なんにも考えられない・・・

自分が叫んだ言葉と、シンジの顔と レイのセリフと ヒカリの声・・・

ぜんぶがいっしょくたになって あたまのなかで ぐるぐるぐるぐる・・

 

怒ってるのか 泣いてるのか 悲しいのか くやしいのか

全然分からない・・

 

ただ 一直線に廊下を走って、走って走って 走りまくって・・

今、下りの階段の手すりに背中をあずけ あたしは 立ち尽くしていた。

 

キーンコーンカーンコーン・・・

 

授業の開始を知らせるベルが 学校中に鳴り響く・・

その音を聞いていた あたしは しだいに落ち着きを取り戻した・・

 

飛び出してきちゃった・・

 

 

どうしよう・・

 

 

まわりには 誰もいない・・・

なんか とっても悪いことをしたような 気分・・

 

「アスカ!」

 

その時、廊下の先から、シンジの声がした。

 

・・・・・・・・・と、 思う・・・

 

誰かが 追ってきたと 思った瞬間、

なぜか 私は、階段を逃げるように 駆け降りていた。

 

「アスカ!」

 

間違いなくシンジだ!

シンジの声と共に あたしを追う 足音が聞こえる。

 

あたしは 全速力で 下の階へたどり着くと 廊下を走り、女子トイレの前で 立ち止まった。

廊下の先にシンジの影が見えた時には、あたしは なかに入って、ドアを閉め 開かないように

ドアに背中をもたれかけた。

 

はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・

 

な・・・・ なんで シンジが・・・・?・・・・

お・・・追ってくるのは ヒカリだと思ってたのに・・・・

 

あたしが 事態を頭の中で まとめるよりも早く、 あたしの背中に ドアを通して シンジの声がした。

「アスカ!! アスカ!」

「な・・・なんで追ってくんのよ! 授業始まってるでしょ!早く教室に戻りなさいよ!」

なんでか わかんないけど 足が震えて・・・・・おまけに声もふるえそう・・・

それを知られたくなくて 、あたしは早口にそう 叫んだ。

 

「でも・・・・ ねぇアスカ! ここを開けてよ!」

そう シンジの声が 聞こえるとあたしの背中で ドアが 押された・・

あたしは必死になって それを 押し返す

「馬鹿! こ・・ここは 女子トイレなのよ!変態!!入ってくるな!」

「で・・・・でも・・・だめだよ!・・・」

 

なにが だめなのよ!

 

今度は ドアの取っ手が ガチャガチャと 音を立てる・・

 

「こっ・・・

 

あたしが再び 文句を言おうとした、その時

思いもよらぬ声が 聞こえてきた。

 

ジャー

「ったくー・・・・・・ なによ、騒々しいわねぇ・・・って・・・アスカ?」

「せ・・・・先生・・・・」

 

ハンカチで 手をふきふきしながら、あたしの前に立ったのは、

あたしとシンジの担任教師こと、葛城ミサト・・・・・・・・・・先生

どうでもいいけど、この人を 先生と呼ぶのに、あたしは 果てしない違和感を感じる・・・・

「なーに やってるのよ?ん?」

『興味津々』と顔にでっかく 書いたミサト先生は あたしに顔を近づけて聞いてきた。

「な・・・・なんでも ありません・・・」

見つめられて、あたしは 下を向くしかない・・

と、 シンジがまたさわいでる

「アスカ!ねえってば!」

「ん? アスカ・・・・外にいるのって、シンジ君?」

「・・・・・・・・・・・はい・・・・・・」

「なるほど・・・・」

そう 言うと、ミサト先生は やれやれと言った表情 で肩をすくめた。

「まったく・・・・あなたたち、またケンカしてるのね・・・原因はなに?って・・・

まあ、聞かなくてもわかるわね・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「で? 渡せたの?チョコ・・・」

ボッ!

言われて、あたしの顔の毛細血管が 一気に開いてしまった。

な・・・なにを いきなり 言うのよ・・・この人は・・・・

「な・・・・ちっ・・・ちが・・」

「違わないでしょー? そんなに 真っ赤になるくらいなんだから、」

ぐ・・・

色が白いのがあたしの 自慢だけど、赤面すると目立っちゃうのが玉に傷なのよね・・

なんて 言ってる場合じゃない!

