02−
GRAPHIC02

顔面造形次弾

制作日時:1997/8/初旬※後、追補など有り

顔面の描き方講座・二回目。
さて、
と。
んじゃあ、まず前の続きと言うことで、
もし貴方が絵師を目指しているならば、
「初弾で述べた描き方を実践している人間だけ読んで欲しいなあ」
というのが本音です。
絵師を目指していない人や、
もうなってるぜバリバリだぜって人は、
「鼻水タラして笑ってやって下さい」

ここから先に見せるのは、
「自分が自分なりの現実を紙の中に描けるようになった」
そのあと、
「本当に自分なりの絵を作っていくその過程」
というやつです。
だから、
自分が前述した顔面講座初弾を実践していない人間は、
「ここから先に書(描)かれることを絶対に理解できない」
どんなに理解したつもりでも、
「それは頭の中だけで、
嘘だ」

ということになってしまう。
なぜなら全ての理解は全ての実践に負ける
それが解らない人間はいないと……思う(笑。
水泳のやり方を聞いても泳げるようにならないのと同じですな。

では自分と同じ領域にいる人のみに自分の修行をお見せしようかな、
と。
自分とて昔から今のレベルだったわけではないです。
皆、
初めはヘタだったのですよ、
マジに。
(自分は今でもアレですが(笑))


なお、この手法の解説を見る際には画面サイズをベストポジションにあわせること!
また、この手法を試す際は、
「何事にも(軍隊調ではあるが)疑念を持たず、その通りにやってみること」
が大切。
説明だけ聞いて解った気になっているのでは何にもならない。

:黎明期
1997の8月前半ってとこで。
香港のイメージを固めるのに、左のような絵を描きつつ、ふと考えたわけですな。
「良くねえなあ」
立体? OKOK(そうか?)。
懐かしいなあ表情? OKOK(そうか?)。
雰囲気? OKOK(そうか?)。
じゃあ、何よ?
「個性がたりねえ。ついでに可愛くもねえしなあ……」
成程。
「基本は守っている。絵もそれなりに自分のものになっている。
だが、
逆らいがたいパワーっつーか、力が薄い」

じゃあどうすべえ、という疑問は一瞬で解決します。それは、
「絵を進化させるか」
どのように?
「もっと、自分なりの現実ってか、現実の現実を描くんじゃなくて、
現実を自分なりの手法で描くことはできんのかな、と」

苦労するわー……、だって今までの絵を捨てる必要性があるわけでして。
「でも今のまま現実に乗っ取って描いてたら、単にフツーの絵。
しかし、現実を無視して嘘は描きたくない。
だから現実を無視せずに、現実を自分なりに解釈した、
そういう絵が欲しい」

覚悟プリーズ、OK自分どーですか?。
「覚悟も何も、するのは当然」
じゃ、いってみよう。死ぬぞー、きっと。
(実際、死んだ)

■■:課題1
 上記の顔面を研究して、以下が問題と感じた(というよりも信じた=今でも信じてる)

・顔が長い
 =これはリアル画を練習しているとそうなるが、実際、これが良いとは限らないのが絵の不思議。
・人物が重い
 =これも上記と同じ。髪型や服装などを普段と異質なモノにすると、一気に質量が増える。
・眼などが攻撃的
 =これは自分の絵のクセ。キャラが常に男っぽくなる。


■■■:解決1
1で出た諸処の問題に対し、対抗策を打ったのが左の顔。
もうメタメタで精神的に沈む。

:「顔が長い」
@丈詰めを行った、が、顎から耳の長さも変わるので顔が妙に薄くなった。
上下が短くなったので、バランスをとるために顔もやや細くしたが、
そうすると顔の側面性が怪しくなった。現状、側面部ギリギリ勝負。
A顔の長さにはトリックとして、
うひゃあ、見せたくねえ「鼻の描き方」
も入ってくる

顔の長さを軽減するために、顔の中にある縦直線をなるべく排除、
それまで額から下に伸びていた鼻梁の線を大幅カット。
しかし、立体計算しておけば、線を描かなくても鼻のラインが額からまっすぐ
下に伸びている風に見えるはず。

