失って初めて

     その 大切さに気がつく・・

 

 

こんな 三文恋愛小説のような 文章

 

いまどきは ドラマにでだって 出てこないわ・・

 

 

ましてや、それが本当だなんて・・

 

思いもしなかった。

 

本当でも・・

 

私には 関係の無い事だと

そう

思っていた。

 

 

 

・・・・

 

あなたがいなくなって・・

わたし 初めて・・

 

あなたを知ったわ・・

 

 

広い世界には 沢山の人がいるのに・・

ただ・・

 

ただ あなたがいなくなっただけで・・

すべてが 変わってしまった。

 

あなたのいない 日曜日の朝・・

 

あなたのいない 電車の中・・

 

あなたのいない 夕暮れの公園・・

 

あなたがいない事が あたりまえだった いつもの時間が

あなたが 永遠にいなくなると

 

こんなにも 違って見えてくる・・

 

 

夜の 眠る前のまどろみが

恐怖にかわり・・

 

昼間の静寂が

あなたの声を 思い出させる・・

 

 

あなたなんか いらないって 言ったのは

私なのにね・・

 

あなたが いなくても 大丈夫だって・・

思ったのは 私なのにね・・

 

結局・・

私は ずっと・・

 

あなたの 腕の中にいただけだった

 

あなたの中で

甘えてただけだったのよ・・

 

あなたの 大きさ・・

 

あなたという 人・・

 

 

そして・・

 

私の思い・・

 

わかるような気がするけど・・

 

でも・・・

 

でも 本当は・・

 

本当はわからない・・

 

あなたにとって 私はなんだったのか

 

私にとって あなたは なんだったのか・・

 

こうして すべてが終わった今・・

 

 

あなたの願いをかなえたあと・・

 

 

私はどうすればいいの?

 

 

・・・ 私は ・・・

 

あなたの なんだったの・・

 

 

 

 

ガサッ・・

 

黒い・・

味もそっけもない ただの 墓標に、

しゃがみこんで 花束を立てかけた。

 

白い 小さな花が

風に ゆらゆらと 揺れた。

 

おびただしい 墓標の数・・

何百人と

ここで 眠っている。

 

その中で あなたを示すのは

そこに刻まれた あなたの名前だけ・・

 

私は少しだけ

笑いかけた。

 

 

「 加持君・・・

  私・・・・

  もう 30になっちゃったよ・・・ 」

 

 

 

 

   あなたの見た夢を・・


 

 

 

オレンジ色と 赤と 青をまぜたような・・

不思議で綺麗な 空の色

 

夕日の逆光で 黒くそびえるビルと

その合間に流れる オレンジ色の雲・・

 

公営の集合墓地の中で

けっこう 時間がすぎてしまったみたい・・

 

私が 駅に向かう大通りに出たころには

あたりはすっかり 暗くなってしまった。

 

 

自衛隊の 第三新東京市への侵攻・・

そして あの事件からも

ずいぶん時が流れた。

 

街は活気を取り戻し、

人の姿も戻ってきた。

 

使徒を迎撃するという使命から開放されて

前よりも明るく見えるのは

私の気のせいだろうか・・

 

 

アーケードを抜けて、 バスターミナルの方へと出る。

このあたりのビルには けっこう大きな企業の支店があるから・・

街灯に照らされた道に スーツ姿の人が沢山歩いている。

みんな 一様に 寒そうに駅を目指す。

 

「 ・・・ あ ・・・・ 」

 

私はその時、

たった今 前を通り過ぎた本屋さんの

ガラスの向うに 良く知った人物を見つけた。

 

「 へへ・・ 」

 

そっと 来た道を戻って

私は 本屋のガラスを もう一度見た。

 

いるいる・・

 

道路のほうを向きながら

熱心に雑誌を読んでいる人影は

外の私に 気がつくはずもない。 

 

ガーーーーッ・・・

 

さっそく私は 自動ドアをあけて

店内に入る。

 

暖房の効いた 暖かい空気をまとわりつかせながら

そっと 足音に注意して

その人物の後ろに立つ。

 