と、 ミサト先生は 軽くあたしに 微笑むと、自分が持っていた 教科書とチョーク入れを私に見せて、

「まあ、いろいろあるみたいだけど 私としては 早くあなたたちの教室に行って

授業しないとまずいのよね」

そして 一瞬考えた後、

「まー シンジ君は 私がなんとかするから、 そこで 顔でも洗って 顔が赤くなくなったら 戻ってきなさい」

そう言って、私をそっと横にどけると さっさと外に出て行った。

 

「ミ・・・・ミサト先生・・・・」

「ほらほら〜だめでしょ?シンジ君、もう授業始まってるんだから こんなところで騒いでちゃー」

「あ・・・で・・でも・・・アスカが・・」

「アスカにもいろいろあるのよ、そんなことより・・・・ほら、」

そう言うとミサトは シンジの背後を指差した。

「え・・・」

シンジがつられて 背後に目をやると、そこには 廊下の各教室のドアから少し顔を出した

生徒達が、先ほどから女子トイレの前で騒いでいるシンジに 疑惑のまなざしを向けている。

「な・・・・ちっ・・・ちがうんです!・・」

「さ、 授業!授業!と・・・・」

慌てて 生徒達に叫ぶシンジの頭を小脇に抱えて、ミサトはとっとと 教室へ向かった。

 

バシャ!バシャ!

別に、言われたからってわけじゃないけど・・

バシャ!

あたしは 素直に 顔を洗面所で洗った。

後は・・・・ハンカチでっと・・・・・・・・・・・ごしごし・・・・

ふぅ・・・・・

 

 

気分爽快!頭もすっきりしたわ

・・・・・・・・・・・・

・・・・

・・・・・・・・・

はぁ・・・・・

 

チョコ・・・

 

(ふん!なんでこの私がシンジなんかに義理とは言え

チョコをあげなくちゃなんないのよ!)

 

なんで あんなこと言っちゃったんだろ・・・・・

 

(あげないわよ!)

 

・・・・

 

もう・・・チョコ・・・渡せないな・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

・・・・・

ま・・・

 

いいかな・・・・・

 

シンジだって・・・・・レイにもらったんだし・・・・・

 

別に・・・

 

ただの幼なじみ・・・・だもん・・・・

 

あたしたち・・・

 

 

ただの・・

 

 

・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

教室・・・・戻ろうかな・・・

 

このままサボりたいけど・・・

 

 

そんなこと・・・したことないし・・・・
 
 

『昨日』になる前に・・−後編−


 

その日の午前中の授業は ほとんど聞いてなかった・・

え? そのまま 教室に戻ったのかって?

うん・・・

ホントは嫌で すこし 誰もいない学校の中を うろうろしてたんだけど・・・

先生が 戻ってこいって 言ってたし・・・

でも みんなに なんて言われるか 正直嫌だった・・

でも、 ミサト先生が なんかしてくれたのか、 みんなあたしに何も言わなかった

レイはなんか 複雑な顔をして 私の方をちらっと見て・・・

ヒカリは小さく 『ごめん』をしていた・・

シンジは 私を見ると 思わず席を立ちそうになったけど すかさず ミサト先生に

問題を当てられて、しどろもどろ・・・

みんなが 笑ってるあいだに、あたしは自分の席についたってわけ・・

 

まあ・・・そっとしておいてほしかったしね・・

鞄を開けたら きんちゃくが見えた。

少し・・心が痛い・・

 

 

「アスカが渡さないなら 私もわたさないからね!」

 

お昼休みになったとたんに、ヒカリは席を立ち 鈴原にいつものようにお弁当を渡すと、

毎日たのしみにしてる 鈴原の『おおきに、いいんちょー』ってセリフも 半分聞き流して

あたしのところに直進・・

そのまま あたしを引きずって、無理矢理屋上まできて・・

開口一番に 今のセリフを言ったのだ。

 

「え・・・」

「アスカが 碇君に渡さないんだったら 私も 渡さないって言ったの!」

・・・・・・・

「ええ!」

「ええ!じゃ ないわよ、当然じゃない・・」

「で・・・でも・・」

ヒカリが チョコをあげる相手? ばーか・・そんなの鈴原に決まってんじゃない・・

「アスカ・・・」

ヒカリの声がやさしくなる。

「さっきのことなら みんな忘れちゃいなさいよ、誰も気にしてなんかいないわよ」

「・・・・・・」

「それに、学校じゃなくて 帰り道にでも渡せば 誰にもわからないわよ!」

「う・・・うん・・・」

「ねぇアスカ・・・約束よ、 絶対に碇君にチョコを渡すこと・・」

「・・・・でも・・・・」

「でも?・・」

「シンジは・・もう・・・レイにもらったし・・・あたし達・・別に・・ただの・・」

「アスカ・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「わかった・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「じゃあ・・・アスカ・・・・私の為に・・碇君にチョコをあげて・・」