画力の”証明”というか図形的証明式の応用ですな。

:「人物が重い」
=かなり英断だったが、髪型をハデにした。
顔の肌に髪をくっつけて重たい顔にしたくなかったから。
これで髪と顔の間に空間ができて軽くなった。

:「眼などが攻撃的」
眼を当社比1.5倍、上に伸ばした。
横にも広げるとバランスがとれるが、それでは顔の側面部に眼が食い込む。
よって、眼が四角くなる。くそー……。
また、自分は縦に長い目というのをあまり自分では描きたくないので、
(虫みたいだ:他人が描く分には構わない。)
この四角い目にあわせて瞳も大きくなる。うーむ、と思ったが、実は黒目が
大きくなったことで表情が一気に軟化した。これは使えるかもしれないと思ったり。

0〜ここまで、約5日。
描いたラフ(なお、自分はラフでもペンは絶対に入れる)が12枚
(アキラ顔面は30個ほど内包)


■■■■:課題2
 早朝の電車の中などで、絵のことを思う。

・「表情に乏しい」
 =黒目が大きくなって表情が軟化したが、逆に笑んでるようにしか見えなくなった。
・「顔がまだ長い」
 =これはまあ、その通り。”顔に無駄な余白が多い”わけで。特に鼻と目の間。顎も長いなあ、と。
・「立体が甘い」
 =最低限の立体しか使っていないんですよね、コレ。顔の中央ラインと眉のまびさし、あと、側面性、これくらい。
  何となく物足りないわけですや。ちゃんと頬とか顎とかの立体を無駄にしない絵が欲しい、な、と。
  なにしろこの時点で既に”0の頃の絵に戻れないなあ”、と何となく解っていたり。
  あっちの欠点がモロに見えるもので、簡略しまくったこの絵を見ていると。「ああムダなことしてたなあ」としみじみと。
  
 じゃあ、また試行錯誤の時間です。


眠いですねえ

■■■■■:解決2
:「表情にとぼしい」
 コレは次の解決方法と重複するのでそちらを参照。
:「顔がまだ長い」
 =一気に上下に丈詰めした。
よく見ると、眼が四角ではないことに注目。
そう、
”四角にした眼を上下から潰して長方形にしてもいいくらいまで、
顔を丈詰めした”
わけで。
その代わり、表情がまたきつくならないように瞳の大きさを研究する。
この作業のおかげでかなりの密度と表情を得られた。
:「立体が甘い」
実は丈詰めする際に、今回は横幅を補正しなかった。
ほぼストレートに昔と同じ幅を保っている。
だから、顔が横に広くなり、
立体をきっちりとって目位置などを考えないと造形できないようになった。
なお、眼が長方形にできたもう一つの理由は、
当然、顔の幅が横に伸びたからでもある、と。

さて、ここから段々と細かい補正の話になります。
キャラ顔面の造形の大部分は、
「顔の大きさ」
「顔の立体」
「造形物の形状と位置」

なので、この時点で既に大部分が決着したことになりますな。
逆に言えば、これより先が完成度を決めるものでもあります。

問題提起もしつつ、左図の解説。
上の顔で気になったのは、額が広いと言うこと。
エンピツ線で髪の生え際が書き足してあるの、解ります?
今まで眉上の丈詰めを行っていなかったのだが、行う必要性が出たわけで。
つまりはバランス。で、それを行い、
「描きやすくするために、試しに顔の側面線を定規で
”ほぼ垂直に”
描いた」

これで形が整っていれば、初弾の方法で回すことができる。
結果としては、うむ、合格。
じゃ、これでまずアキラを描いてみようか。
あ、何か情報足りないけど固まってきた気が。
3〜ここまでで約一週間。
描いたラフは5枚
(アキラの顔は14枚内包)





