+ PEN +

 

●[レイン]



休日の土曜日。冷たい風がアスファルトの上を駆け抜けてゆく。落ち葉が楽しそうにその風に乗る。そろそろコートを出さないとあ。そんなことを考えながら僕は二階にある部屋の窓から外を眺めていた。

木曜日・金曜日は仕事絡みの飲み会があり、その日は少し疲れた気分だったので僕はどこへも出かけずに部屋を掃除したり溜まったシャツを洗濯したりしていた。そしてすることが無くなると、本を読んだりゲームをしたりして時間を過ごした。夕方になった頃、大学の一年後輩で友人の健司から飲みに行きませんかと電話があり、僕がじゃあそうしようと言うと、健司はもうしばらくしたら行きますねと言った。

大学を卒業してから既に二年の月日が流れている。僕は卒業後も学生の頃と同じアパートに住み続けていて、健司は僕の卒業から一年後実家のある茨城に戻って行った。一ヶ月前に連絡を取ったとき、今月に用事があってこっちに出てくるとのことだった。その時暇があったら会おうと言った。

しばらくすると玄関のドアが唐突に開かれ、そこから健司が顔を覗かせた。健司は相変わらずインターホンを鳴らさなかったし、僕は相変わらず玄関の鍵を掛けてはいなかった。部屋に入ってきた健司は冷蔵庫を開けて言った。

「また中が汚れてますよ」

それは僕の中で問題ない範囲の汚れだったので、別に問題無いよと言った。

それから取り留めの無い話をし、七時少し前になったところでそろそろ行こうかと言って家を出た。玄関から外に出た時に健司が言った。

「こんな時間なのにまだ明るいですね」

見ると外はまだ、空に干した太陽を神様が山の向こうに取り込み忘れているんじゃないかというほどに明るかった。そして僕はその明るさに驚くと同時に、そんな明るさの変化に近頃全く無頓着になっていた自分自身に呆れた。変化の無い日常は石に穴を穿つ水滴の如く、知らず知らずのうちに僕の感性まで蝕んでいるのだろうか。そんなことを思いながら僕は健司と近くの居酒屋に行き、そして昔はどうだったとか最近はどうだといったあまりかっこよくはないけれど肩の張らない話を肴に楽しい時を過ごした。

次の日もまた健司と会い、その日は健司と同じ学年で同じように友人の綾乃ちゃんと博の二人も加わった。車で近くの寿司屋に行くと、そこでもまた取り留めのない話をしながらみんなで寿司をつまんだ。綾乃ちゃんと博は前と変わらずとても元気だったし、寿司もすごく旨かった。寿司屋を出ると、夕方からポツポツと降り始めていた雨が少しその雨足を強めていた。傘など持たない僕らは一斉に駐車場に向かって駆け出した。互いを阻むように、かばうように。

帰りの車の中で、何故僕はこのメンバーの中にいるのだろうと考えた。昔から、年上の人間にはあまり好かれない。それは僕の性格のせいもあるだろうし、単に相性のせいもあるだろう。ただ実際僕自身も年下といるほうが楽だと感じることが多い。もしかしたら僕が兄弟の長男として育ったせいだろうか。そしてそんな僕のパーソナリティが彼らにとっては受け入れ易いものなのかもしれない。

しかし、本当にそんな理由が正しいのかと言われればそれは分からないことだった。分からなかったし、彼らといるとそんなことはどうでもいいことのように思えたので、すぐに考えるのをやめてしまった。降りしきる雨の中、更に勢いを増した雨粒が次々とフロントガラスにぶつかっては陽気に弾け散っていた。

まるで終わらぬ花火のように。


 

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