「・・?・・・」

「わ・・わたし・・・・・・・・

・・・鈴原に・・・チョコ・・あげたいから・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「アスカが・・・あげてくれないと・・・私が・・・困るから・・

ね・・・私を助けると思って・・」

ヒカリ・・・・顔・・真っ赤だ・・・

ごめんね・・・

ごめんね・・ヒカリ・・

 

「わ・・わかった・・・ヒカリの為なら・・・」

「アスカ・・・」

「ヒ、 ヒカリの為よ!ヒカリの・・」

「うん・・ありがと・・」

 

お礼を言うのはあたしのほう・・

ありがとう

ヒカリ・・・

 

 

午後の授業も やっぱり上の空・・

あげると決めたら・・・なんか そのことばっかり 気になって・・

 

本当のところ・・朝にあげるつもりだったんだけど・・

急いでてそれどころじゃなかったし・・

帰り道・・・

渡そうかな・・・

 

でも・・ あたし達・・行きはいつも一緒だけど・・帰りはあんまり一緒じゃないのよね・・

シンジは 相田と鈴原と帰るだろうし・・・

あたしは いつも ヒカリと帰ってる・・

(一緒に帰るわよ・・)

って・・言わなきゃ・・だめだ・・・・・

はぁ・

 

でも・・・・・いつもなら言えるかもしれないけど・・

今日は駄目・・・

言えないよ・・そんなこと・・・

 

(帰りにあげるわよ)・・って・・

言ってるようなもんだもん・・

 

そうだ・・・

玄関口で待ってよう・・

 

そうすれば・・誰にも見えないし・・

帰ってきたシンジに・・

(待ってたわよ!)

あ・・・違う違う・・

偶然その時あたしも帰ってきたように見せないと・・・

そんで

あ・・・忘れてたわ・・・はい・・)

って すぐに家に帰れば・・

ふふ・・

よし・・

完璧ね・・

 

と、あたしは学校が終わるとすぐに

ヒカリに計画を耳打ちすると、急いで 家に帰った。

 

(ふふ・・・アスカってば・・素直じゃないんだから・・)

決意の炎に燃えた親友が 教室を出て行く後ろ姿を見ながら、

ヒカリは ほほえんだ。

しかし、ほほえんでばかりもいられない・・

自分のことを考えないと・・

(どうすれば・・・鈴原に・・)

ヒカリは ジャージ姿の少年に 目をむけた。

 

「シンジ、今日の帰りは どないするん?」

「トウジ・・」

「わりぃ! 2人とも! 今日は 早く帰って 横須賀に行って写真撮らないといけないんだ」

「なんや? また軍艦か?」

「ふっふっふっ・・・・・・・ちがうんだなー 今日のは 最新鋭の戦闘ヘリなんだよ!」

「同じやないか・・・」

「あ・・あのさ・・悪いんだけど、僕も今日は用事があるんだ・・」

「なんや!せんせーもか?」

「うん・・・ごめんね・・」

「まー えーわ・・・たまにわ1人で 帰るのも悪くないかもな・・」

「すまん、トウジ・・」

「ごめんね・・」

ヒカリが小さくガッツポーズしたのは言うまでもない。

 

いつもより 時間をかけて ヒカリは学級委員日誌を 書いている。

相田はもう 帰ってしまったが、トウジが帰るのを待っているのだ。

「んじゃ、せんせー お先に帰るわ わし。」

「うん、じゃあ またあしたね トウジ!」

「ほな・・」

そのセリフを聞くや否や ヒカリはずっと 書かないでいた日付を書き込んだ。

そして 大事そうに 鞄を持つと、席を立った。

偶然に たった今 書き終わって 下駄箱か、正門でばったり! というつもりらしい。

ヒカリはなんとなく、教室の中を見渡した。

日が少し傾き始めた 教室には、掃除当番の レイを含めた女子生徒数人と、・・

なぜが シンジが 残っている。

シンジを見て、少し首をかしげたヒカリだったが、鈴原のことを考えて

いそいそと、教室を出て行こうとした・・・・・のだが・・・

その耳に信じられないような セリフが飛び込んできた。

「あれ! シンちゃんじゃない!どうしたのよ?」

「あ・・・あのさ・・・・綾波・・・」

「え!なになに??」

「あの・・・・ちょっと 話があるんだけど・・・」

「え・・・ホント! わかった 、じゃ 今日 一緒に帰ろうか!」

「あ・・・・うん・・・・・・」

 

ええ!!い・・・碇君!!

