の記事は シンジには少なからず
影響力のあるものだった・・と いうことだろう。
なだらかな坂を登ると
今度は 左にのびる 平らな道を行く。
まわりのお店の数も 駅前からはずいぶんと少なくなる。
ここから 葛城家のあるマンションまでは
一本道だ。
「 ・・ 肝心な時にしっかりしてる事が
重要だよな・・
お金を稼ぐってのも・・ 重要かも・・ 」
”男の条件” についてあれこれと考えていたシンジは
最近出来たばかりの 真新しい美容院の前を通りかかった。
全面ガラス張りの、ずいぶんお洒落な美容院だ。
( そういえばこのあいだ
ミサトさんと アスカが美容院がどうとかって・・言ってたな・・ )
その店の前を通りながら ぼんやりとシンジは店内を見る。
何人かの女性が 髪を切ってもらっている。
「 ・・・・ 」
ふと シンジは、 足を止めて
美容院のガラスにうつる 自分の姿を見た。
「 ・・・・ 」
ジーパンにTシャツという
普通のカッコの、線の細い少年が ガラスの中にいる。
サラサラの黒い髪に、中性的な顔・・
そして 左手に大きな スーパーのビニール袋・・
「 はぁ・・・ 」
思わずシンジは ため息をついた。
お世辞にも とても ”男らしい男” には見えそうもない。
( 女性に対して 優位に立つ・・ かぁ・・ )
シンジは 痺れてきた 左手の指をかばって
ビニール袋を右手に持ちかえると、
再び歩き出した。
「 じゃーん!」
「 え? 」
突然後ろから声がして、
シンジは 洗い終わったお皿を持ったまま 振り向いた。
昨日 デパートにみんなで買い物に行ったのだが、
その時に買った服を、アスカは着ている。
「 ねぇ・・ 似合ってる? シンジ・・ 」
アスカは 両手を腰に当てて、笑顔でシンジを見る。
その瞳は、まるでいたずら好きの子供のようだ。
どうやら 昨夜の一件のことを根に持って・・
からかうつもりなのか・・
それとも 自分も 誉めてもらいたいのか・・
・・・ 最も そんな微妙な乙女心は
シンジにはわからないが ・・・
・
・
僕が簡単に ”似合ってるよ” なんて言葉を
恥ずかしくて言えないってこと・・
ちゃんと知っているのに、
アスカはいつも僕に こういう質問をする。
「 き・・ 昨日さんざん言ったじゃないか・・・
買うときに・・・ 」
僕を覗きこむ 彼女の視線から目をそらしながら
僕はとりつくろうように答える。
昨日のデパートの婦人服売り場で、
さんざん 『 どっちが似合う? 』 をやられたのだ。
多分僕は あの売り場で 1年分の ”似合ってるよ”を
使ってしまったことだろう。
「 だーめ!
何度でも言って欲しいの!
ね、ね、
似合ってる? 」
「 ・・・ う・・ うん・・
に・・ 似合ってるよ・・・ とっても・・ 」
わかりきった 僕の答えなのに、
アスカはとても嬉しそうに微笑む。
「 えへ・・
ありがと・・ 」
・・・
そんなに 幸せそうな 顔をされると、
僕は彼女から 視線をそらせなくなる。
いつのまにか 勝手に頬が赤くなって来て、 あとは黙るしかない。
「 ね、 じゃあさ! じゃあさ!