初めて合った時より ずいぶん伸びた身長・・

いくらか 広くなった 背中・・

 

でも 足元に置かれた スーパーの袋と

熱心に読んでいる 料理雑誌を見ると

この少年が 昔から ちっともかわっていない事がよくわかる。

 

・・・ まったく・・

エッチな雑誌でも読んでれば からかいがいがあるってもんなのに・・

 

そんなことを考えながら 私は身をかがめて

彼の耳に 口を近づけて

あまーい 吐息をひとつ・・

 

・・・ フッ ・・

 

「 うわあ!! 」

 

想像どおりの いいリアクション!

やっぱ やめらんないわ

 

「 ミ・・ ミサトさん・・・

  やめてくださいよ・・ いきなり・・ 」

 

「 やっほ!

  なにしてんのよ? シンちゃん 」

 

私の質問に、 シンちゃんは読んでいた雑誌を閉じると

 

「 今日、昼間 テレビで見た 料理番組でやってた

  おいしそうな奴を作るつもりだったんですけど・・・

  調理法が いまいちよく覚えてなくて・・・ 」

 

その雑誌を もとあった場所に置き、

足元の スーパーの袋を 手に取った。

 

「 材料買ったのはいーんですけど この雑誌で もう一度

  調べてみようと 思ったんです・・・ 」

 

高校生とは思えないそのセリフに

私は思わずため息をつく。

 

「 熱心ねぇ〜 あいかわらず・・・

  まあ 私はそのおかげで いつもおいしー ご飯が食べられるんだけどさ、

  あんまり 無理することはないわよ? 」

 

しかし シンちゃんは 笑顔になると

 

「 別に・・ 無理しているわけじゃありませんよ・・

  料理を作るのはけっこう楽しいし・・

  どうせなら 新しくて おいしいものを食べたいじゃないですか?」

 

「 ・・・・ ん ・・ まぁ  そーね・・ 」

 

「 あ・・ でも ミサトさん・・

  どうして こんなところにいるんですか?

  今日は電車だって 言ってましたよね・・・ 家は 反対方向ですよ? 」

 

「 ・・ まあ ちょっちね・・ 」

 

私は言葉を濁すと

いぶかしげな顔のシンちゃんの背中を押して

本屋さんを 後にした。

 

 

「 それを言うなら シンちゃんだって どうしてあんな所にいたのよ?

  今日は 3人で 買い物に行くんじゃなかったっけ? 」

 

「 昨日言ったじゃないですか・・ 酔っ払って 聞いてなかったんですね?

  買い物に行ったのは アスカと綾波だけですよ・・ 」

 

「 え? ・・ あ・・ そーなんだ・・・

  ・・・ へ〜・・ めずらし・・

  あの二人が シンちゃんを置いてけぼりにするなんて・・ 」

 

「 なんでも 女だけ 水入らずで 年末バーゲンと戦う・・・ とか言ってました・・

  まあ ・・・・ 僕は 洋服とかは よくわからないから・・ いいんです 」

 

シンちゃんは 私の方をみて 笑った。

 

「 何時ごろ 帰ってくるって? 」

 

私の質問に、 シンちゃんはすこし考えたあと・・

 

「 なんでも 雑誌にのっていた 女性だけは 食べ放題のレストランも行ってみるとか

  言ってましたから・・・ 9時とか 10時とかじゃないですか? 」

 

「 え? ・・・

  じゃあ 晩御飯は? 」

 

「 ええ・・ 僕と ミサトさんだけです・・

  だから 新しい料理に 挑戦しようと思って・・ 量も少なくてすみますからね。」

 

「 そーなんだ・・ 」

 

そんなことを 話ながら

私達は 駅近くまで 歩いてきた。

 

6時をまわった街のなか・・

駅の中へと 人々が吸い込まれて行く。

 

駅をこえて、10分ほど 歩けば

私達の家だ

 

・・・ だけど ・・・

 

 

「 ・・・ ミサトさん?・・・・ 」

 

私は 突然、

となりを歩く シンちゃんの腕に

自分のうでをからめた。

 

シンジ君が

慌てたように 私のほうを見る。

 

「 ねえ・・

  だったらさ、 なんか おいしーもの・・

  食べに行こうよ ね? 」

 

「 え? 」

 

「 アスカとレイばっかり いいものを食べるのは 不公平じゃない?

