エルフが涙を流している。頬を過ぎた辺りでそれはルビーとなっていく。
「誰か、誰か、ピサロ様を止めてっ!」
エルフの涙はとめどもなく流れている。そこではっと目を覚ました。
周りを見回すと他の人々も目を覚ましている。
「あれ?どうしたの?」
アリーナが目をこすりながら皆に尋ねた。
「変な夢を見たわ」
マーニャが言った。「なんかエルフのお嬢ちゃんと超美形のお兄さんがでてきて、ロザリーとピサロ、とか言う名前の」
「同じね。みんな同じ夢を見たんだわ。でも、あれは魔族よ」
「え?!」
さすがに男に目がないマーニャらしい発言ではあったが、魔族と聞くと驚いている。
「あれは一体何なの……」
リサは何とも言えないような声で言う。
「事実だったら恐ろしいことが起こるでしょうね」
比較的冷静な声で言うのはクリフト。8人はすっかり目が覚めてしまっている。まだ陽は昇っていない。
リサは夜明け前に宿屋から出て、じっと空を見上げていた。
「どうしてこんなことをしなくちゃならないの……」
心の中で渦巻く罪悪感。今まで正しいと信じてやってきたのに、それをくつがえされたのだ。
空には満天の星々が輝いている。しかし、それがさらに心を痛ませる。
(何も考えたくない)
只、輝いているだけの星に嫉妬さえ感じてしまう。
リサはその場にへなへなと座り込んだ。
「どうしました?そんなところに座っていると風邪を引いてしまいますよ」
後ろからクリフトが声をかけてきた。
「うん、わかってる……」
適当に返事をして、また空を見上げる。
「そんなに空を見上げて何を考えているのです?」
「好きな人のこと」
「?」
「冗談だってば。あの夢のことよ。あ、クリフトもここらへんに座ったら? 一緒に風邪を引きましょう」
「そんなことしたら、ミイラ取りがミイラになるようなものですよ」
「気にしない、気にしない。どうせ誰かの差し金でしょ?そう、ライアンさんあたり。自分よりあなたの方が絵になるから、あなたをよこした。どう?」
「残念。全部外れです」
とか言いながらもクリフトは座り込んだ。
「意地っ張り」
「私の本性ですっ」
「わーいわーい、顔がスライムベスだっ」
確かにクリフトの顔は赤くなっている。空も少しだが、赤くなっている。
「ねぇ……あの夢が本当だったら、私達は大きな罪を犯してしまったことになるのよね……」
リサはまたさっきの顔に戻った。
「えっ、何を突然……」
クリフトは驚いてリサの方を見た。
「だって、そうでしょ。ピサロとか云うのを怒らせたのは人間でしょ? エルフを殺したのは人間なのよ。それなのに、どうして……!」
クリフトは何も言わずにただ首を振った。
「……そうよ。たとえ真実を知ったとしても、城があんなふうになっては、答えたくないよね」
「何を言いますかっ」
突然、大声で言われ、リサはびっくりしてしまった。
クリフトはすっと立ち上がった。
「それぞれが領域を侵しました。魔族は人間が侵した領域よりさらに広い領域を侵しました。私達は魔族を滅ぼすために起ったのではないのです。侵された領域を取り返すために起ったのです」
「取り返すため……?」
リサにはよく理解できなかった。
「このまま放っておけば、人間は滅ぼされてしまうでしょう。魔族にね……」
「……」
「まだ、迷ってますか?」
リサは何も答えなかった。
昼にはもう村を出ていた。これには皆不満であったが、リサは強行した。この村にはもういたくはなかった。あの夢のことを忘れたかったのだ。
といえども、皆まだ眠い。言い出しっぺのリサでさえ、パトリシアの上でこくりこくりとしている。
「リサ殿、リサ殿っ」
ライアンに声をかけられ、はっとライアンの方を見る。
「んー」
「少し中で休んではいかがかな」
「んー、らいじょうぶ」
ここにライアンがいなければどなったことやら。リサは馬から落ちる寸前でライアンに受け止められた。
「全く……」
ライアンはパトリシアを止め、リサを馬車の中に連れていった。
「誰か交代して下され」
「どうしたの?」
「リサ殿は睡眠不足のようじゃ」
「まぁ、まぁ」
マーニャはリサを受け取った。
「誰か外に行って」
「私が行くわ」
アリーナは言うと同時に馬車の外に飛び出した。
「あ、そうそう、そういえば、今日の朝早くリサちゃんとクリフトちゃんは外で何を話してたんでしょうねぇ」
「え、姉さん、何それ?」
「ねぇ、クリフトっ……あれ?」
マーニャがクリフトの方を向くと、何たることか、クリフトは馬車のすみで足をかかえすーすーいびきをかきながら寝ているではないか。
「なぁんだ、寝てんのか。となりにリサを置いてやれ」
いじわるというのか、良心というのかわからないが、マーニャはクリフトの脇にリサを横たえた。
「ここからだったら、ガーデンブルクへ行くのが、最も適当でしょう」
地図を指でなぞる。
「ここは女王が治めている国だと聞きます。何かと理解のある女王らしいのですが……」
「何か問題でもあるの? トルネコ?」
「女人禁制ならぬ、男人禁制なんですよ」
「は?」
リサは驚いてしまった。
「もちろん王城だけですが、おおっぴらに歩いていると、変な目で見られるとか云う話です」
「じゃぁ、どうしようか。全員でそろって謁見できないわね」
リサは腕を組んで考える。
「私達だけじゃ、きっと肝心なこと、聞くの忘れるのがオチね」
アリーナが言った。
「なぁに言ってんのよ。男がダメならやることは1つっ!」
ライアン以下4人は思わず絶句した。
「なぁに?何か文句でもおあり?」
「い、いえ……何もありませんっ」
クリフトが代表して答えた。
「じゃ、決定ね。モンバーバラじこみの女装法をご披露しますか。クリフトなんて、やりがいありそう」
このパーティ内に、マーニャに勝てる人はいない。男達の顔は真っ青である。
「マーニャっ、私もまぜてね☆」
アリーナもごきげん顔である