次は あの 白のジャケット着て来るから
ちょっと待っててね!! 」
興奮した顔で 早口に言うと
アスカはバタバタと 自分の部屋に戻っていった。
どうやら ファッションショーは まだ始まったばかりのようだ。
シンジは 赤い顔をどうにかしようと、
2、3回 頭を横にぶんぶんと振る。
そして 手に持ったお皿を 戸棚にしまった。
「 ・・・ ふぅ ・・・・ 」
やっぱりアスカには永遠に勝てないような・・
そんな気がする・・。
別に悪い気分じゃないし・・
むしろ 嬉しいんだけど・・
やっぱり これって アスカに振りまわされてるって事に
なるのかなぁ・・
( 時には女性に対して 優位に立つ事も重要 )
その時、ふと
あの雑誌の言葉を思い出した。
確かに、
いつも アスカの予想どおりに恥ずかしがるから・・
からかわれちゃうんだよな・・
・・・ということは・・
恥ずかしがらずに 予想と違う反応をすれば
いいのかもしれない。
( ようし・・ )
・
・
しばらくして、 シンジが食器をぜんぶ
戸棚に仕舞いおわった頃・・
バタバタと 再びアスカが台所にやってきた。
「 ねえ・・ どお? 」
そこらへんのアイドル顔負けの美少女が
自分のためだけに ファッションショーをやっているのだ。
当然、
シンジは純粋に”かわいいな”と 思う。
思っても 恥ずかしいので 口には出さない。
・・ のだか・・ それは いつものことだ。
今日は ちょっと 考え方を変えて
シンジは そのまま 思ったことを素直に 口に出した。
「 本当によく似合ってる・・ アスカ・・
とってもかわいいよ。 」
もっと大変かと思ったのだが・・
意外と すんなりと 恥ずかしいセリフが 口から出た。
「 え・・ 」
しかし
アスカのほうは、突然シンジの口から出た言葉を理解できずに
ただ 目をぱちくりする。
シンジは恥ずかしいのを顔に出さないよう
注意しながら、彼女を見つめつづける。
やがて・・
やっと 今のシンジのセリフが
アスカの脳味噌に到達した。
「 ちょ・・
・・え・・・ か・・ かわ・・い・・・い? 」
アスカはシンジに ”かわいい” などと言われたのは
今日が 生れて始めてだ。
ビックリしたのと、うれしいのと 恥ずかしいのが
一気に押し寄せて来て、途端にアスカの顔は
耳まで真っ赤になった。
( あ・・・
アスカが 動揺してる・・ )
赤面した彼女の顔に気をよくしたシンジは
間髪入れずに さらに言葉を続ける。
「 うん。
アスカはいつも可愛いけど、
そういう服を着ると もっとかわいいね 」
シンジは そう言うと、
真っ赤な アスカの顔を覗きこんで
にっこりと笑った。
ぴーーーーーーっ!
アスカの顔から 蒸気が吹き出した。
( シンジが可愛いだって あたしの事 可愛いだって
やだどーしよ可愛いだって 可愛い・・かわ・・
きゃーーーー!! きゃーーー!! )
脳味噌の中が 言葉と血液で いっぱいになって
どうしていいのかわからない彼女は
「 ぁ・・う?・・・ うや?・・ 」
真っ赤な顔でもごもごと言葉にならない言葉を発する。
ガバッ!
と、突然
ついに耐えられなくなったのか
アスカは両手で 自分の顔を隠すと
バタバタと そのまま台所を出て
自分の部屋に 逃げてい・・
ガタン! バタッ!!
リビングのソファーにつまづいて 転んだ。
「 う・・
・・・ あ・・ ・・ 」
が、
むくっと 立ちあがって 改めて
自分の部屋に 逃げていってしまった。
シンジは くすくすと笑いながら
エプロンをはずした。
「 たまには・・
仕返ししないとね・・ 」
( からかわれた!からかわれた! )
アスカはベットの上で
ごろんごろんと 身悶える。
( だーーー!!
なんでこのアタシが
あんな馬鹿シンジにからかわれるのよっ! )
ごろんごろん
ベットの左から 右へ
( か・・
・・か・・
・・・・・か・・・
かわいいよ・・ とか言って!
ばか! なにが・・
なにが かわいいよ! なにが・・ )
ごろんごろん
ベットの 右から 左へ
( そんなこと言われても
ちっとも嬉しくなんてないんだから!
恥ずかしくなんてないんだから! )
足をバタバタさせながら
アスカの顔は 果てしなくゆるむ。
( 違うの!
違うの違うの違うの!
なんでニヤけるのよ!あたし!!
違うったら 違うの!
可愛いとか・・
違うの!!
駄目なの! そんなに簡単に言ったら!!
あーもーー!! )
そばに置いてある マクラをつかむと
ボスボスボスッと パンチを食らわす。
( このぉ! このぉ!
バカバカシンジ!! )
ボスボスボスッ・・
( ふ・・
ふん! どーせ嘘なんでしょ!?
かわいいって・・
・・・
か・・・かわいいって・・・
あたしのこと・・・・・ )
アスカは マクラにパンチするのをやめると
今度は そのマクラを ぎゅーーーーっと
力いっぱい 抱きしめた。
( も・・
も・・・
もしかしたら・・
ほ・・
ほんと・・・なのかな・・
でも・・
でも・・ だったら・・
きゃーーーーーー!! )
マクラを抱えたまま
再び ベットを 左から右へと
ごろんごろん
「 なに・・
してるの? ・・ 」
ドキンッ!
ふいに背中から かけられた声に
いもむしのようになったアスカの心臓が飛びあがる。
「 なにかの・・
・・・たいそう? 」
不思議そうなレイの声。
「 ちょっと! バカレイ!
