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−翼−
「前編」


  

−1−
マジですね、何だか

 少年は、確かにそこにいた。
 新宿駅、西口。
 早朝の雑踏の中に一人の少年が立っていた。
 高校生とも大学生とも見えない、どことなく気力の無さそうな雰囲気のある少年だった。
 背に担ったクリア樹脂製のデイバッグには、薄汚れた予備校の問題集が詰まっている。
 少年は、ふと、歩き出す。
 階段を昇り、外に出た。
 晴れている。
 冬の晴れ間だ。
「…………」
 そして、少年は上を見上げた。
 駅前の大時計が、デジタルの文字盤で八時三十分を指していた。
 少年はそれを確認して、疲れたようにため息を一つ吐く。
 吐いた背中に、歩く背広の肩が当たる。
 当たる。
 幾つも当たる。
……いて」
 自分を追い抜いていく群衆に視線を向け、わずかに表情を変えた。
 だが、それも一瞬だ。
 やれやれと肩を落とし、少年は歩き出す。
 街ゆく雑踏は、もう目に入っていない。
 東京で暮らして半年。少年は、人混みを無視できるまでに、この街に慣れていた。
 それは、昔を忘れかけているという事でもあった。
「…………」
 歩く。
 いつも通りに予備校に向かう足を、これまたいつも通りに途中で方向転換して、いつもの場所へと、いつものように歩いていく。
 早朝三十分の戦闘。
 ゲームセンターだ。

   

−2−

 駅前の通りから外れたところにある、スポーツジムの最上階。
 そこに、少年の求めるシステムは存在していた。
 仮想現実シミュレーション「チェイン」
 プレイヤーは箱形のボックスに入り、ヘッドセットをかぶったまま軽い催眠状態に入る。
 ヘッドセットの内部は眼部のゴーグルを中心に重量バランスがとられている。そのゴーグルが、人体で唯一つ脳に直結している外部器官である視覚神経を、旧来のような光ではなく、闇の直射によって安全に刺激するのだ。
 人の視神経信号を操って作られる情報は、ヘッドセットの立体音響装置と相まって、ただの視覚・聴覚情報だけではなく、プレイヤーの意識を介して確実な存在感を有す。
 網膜から読みとられた意志の強さがゲーム中での行動を形作る。そして、ゲーム内でのプログラムによって創られた疑似人格は、その意志を押さえて暴走を止める役割を果たす。
 現在のシステムには中世ファンタジーのモデルが入っていた。
 小説や他のゲームではもう二十年以上も使い古された世界観が、仮想現実化では理解のしやすさを生む。
 少年は、サムライのキャラクターを使用して、二度、ゲームをクリアしていた。
 ゲーム基盤の構成から、「チェイン」は通信機能を持っている。
 だから、少しでも規模の大きなゲームセンターならば、全国の似たような施設とリンクしている。
 つまり、自分の他に何百、何千人ものプレイヤーのキャラクターが動き回る世界。これこそが「チェイン」の人気の秘密であった。
 ゲーム内の人格は、キャラクター・メイキング時のものに固定されるため、実際のプレイヤーとは大きく異なる。視覚神経からの脳への情報介入により、プレイヤーはキャラクターを演じるのではなく、そのものとなるのだ。
 この装置を販売する際に起きた洗脳疑惑の問題など、少年は聞いたことがあった。
 被験者達に何らの影響も無かったことと、プログラムを外部解析させること、そして、
「プレイ料金に保険料が含まれるから……、1プレイ500円なんだよなあ」
 それだけの金額を払って、仮想世界の他人の人生に宿りて得るものは、”憶えることが出来た夢”でしかない。
 だが、「チェイン」の人気は高かった。
 高すぎた、と言っても過言ではない。
 初めて「チェイン」をクリアした時、少年は予備校の友人にこう語った。
「現実とは全く違う自分を、違和感無く、動かす……、いや、体験できるのが、面白い」
 しかし、二度目のクリアを狙ってプレイした時、少年は出来るだけ、
「生の人格」
 で「チェイン」をプレイしようとした。
 夢の中で自我が存在するときがある。
 それと同じように、催眠状態から抜けないように、ギリギリの線で意識を保つようにしながら「チェイン」をプレイしたのである。
 そうすることによって、プレイ後に薄れてしまう「チェイン」の印象を、できるだけ記憶に残そうとしたのだ。
 初めの内は、催眠状態から目覚めてしまうことが多く、何度も強制的ゲームオーバーをさせられた。
 うまくいくようになったのは、一万円近く使ってからだ。
 一度慣れたならば、あとは問題が無くなった。
 ゲーム世界の自分が、殺し合いに疑問を抱いたり、魔法の論理に考え込んでしまうような、そんな妙なプレイだったが、それなりにプレイ後の記憶もはっきりとしている。
「なるほど」
 意識で遊んでいるゲームなのだと実感する。
 二度目のプレイは、そんなこともあってスムーズだった。
 そして、一つの事件に出会った。