  シンちゃんの新作メニューも楽しみだけど、たまには外で食べるってのも

  いいもんだと思うよ? 」

 

「 ・・ で ・・ でも ・・ 」

 

「 ね、 そうしよう! 決定!!

  デートよ デート

  今日は 私の誕生日なんだから

  たまには おねーさんと 付き合いなさいよ ね? 」

 

「 ・・・ でも ミサトさん ・・・ 誕生日のお祝いは 絶対にやるなって・・

  夕べ そう 言ってたじゃないですか ・・ 」

 

・・・

まあ 『 三十路に突入 』 なんて めでたくもなんともないから

お祝い&ケーキ&パーティーは 絶対に禁止 って言ったのは 私だけどさ・・

・・

 

「 それとこれとは別!

  ね? いいでしょ? 行こうよ! 」

 

「 ま・・ まあ・・

  そうですね・・ そうしましょうか・・ 」

 

「 やった! じゃ、 何処にする? 私の知ってるとこでいい?」

 

 

それから 何十分か 後・・

 

僕とミサトさんは

小さな レストランで

向かい合って座っていた。

 

小さなたたずまいだけれど

それがかえって 高級感を出している・・

品がある とても綺麗なお店だ。

 

小さな路地にあって、一見 お店なのかどうかわからないくらいの大きさ・・

知る人ぞ知る・・って感じの、良いお店だ・・

どうして こんなところ 知ってるんだろ・・・

 

ミサトさんが連れて行ってくれるって言うから来たけれど・・

正直、こんなに ちゃんとしたお店だとは 思わなかった。

 

初めてだから なんか 緊張しちゃうな・・

 

それに、 お洒落な アンティークのランプに照らされた

目の前のミサトさんは、

僕が今まで 見たこともないくらい

なんだかとても・・・

 

綺麗だった

 

・・ 

今日のミサトさんは

黒い ハイネックのセーターに

ダークグレーのロングコート・・

 

とても大人っぽくて・・

背の高い ミサトさんには とてもよく似合ってる・・

 

さっき道を歩いている時も

ずいぶん沢山の男の人が、振り返っていた。

 

無理やり腕をくんでいる 僕がにらまれたことさえ あったくらいだ・・

・・

・・・ まったく ・・

・・

いつも 家で サンマの塩焼きの 骨をとるのがめんどくさいって

ぼくに泣きついている人とは とうてい同じとは思えない

 

 

いつもは そんなんだから 気がつかないけど・・

 

やっぱり ミサトさんは 美人なんだな・・

 

そんなこと 口が裂けても 言えないけど・・

だって言ったら最後、

どんなからかわれ方をするのか 考えたくも無い。

 

「 ん? なぁ〜によぉ・・ シンちゃん・・

  ・・もしかして 私に 見とれてたの? ねぇ・・ 」

 

ほら、いわんこっちゃない

すぐに そういう 『 からかうのがいきがい 』みたいな顔になる・・

 

「 じゃあー 私も シンちゃんを見つめてよーっと・・ 」

 

またはじまった・・

僕は 気にしないようにしながら

次々に 運ばれてくる料理に 目を落とした。

 

・・・ でも ・・

 

今日のミサトさんは・・

ちょっと変だ・・

 

さっき あった時から・・ずっと・・

 

なんだか 無理している感じがする・・

 

笑顔なんだけど・・

どこか

 

空っぽの笑顔だ

 

ミサトさんの そんな顔を見ると

少し

僕の胸は 痛む

 

 

 

やっぱり プロは違う・・

味付けも 盛り方も なんかレベルが違う・・

 