いきなり 入ってくるんじゃないわよ! 」
アスカは 火照った顔と ぐしゃぐしゃの髪を気にせず
ベットの上に起きあがって 叫んだ。
しかし レイは涼しい顔だ。
「 ったく・・・
で?・・・
なんの用なのよ・・
シンジに”綺麗だよ”って言われた自慢話? 」
くしゃくしゃの髪を 手で押さえながら
アスカが 赤面の収まらない顔で言う。
「 違うわ・・ 」
「 じゃあ なによ・・ 」
シンジの言葉の影響が抜けず、
赤い顔のアスカを見ながら
レイが ゆっくりと 口を開いた。
「 ・・・わかったの・・
ミサトさんの言っていた
最強の武器・・ 」
「 え? 」
レイの言葉に アスカは驚いたように
彼女の顔を見つめた。
すると・・
レイは とても楽しそうに 小さく笑うと
優しい声で言った。
「 ・・・あなた・・
今・・
とても 綺麗な顔してるわ・・ 」
「 なっ! 」
いきなりの 彼女の言葉に
アスカが絶句する・・・・が、
「 ・・ あ ・・・ 」
ふいに 彼女はなにかに気がついたように
言葉を止めて
そっぽを向いた。
「 あなたも・・
わかったでしょう? 」
レイの楽しそうな声に
「 わかったわよ・・
しかも たった今・・ね。 」
アスカは そっけなく答えた。
「「 ごちそうさまー! 」」
アスカとレイは 声をそろえて言うと、
席を立った。
「 シンジ! かたずけが終わったら
あたしの部屋にくんのよ! 」
「 ・・ 待ってるから ・・ 」
二人は そう言い残すと、 バタバタと
アスカの部屋に戻って行った。
「 ふふ・・ 真っ赤になっちゃって・・
なんか 急に かわいくなったわね・・・ あの二人・・ 」
麦茶を飲みながら ミサト。
「 でも・・ アスカの部屋で なにすんの? 」
ミサトの問いに、
テーブルの上を 台拭きで拭きながら
疲れた声で、シンジが答える
「 ファッションショー・・ らしいです 」
「 へぇ・・ 」
「 晩御飯の支度をしてる時にも
聞きに来るんですよ??
・・ どうだっ! ・・・て 」
シンジはそういって ちょっと苦笑いを浮かべる。
「 で? シンちゃんはなんて言ってるの? 」
「 思ったとおり 答えてるだけですけどね・・・
あ・・・ でも 今日は いつもアスカにからかわれてるから
仕返ししてみたんですよ。 」
シンジが 真っ赤になって逃げていったアスカを思い出して
楽しそうに笑う。
「 へー・・ ね? どんな仕返し?? 」
興味津々といったミサトの問いに
シンジは少し 顔を赤らめると
「 ただ・・・
綺麗になったね とか かわいいね とか
び・・ 美人になったよ とか・・・
いつもの僕は 言わないような事を 言っただけです・・
・・ 恥ずかしがってるだけじゃ、 アスカの思う壺ですから。 」
恥ずかしそうにしゃべるシンジを
ニヤニヤと笑いながら ミサトが見る。
「 あ・・・ でも 嘘をついたわけじゃないんですよ・・
本当に ・・ そう ・・ 思ったんで・・ 」
「 へぇ〜・・ だからか・・ 」
「 え? 」
シンジが 聞き返すが、
ミサトは それには答えず、
「 ねぇ・・ シンちゃん・・
女の子が綺麗になるための秘訣・・・
最強の武器って・・ なんだかわかる? 」
「 ・・・ え ・・
わ・・ わかりません・・ けど ・・・・ 」
台拭きを持ったまま シンジが首をかしげる。
ミサトは そんな彼の顔の前で
びしっと 指を一本立てると、
「 ずばり!
大好きな人からの 言葉・・
”かわいいね” とか ”綺麗だよ”とか・・ 」
ミサトの言葉に シンジの顔が赤くなる。
「 それを言われただけで 何倍も 何十倍も綺麗になれる・・・
それが欲しいから、
恋する女の子は いくらでも 綺麗になれるの・・ 」
シンジは 赤面したまま 黙った。
「 そう・・
つまり ”シンちゃんの言葉”が、
綺麗になるための 最強の武器って わけ。 」
ミサトは 満足そうに 腕を組む。
「 じゃあ・・・
たまには・・ そういうこと・・
言った方がいいんですね・・ 」
シンジは 鼻の頭を掻きながら
そっと つぶやいた。
「 うん もちろん!
・・・・
私だって シンちゃんに 綺麗だよって言われたら
もっともっと 美人になるわよ? 」
ミサトはそう言って
楽しそうに笑った。