  

−3−

 二度目のクリアを目の前に控えたプレイで、少年はその感覚に気付いた。
 いつも通りに、できるだけ人格を残したままプレイしていた少年のキャラクター、つまり、サムライである彼の頭の中に、雑念のようなものが響いたのだ。
 言葉にならない呼びかけ。
 雑音。
「?」
 彼は、ゲーム世界の青く広い空を見上げ、悪魔の誘いか、何か魔法による呼びかけではないのかと、首を捻る。
 少年は、ボックスの中で、鼓動を一つ、跳ね上げた。
 そして、どちらともなく、つぶやく。
「……違うな」/『……違うな』

 少年の意識が、それが何かを見極めようとして、彼の中で問う。
 彼は、己の中に起きた、不意の疑念に辺りを見回した。
 次の瞬間には、自我が起きあがりすぎていた。
 目覚める。
 ワンプレイの規定時間を数分ばかり残したまま、強制的にゲームオーバーさせられる。
「…………」
 目を開けると、催眠状態からアウトさせる薄暗い幾何学模様が、ヘッドセットの中で動いていた。
 寝ぼけたような頭で、薄暗いボックスの中で、少年は思う。
「……今のは、何だ?」
 ひょっとしたら、プログラムの中の小さなバグか何かが、ありえる筈のない、
「プレイヤーの自我」
 というものに引っかかったのかもしれない。
 本来ならば、キャラクターはゲームの進行に関係ないものへ興味を抱かない。
 が、そうではない要素を持った少年ならば、どうだろう?
 ゲーム中の彼の思考は彼のものだが、彼の本能は少年のものなのだ。
 では、本能が、何に気付いたというのだろうか。
「……?」
 それが何であるかは、解らない。
 気付くと、ボックスの扉を外からノックされていた。規定時間が過ぎたのだ。

   

−4−

 その次の日から、一人暮らしの生活費を削って、少年は「チェイン」に入った。
 一度聞こえた雑念を求めて。
 それが何なのか、どうして求めるのか解らないままに。
 ダイブ。

   