参考にはなるけど、

家で毎日食べる味でもないかな・・

 

たまに食べるから いいって事もあるだろうし・・

 

それから 僕とミサトさんは

 

やれ これはもうちょっと薄味のほうがいいとか

やれ ミサトさんの味覚はおかしいとか

やれ 家でもこれが食べたいなー とか

やれ この料理はどーやって作るんだろう・・ とか

 

そんなことを 沢山話ながら

ちょっと高めのコースを おいしく頂いた。

 

・・・

ミサトさんと こうしてゆっくり話すことって

ひさしぶりだな・・

 

たまには なんか・・

こういう 時間も いいな・・

 

「 どうだった? おいしかった? 」

 

「 ええ・・ とっても・・・

  でも ミサトさん・・・

  こんな入り組んだ場所にあるお店・・

  どこで知ったんですか? 」

 

僕の言葉に・・

それまで 楽しそうに話していた ミサトさんの目に

少し 暗いものが 浮かんだ。

 

表情にはけして 出さない・・

 

でも それがわかったのは・・

僕が 少し

大人になったからだろうか

 

「 ・・・・あいつに

  ・・・教えてもらったの・・・・ 」

 

ミサトさんが そういって

僕を見ながら 目を細めた。

 

悲しいのか やさしいのか・・

僕にはよくわからない・・

不思議な顔だ

 

僕が なんと言っていいか

わからないでいると

 

コース料理の最後・・

食後のコーヒーが 運ばれてきた。

 

 

つまんないこと 聞いちゃったな・・

 

 

僕がそう思いながら

銀色の きれいな容器にはいったミルクを

コーヒーに入れていると・・

 

「 ねえ・・

  シンちゃん・・・ 」

 

ミサトさんが 話しかけたきた。

 

「 ・・・ なんですか? ・・・ 」

 

僕は コーヒーを ひとくち 口にふくみながら

前の席の女性を見る。

 

ミサトさんは くるくると コーヒーをスプーンでまぜながら

どこか 遠くを見るような・・

ぼんやりした 視線を テーブルに落としている。

 

「 ・・・

  男の人ってさぁ・・・

  ・・・

  夢とか・・・

  あるじゃない? 」

 

「 ・・ 夢 ・・ ですか? ・・ 」

 

とつぜんの言葉に

僕は 聞き返す。

 

「 うん・・・

  そりゃあ 女にだって 夢はあるわよ・・

  ・・・・

  でもさ・・

  男の夢って・・・ なんかこう・・

  バカバカしいって言うか・・

  子供っぽいというか・・

  単純なものが 多かったりするじゃない?・・ 」

 

「 ・・・・

  ・・・空を飛びたいから・・ パイロットとか・・

  そういう感じですか?・・ 」

 

「 うん ・・・ 

  ・・・ そういう くだらないけど、 純粋な夢に向かって進むのが

  男の人のいいところだと・・・

  私は思う・・

  そんな人は 女から見ると カッコイイと・・

  そう思ったりするものなのよね・・ 」

 

「 ・・・・・ 」

 

「 でもさ・・・

  シンちゃん・・・ 」

 

ミサトさんは カチャリ と

ティーカップの横に スプーンを置いた。

 

「 男の人の 夢に対する思いって・・

  ・・・

  その・・・

  ・・・・・

  ・・・・・愛する人・・・

  大切な人よりも・・・

  ・・・・強いものなのかな・・・? 」

 

「  え ・・ 」

 

ミサトさんが、

僕を見る

 

吸いこまれそうな

黒くて・・

 

不思議な 瞳だ

 

 

「 ・・・・ ど・・

  ・・・ どうして・・・

  そんなこと・・ 聞くんですか?・・ 」

 

 

「 シンちゃんが 男だから 」

 

 

「 あ・・

  え・・ えーっと ・・・ 」

 

急な 難問に

しどろもどろになる僕を

ミサトさんが 楽しそうに見つめる。

 

からかっているのか・・

そう見せかけて 本気なのか・・

 

ミサトさんはずるい

 