 

気になって聞き入っていた ヒカリは、呆然とした表情で その場に立ち尽くした。

 

 


 

帰ってこないなー・・・・

 

遅い・・・・・

 

遅いなー・・・

 

 

あー

 

うーん・・・

 

 

 

あーもー 遅い!!

 

遅い遅い遅い遅い!!

 

 

ったく・・・今何時よ・・・・

 

げ・・・

 

もう 6時過ぎてるじゃない・・・

 

2時間以上待ってんのに・・・・

 

このあたしを ここまで待たすとは良い度胸じゃない?

 

あの 大馬鹿者シンジめ・・・

帰ってきたら ギッタンギッタンにしてやるんだから!

・・・・・・・・・じゃ なかった・・・・ この・・・

 

このチョコを・・・

 

 

はぁああ・・・・・・

 

ったく・・・・ どこほっつきあるいてんのよ・・・・・あいつ・・・・・

 

・・・・・・・・・バカ・・・・・

 

・・・・・バーカ・・・・・・・

 

バ・カ

 

なんか・・・疲れちゃった・・

 

ふぅ・・

 

あたしは きんちゃくを 鞄から取り出して、マンションの廊下の下に 置くと その上に腰を下ろした。

あと・・・・30分 待ってやるからね・・

 

30分だぞ・・

 

シンジ・・・

 

 

ピッ!

7時をまわった ことを あたしの腕時計が教えてる・・

あれから・・・45分・・

 

ゲームセンターだって・・・制服で入れるのは6時までなのに・・

 

なんか あったのかな・・・

 

でなきゃ・・こんなに遅く・・

 

カツッ・・・カツッ・・・・・・カツッ・・

 

誰か来た!

シンジ!!??

 

慌てて立ち上がる あたし・・・

い・・今学校から、帰ってきたように・・・しないと・・

 

あ・・

 

「アスカちゃん!? なにしてんのよ?こんなところで!?」

 

ママ・・・

 

「鍵 無くしたの? 馬鹿ねぇ・・・えーっと・・鍵は 鍵は・・・ ・・・そうそう・・

シンジ君なら さっき そこの公園で 髪の青い女の子と・・」

ギュウウウウウウ!!

冷たい手で、 胸の中を 鷲づかみされたみたい・・

息ができない

 

電気が体中に走って・・・

 

シンジ・・

 

あ!しまった・・・アスカちゃん!

 

あたしは もとから鍵など 開いていた 玄関を開けて 家の中に飛び込んだ。

そのまま 自分の部屋に駆け込み、 ドアに鍵を掛けた。

 

 

ママが部屋の外で 何か言ってる・・

 

あたまの 血管が どくどく・・どくどく・・

なんにも 考えたくない・・

なにも 思いたくない・・

なにも・・・・なにも言いたくない・・・

自分の大切な 何かが・・・ 何処かへ消えてしまったような気持ち・・

いや・・

そんなもの・・最初から 無かったのかもしれない・・

 

いや・・・

 

いやいや・・

 

何もかも いや・・

 

なにもかも・・ なにも・・・・感じたくない・・

 

心が痛くて・・・悲しくて・・

 

壊れてしまいそう・・

 

もう・・・いやなの・・・

 

頭から 毛布に潜り込むと あたしは そのまま 目を閉じた・・

 

なにも したくない・・

 

もう・・

 

 

 

すべてが 夢ならばいいのに・・

 

だって・・

 

もう 明日から・・・ 起こしにも行けない・・・

 

きっと・・・・ 話をすることも できない・・

 

逃げ出すことしか できない・・

 

 

きっと・・

 

 

 

 

 

 

 

壁に背中を預けたまま・・・

制服も着替えないまま・・

きんちゃくを 右手に持ったまま・・

 

毛布にくるまった あたしは 眠っていたみたい・・

あたまの 奥が ガンガンする・・

気持ち悪い・・

 

なんか 空気も生暖かくて・・・・

 

ごそっ・・・

 

あたしは 毛布から 顔を出した・・

 

部屋は真っ暗・・

 

ベランダにつながっている 窓から 暗闇が入り込んでいる・・

 

 

目がなれてくると・・・ ものが 見えてきた・・

テレビ・・・

ビデオ・・・

写真・・・

机・・

 

きんちゃくも・・

 

 

 

せっかく・・・・作ったのにな・・・

渡せなかった・・

 

あーあ・・・・

 

