ある 晴れた日の午後・・

駅前のカフェテラスで

アスカと レイと ヒカリの3人がお茶をしていると、

 

急にヒカリが こんなことを言い出した。

 

「 ねえ・・・

  碇君と一緒に暮らしてるって・・

  アスカと綾波さんにとっては 幸せな事だと思うけど・・

  やっぱり いろいろ困る事って あるんじゃない? 」

 

「 ちょっと・・

  なんで シンジと一緒だと幸せなのよ・・ 」

 

このごに及んで、そんなセリフを言うアスカ。

だが、 顔が赤いので 説得力は無い。

 

「 ・・・ 私は ・・ 幸せ 」

アスカと違って、 レイは素直だ。

 

アスカはわずかに こめかみを震わせながらも

気を取りなおして ヒカリを見た。

 

「 まあ・・ それはともかく・・

  で?・・・ いったいなによ・・

  困ることって・・ 」

 

アスカの隣りに座っている レイも

向かいの席の彼女を見る

 

ヒカリは シナモンティーを一口飲むと

 

「 だって・・ 同じ家に暮らしてるってことは

  いつも一緒にいるってことでしょ? 」

 

「 う・・・うん

  ・・ まあね ・・ 」

 

アスカの言葉に同調するように

レイもこっくり うなずく。

 

「 好きな人と いつも一緒なのは羨ましいけど・・

  気が抜ける時がないんじゃないか?って 思って・・ 」

 

”好きな人”という単語に アスカがまた赤くなるが

もはやヒカリは気にしない。

 

彼女は やや 身を乗り出して

言葉を続ける。

 

「 だって 服とか 髪とか・・・ なにも考えずに

  だらけちゃう時って 絶対あるじゃない?

  自分の家の中なんだから・・ 」

 

ヒカリの言葉に アスカとレイは顔を見合わせると

 

「 ・・・ ん〜〜・・

  そりゃあ あるわよ・・

  学校から帰った時とか・・

  お風呂上りとか・・ 」

 

アスカの言葉に レイが続く

 

「 御飯を食べたあと・・

  朝、起きた時も・・ 」

 

二人の答えに

ヒカリはうなずくと

 

「 でしょ?

  だったら そういう時の 自分のだらしない姿を

  碇君に見られても 平気なのかな?って 思って・・ 」

 

ヒカリの言葉に・・

アスカとレイは 考え込んだ。

 

表通りに面したカフェテラスの、窓側の席。

街を歩く人々が 時折

店内の二人の少女を

チラチラと 興味深そうに見ながら通り過ぎる。

 

それだけ この二人の美貌は 異彩を放っている。

アスカとレイと 一緒にいると

ヒカリは他人の視線を いつもの10倍くらい 多く感じる。

 

しかし 本人達はそんなこと

あまり気にしないのであろう。

アスカは 自分の紅茶を スプーンでかきまわしながら、

 

「 だらしないって言っても・・

  せいぜい タンクトップにタンパンとか・・

  バスタオルのみ・・・とか・・

  ・・・ あ ・・・

  じゅうぶん だらしない・・か・・ 」

 

紅茶を口元に運ぶ手を止めて

アスカが苦笑いする。

 

「 でも

  いかりくんのだらしない姿も見てるから

  へいき・・ 」

 

バナナシェイクのストローを

人差し指と親指でつまみながら

レイが 恥ずかしそうにぽつりと言った。

 

「 あ! そーよね! レイ!

  それはあるわよね! 」

 

楽しそうに話すアスカとレイの前で

ヒカリが眉間を押さえている。

 

「 二人とも・・

  仮にも うら若き乙女なんだから

  もうちょっと 気をつけなさいよ・・ 」

 

ヒカリの言葉に アスカは小さく肩をすくめると、

 

「 気をつけるもなにも・・

  シンジとあたし達は 言わば家族だもん・・

  そんなに深刻な問題じゃないわ 」

 

「 そう・・ 問題じゃないわ 」

 

「 それに シンジは そーゆーカッコでからかうと

  すぐに真っ赤になって可愛いから おもしろいし・・ 」

 

「 ・・ そう ・・ おもしろいし・・ 」

 

「 あのねぇ・・ 二人とも・・・ 」

あきれた声を出すヒカリに

アスカは意味ありげに笑うと、

 

「 ヒカリも 鈴原と 同棲でもしてみれば

  すぐにわかるわよ・・

  お互いのいろんな面を見る喜びとゆーか・・

  空気のような存在とゆーか・・・ 」

 

「 ・・・・ とゆーか 」 

 

「 レイ・・

  いちいちあたしの語尾を反復すんじゃないわよ 」

 

『 ど・・ど・・どーしてそこで

  鈴原の名前が出てくるのよ! 』

 

案の定 ヒカリは 顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 

 

綺麗になるためには


 

 

 

「 ・・ やっぱ 相手の好みを知る・・ってのが

  一番 てっとり早いわよねぇ・・・ 」

 

「 ・・・・ うん ・・・ 」

 

「 でも 問題は それをどーやって 知るか?