−5−
街

 確信できたのは、ずっと後のことだった。
 一瞬だった。
 ゲームのクリアを果たした英雄達が、マルチエンディングで、自分の行く末を選ぶ瞬間だった。
 スタート地点となった城の前の広場で、祭りが行われている。
 それを見おろす彼の視点は高い。
 彼は、パレードを離れて、ものうげに、城の尖塔からそれを見おろしていたのだ。
『…………』 
 人の海が眼下にある。
 目は、その辺りを見ている。
 彼の本能が、こう告げている。
「高いところからならば、あの雑念の正体が見えるかもしれない」
 彼の意識は、こう思っている。
『……何か起きねえかなあ……』
 エンディングが始まった。
 歓声が起こった。
 「チェイン」のシステムによって作り出した街の人々が、ゲームをクリアしたキャラクターの名を、大きな声で叫ぶ。
 連呼。
 街が揺れるような歓声。
 連呼。
 呼ばれ謳われ叫ばれる名前の多くは、やはりゲームらしくイニシャルだったり、英語数文字の愛称である。
 それらが疑念なく連呼される。
 彼でさえも、本能ではおかしいと思いつつ、
『まあ、こういう名前で当然さ』
 と理解している。
 だから、ふと、気付けば、彼は我知らず内に苦笑していた。
 そして、わずかに下げていた視線を上げた時。
 それが見えた。
 女だ。
 女戦士だ。
 彼女が、立っている。
 人の海の中央。
 祭りの中央だ。
 広場の中央にある祭壇の上である。
 全ての中央にいる彼女は、人々の前で剣を空にかざした。
 エンディングを迎えるための儀式だ。
『…………』
 剣のブレードに、天からの光が、一直線でありながらも緩やかに降りてくる。
 直後。
 彼女の背中に、純白の翼が生えた。
 奉!
 と音をたてて翼が長く鋭角的に広がった。高得点保持者にのみエンディングで与えられる、天上まで飛べる翼だ。
 歓声が上がり、神々しくも飛び散った羽毛を、まるでマナでも追いかけるようにして街の人々が拾いだす。そのために、歓声が嬌声に変わり、人々が彼女から視線を外した。
 その中央で、彼女は空ではなく、天を見上げた。
 無言だった。
 翼が動いた。
 浮く。
『……!』
 細身の身体が、空へと舞い上がる。
 白い翼が、天に舞う。
 サムライは、その時になって、勢いよく尖塔の窓から身を乗り出した。
『ぬ!?』
 あの雑念が聞こえてくるのだ。
 それが、彼と、彼の本能である少年と、そして、お互いの体中を駆けめぐった。
 彼は、なぜかは解らないが、彼女の姿を見たいと思った。
 本能的な衝動だ。
 意識で解るようなことではない。
 本能が、それを望んだのだ。
 乗り出した身を捻り、視線を上に走らせる。
 空を見た。
 いない。
 だから、天を見た。
 ……いた。
 白い翼が、雲の上に消えようとしていた。
 雲上に、神々の広場があるらしい。その雲と、翼の色は、等しい色彩を持っている。
 翼は、雲にとけ込むように、不意に、見えなくなった。
 直後。
 雑念が消えた。
『…………』
 妙な悔しさがある。
 どうしてかは解らない。
 ただ、街の人々が、未だに彼女の名前を呼んでいた。
 文字記号である筈の名前が、映像に近い物として彼の頭の中に入ってくる。
「Y・S」
 それが彼女の名前だった。

   

−6−

 それは、少年が良く知っている少女のイニシャルと同じだった。

   

−7−

 三度目のプレイが始まった。

   

−8−

 ……ゲーム中の、あの娘を捜さないとな……。
 少年は、そう思う。
 異常な感覚だという自覚はある。
 夢と同じように記憶される「チェイン」のプレイは、そのボックスから出ると同時に思い出の一つとなり、過去へと消えるのが普通だ。
 ゲームなのである。
 そこに生きる者は、背後でプレイヤーと言う人間が操っていても、所詮、代理としての駒でしかない。
 しかし、少年は少女を追う。
 それは、彼が彼女を追うということだ。
 キャラクターには、今までのようなサムライではなく、エアロナイトという職業を選ぶ。
魔法機械の翼で空を飛ぶ騎士である。
 ゲーム雑誌のキャラクター一覧表では、常に戦闘力比較で最下位という位置にいるキャラクターであった。
 翼の操作が難しく、また、空を飛ぶために重い装甲を着けていないからだ。
 しかし、ゲームオーバーの確率が高くなろうとも、空を飛べるということは、彼女を見つけるのに役立つだろう。
 彼女も、エンディングで空に舞ったのだから。

   