すぐに本心を隠してしまう・・

 

こんな時間に こんな場所で、

どう答えていいのか

僕にはわからない。

 

「 ・・・ 僕には ・・ まだ よくわかりません・・

  けど・・・

  その・・・

  ・・ 人によるんじゃないですか?・・ それは・・ 」

 

「 ・・・・

  ・・ そうね ・・・ 」

 

僕の言葉に

短く答えると、ミサトさんは 黙った。

 

 

僕は わかった・・

 

 

ミサトさんが 聞きたい事が・・

 

「 ・・・・・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 そろそろ 帰ろっか?・・・

  シンちゃん・・・ 」

 

テーブルの上の伝票を手にとって

ミサトさんが言う。

 

「 ・・・・・ 」

 

「 ・・・・ シンちゃん? ・・・ 」

 

「 か ・・・ 」

 

「 ・・・ 」

 

「 か・・加持さんは・・・

  たぶん・・・

  夢と・・・ ミサトさん・・・

  ・・同じくらい・・ 大切だったんだと思います・・ 」

 

「 ・・ え ・・・ 」

 

僕の言葉に

ミサトさんが びっくりした顔になる。

 

「 加持さんは・・

  加持さんは とても頭の良い人です・・

  僕はいつも 加持さんに いろんなことを教えてもらいました・・

  人生のことも・・

  自分自身を見つめることも・・ 」

 

なにを喋ってるのか わからなくなりそうな頭の中を

ぼくは必死に回転させる。

 

「 ・・・・ 」

 

「 加持さんの言うことは いつも正しかったです・・

  ぼくも あんなふうになりたいって・・

  そう・・・ 思いました・・ 」

 

「 シンちゃん・・ 」

 

「 ・・・ アスカが 前にいってました ・・・

  加持さんは 人の心を読めるって・・

  自分の考えてる事が・・ 

  すぐ 加持さんには ばれてしまうって・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 加持さんはきっと・・・

  ミサトさんのことも・・ ちゃんと・・

  ちゃんとわかっていたんだと・・

  そう 思います・・・ だから・・ 」

 

「 ・・ でも ・・

  それでも あいつは・・

  私より 夢を選んだのよ?・・・ 私は・・

  あいつの夢に・・・

  ・・負けたのよ・・ 」

 

ミサトさんが 目をふせる

ぼくは その姿に いたたまれなくなって・・

 

「 そ!・・

  それは・・・ 違います・・・

  ・・・たぶん・・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 もし・・ もしそうなら・・

  夢の続きを・・・ ミサトさんに託したりしません・・ 」

 

「 !! 」

ミサトさんの肩が 小さくふるえた。

 

少しだけ・・

 

無言の時が 流れる

 

・・

・・・

 

僕はひとつ・・大きく息をつくと

再び、話し始めた。

 

「 ミサトさんが 悲しむことをわかっていて・・

  確かにそれでも 加持さんは夢をあきらめなかった・・

  ・・・・でも・・

  でも・・ そんな・・・ 自分の命より大切な夢を・・

  加持さんはミサトさんに あげたんですよ・・

  自分の命を・・

  ミサトさんに・・ 託したんですよ・・・ 」

 

「 ・・・・・ 」

 

「 ・・・・ ミサトさんが 負けたなんてこと・・

  夢のほうが大切だったなんてこと・・ありません・・

  ・・・・

  僕は男です・・・

  ・・・ だから・・・

  し・・・ 信じてください ・・・

  ・・・・加持さんのことを・・・ 」

 

僕は いつのまにか

興奮したような 真っ赤な顔で 話していた。

 

僕が そのまま黙っていると・・

 

うつむいていたミサトさんは

ゆっくりと顔をあげて・・

僕と見ると

 

今日 はじめて・・

 

心からの笑顔を

 

 

僕に見せてくれた。

 

 

 


 

 

 

「 でも 驚いた・・

  シンちゃんも いつのまにか・・ 大人になったわね・・ 」

 

エレベーターを降りて

マンションのドアに向かって歩きながら

ミサトはシンジを見た。

 