  ってことだし・・・ 」

 

リビングのテーブルに向かい合って座りながら、

アスカとレイは なにやら 話し合っている。

 

そのテーブルの もう一方の側に座っているミサトが

野菜炒めを もぐもぐと食べながら

そんな二人を見ている。

 

「 洋服・・

  アクセサリー・・ 」

 

「 そーそー・・ やっぱ そーゆーものにこだわるしか

  ないわよねぇ・・ 」

 

レイの言葉に アスカが腕を組む。

 

ちなみに テーブルにいるのは女性陣のみ・・

シンジは台所で 後かたずけをしているようだ。

 

ネルフからの帰りが遅かったミサトは 

今ごろになって ひとりで晩御飯を食べている。

 

先に食べ終わっていた アスカとレイが

食卓でなにやら話し合っているのだが・・・・

 

ミサトが 御飯を食べながら聴いていた会話を総合すると、

どうやら

”綺麗になるためには どーしたらいいのか?”

という 問題らしい。

 

( まあ・・・早い話が、

  シンちゃんにもっと自分のことを見て欲しい・・

  って ことかしらね・・ )

 

半分飲んだ お味噌汁の中に

御飯を放りこんで 『 猫飯 (ネコマンマ) 』 を作りながら

ミサトが 頭の中でつぶやく。

 

口に出したら 途端、

赤面したアスカに 反論されるだろう。

 

しかし・・

どうやら 昼間の・・他愛も無い女の子同士の会話は

別段 気に止めることはないもの・・のはずだったのだが、

 

改めて 家に帰って来て、

シンジを目の前にしてみると・・

アスカとレイにとって 案外 重要な問題になったようである。

 

「「 う〜ん・・ 」」

 

二人が 声をそろえてうなっていると、

お味噌汁・・・ 改め ネコマンマを食べ終えたミサトが

口を挟んだ。

 

「 さっきから聴いてるけど・・

  別に特別な事はしなくてもいーんじゃないの?

  こう言ったら変だけど・・

  あなた達の外見は もう十分に綺麗よ? 」

 

ミサトの言葉に アスカとレイが

彼女の方を見る。

 

「 まあ・・

  それは そーなんだけどさ・・ 」

無意味に胸を張りながら アスカ

 

「 綺麗・・ですか?

  ・・私・・

  ミサトさん・・ 」

心配そうに レイ

 

「 うんうん・・ 

  私が男だったら まずほっとかないわよ 」

ミサトは頷きながら 食後の麦茶に

手を伸ばす。

 

「 でもさ・・・

  あたしが美しいのは当然なんだけど、

  たゆまぬ努力とゆーか・・

  なんとゆーか・・は 重要じゃない? 」

アスカが よくわからない顔で

よくわからないことを言う。

 

「 ふふ・・ アスカ・・・

  つまるところ・・ 問題はシンちゃんなんでしょ?

  要するに・・ 」

アスカが明言しない部分を ミサトはあっさりと口にする。

 

「 ちっ・・ ちがうわよ!

  シンジは・・か・・関係無いわよ・・ 」

 

「 いかりくんのことなんです・・

  ミサトさん・・・ 」

 

「 こら!レイ! なにはっきりいってんのよ! 」

 

「 ほらほら・・アスカ・・

  今更 隠したって遅いんだから・・ 」

レイにくってかかるアスカを ミサトが両手でなだめる。

 

「 なにが 今更なのよ!もぉ! 」

 

「 ミサトさん・・

  なにか いい考えはありますか?・・ 」

 

「 そおねぇ・・・・

  まあ 常識的に考えたら 服装とか 髪型とか お化粧とか・・

  あ・・それと 性格的なものとか・・

  にじみ出るものを 磨いていくってのも あるわね・・ 」

 

「 にじみでるもの・・ 」

 

「 なによそれ・・

  もっと 具体的なものは無いのぉ? 」

 

二人の言葉に ミサトはしばし 黙って考えると、

 

「 ん〜・・

  あ、・・そうそう・・・

  綺麗になるための 最強の武器ってのがあるけど・・・ 」

聞き捨てならないことを 言い出した。

 

「 なに?それ・・ 」

 

「 教えてください・・ ミサトさん・・ 」

二人は興味津々といった顔で

ミサトの方へ 身を乗り出す。

 

しかし ミサトはちょっと困った顔をすると、

 

「 教えたいのは 山々だけど・・

  この最強の武器は、人に教わると 効力が無くなっちゃうのよ・・ 」

 

「 え? 」

 

「 ??? 」

 

よくわからない・・ といった顔で

首をかしげる二人。

 

すると ちょうど台所から

エプロンをつけたシンジが 現われた。

 

「 ミサトさん・・ 食べ終わりましたか? 」

 

「 あ・・ うん・・ ごちそーさま。

  今日もとってもおいしかったわ 」

 

言いながら ミサトは 食器をシンジに手渡す。

 

「 今、デザートの果物むいたから・・

  持ってきますね。 」

 

両手にいっぱい お皿をもって

台所に戻っていく シンジの背中を見ながら

ミサトは言葉を続ける。

 

「 自分で見つけないと いけないの・・

  自分で気がつかないと、

  駄目なのよ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 ・・・ 」

 

アスカとレイは 顔を見合す。

 

ミサトは そんな二人を見て

楽しそうに微笑むと、

 

「 ま、 そんなことより・・

  やっと給料も出たし・・

  明日は 日曜日だし・・

  てっとりばやく 綺麗になるために

  みんなで買い物でも行く?