結構・・・・がんばったのにな・・・

 

ごめんね・・・ヒカリ・・・・・できなかったよ・・

 

 

でも・・・

 

 

でも・・

 

喜んでくれるとは限らなかったし・・・

 

レイにもらってたし・・・

 

ヒカリは 渡せたのかな・・・・

 

いいな・・・

 

 

 

 

指・・・

 

傷だらけだ・・・

 

バカみたい・・

 

一人でもりあがって・・・

 

一人で手作りして・・・

 

一人で期待して・・・

 

 

そうよね・・・

 

こんな 乱暴な女・・・

 

縫い物も満足にできない 女に・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

なんだかんだ 言っても・・・レイはやさしいしさ、・・・

 

ぶったり しないし・・

 

 

 

でもさ・・・

 

でもさ・・・ あたしだって・・・

 

あたしだって・・・頑張ったもん・・・

 

うまく行かなかったけどさ・・・・

 

喜んでもらおうと思って・・

 

ひどいよ・・

 

どうして?・・・ねぇ・・・

 

どうして・・こんなに 悲しくならなきゃいけないの?・・・

 

教えてよ・・・

 

ねぇ・・

 

あたしだって・・

 

一生懸命・・

 

 

・・・・・すん・・・・

 

やだ・・・ なんか・・・・涙でてきた・・・

 

・・・うっ・・・・・・うっ・・・

 

ずず・・・

 

ハナも出てきた・・

 

ふ・・・ふぇええ・・

 

頭の中で ガンガンと 頭痛がする・・

ちり紙を 取ろうとした 姿勢のまま・・

不本意ながらあたしは・・

 

泣き出してしまった・・

 

 

 

 

 

泣いたのなんか 久しぶり・・

何年ぶりだろ・・

 

わかんない・・

 

どのくらい 泣いてたのかも・・よくわかんない・・

10分?

1時間?

 

どうでもいい・・・

そんなこと・・

 

毛布に涙を染み込ませていたあたしは・・

鳴り止まない 頭痛に耐えかねて、 毛布を体に 巻き付けたまま・・

大きな ガラス窓の方へと 歩いて行った。

 

そっと ガラスに手をふれると・・冷たい・

 

外は 真っ暗・・

 

マンションの 前にある 庭園の 装飾ランプの明かりが見える・・

カチャ・・

ガララララ・・・・・・・

ヒュワー

窓を開けたら 、冷たくて 涼しくて 気持ちの良い風が 吹き込んできた・・。

良い気持ち・・

 

きんちゃくを 机の上に置き・・

毛布を ベットに戻すと、 あたしは サンダルをつっかけて ベランダに出た。

 

はあー・・・・・・・・・はあー・・・・

息が白い・・

 

少し寒いな・・

 

ベランダの手すりに腕を置いて、 あたしは 外の景色を眺めた・・

 

あおい・・

 

夜って・・・暗いものかと思ってたけど・・・

青いのね・・・

 

青・・・深い青・・・・

 

黒になるまえの・・・ 鮮やかな 青い空・・・

 

きれい・・

 

あたしの立っている、マンションのほうが よっぽど黒いわ・・

足元が良く見えないのに、 景色はとても良く見える・・

 

深い海の底のような 青い空に、昼間とは少し違う 雲・・・すこし 恐い雲が ゆっくり 流れてる・・

遠くの山は 黒いシルエットになって、 あまりに大きく 寝そべってる・・。

夜って・・こんなに 奇麗だったんだ・・

 

カラララ・・・・

 

 

何の音?

 

カラララ・・・・・・

 

ほら・・・ また・・

 

「ふぅ・・・・・・寒い・・」

 

え・・・・

 

 

シンジ?・・

 

シンジの声・・

 

 

隣のベランダ・・

1メートルも 離れていない、隣のベランダから、 シンジの声がした・・・

慌てて 左を見ると、

黒いシルエットが、 ごそごそと、 動いて・・・

 

やがて 青い 光が、 シンジの横顔を 照らし出した。

 

「シンジ・・」

 

何も考えず・・・あたしは 条件反射で 声を出していた・・

胸がつまって あんまり 声になってなかったけど・・

 

でも、 シンジが気がついた。

 

「え・・・・・・・あ・・・・・・・・アスカ・・」

 

白い息を吐きながら、シンジは大きく目を見開いて、驚いている・・

 

あたしは なにも 言えずに ただ 立ち尽くしていた。

なにか 言ったら それだけで 涙がまた あふれてきそうで・・・

動くこともできない。

 

そのあたしの 前で、 シンジが こっち側に 歩いてきた。

 

「どうしたの?・・アスカ・・・こんな 夜中に・・しかも・・・まだ制服じゃないか・・」

 

どうしたの・・・

 

どうしたの・・・・・ね・・・・

 

そのとたん、 あたしの体中の血液が 頭に上った。

 

「ど・・・・・ど・・・・どうしたのですって!!

