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 若桜木虔さんの事

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 いわゆるSFファンで若桜木虔、という作家名に好印象を持っている人はどれぐらい居るだろう? 皆無ではないだろうか?

 この人の擁護はぼく自身への信頼の失墜に結びつくかも知れない。

 若桜木さんのデビューは秋本文庫(だったと思う)、その後「宇宙戦艦ヤマト」のノベライズで大きく売り出し、一躍ベストセラー作家の仲間入りをする。
 ぼくも、学生の頃、何冊か読んだ。

 感想は人様々だろうが、ぼく自身は高い評価はできなかった。この評価を今も変える必要は感じない。
 しかも、あまりの多作に「若桜木虔と言うのは十数名が集まって作ったプロダクションの合作名である」とまでいわれた。あるいは「アマチュア同然の弟子に書かせて、それに自分の名前をつけてピンハネしている」との噂も聞いた。
 事実、ぼくも本人に会うまでこの説を信じていた。
 本人に会ったのは1993年ころの事だ。

 細かいけれど仕事の話があるから若桜木虔という人と会ってみないかと、篠田節子さんから電話があった。事もあろうに篠田さんは若桜木虔が何者であるか延々と説明してくれた。ぼくは逆に若桜木虔が何者であるか篠田さんに解説せざるをえなかった。
 若桜木虔とあわないか? その時は正直言って二の足も三の足も踏んだ。
 結局、ぼくは出かけて行った。待ち合わせ場所について生きて動いている若桜木虔を見て、びっくりした。
 まともなのだ。
 ごく普通のおじさんだったのだ。
 そして、それまでぼくが聞いて、なおかつ信じていた若桜木虔伝説が虚飾に彩られた物である事を知った。

 合作名であるというのは全くのデマである。本人は恐ろしいまでに筆が早い。すべて自分で書いている。
 朝五時に起きて、午前十時までには十枚ぐらい書くと言う。十枚と言うのは四〇〇字詰め原稿用紙ではない。四〇×四〇のワープロ画面である。原稿用紙四〇枚を半日で書く。このペースをコンスタントに続けると言う。十日でノベルス一冊。一月で一二〇〇枚のペースになる。
「若桜木虔と言うのは合作の筆名で、弟子に書かせているという話を聞いたのですが……」
 ぼくが恐る恐る問いかけると、
「いやあ、そんな事するよりは自分で書いた方が早いんだよ」
 との答え。

 カルチャースクールで小説作法を教える若桜木さんには、弟子と呼べる人も多い。
 ぼくも何人かと知り合った。そして、若桜木さんが積極的にそうした人たちに仕事を回しているのを見た。親分肌の人物であり、合作のような事をやろうとしたのも本当であるし、若桜木さんがフィクサー的な作業を好むのも事実である。
 だが、実際に合作となったとき、月産千二百枚の化け物に、新人すれすれの半アマチュアがかなうはずがない。若桜木さんは「霧島那智」のペンネームで合作をするようになるが、最初は数名いた物がペースについていけずに、一人欠け、二人欠けして若桜木さんを中心に一人二人でやっているようである。

 弟子の印税、原稿料をピンハネ云々も全くのでたらめである。
 ぼくは結局、若桜木さんと合作(二人でオリジナルアンソロジーをやった。KKベストセラーズの『帝国空軍の曳光』『帝国空軍の飛跡』である。合作であるためぼくの著作リストには載せていないが、全国リストの十位にランクされた。部数も含めて最も売れた本である)したのであるが、印税、原稿料で揉めるような事は全くなかった。
「編集さんとの交渉は青山君やっているんだから、多くとりなよ」
 印税率については、若桜木さんの呈示した額で落ち着いた。原稿枚数で割り、ぼくに有利なように切り上げた数字であった。

 これに限らず、トリック集であるとか、細かい話が何本かまとまるのを目の前で見てきたが、ことカネが問題になるケースは全くなかった。無論、モノ書きがこれだけ集まって何かやろうとすると揉めごとが付き物であるが、若桜木さんがトラブルに関連したとき、それはカネではなく、作品上の問題であるとか、プライドに関わることであるようだった。

 ここまで若桜木虔擁護の主張を続けてきた。
 確かに、人物面においてモノ書きとしてごく標準的な(もっとも、それはかなりの性格の悪さを表わすが)人間性であり、鷹揚さとか、面倒見の良さと言う点では逆にずば抜けている。カルチャースクールの生徒に編集さんを紹介したり、仕事をお膳立てして、作品取りまとめたりする先生がどれだけ居ますか。若桜木さん以外に聞いたことがない。

 もっとも、作品面についてぼくは批判しないわけには行かない。
 本人は「一定のレベルは保っている」と主張するし、編集者もOKを出しているのだから、構わないといえば構わないのだろうが、それにしても、自分で作る基準をもう少し上げても良いのではないか。もっとも、これは余計なおせっかいだろう。

 もうひとつ、ぼくが若桜木さんを信頼する理由がある。
 それは学歴である。
「東京大学理学部生物学専攻博士課程」というのが若桜木さんの最終学歴である。
 モノ書きは高学歴が多いと思うが、その中でもずば抜けている。
「そこまでいったら、なんで役所に入るとか、企業に行かなかったんです!」
 公務員でも、堂々とキャリア組ではいれる学歴である。
 若桜木さんは笑って答えた。
「そりゃ、作家になりたかったからだよ」
 東大の理系オーバーマスターを振って「宇宙戦艦ヤマト」のノベライズに全精力を傾けるようなけなげな人物を信頼せずして、誰を信じればいいのだろう。

1999/03/25 Thu記入
2006/09/22 Fri修正

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