  服くらいなら 買ってもいーわよ? 」

 

そう言って

片目を閉じた。

 

 


 

 

草木も眠る うしみつ時・・

 

葛城家の洗面所の カガミの前に

なにやら 妖しげな人影がある。

 

すっと 伸びた長い足と、

細い腕。

 

水玉模様のパジャマを着た少女が

薄暗い洗面所で

先ほどから じっとカガミの中の自分を

睨んでいる。

 

「 ・・・・・ 」

 

洗面台の上には なにやらいろんなものが

ならんでいる。

 

少女はやがて

白いカチューシャを取り出すと、

それを 頭にもっていった。

 

ぐぐ・・

 

前髪を上げて・・

おでこを完全に出した状態で

再び カガミの中の自分を見た。

 

「 ・・・・・ 」

 

満足そうに 小さく頷くと

今度は 左手に ミサトにもらった白いコンパクト・・

右手には 肌色の化粧用パフ・・

 

コンパクトの中のファンデーションを

ぽふぽふと パフにしみこませると・・

 

「 ・・ すぅ ・・ 」

レイは 息を止めて

やおら

 

ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた!

 

猛烈な勢いで ファンデーションを顔中に

塗り始めた。

 

ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた!

 

「 けほっ・・ けほっ・・ 」

 

すこし やりすぎか・・

 

ともかく 元から色が白くて 肌が綺麗なところに

濃い目のファンデーションをぬりたくったため

なんだかよくわからないまだら模様になったレイは

 

気を取りなおして

 

今度は右手に 口紅を持った。

 

「 ・・ すぅ ・・ 」

レイは 息を止めると

再び やおら

 

ぬりぬりぬりぬりぬりぬり・・

 

口紅を ぬりはじめた。

 

ぬりぬりぬりぬりぬりぬり・・

 

もとから あまり上手でない塗り方にくわえ、

この口紅は 彼女には色が強すぎる。

 

ともかく もともとの唇より 1.5倍くらい太くなって

たらこ唇・・・ というより タコ入道のようになったレイは

恐る恐る カガミを見る。

 

「 ・・・・・・・・ 」

 

カガミは

現実をきちんと うつしだしてくれる。

 

「 ・・ しくしく ・・・ 」

 

さめざめと泣く 綾波レイ 15歳。

 

______ と

 

その時、 彼女の背中の方で

ギギギ・・っと

突然 洗面所のドアが開いた。

 

「 はぁ・・・

  なーんか最近 トイレが近いのよねぇ・・

  もう 歳かしら・・ 」

 

ぶつぶつ言いながら 洗面所に入って来たミサトは

薄暗い 空間の中にたたずむ

 

妖しげな人影を見つけた。

 

彼女は足を止めて、緊張した声で

その人影に話しかけた。

 

「 ・・・ 誰? ・・ 」

 

ミサトの声に

レイは ゆっくりと振りかえった。

 

 

 


 

 

「 だいたいね?

  レイくらいの女の子が 化粧する必要なんてないの・・

  わかる? 」

 

場所はミサトの部屋。

時間は さっきから 約10分後。

 

幽霊かと思って 絶叫してしまったミサトの手によって

強制的に顔をゴシゴシ洗われたレイは

タオルで顔をふきながら こくこくと頷く。

 

「 化粧なんてしなくたって、

  すっぴんでじゅーぶん可愛いんだから!

  私みたいになったら 化粧して誤魔化さないといけないけど・・ 」

 

自分で言っておきながら、

ミサトはため息をつく。

 

「 ・・・・・ 」

タオルを手に持ったまま

神妙な顔で レイはうつむいている。

 

そんな彼女を見て

ミサトは やさしく微笑むと

 

「 でも・・・

  まあ 明日はみんなで デパートにお買い物に行くわけだし?

  シンちゃんと 一緒に出かけるから、

  少しでも 綺麗になりたいって気持ちは

  わかるけどね? 」

 

ぼっ!

「 ・・・・ 」

 

図星を突かれて 真っ赤になったレイが

慌ててミサトを見上げる。

 

「 綺麗になりたいって気持ちは 女の子として当然の気持ちよ・・

  別に 恥ずかしがることじゃないわ? 」

 

ミサトは レイのことが可愛くてしかたない・・

といった口調で話すと

 

少し席を外して、

後ろに置いてあった 自分の化粧道具箱を

なにやら ゴソゴソやりはじめた。

 

「 ・・・・ 」

レイは黙って そんなミサトの背中を見ている。

 

「 でもね・・

  レイみたいに 若くて ピチピチした子は、

  足りない所を補うだけでいーの・・っとぉ・・

  あ、 あった あった。 」

 

ミサトは くるりと レイの方に向き直ると

ずずっと レイに近づいた。

 

「 ほら・・ 上を向いて? ・・レイ 」

 

素直にレイが ちょっとアゴを上げると

ミサトは腰を浮かせて 膝を床につけると

彼女の唇に 持っていた 無色透明のリップを

丁寧に 塗り始めた。

 

「 化粧がしたいなら、こーゆー色の無いリップだけでいいのよ・・

  こうしておけば 唇が カサカサにならなくて

  大丈夫・・・っと・・ 

  ほいっ!