■■■■■■:結果1
気合いを入れて清書気分。
そろそろ朝飯前、斜め、横の2.5面図を描くことにする。
顔は、側面部をキッチリと定規使った垂直線をモトにして、
いかなる方向に回しても描けることを証明しなければならない。
なお、鼻のラインは極限まで削り、不必要な大人っぽさを消した
で、正面顔。
おお、何だか結構イケるかもと馬鹿化してみたり。
※作業中って、上手く行くとテンション上がりますよねー……。
ついつい頬のタッチなど入れて色気を出してしまったり。

斜め顔も側面部ギリギリ勝負を敢行したおかげで、以前よりかなりいいものになった。
立体が出てきましたよー。
特筆すべきは、
「見えない鼻のラインをどう見せるか」
の答え。
左手側の眉から、瞳の下あたりまで、鼻梁が描いてある。
俗称”滑走路”。
この線が消えても、
「この線があるべき直線」
をまっすぐたどると、鼻の影の頂点にたどり着く。
錯覚を用いた立体の見せ方なわけです。

これのおかげで手前側の眼にも顔の立体を示せるようになります。
こういう、
「現実をどう見せるか!?」
というトコロで、
「絵師の個性(考え方)」
がでる
のではないかな、と。

てなカンジで調子に乗っていたら、思わぬところに落とし穴。
さあ、横顔を見よう!
「カッコ悪ぃぃぃ!」
まだ余白が大きい!?
「ひいいいいい!」
正面や斜めでは鼻がベタ塗り影で自己主張して余白をゴマかすんですが、
これが横になるとアンタ、妙に長い顔の出来上がりで。
インパクトが無いんですよね。
特に眼の下から鼻の頂点辺りまでの長さはひどく無駄な余白だ。
「まだ丈詰めかあ!?
この時点でかなりイヤになる。
しかも、顎が伸びたりしないように、今度は横幅補正も含めつつ丈詰めです。
泣ける。
どーすっかなあ、と、マジで考えたりして。
ここから丈詰めを行い、
「二度とこういうミスが起きないように、何らかの手を打つ」
必要があるわけで。
つまり、顔の長さを完全に制御する手段が。
ただし、現実から来る立体の嘘はつかないと言うのが前提。
さあ、どうしよう?

4〜ここまでで三日。
描いたラフは4枚
(アキラの顔は12個内包)





■■■■■■■:閑話休題
ハッキリ言えば、フツーだったら、
「自分の好きなタイプの絵に立体をあわせれば終わり」
だったりします、いや、フツーは。
鼻の表現とか瞳の形状考察とか、鼻梁の立体を消しつつ存在させるテクとか、フツーは必要ないです。
だが、自分の欲しいのは、
「自分のみの思考で作られた現実に基づく顔」
なんですな。
鼻の形状も眼の形状も、絶対に他人からは借りたくないと言う思いがあり、
(これは絵師として大事なことだと思います)
そのために旧来の絵を捨てたんだからもー。

しかしまあ、それだけ考えて作りまくったというのに、
5を見れば解るが、
「やはり一つ足りない」

だからまた研究開発を行うしかない、と。
自分の絵を造形的にも魅力的にも現実的にも自分にとって最高の位置で整合性とってやりたいな、と。
簡単に言えば、どうすりゃあ既存の、
「ウソで固められて可愛い絵」
に負けぬインパクトを持ち、
「しかも現実的にウソのない絵」
が作れるのかな
あ、と。

※これは当時、多くの人達が課題にしていたことだと思いますので、そのまま残しておきます。
今となっては、「回せる顔」なんて当然のことですが、当時はそうではなく、それらを獲得して、また、多くの人が好む絵柄を作るにはどうしたらいいか、を常に皆が話し合っていたりしました。
フィギュアが注目されたのもこの頃の特色で、2Dを3Dに出来るのかどうなのか、は、やはり皆が注目していたことだったりします。

以後、顔の長さを制御する技術や理論を構築しては潰し、
試しては消し、
試しては消す日々が一週間ほど続く。
シャレになんねえー……、いやマジにマジに。
一度は旧来の絵に戻ろうか、もしくは現状で行こうかとも考えたんですが、最終的に無視。
「ここでやらなかったら一生やらんなあ」
という思いがあったと同時に、自分の今までの実力がまだ出せていないってえプライドもあります。
会社では、
「あ、この絵、誰? 川上君? ずいぶん変わったねえ」
などと言われていたりして(笑。ならばもう少し変わらないモノかな、と。
おそらくここが最後の正念場なのだろうという思いを前に、
「香港のキャライメージのプレゼンテーション」
をメディアワークスのスポーン佐藤さんにせねばならない日が決まる。
急げ自分!