バカ!!このオオバカシンジ!!」

「え・・・」

「バカ!! あんたのせいよ!

このバカバカバカ!!」

「ちょ・・・ちょつと待ってよ・・」

「なによ!レイにもらったからって へらへらしてさ!

今日の帰りだって何してたのよ!!

知ってんだからねあたしは!」

「アスカ・・・ちが・・・」

「なによ!!バカ!最低よあんたなんか!

なんでよ! なんでよ!!なんで ・・・・・・・・な・・・んで・・」

うっ・・

やだ・・ また涙がでてきた・・・

もう わけわかんない・・・

あたしは 口を両手で押さえて、しゃがみこんでしまった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

シンジが あたしを 見てる・・・

 

きっと・・・こまった 顔・・・してるんだろうな・・・

 

もーやだ・・

 

 

「アスカ・・・・ごめんね・・・ 今日の朝のこと・・・ ホントにごめん・・」

 

「・・・・・・・」

シンジの声・・少し震えてる・・

 

「あ・・・あのさ・・・・チョコレートは・・かえしたからさ・・・その・・」

「・・・・・・・・・・」

「ごめんね・・・・朝は・・・・いろいろあって・・受け取っちゃったんだ・・」

「・・・・・・・・?・・・・・・・」

 

なんの はなし・・・してるの?・・・シンジ・・・

 

「なんか・・・アスカに 嫌な思いさせちゃった みたいだね・・・ごめん・・」

え・・・?

??

「ごめん・・・ほんとに・・・・ もう・・・戻るね・・・僕は・・・」

??

ちょ・・・

 

ちょつと・・・

 

「ちょっと・・・・・」

「え?・・・」

「ちょっと・・・・待ちなさいよ・・・今・・・なんて・・」

「え?・・・いや・・・・ もう部屋にもどるから・・・って・・」

「その前!」

「え・・・・・?」

「かえした・・・って・・」

「う・・うん・・・綾波の チョコレートなら かえしたよ・・・」

「・・・・・・・・」

「いろいろ 話してたから ・・・・帰るのは遅くなっちゃつたんだけどね・・」

「・・・な・・・なんで・・?」

「え・・・いや・・・昔から 決めてたんだ・・・父さんにはっきりしないのは 相手に失礼だって言われてて・・

その・・だから・・チョコレートは 一つしかもらわないことに ・・・・」

「あ・・・・あ・・・・・」

「だから・・・結局 今年は 1つもないんだけどね・・・あ・・・・あははは・・」

「な・・・・な・・・」

「ん?・・・なに?」

「なんなのよ・・・・・・それ・・・」

「いや・・・・ なんなのよって・・・いわれても・・僕が勝手に決めてることだから・・気にしないで・・」

き・・・気にするわよ・・

でも・・それって・・

「あ・・・・あたしの・・・チョコ・・・もらってたわよね・・・」

「う・・・・・うん・・・・・・・」

「それって・・・」

「いや・・・・・だから・・・それは・・・・・その・・・・・アスカからだから ごにょごにょ・・・・・・」

 

ぼんっ!!

真っ赤になった シンジを見て、はじめて あたしは 状況を理解した・・・・と、同時に体全体が爆発した。

「な・・・な・・・」

全身が 心臓になったみたいで・・うまくしゃべれない・・

熱い気持ちが 込み上げてきて、 うっかり たまった涙が 一粒こぼれてしまった。

「ち・・・・ちょつと!!待ってなさいよ!!ここで!」

このまま ここにいたら わけもわからず 泣き出してしまいそうで・・・

そして 机の上の アレを 取りに・・あたしは そうシンジに叫ぶと、部屋の中に 飛び込んだ。

 

がたーん!!

あ・・・あわわわ・・・

どっきんどっきん! ばっくんばっくん!

床に置いてあった ごみ箱を蹴飛ばしてしまった・・・

 

つ・・つ・・・机・・・机・・

 

きんちゃく・・・ きんちゃく・・

 

あった!

 

ええ!??

 

あたしは きんちゃくの横に置かれた 目覚し時計のデジタル表示を 凝視した。

『 2月14日 PM 11時 58分 57秒・・58・・59・・・ 00!』

あと一分!! あと 一分で15日になっちやう!!