  できあがり。 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 唇がいつも しっとりすべすべだと、

  シンちゃんとキスする時だって 大丈夫でしょ? 」

 

「 ・・・ きっ・・・ き・・ 」

 

ミサトの言葉に、

レイが 首まで真っ赤になったのは

言うまでも無い。

 

 


 

 

( 綺麗になりたい )

 

ミサトの言う通り、

レイは そう思う。

 

昨日、委員長に言われたとおり・・・

いつも 綺麗な自分でいたい。

 

綺麗な自分を

シンジに見て欲しい。

 

なので 思わず

”化粧をしてみる” という行動に出た

レイであったが・・

 

今だって シンジのとなりを歩きながら

ぼんやりと そのことばかり 考えていた。

 

「 どうしたの?

  綾波・・ ボーっとして・・ 」

 

シンジが ちょっと心配そうに言う。

 

「 うん・・

  ・・なんでも・・ない・・ 」

 

レイは 彼の顔を見上げて

そう つぶやいた。

 

「 ・・ そう? ・・

  それなら いいんだけど・・・

  ・・・・

  でも 晴れてよかったね・・

  今日は。 」

 

シンジはそう言うと

ニッコリと レイに笑いかけた。

 

「 ・・ うん ・・ 」

 

アスカの真似をして

シンジの隣りを歩いているレイは

ちょっと赤くなった。

 

( ぜったいに・・

  ぜったいに 綺麗になりたい・・ )

 

うつむいた レイは 

そっと 手をのばして、

シンジの腕に それを絡めた。

 

 

( 綺麗になったら・・ )

 

婦人服売り場に向かう エスカレーターに乗って

ぼんやりと シンジの背中を見つめながら

レイは 思う。

 

( 綺麗になったら

  もっと いかりくんが 私を見てくれる )

 

それは 素晴らしい事だ。

考えただけで どきどきする。

でも・・

そのためには

いったい どうしたらいいのだろうか?

 

( ・・・ お化粧は 失敗だった ・・・ )

昨日の教訓だ。

 

( お化粧が駄目なら・・

  お洒落をしよう・・ )

なかなかの名案だ。

レイは自分でも そう思う。

 

( いかりくんの好きな服を着て・・

  いかりくんの好きな髪型をして・・

  いかりくんの好きなアクセサリーをして・・ )

 

夢見心地でうっとりと

レイは 妄想に浸る。

 

すると、前に立っているシンジが

向こう側のエスカレーターに乗っている

二十歳くらいの 綺麗な女性を チラッと見た。

 

ほんの 一瞬・・

1秒もないくらいだが、

 

レイは気になる。

 

( ねえ・・ いかりくん

  いまのが いかりくんの好きな服? )

 

( ねぇ・・ いかりくん

  いまのが いかりくんの好きな髪型? )

 

( 知りたいの )

 

( どうしても 知りたいの )

 

( 綺麗になりたいから )

 

頭のなかで 何度もつぶやいていると

売り場についた。

 

 

ともかく 何着か 選ばなければならない。

レイが 山のように有る服を前に

どうしていいかわからずに キョロキョロしていると

 

背中の方から アスカの声が 聞こえてきた。

 

「 シンジは どっちのが好き? 」

 

「 え・・

  いや・・・ そのぉ・・ 」

 

レイが振り向くと、

店員とミサトが なにやら喋っていて、

その隣りで アスカが自分の胸に 濃い目の赤の洋服と

色違いの黒の洋服を 当てて、シンジに選択を迫っている。

 

「 ねぇー

  どっちが似合うと思う? シンジは・・ 」

アスカの容赦無い攻撃に

シンジはしどろもどろだ。

 

彼はもともと こういった買い物が

あまり得意では無い。

 

「 ・・・ いや・・ その・・

 あ、 ほら・・

 僕よりミサトさんに聞いたほうがいいよ・・

 ・・僕は そういうのよくわからないし・・ 」

シンジが必死に逃げようとするが、

アスカはそう簡単に逃がさない。

 

「 いーの!

  シンジが好きなのを聞いてるの!! 」

 

「 ど・・ どうして? 」

 

「 だって・・

  ・・・シンジと一緒にいる時に着るんだもん 」

 

「 ・・ え? 何? ・・」

なにやら アスカがごにょごにょと言ったが

シンジには聞こえなかった。

 

「 い・い・か・ら!

  どっち? 」

 

「 えーっと・・ 」

 

 

「 む! 」

そんな二人のやりとりを見ていたレイは

負けてはいられない! と

何着か みつくろうと 急いでシンジの所へと走った。

 

「 ・・ いかりくん・・

  どっちがいいか 選んで。 」

アスカの真似をして、

3つの色違いの服を 自分の胸に当てながら 聞いてみる。

 

「 え!?

  綾波も?・・ か・・ 勘弁してよ・・ 」

シンジがびっくりしたように レイを見る。

 

「 こら!レイ!

  今は わたしが先なの! 」

 

「 ねぇ・・

  どっち?