ううデカイ

■■■■■■■■:結果2=完成
結論から言う。
「完成したっすー」
まずは顔を丈詰めし、細部のバランスをとり、
なおかつ鼻の造形(というか描き方)をやり直した。
鼻の描き方をやりなおした理由は一つ。
「顔を丈詰めしたため、今までの鼻の側面や、
下に影をおくやりかただと
鼻の自己主張が強すぎる」

からですな。
5で見せたように、鼻は下の影だけでもあれだけ自己主張する。
鼻梁を短くするための丈詰めを行えば、
鼻が顔の中央付近に来るわけだから、
その自己主張は更に強くなる。
だから、バランスをとるために、鼻の描き方を変え、
「鼻を実際より小さく見せかける」

必要があったわけです。
これが、シャレにならん錯覚の利用。
左の正面の鼻と、斜め顔の鼻を見比べて下さい。
正面顔の鼻は、一瞬、鼻の側面影に見えます。
が、斜め顔の鼻の下線を見ると解るが、この影、
鼻の下影なのであったりしたり。

「影の形状が変じゃねえか?」
と言われるかもしれないが、ここがフロックですな。
鼻の下影は基本的に、
「左の鼻穴のあるパーツ・中央のパーツ・右の鼻穴のあるパーツ」
の三部によって色分けがなされる。
これは美術教本などでエンピツのデッサン画などをみれば一目瞭然。
つまり、この正面顔の鼻影は、
「光源とは逆の鼻穴のあるパーツの影」
なわけです。
これは間違いなく、元々鼻の穴などを描き込んでいたからできたことであり、
また、現実物を考えていたから出てきた発想だと思います。
これによって鼻がスマートになり、全体のバランスが情報量的にとれました。
そして、丈詰めれた顔が横に広く見えないよう、
「髪のボリュームを増やし、
髪を横に広げることで対比的に顔を細く見せる」

ことにした、と。

横顔もほら、以前よりパーツが安定している感じで。
特に無駄な余白が無くなったために表情が見えやすいのが特徴です。
なお、犬のように突き出た顎とかはやっていますが、
立体的にウソっぽいので完全拒否するようにしています。

※この流行も廃れましたねー……。
絵におけるパーツの捉え方のサイクルはもの凄い早いです。

よし完成!
ここに至るまでに約3週間!
描いた顔面は60近くいっています。

同じモノをこれだけ連続して色々描くなんて、もう無いだろうなあ……。






■■■■■■■■■:補足
ああラストラストそして描き直された0のイメージがコレ。
0とコレを比べると、
「別人の絵」
になっちゃってますな(笑。
でもコレらは同じ人間が3週間の格差で生んだ絵なわけです。
どういうことか解りますでしょうか?
これが良いか悪いかは別として、以下のことは事実です。

・集中練習
・現実を絶対に無視しないこと
・良いものを求め続けること
・諦めないこと


これらが重なって、絵が進化するわけで。

そして、自分を含めた多くの人間は、このことを知っているわけです。
だからもしもこれを読んでいる貴方が、絵師になろうとしているならば、
くじけそうになったときにこれだけは言ってはならないことがあると思います。
「才能がないからね」
才能が無いのではなく、自分の絵を研究していないだけではないでしょうか。
逆に言えば、考えて研究すれば成果は出ます。絶対に。
さあ、それが解ったら諦観に酔わずとっとと描きましょー(笑。
自分の絵に不満が出たら、それが進化の布石です。
考えましょう。
結局、自分も未だに考え続けて描きまくっています(笑。





 やればできるし
やらねばできない
できなかったらやってないだけ
そしてやったやらないの基準は自己ではなく結果にしかない、
では、結果が出るまでやり続けようというところで。



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