−9−

「Y・Sか」
 現実において、少年はつぶやいた。
 上京するにあたって、別離した少女のイニシャルだった。
 特に強烈な思い出があるわけではない。
 俗に言う、
「キスもしてない仲」
 である。
 いいひと、で終わった関係だった。
 だからこそ、だ。
 別れるときも、上京記念コンパとやらで、皆と一緒に騒ぎ、そのまま別れた。
 まだ、何か言いたいことがあった。
 それは、少女の方でも同じだと、少年は信じている。
 ……でも俺は、何が言いたかったのかなあ?
 そこまで考えて、苦笑した。
 追っている彼女が、あの少女だとは限らないからだ。「チェイン」をプレイしている人間は東京だけでも何千人といるだろう。たとえば、少年と同じイニシャルの人間でさえ、どれだけいることか。
 しかし、
「まさか、ね」
 と、つぶやく口調に期待が含まれていた。
 記憶の中の少女の姿を、思い出す。
 ロングヘアを首の後ろから編み込んでいた。
 背が高く、視線が少年と近いところにあった。
 近眼らしく、目が深い色をしていた。
 そういう娘だった。
 「チェイン」が無い頃のゲームセンターに、ほとんどムリに引っぱり込んだことがある。
 そして、その一回だけでハマりこんでしまうような娘だった。
 ちょっと怯えつつも、長い脚を踏ん張ってレースゲームをする姿を、苦笑しながら眺めていたものだ。
 鮮明に憶えている。
 あれ以来、そういうものに興味を持ったと、少女は言っていた。
 それだから、「チェイン」の中の彼女が、その少女である可能性は高い。
 ……だとしたら……。
 少年は、吐息する。

  

−10−
ううむ、素材集

 エアロナイトは、ゲームの目的を見失ったかのように、空を飛ぶ。
 するべきことは多々あるはずだ。
 例えば……。
 魔王を倒す。
 姫を救う。
 宝を手に入れる。
 最強になる。
 そのほかにも、だ。
 しかし、そのようなものとは違う、異質なものを彼は追っていた。
 彼自身には解らない、衝動にも似た目的だ。
 何かを求める意志。
 それこそが、少年が自ら作り出した目的だった。
 彼には、少年の実名が着けられていた。
 「チェイン」のプログラム上、漢字が使えず、文字数が足りないので、名字が入らなかった。だが、演劇役者のような少年の名前は、知っている人が見たならば、
「ああ、あいつね」
 と気付くだろう。
 もちろん、皆が皆でなくなる「チェイン」の中で、気付かれることは無い。
 そのくらいは解っている。
 それでも、だ。
 ……それでもいいさ。
 そう思い、また、飛ぶ。
 世界は意外に広い。
 今日のプレイ時間は三十分。
 二つの街の上を周回し、大森林の木々の隙間を縫って飛んだ。
 それで終わってしまった。
 エアロナイトは、ため息をついて、それでいながらも、
『どうして、俺は、……何かを残念に思ってるんだ?』
 と考えた。
 だが、彼の意識も、薄々と、自分が何かの形を求めていることに気付いていた。
 少年には、完全に理解できていたのだが。
『…………』
 常に昼間しか無い空から、近くの街に降りる。
 通りを歩き、宿屋に入り、カウンター脇の伝言板に自分の名前を書き込む。
 これで自分のデータがセーブされる。
 あとはベッドに倒れ込めば、ここから醒めることが出来る。
 伝言板に、まだ見ぬ彼女の名前が無い。
 彼は誰かの名前がないことに、意味の解らない物足りなさを感じる。
 だが、彼の思考は、自分の追い求めるものと、その物足りなさの元凶をつなげて考えるまでに至っていない。
 少年は吐息する。
 ひょっとしたら、あの少女は、違う名前でプレイしているのかもしれない。
 だが、世界のどこからか、聞き覚えのある雑念が届いてくる。
 微弱に微弱に、それでいてはっきりと、彼と少年にだけ解るように。
 まだ、その雑念が何と言っているか読みとれない。

  