  いかりくん・・ これと・・ これと・・ これ 」

アスカが怒鳴るが、レイはおかまいなしに

次々と シンジを質問攻めにした。

 

 

そんなこんなで わいわいと買い物をして、

4人は賑やかに帰宅した。

 

結局 アスカとレイは ミサトに買ってもらった服だけでなく

自分のおこづかいも使って、

4着ほど

春と夏用の新しい服を買いこんできた。

 

ミサトも なにやらシンジに ”どっちがいい?” を聞いて

一着買っていたが、 それはまた別の話である。

 

 

「 ・・・ で? ・・

  なんでまだ その服を着てるわけ? あんたは・・ 」

 

お風呂上りの ちょっと遅めの晩御飯・・

 

みんなでリビングのテーブルに座っているのだが、

普段着のアスカが 隣りのレイに 不機嫌そうに聞いた。

 

ちなみに レイは お風呂上りだというのに

今日買ってきた シンジに ”よ・・・よく似合うよ・・綾波・・”

と言われた 薄いクリーム色のブラウスを着て ニコニコしている。

 

「 レイ・・

  気持ちはわかるけど・・ スパゲッティーだから

  ケチャップが飛んで 染みになったらいけないから・・

  普段着か パジャマ・・ 着てらっしゃい? 」

 

黄色いノースリーブと 短くカットしたジーパンという

いつものカッコのミサトが 苦笑いしながら レイに言った。

 

「 ・・・・ 」

 

しかし レイはとたんに 悲しそうな顔をする。

 

無理も無い。

せっかく ”綺麗になれる服” を買ってきたのだ。

シンジに披露しなくては 意味が無い。

 

「 そーよ・・

  ケチャップは 簡単に落ちないんだから・・ 」

アスカも あきれた声で

ミサトに賛成する。

 

「 ・・・・・ 」

すっかり しゅん・・ となってしまったレイが

ものいいたげに シンジを見る。

 

「 あ・・・ えーっと・・

  そ・・ そうだね・・ 」

 

悲しそうな顔のレイを見るのは辛いが、

湯上りの ほかほかした彼女が

よそ行きのカッコをしているのは やはりおかしいので

シンジも すまなそうに ミサトの案に同意した。

 

「 ・・・ はい ・・・ 」

 

レイは仕方なく とぼとぼと

自分の部屋に 着替えに戻った。

 

 

シンジが その後姿を見ていると、

 

「 シンちゃん・・ シンちゃん・・ 」

 

ミサトが手招きしている。

 

「 なんです? ミサトさん・・ 」

 

「 ちょっと 耳かして・・ 耳・・ 」

 

シンジは言われるがままに

ミサトのほうに 体を近づけると

 

・・・ ごにょ ごにょ ・・

「 なによ・・ あんたたち・・

  ナイショ話なんかして・・ 」

 

アスカが不機嫌な声で言うと・・

 

「 ・・・ や・・・  やですよ・・

  そんな・・  」

 

シンジが顔を赤くした。

 

「 いーから いーから・・

  ね? お願い。 」

ミサトが 顔の前で 手を合わせる。

 

「 でも・・ 」

 

「 あのままじゃ 可愛そうでしょ? 」

ミサトの言葉に

シンジはしばし黙ると・・

 

「 ・・

  ・・・ はあ・・・ まあ・・ 

  わかりました・・。 」

  

 

それから ほんの数分後。

 

3人が 先にスパゲッティーを食べていると

 

レイが Tシャツと 水色のパジャマのズボンというカッコで

とぼとぼと 戻ってきた。

 

「 おかえり・・ レイ ・・

  さ、 さめないうちに 食べなさい。 」

 

ミサトが 言いながら、

テーブルの下で シンジの足を 足でつつく。

 

シンジは いくらかぎこちなく

レイの方を見ると

 

「 そ・・

  そういう 普通の服でも・・

  と・・ とってもかわいいよ? ・・綾波・・ 」

 

「 え? 」

 

それまでの しょんぼりした顔は何処へやら、

レイは途端に 赤くなり

 

「 ほんとう?

  ・・ いかりくん 」

嬉しそうな顔で シンジを見た。

 

「 う・・うん・・・ 本当だよ・・ 」

 

シンジの答えに レイは幸せそうに微笑むと

フォークで うきうきと

スパゲッティーをぐるぐるまわしはじめた。

 

「 ふん・・

  ばっかみたい・・ 」

 

アスカは スプーンを口にくわえたまま

小さく鼻を鳴らした。

 

 

 

 


 

( 以上のような アンケート結果からわかるとおり、

  確かに優しさは大事ですが、

  時には男らしく・・

  時には女性に対して 優位に立つ事も やはり重要なのです。 )

 

「 ・・・・

  ・・なるほど・・ 」

 

男性向け 情報雑誌の とある1ページ

『 いまどきの 男女関係 』

という記事を読んでいた碇シンジ 15歳は

神妙な顔でうなずいた。

 

場所は 駅前の本屋

 

夕食の買い物の帰り道に 

いつも マンガの雑誌をここで立ち読みするのが

彼の日課なのだが、

 

今日は なんとなく・・

マンガではなく、 その隣りに置いてある

大人向けのファッション雑誌を手にとってみたのだ。

 

そして パラパラとめくっていて・・

さっきの記事が 目に入ったというわけだ。

 

 

「 ・・・・・ 」

 

本屋を出て、横断歩道の信号待ちをしながら

シンジはぼんやりと 紫色に染まり始めた空を見上げた。

まわりには 帰宅する会社員や

買い物がえりの主婦などが 何人か 同じように信号を待っている。

 

「 ・・ そう・・ 言われてみると・・

  ・・・ そうなのかなぁ・・? 」

 