「 ごめんなさい・・・

  なんか・・

  生意気な事いって・・・ 」

 

大人な雰囲気に触発されて

なんだか 似合わない事をしてしまったシンジは

顔を赤くして 彼女に謝った。

 

「 んーにゃ・・

  ぜんぜん気にする事ない・・

  とってもカッコ良かったわよ? シンちゃん 」

 

「 そんな・・・ 」

 

「 ちょっと おねーさんが きゅん!ってしちゃうくらい 」

ミサトはそういうと 胸の前で 手を合わせる。

 

「 ・・ ちょ・・ ちょっと ミサトさん・・ 」

 

「 へへ・・ 」

 

 

プシューーーッ・・・ガシャ!!

 

 

「 あれ? もう 帰って来てるのかな?

  靴があるけど・・・ 」

 

靴をぬぎながら、 玄関を見たシンジ。

ミサトもうなずく。

 

「 ほんとだ・・ あれ? でも・・ 電気ついてないわよ?・・・ 」

 

二人は暗い廊下を通って

真っ暗なリビングのドアを開け

 

パチッ・・

 

壁にあった電気のスイッチを ミサトが押すと

 

パーン!!

  パーン!!

 

部屋の中に響く 2発のクラッカーと・・

 

「「 お誕生日 おめでとー!! 」」

 

それを持った 赤い髪の少女と 青い髪の少女の姿。

 

「 ミサト!記念すべき三十路突入の誕生日を 祝われずに過ごそうなんて

  甘いわよ!! ちゃーんとデパートで クラッカーを買ってきたんだから!! 」

椅子に片足をのせて 胸を張るアスカ

「 ケーキもあります・・ ミサトさん・・ 」

テーブルの上を 指差しながら

三角の紙で出来た帽子をかぶったレイが ニッコリ笑った。

「 まあ 家族のよしみで ロウソク三十本立てるのは 免除してあげて

  三本だけどね!! 感謝しなさいよ! 」

「 30本させるケーキ・・

  大きなケーキは高かったから・・ 」

「 こら! レイ! よけいなこと言うな!!」

 

「 アスカ・・ 綾波・・・ 早かったんだね・・ もっと遅いのかと思った・・ 」

 

「 ん? まぁーね、 バイキングが時間制限ありなんてさ、しみったれた事いうから

  思ったよりはやく晩御飯が終わっちゃってさ・・

  まあ・・ そのぉ・・・ せっかくだから・・・ そこらへんで ケーキでも買って・・

  ミサトの誕生日だしさ・・・ 日ごろの仕返しをしてやろうと・・ 」

「 でも アスカ・・

  ちゃんと ミサトさんの好きなケーキ屋さんまで行って・・ 」

「 わ! バカ!! バカレイ!! しーっ! 」

 

「 でも・・ 僕とミサトさんも 一緒に・・・

  ・・・・・

  ・・・ あ ・・・

  ミ・・

  ミサトさん?・・・・ 」

 

アスカとレイに話ながら シンジがとなりのミサトを見て

思わず 息を止めた。

 

「 うっ・・・

  ひっ・・ ひっく・・・ 」

 

ミサトは・・

 

泣いていた。

 

ポタポタとこぼれる涙を

手でぬぐいながら

彼女はそこで

立ち尽くしていた。

 

 

「 ミサト ・・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

レイと アスカは 呆然と

そんな彼女を 見つめた。

 

「 ミサトさん・・・ 」

 

彼女が泣いている理由が

 

シンジには なんとなく

 

わかるような気がした。

 

 

「 あの・・

  ・・・ケーキ・・・

  おっきなほうがよかった? 」

 

アスカの小さな 心配そうな声に

ミサトは 鼻をすすって

ゴシゴシと 目をぬぐうと

 

とても 幸せそうな笑顔になった。

 

 

 

「 ありがとう・・・

  アスカ・・・

  レイ・・

  ・・・ シンちゃん・・・ 」

 

 

 


あとがき読もー・・・

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