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Essay02
制作日時:1999/2/上旬※後々追補など有り
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さて、
このHPを作成中に実は一つの事件が発生したのだ。
簡単にいえば、
このHPを見た友人から早速の挑戦があったのである。
挑戦の内容は何とまあ、
「貴様も同人誌を作ってみろ」
というものであった。
場所は深夜のファミレス。
話題はちょうど、
「出版流通の問題点について(仕事がそういう友人なのよ)」
など語っている最中のことだ。
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妙なことを言うヤツだな、
と思った。
考えてみると解るのだが、
自分のようなアウトサイダーにとって見れば同人誌市場というものは、
「素人のための素人の市場」
もしくは、
「自分の職種故に作れないものを何とか発表する場所」
であって、
既に作りたいものを作り得ているプロがやってきて、
「荒らしていい場所ではない」
ように見えるのだ。
だから彼の言うセリフは前提として間違っている。
プロならば、
自分が既に得た場所でそれを発表して問うべきではないか、
と。
だからこっちはこう言った。
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午前二時にクルマを走らせる。
パジェロミニは後輪を跳ねさせるように走らせなければ良い走りが出来ない。
右折。
ハンドルを小気味よく何度も切ってアクセルオン。
慣性にて後輪をスライドさせてカウンターはいれないようにする。
後部バケットの荷物が揺れるが前部座席に揺れはない。
「随分と飛ばすな」
「オマエが急げと言ったんだろう」
「じゃあ急ぐな」
「契約は三十分前に締め切らせていただきましたベー(レシート吐き出し音)」
八王子の駅の横を通り抜けてすぐのアパートの前にクルマを停めた。
彼が出ていってまた荷物を抱えて戻って来るまで数分。
室内灯をつけて持ち出されたものを確認する。
数冊のオフセット(というらしいのだがどうしてそういう名前かは解らない)型同人誌群。
前に彼が大損をこいたと言っていた代物だ。
プロが作ったものである。
「自分にこんなエロ本見せてどうするつもりだ」
「まあ見ろ」
「ふむ」
広げてみるとおそらくCGをもととしたエロマンガ。
しかし荒い。
「それで28ページにして1500円だ」
「文句を言うならば何故買った」
「その漫画家のファンだからだよ」
彼は聞くだにウンザリした声でつぶやきながら肩を一つ回し、
懐から煙草の箱を取り出した。
自分は声をかける。
「おい」
「何だ?」
「自分の車は禁煙だ」
「外に出るか?」
「外でエロ本を見る気にはならねえな」
言ってから思う。
「このエロマンガでヤラれてるのって、
この人の持ちキャラか?」
「そうだがな」
と彼は言う。
「原作の方ではHくさいシーンはあるが、
ヤっていい話じゃあない」
「裏というわけか」
「貴様の嫌いなやり方だろう?」
彼は次の本を自分に差し出した。
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その本の内容もやはりエロマンガであったが、
「この漫画家もプロ市場ではエロじゃなかったよな」
「同人で本性を出すのは悪いことじゃあない」
「…………」
「同人にも市場は存在し、
売れなければ不良在庫となって作者の自己満足を傷つける。
そしてエロはプロ市場と同じくよく売れる」
「確かに表紙に尻かアンニュイ女を描けば小説も売れるわな」
自分の言葉に彼はうなづいた。
何となくではあるがそのときの彼の雰囲気には、
もう自分に挑戦してきたファミレスでの気迫が無く、
敵と言うよりも、
単に自問してるだけの人間に見えた。
彼は自分の持つ雰囲気そのままの口調で言葉を生んだ。
「だがな」
だが?
「俺はその漫画家のエロが読みたいわけじゃあなんだよな」
「…………」
「解るか?」
「作家は作品というレッテルで見られるということか?」
「そういうことだ」
「だが、
さっきの市場原理で言うならば、
読みたい人間が多いということだろう?
こういうものが存在するというのは」
「ならば」
彼は問うた。
「貴様が都市シリーズでいきなり美少女戦隊なぞ始めたら、
ファンはどう思う?
その方が売れるだろうさ今よりも。
だがな、
今まで都市シリーズをシリーズの持つ色でしっかりと見ていたファンはどうなる?」
「成程」
今度はこっちがうなづく。
気づけば、カーステレオのMDから流れる坂本龍一が淡々と鳴り響く中、
狭い車内に熱気のようなものが籠もりだしていた。
ドアの窓は大気との温度差によって薄く結露。
外は寒そうだ。
だが彼はドアを開けた。
脇をくすぐるような寒さと入れ違いに彼は表に出る。
「燃料切れだ」
言う口には既に煙草が一本”噛まれて”た。
アパート前の白いブロック塀をバックに置き、
ドアを閉める間際に彼が言う。
「最後の一冊はちゃんと読め」
へいへい、
とダッシュボードに立てかけられた本を手に取った時、
自分は一瞬で異変を悟った。
それは本ではなかったのだ。
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二人の男がクルマのボンネットを挟むように立って肘を着き、
白い息を吐きつつ夜に語る。
「貴様には悪い見本ばかりを見せてきたが、
プロにはああいうものを作って是とする人もいる」
「確かに」
「だがやはりそうではない者も多い。
ああいうものを作ろうとしてヘタレに流される連中も多いのだ」
「そりゃあ皆があれをやるのは無理だろう。
画力の問題や採算に時間の問題がある。
基本となる資本力だってそうだ」
「それは承知だ」
彼は煙草を懐から取り出して火をつけた。
ライターのガスが甘く匂う。
寒さが匂いを感じる嗅覚を更に鋭敏にさせ、
一瞬がひどく長く感じられた。
その長い時間の畝を越えてから彼は紫煙とともに低く告げる
「あれは理想の一つの形だ」
「理想は一つじゃないのか?」
「貴様が乗るような軽自動車の理想型と、
3ナン車の理想型が同じだと思えるか?」
「ふむ」
「貴様に言っているのは安価で手に取りやすく、
しかも買った後で納得できる本だ」
それを作れと彼は言う。
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帰路に向かうクルマの中、
洋モノテクノの音楽で眠気を飛ばしつつ、
……ノセられたなあ。
と思う。
そしてまた、
……ワガママな話だな。
とも思う。
それでもまあ面白そうではある。
今までは作るだけであったが真にファンのことも考え、
更には自分の本業たるプロ市場とのかみあいも考慮せねばならないとは。
望むのは勝負ではなく、
純粋な奉仕のようなものか、
それともまた別の何かだろうか。
やってみるとしよう。
やってみなければどういう方向の答えも出まい。