ぽつりとつぶやくと、

信号が変わり、 人波が動き始めた。

 

その波に流されるように、シンジも 歩き出す。

 

横断歩道を渡り、しばらく進むと

商店街が途切れて、 高台が現われる。

葛城家のあるマンションは 山の方向にあるので

シンジは家に向かう坂道を歩いて行く。

 

 

確かに 僕はあまり男らしくない・・のだろうか・・

自分では あまりそうは思わないけど・・

 

まあ・・・

別に野球部とか ラグビー部とかに所属しているわけでもないし、

それほどイカツイ顔をしている・・・と いうわけでもなし・・

 

筋肉が ものすごいあるわけでもないし・・

声が低いわけでもないし・・・

 

「 ・・・・ 」

 

でも・・

外見的なものは どうでもいいじゃないか・・

 

「 ・・・問題は

  ・・・中身・・・ だよな・・ 」

 

さきほどから ぶつぶつと考え込んでいるということは、

あの雑誌の記事は シンジには少なからず

影響力のあるものだった・・と いうことだろう。

 

なだらかな坂を登ると

今度は 左にのびる 平らな道を行く。

まわりのお店の数も 駅前からはずいぶんと少なくなる。

ここから 葛城家のあるマンションまでは

一本道だ。

 

「 ・・ 肝心な時にしっかりしてる事が

  重要だよな・・

  お金を稼ぐってのも・・ 重要かも・・ 」

 

”男の条件” についてあれこれと考えていたシンジは

最近出来たばかりの 真新しい美容院の前を通りかかった。

全面ガラス張りの、ずいぶんお洒落な美容院だ。

 

( そういえばこのあいだ

  ミサトさんと アスカが美容院がどうとかって・・言ってたな・・ )

 

その店の前を通りながら ぼんやりとシンジは店内を見る。

何人かの女性が 髪を切ってもらっている。

 

「 ・・・・ 」

 

ふと シンジは、 足を止めて

美容院のガラスにうつる 自分の姿を見た。

 

「 ・・・・ 」

 

ジーパンにTシャツという

普通のカッコの、線の細い少年が ガラスの中にいる。

サラサラの黒い髪に、中性的な顔・・

そして 左手に大きな スーパーのビニール袋・・

 

「 はぁ・・・ 」

 

思わずシンジは ため息をついた。

 

お世辞にも とても ”男らしい男” には見えそうもない。

 

( 女性に対して 優位に立つ・・ かぁ・・ )

 

シンジは 痺れてきた 左手の指をかばって

ビニール袋を右手に持ちかえると、

 

再び歩き出した。

 

 


 

「 じゃーん!」

 

「 え? 」

 

突然後ろから声がして、

シンジは 洗い終わったお皿を持ったまま 振り向いた。

 

昨日 デパートにみんなで買い物に行ったのだが、

その時に買った服を、アスカは着ている。

 

「 ねぇ・・ 似合ってる? シンジ・・ 」

 

アスカは 両手を腰に当てて、笑顔でシンジを見る。

その瞳は、まるでいたずら好きの子供のようだ。

 

どうやら 昨夜の一件のことを根に持って・・

からかうつもりなのか・・

それとも 自分も 誉めてもらいたいのか・・

 

・・・ 最も そんな微妙な乙女心は

シンジにはわからないが ・・・

 

 

僕が簡単に ”似合ってるよ” なんて言葉を

恥ずかしくて言えないってこと・・

ちゃんと知っているのに、

アスカはいつも僕に こういう質問をする。

 

「 き・・ 昨日さんざん言ったじゃないか・・・

  買うときに・・・ 」

 

僕を覗きこむ 彼女の視線から目をそらしながら

僕はとりつくろうように答える。

 

昨日のデパートの婦人服売り場で、

さんざん 『 どっちが似合う? 』 をやられたのだ。

多分僕は あの売り場で 1年分の ”似合ってるよ”を

使ってしまったことだろう。

 

「 だーめ!

  何度でも言って欲しいの!

  ね、ね、

  似合ってる? 」

 

「 ・・・ う・・ うん・・

  に・・ 似合ってるよ・・・ とっても・・ 」

 

わかりきった 僕の答えなのに、

アスカはとても嬉しそうに微笑む。

 

「 えへ・・

  ありがと・・ 」

 

・・・

そんなに 幸せそうな 顔をされると、

僕は彼女から 視線をそらせなくなる。

いつのまにか 勝手に頬が赤くなって来て、 あとは黙るしかない。

 

「 ね、 じゃあさ! じゃあさ!

