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 梅原氏からの手紙2000年02月24日

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 青山 智樹 様
2000・2・24

 前略
 私も確定申告を済ませたところです。
 「二重螺旋の悪魔」文庫版と、「ソリトンの悪魔」文庫版、「カムナビ」ハードカバー第三版までの印税が、すべて99年度の収入となり、合計二六一九万円でした。
 私が払う所得税は五〇七万円です。すでに四四四万円は源泉徴収で銀行振込の前に引かれており、未納の六三万円を、これから追加支払いしなければなりません。
 さらにこの後、県民税と市民税を合わせて一〇〇万円ほどを納税することになるでしょう。
 何で、こんなことを書いたのかって? 作家予備軍の青少年たちに、私ぐらいの中堅作家の家計簿を情報公開しようと思ったのです。私は大ベストセラー作家ではありませんが、確実に稼いでいます。それを知らせてやれば、SF評論家たちのたわごとを信じてしまうような青少年を減らせるでしょう。

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 さて、「カムナビ」の部数ですが、こんなものかな、とも思っています。
 実は、反省点もあるのです。それを書きましょう。
 近所に、一時間一〇〇円でインターネットを利用できる店があります。そこで久しぶりにアクセスしてみたら、「カムナビ」への良質な批判も目につきました。こんな感じです。
・「上巻はアクション場面が少なく、重たい印象」
・「主人公が情けないキャラクターだ」

 これらの批判を浴びせる人に対して、私は謝罪します。ごめんなさい。

 たぶん、冒険アクション小説が好みの人は、「二重螺旋の悪魔」と「ソリトンの悪魔」を気に入ったことでしょう。
 しかし、「カムナビ」はと言えば、冒険アクション小説の要素を最初から捨ててしまった作品だったのです。下巻の後半にはアクション場面もありますが、全般的には冒険アクション作品ではありません。
 理由は、冒険アクションの要素を盛り込むと、さらに小説の分量が長大化するためです。だから、その要素を切り捨てるしかありませんでした。
 当然、主人公にも、それは反映されました。主人公が様々な超常現象に翻弄されるだけのキャラクターに成り下がっていき、これを解決しきれませんでした。
 ですから、「二重〜」や「ソリトン〜」のような冒険アクション路線を期待していた人には、申し訳ないと思っています。

 一方、「カムナビ」を絶賛してくれた人たちもいました。たいていは半村良ファンや高橋克彦ファンで、古代史ネタの伝奇ロマン小説を好む人たちです。彼らからは「こんなのが読みたかったんです!」と満面に笑みで言われました。その手の読者には、バカ受けだったのです!
 繰り返しになりますが、角川書店の角川歴彦社長も、「カムナビを映画化したいな」と言ったそうです。社長も、この手の伝奇ロマンがお好きのようです。

 要するに、「二重〜」や「ソリトン〜」に比べて、「カムナビ」はまったく違うタイプの作品になったのです。ですから、「二重〜」や「ソリトン〜」を好む人と、「カムナビ」を好む人とでは、かなり温度差が生じています。
 この経験は、今後に生かすことにしましょう。
 たぶん、今後は「古代史ネタ」を真正面から主題にするのは避けて、脇役の扱いにするのが、良いのでしょう。そうすれば冒険アクション路線を好む人たちに配慮した場面構成や、主人公設定がしやすくなるでしょう。

 ……と、このように、私は建設的な批判ならば受け入れるのです。つまり、「より大衆読者の好みに合わせて、より発行部数を伸ばすためには、どうすればいいのか?」を議論できるネタならば、批判を歓迎しています。
 一方、私がSF評論家を憎むのは、彼らがこうした大衆市場についての論議に、まったく参加しない「官僚主義の塊」だからです。

 まあ、全般的に見れば「カムナビ」は成功した作品でしょう。
 編集者から聞いた話では、「ハードカバーで出た小説の八割か九割が、初版一万部で終わり」だそうです。
 ですから、「カムナビ」のハードカバーで六版、六万九〇〇〇部という数字は、好成績でしょう。

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 さて、前回、披露したアーサー・C・クラーク批判の続きです。
 青山氏も、やはり「SFの純文学化の始まりは、クラークかもしれない」と感じておられるようですね。
 ちなみに過去の私は、クラーク・ファンでした。しかし、二〇〇〇年以降からは考え直すつもりです。
 今の私は、クラーク作品に「神のような高い位置から、人類という生物を見下ろしているような視点」を感じるようになりました。そして、その点について納得がいかなくなってきたからです。
 「こんな高みから人類を見下ろしたつもりになっている、おまえはいったい何様だ? え? アーサー・C・クラーク? ふざけるな! おまえだって、おれと同じ人類に過ぎないじゃないか! 思い上がるな! バカ野郎!!」
 と、これが今の私の気持ちです。そして、これは今の大衆読者がSF小説に対して抱く気持ちと、ほぼ類似していると思うのです。
 現在のSF小説は、大なり小なりクラーク流の視点を受け継いでいます。ところが、大衆読者はと言うと、こうした視点になじめないのです。大衆読者がSF小説を読みたがらない理由は、もう明々白々ですよね。

 これは、非常にややこしい事態です。
 つまり、クラーク自身は知名度の高い大物作家になれたのですが、同時にクラークは後輩たちに悪影響のタネを蒔いてしまったのです。
 そして後輩たちは、「クラークの悪い点=イデア主義的な視点」ばかりを積極的に見習い、増幅してしまい、悪循環に陥った、というのが真相でしょう。
 こうして、「悪循環によって増幅されたイデア主義思想」が、数十年後にSFを自滅させたのです。

 というわけで、私も青山氏とほぼ同意見です。
 ビッグ・スリーの中の二人、アジモフと、ハインラインには「SFを自滅させた責任」が見当たりそうもないので、彼らは無罪でしょう。
 しかし、クラークは有罪です。また、クラーク流の視点を増幅させていったSF作家たちも有罪です。
 ついに我々は真犯人たちを突き止めたのです!

 というわけで、「サイファイ構想:2000年2月24日版」を郵送します。これのファイル名は「サイ000224.JBW」です。青山氏のホームページに登録し直してください。
 この「サイファイ構想」に新しく追加したのは「クラーク批判」と、「サイファイ作家は、常に現世と現人類を肯定する作品を書くべきだ」ということです。
 これによって、「サイファイ」と「SF」の違いがますます明確になってきた、と思います。
 つまり、図式にすると、
・「SF   =現人類否定主義」
・「サイファイ=現人類肯定主義」
となり、非常に相違点がわかりやすくなったのです。

 「サイファイ構想」も章立てが増えすぎて、煩雑になってきました。いずれ再整理しなければなりません。
 でも、慌てなくてもいいでしょう。「サイファイ」ブランドは、たっぷり年月をかけて熟成させるつもりでいますから。

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 藤崎慎吾氏「クリスタル・サイレンス」について。
 作家の相互批判は双方のためにならないので削除。

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 青山氏も新しい構想を練るなど、いろいろと頑張っておられるようですね。微力ながら、声援を送ります。

PS
 フロッピー・ディスクは返送しなくてもいいですよ。
 そちらで適当に使い潰してください。

 では、また。
      草々


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