バレンタインデーが・・

家をこっそり 抜け出して、シンジの家にこっそり入り込む時間なんて無い!!

 

よし!

 

 

あたしは きんちゃくを 掴むと、ベランダに飛び出し、 サンダルをつっかけて 驚いた表情の シンジの方へ

駆け寄った。

「はぁ・・・はぁ・・・そこ・・・どいてて・・・」

「え?・・・」

ん!!

 

あたしは 手すりに手を掛け、気合一発 手すりによじ登った。

「あ・・アスカ! やめなよ!! あぶないよ!! 何する気だよ!!」

「き・・・・決まってんじゃない そっちに 行くのよ!!」

ベランダとベランダの隙間は ほんの 7〜80センチ・・・だと 思う・・・

でも・・夜だし・・下が 何も無いから・・もっと 長いような気がする。

でも・・躊躇してる 時間はない・・

足を大きく開けば きっと大丈夫!

 

よっ・・・・・っと・・・

 

よし! 向こう側に 足が届いた・・・

「アスカ!!」

見かねたのか、シンジは 手すりに 密着すると、片足は シンジのベランダに・・

もう片方は あたしのベランダに・・・と言う状態の あたしの腰を、

あろうことか、 手を伸ばして、がっちりと 掴まえた。

「わっ!!バッ!バカ!!なにすんのよ!」

「う・・・動かないで・・・・」

「わっ!離せ!!エッチ!痴漢!!」

ばか! あたしを 持ち上げて 運ぶつもり!? そんなの 無理に決まって・・・・え・・・??・・・

フワッ・・

「きゃっ!」

重そうにしてるけど、 なんと あたしの体は 少し中に浮んだ。

そのまま、 シンジは 後ろに下がって あたしを ベランダの中に 入れる。

 

う・・・うそ・・・・

 

そのまま、 ゆっくり・・ゆっくり・・あたしを おろして・・・

 

へ・・へえ・・・

 

やっぱ シンジも 男の子なんだ・・

「ふぅ・・・・」

パジャマの袖で、額をぬぐってる シンジに、 あたしは・・って・・・

そんな 場合じゃない!

「シ・・・シンジ!!・・・・・・こ・・・これ・・・」

「まったく・・・・アスカ・・なんでこんな・・・・・・・・・え?」

文句を言いかけた シンジの目の前に、あたしはきんちゃくを突きつけた。

だめ・・・恥ずかしくって・・・・まともに顔・・・みれない・・

「は・・早く・・・・ 14日じゃ・・・なくなっちゃう・・・」

 

「あ・・・・・ああ・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・ありがとう・・・」

 

(でも・・くれないって・・・言ってなかった?)

そう、言いかけたシンジだが うつむいて チョコを差し出す彼女の 赤く染まった耳をみて、口をつぐんだ。

「ありがとう・・・アスカ・・・・・・・・開けてもいい?」

コクン・・

 

お世辞にも きれいとは言えない きんちゃくだが、 見ているだけで頬が緩んでしまうような

ふしぎな 可愛らしさがある。

シンジは 自分のイニシャルのついた その袋を そっと 開けると、

なかには 銀色の紙でラッピングされた 小さな小さなチョコレートが 3つ・・

赤い リボンで彩られた そのチョコレートは あきらかに・・

「アスカ・・・これ・・・・手作りだね・・・・・ありがとう・・」

「ふん!・・・か・・感謝 しなさいよ・・・・・・」 

「うん!」 

精一杯 不機嫌な声を出したつもりなんだけど、嬉しそうなシンジの笑顔に、

なんだか あたしの心を見透かされてるみたいな気持ちになって あたしは更に 赤くなってしまった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」 

 

何の音もしない・・・ 

あたしと シンジだけ・・・ 

無言でみつめ合う・・ 

 

「ア・・・・アスカ・・・・・」

どきん! 

「な・・・なに?・・・」 

どき・・どき・・どき・・どき・・ 

 

 

 

「さ・・・・・寒くない?」 

 

はぁ・・・・・・・ 

「ど・・・どうしたの?・・ため息ついて・・」 

ま・・・ 別にいいけど・・・・・シンジにムード期待してもね・・ 

 

でも・・・

でも・・・今日だけはあたしを 泣かせた責任は取ってもらうわよ・・

 

「寒いわよ・・・・思いっきり!」

「じゃあ・・・なにか羽織るものでも持ってくるよ・・」 

「平気よ!こう・・・・・してればね!!」

そう言って あたしはシンジに思いっきり抱き着いてやった。 

 

ふふ・・・ 

あったかい・・・ 

 

「あ・・・あああ・・あ・・・アスカ・・・」

「少し じっとしてなさい・・・バカ・・・・・」

 

そのままの体勢で、しばらくじっとしてたら・・

シンジは そっと、遠慮がちに あたしの背中に手を回してきた。

 

ふふ・・・ どうするつもり?