  次は あの 白のジャケット着て来るから

  ちょっと待っててね!! 」

 

興奮した顔で 早口に言うと

アスカはバタバタと 自分の部屋に戻っていった。

 

どうやら ファッションショーは まだ始まったばかりのようだ。

 

シンジは 赤い顔をどうにかしようと、

2、3回 頭を横にぶんぶんと振る。

 

そして 手に持ったお皿を 戸棚にしまった。

 

「 ・・・ ふぅ ・・・・ 」

 

やっぱりアスカには永遠に勝てないような・・

そんな気がする・・。

 

別に悪い気分じゃないし・・

むしろ 嬉しいんだけど・・

 

やっぱり これって アスカに振りまわされてるって事に

なるのかなぁ・・

 

( 時には女性に対して 優位に立つ事も重要 )

 

その時、ふと

あの雑誌の言葉を思い出した。

 

確かに、

いつも アスカの予想どおりに恥ずかしがるから・・

からかわれちゃうんだよな・・

 

・・・ということは・・

 

恥ずかしがらずに 予想と違う反応をすれば

いいのかもしれない。

 

( ようし・・ )

 

 

しばらくして、 シンジが食器をぜんぶ

戸棚に仕舞いおわった頃・・

 

バタバタと 再びアスカが台所にやってきた。

 

「 ねえ・・ どお? 」

 

そこらへんのアイドル顔負けの美少女が

自分のためだけに ファッションショーをやっているのだ。

当然、

シンジは純粋に”かわいいな”と 思う。

 

思っても 恥ずかしいので 口には出さない。

 

・・ のだか・・ それは いつものことだ。

 

今日は ちょっと 考え方を変えて

シンジは そのまま 思ったことを素直に 口に出した。

 

「 本当によく似合ってる・・ アスカ・・

  とってもかわいいよ。 」

 

もっと大変かと思ったのだが・・

意外と すんなりと 恥ずかしいセリフが 口から出た。

 

「 え・・ 」

 

しかし

アスカのほうは、突然シンジの口から出た言葉を理解できずに

ただ 目をぱちくりする。

 

シンジは恥ずかしいのを顔に出さないよう

注意しながら、彼女を見つめつづける。

 

やがて・・

やっと 今のシンジのセリフが 

アスカの脳味噌に到達した。

 

「 ちょ・・

  ・・え・・・ か・・ かわ・・い・・・い? 」

 

アスカはシンジに ”かわいい” などと言われたのは

今日が 生れて始めてだ。

 

ビックリしたのと、うれしいのと 恥ずかしいのが

一気に押し寄せて来て、途端にアスカの顔は

耳まで真っ赤になった。

 

( あ・・・

  アスカが 動揺してる・・ )

 

赤面した彼女の顔に気をよくしたシンジは

間髪入れずに さらに言葉を続ける。

 

「 うん。

  アスカはいつも可愛いけど、

  そういう服を着ると もっとかわいいね 」

 

シンジは そう言うと、

真っ赤な アスカの顔を覗きこんで

にっこりと笑った。

 

ぴーーーーーーっ!

アスカの顔から 蒸気が吹き出した。

 

( シンジが可愛いだって あたしの事 可愛いだって

  やだどーしよ可愛いだって 可愛い・・かわ・・

  きゃーーーー!! きゃーーー!! )

 

脳味噌の中が 言葉と血液で いっぱいになって 

どうしていいのかわからない彼女は

 

「 ぁ・・う?・・・ うや?・・ 」

 

真っ赤な顔でもごもごと言葉にならない言葉を発する。

 

ガバッ!

 

と、突然

ついに耐えられなくなったのか

アスカは両手で 自分の顔を隠すと

 

バタバタと そのまま台所を出て

自分の部屋に 逃げてい・・

 

ガタン! バタッ!!

 

リビングのソファーにつまづいて 転んだ。

 

「 う・・

  ・・・ あ・・ ・・ 」

 

が、

むくっと 立ちあがって 改めて

自分の部屋に 逃げていってしまった。

 

シンジは くすくすと笑いながら

エプロンをはずした。

 

「 たまには・・

  仕返ししないとね・・ 」

 

 

 


 

( からかわれた!からかわれた! )

 

アスカはベットの上で

ごろんごろんと 身悶える。

 

( だーーー!!

  なんでこのアタシが

  あんな馬鹿シンジにからかわれるのよっ! )

 

ごろんごろん

ベットの左から 右へ

 

( か・・

  ・・か・・

  ・・・・・か・・・

  かわいいよ・・ とか言って!

  ばか! なにが・・

  なにが かわいいよ! なにが・・ )

 

ごろんごろん

ベットの 右から 左へ

 

( そんなこと言われても

  ちっとも嬉しくなんてないんだから!

  恥ずかしくなんてないんだから! )

 

足をバタバタさせながら

アスカの顔は 果てしなくゆるむ。

 

( 違うの!

  違うの違うの違うの!

  なんでニヤけるのよ!あたし!!

  違うったら 違うの!

  可愛いとか・・

  違うの!!

  駄目なの! そんなに簡単に言ったら!!

  あーもーー!! )

 

そばに置いてある マクラをつかむと

ボスボスボスッと パンチを食らわす。

 

( このぉ! このぉ!

  バカバカシンジ!! )

 

ボスボスボスッ・・

 

( ふ・・

  ふん! どーせ嘘なんでしょ!?

  かわいいって・・

  ・・・

  か・・・かわいいって・・・

  あたしのこと・・・・・ )

 

アスカは マクラにパンチするのをやめると

今度は そのマクラを ぎゅーーーーっと

力いっぱい 抱きしめた。

 

( も・・

  も・・・

  もしかしたら・・

  ほ・・

  ほんと・・・なのかな・・

  でも・・

  でも・・ だったら・・

  きゃーーーーーー!! )

 

マクラを抱えたまま

再び ベットを 左から右へと

ごろんごろん

 

「 なに・・

  してるの? ・・ 」

 

ドキンッ!