−11−

 退屈で将来の役には立たなくて、それでいて必要とされる予備校の授業を受けながら、少年は昔のことを思い出す。
 少女のことを。
「……結局、ふっきれてないな」
 過去に、何かが足りないことがあった。
 ……だけど、彼女が、あの娘だとしても、何故、会いたいと思う?
「そして、あの雑念に気付いたのは、どうしてだろう?」
「チェイン」において、ある筈のない少年の意識が、やはりある筈のない彼女の意識を掘り出すように見つけたのだろうか。
 最も近い位置にいた存在だから、か?
 解らない。
「どうだろう?」
 ただ、そうつぶやくだけだ。
「それに……」
 やはり、彼女と少女は、違う存在なのかもしれない。
 全然、違う存在を、ただちょっとした勘違いだけで追いかけているのかもしれない。
 誤解への怖れは、ある。
 そして、もう一つの怖れもある。
 彼女が少女であっても、「チェイン」の中では、彼が少年であると理解できないだろうということだ。
 エアロナイトとしては見てくれるかもしれないが。
 いつも近くにいながらも、全くそれと気付かない存在。
 ずっと昔の少年と少女の関係と同じものだ。
 それが、また「チェイン」の中にある。
 今はただ会いたい。それだけだ。しかし、なぜ会いたいのか解らない。
 解らないことばかりだ。
 現代に存在する遠い時代に、金を払って飛んでいける異世界で、自分だけの答えを求める。それが馬鹿げた行為であることは解っている。
 たかがゲームの中で、独りよがりな自己満足を求めている。
 しかし、こうも思う。
「それでもいいさ」

   

−12−
いい色だなあ

 「チェイン」の内部が改装を始めた。
 四方から吹く風が地形を変化させ、街は人々とともに発展を始めた。
 ゲームの名前も、その複雑な発音を有す英単語の後ろに「2」がついた。
 少年はキャラクターの再登録を行う。
 今まで蓄積した名前、EXP、スコアなどはそのままに、装備や能力などに変更が加わる。ゲームバランス調整というものだ。
『前よりアーマーが軽くなったな』
 と、エアロナイトはつぶやき、
『更に空を飛びやすくなったわけだな』/「更に空を飛びやすくなったわけだな」

 と、彼と少年はつぶやき、
「あの娘を捜しやすくなったわけだ」
 と、少年はつぶやいた。
 彼は、自分が本能的にひどく喜んでいることに、少し当惑しながらも、飛ぶ。
 新しく作られた空に舞い上がる。
 風がある。
 高い。
 足の裏という感覚が完全に無意味になる高さだ。
 見れば、西の空、大空に、夕焼けの赤が広がり始めていた。
 朱色という色彩だ。
 ゲームが新しくなったことにより、昼と夜の概念が加わった。
 それをいきなり目の前で見せつけられている。
 少年は、薄い意識の中で、考える。
 ……あの娘も、この空を見ているのか? だとしたら、夕焼けを見るついでに、このエアロナイトに気付いてくれないだろうかなあ……。
 無理だ。雑念が今日は無い。
 もどかしさが胸を占める。
 どうしても会いたい。この世界の中で。
 もし、現実の中で会っても、少年は少女に何も言えないだろう。気の弱さゆえと笑われるかもしれないが、そのことだけは解っている。
 しかし、別れた相手に会いたいという矛盾を、何も言えないのに何か言いたいという矛盾をどうにかしてやるには、それ自体を突き破らねばならない。
 その手段が、「チェイン」だ。
 会わずとも会ったことになり、言わずとも言ったことになる、架空の現実。
「君は、どうしているだろうか?」
 エアロナイトは夕日の方角に飛んでいた。
 すでに彼となっている少年を、彼女は少女として解ってくれるだろうか?

   

−13−

 A新聞 十二月十五日朝刊
「超体験ゲーム ショック死
 かねてより爆発的人気を誇る催眠型ゲーム機械「チェイン」において、都内在住の高校生(十六歳)が、ゲーム中の映像、音声などによる精神的なショックから心臓麻痺によって死亡していたことが判明。
 この事件の検視結果の判断によって「チェイン」の廃止要望が復活する中、東京都立大学で現代文化学を教えられている……」

−後編へ−