 
 
 

「おおおおお!!さすがは我が娘!大胆ね!」 

「シンちゃん!さ!そこよ!そこで ぎゅっと!行きなさい ぎゅつと!!」 

騒ぎを聞きつけて、息子の部屋を覗いた碇ユイと ユイに電話で呼び出された キョウコ婦人が

シンジの部屋のドアの隙間から、ことの一部始終を 覗きながら、黄色い歓声を上げている。

「お・・・おい・・・こういうのは そっとしておいた方が・・・・」

「なんですか?・・・あなた・・・・・」 

「い・・・・いや・・・・なんでもない・・」

 

すまんな・・・・シンジ・・・

 

ゲンドウは 冷や汗を流しながら 心の中で、息子に頭を下げた・・
 
 
 
 
 

すぅ・・
 

あたしは 大きくひとつ 息を吸うと、ふすまを 開けた。

今日は 2月の15日・・・

早い話が あの日の朝だ。

今、あたしは シンジの部屋の前に入る。
 

あれから?

ふふ・・

べっつにー? なんにもなかったわよ、

なんにもね
 

でも、今日からは やさしーく・・起こしてあげることに する。

理由は ひみつ

え? やけに めかし込んでるじゃないかって??

ばっ! ばか 言ってんじゃないわよ
 

パ・・・・パパの 言い付けを守ってるだけよ・・・
 
 

部屋の中を進んで・・毛布の山に近づく・・・

いきなり 剥ぎ取ることなんか もうしないわよ、やさしーく 起こすんだから
 

「シンジ・・・・シンジ・・・・朝よ・・」

「ん・・・・・・・・んーん・・」
 

「シンジ・・・・シンジ・・」

「・・・・・・・・」
 

「起きてよ・・・・シンジ・・・・」

「・・・・・んー・・・・・あと ごふん・・・・・・・」
 

「シンジってば・・・」

「・・・・・・ZZZZZZZZZZZZZZZ・・・・・・」
 

「シンジ!!」

「ん・・・・・・・アスカ??・・・・」
 

「起きた?・・・シンジ・・・今日からわね・・・やさしくね・・あの・・・起こそうと・・」

「・・・・・ZZZZZZZZZZZZZZZZZZ・・・・・」
 
 

ぷちっ!
 
 
 
 
 
 

「ユイ・・・・ 今日からは おとなしい 起こし方になるんじゃ なかったのか・・・?」

「あ・・あはは・・・・・おかしいですねぇ・・・・あなた・・」
 

いつもどうりの 悲鳴と怒声を BGMに、 夫婦は 肩をすくめつつ、朝食を続けた。
 
 
 
 
 
 

んもう!! やさしく 起こそうと思ったのに!!

この バカシンジめ!!
 

ふたりで 学校への 坂をかけ降りつつ、 あたしは 胸の中で 怒っていた。

「アスカ! 急がないと 遅刻しちゃうよ!!」

「ま!! だれのせいだと思ってんのよ!!」

「はは・・・それもそうだね・・・」

「なにが はは・・・よ! 待ちなさい!!」
 

あ・・・
 

その時、 前を走るシンジの鞄に、キーホルダーと一緒に

・・・・あたしのきんちゃくが付いているのに 気が付いた。
 

シンジ・・・
 

あたしは 全力でシンジに追いつくと、その腕に自分の腕をからめて、

速度を落とした・・

「ア・・アスカ!」
 

「・・・・・・・」
 

あたしは 無言で、組んだ腕に 力を込めた。
 
ふふ・・あんたがなんで こんなに赤い顔してるのか?ちゃーんと わかってるんだからね!

あたしは さらに体をギューっと密着させてやり、小さな声でつぶやいた。
 
 
 
 

「もう少し・・・ゆっくりいこ・・・ね・・」
 
 
 
 
 

ん?
 

それでって?
 

へっへー
 
 

その日は仲良く 遅刻しました。
 

いや・・・・その日以来、遅刻が増えました・・・のほうが 正しいかもね・・・

 

 

 
(おしまい)
 


 

後書きを 読んでやろうかなー

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