ふいに背中から かけられた声に

いもむしのようになったアスカの心臓が飛びあがる。

 

「 なにかの・・

  ・・・たいそう? 」

 

不思議そうなレイの声。

 

「 ちょっと! バカレイ!

  いきなり 入ってくるんじゃないわよ! 」

 

アスカは 火照った顔と ぐしゃぐしゃの髪を気にせず

ベットの上に起きあがって 叫んだ。

しかし レイは涼しい顔だ。

 

「 ったく・・・

  で?・・・

  なんの用なのよ・・

  シンジに”綺麗だよ”って言われた自慢話? 」

 

くしゃくしゃの髪を 手で押さえながら

アスカが 赤面の収まらない顔で言う。

 

「 違うわ・・ 」

 

「 じゃあ なによ・・ 」

 

シンジの言葉の影響が抜けず、

赤い顔のアスカを見ながら

レイが ゆっくりと 口を開いた。

 

「 ・・・わかったの・・

  ミサトさんの言っていた

  最強の武器・・ 」

 

「 え? 」

レイの言葉に アスカは驚いたように

彼女の顔を見つめた。

 

すると・・

レイは とても楽しそうに 小さく笑うと

優しい声で言った。

 

「 ・・・あなた・・

  今・・

  とても 綺麗な顔してるわ・・ 」

 

「 なっ! 」

いきなりの 彼女の言葉に

アスカが絶句する・・・・が、

 

「 ・・ あ ・・・ 」

 

ふいに 彼女はなにかに気がついたように

言葉を止めて

 

そっぽを向いた。

 

「 あなたも・・

  わかったでしょう? 」

 

レイの楽しそうな声に

  

「 わかったわよ・・

  しかも たった今・・ね。 」

 

アスカは そっけなく答えた。

 


 

「「 ごちそうさまー! 」」

 

アスカとレイは 声をそろえて言うと、

席を立った。 

 

「 シンジ! かたずけが終わったら

 あたしの部屋にくんのよ! 」

 

「 ・・ 待ってるから ・・ 」

 

二人は そう言い残すと、 バタバタと

アスカの部屋に戻って行った。

 

「 ふふ・・ 真っ赤になっちゃって・・

  なんか 急に かわいくなったわね・・・ あの二人・・ 」

 

麦茶を飲みながら ミサト。

 

「 でも・・ アスカの部屋で なにすんの? 」

 

ミサトの問いに、

テーブルの上を 台拭きで拭きながら

疲れた声で、シンジが答える

 

「 ファッションショー・・ らしいです 」

 

「 へぇ・・ 」

 

「 晩御飯の支度をしてる時にも

  聞きに来るんですよ??

  ・・ どうだっ! ・・・て 」

 

シンジはそういって ちょっと苦笑いを浮かべる。

 

「 で? シンちゃんはなんて言ってるの? 」

 

「 思ったとおり 答えてるだけですけどね・・・

  あ・・・ でも 今日は いつもアスカにからかわれてるから

  仕返ししてみたんですよ。 」

 

シンジが 真っ赤になって逃げていったアスカを思い出して

楽しそうに笑う。

 

「 へー・・ ね? どんな仕返し?? 」

 

興味津々といったミサトの問いに

シンジは少し 顔を赤らめると

 

「 ただ・・・

  綺麗になったね とか かわいいね とか

  び・・ 美人になったよ とか・・・

  いつもの僕は 言わないような事を 言っただけです・・

  ・・ 恥ずかしがってるだけじゃ、 アスカの思う壺ですから。 」

 

恥ずかしそうにしゃべるシンジを

ニヤニヤと笑いながら ミサトが見る。

 

「 あ・・・ でも 嘘をついたわけじゃないんですよ・・

  本当に ・・ そう ・・ 思ったんで・・ 」

 

「 へぇ〜・・ だからか・・ 」

 

「 え? 」

シンジが 聞き返すが、

ミサトは それには答えず、

 

「 ねぇ・・ シンちゃん・・

  女の子が綺麗になるための秘訣・・・

  最強の武器って・・ なんだかわかる? 」

 

「 ・・・ え ・・

  わ・・ わかりません・・ けど ・・・・ 」

台拭きを持ったまま シンジが首をかしげる。

 

ミサトは そんな彼の顔の前で

びしっと 指を一本立てると、

 

「 ずばり!

  大好きな人からの 言葉・・

  ”かわいいね” とか ”綺麗だよ”とか・・ 」

 

ミサトの言葉に シンジの顔が赤くなる。

 

「 それを言われただけで 何倍も 何十倍も綺麗になれる・・・

  それが欲しいから、

  恋する女の子は いくらでも 綺麗になれるの・・ 」

 

シンジは 赤面したまま 黙った。

 

「 そう・・

  つまり ”シンちゃんの言葉”が、

  綺麗になるための 最強の武器って わけ。 」

 

ミサトは 満足そうに 腕を組む。

 

「 じゃあ・・・

  たまには・・ そういうこと・・

  言った方がいいんですね・・ 」

 

シンジは 鼻の頭を掻きながら

そっと つぶやいた。

 

「 うん もちろん! 

  ・・・・ 

  私だって シンちゃんに 綺麗だよって言われたら

  もっともっと 美人になるわよ? 」

 

ミサトはそう言って

楽しそうに笑った。

 

 

 


 

後書き読むナリ〜!

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