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 怒る大誘拐

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 1999年1月20日、朝日ソノラマ、ソノラマ文庫より発売予定→あとがきを読む

 イラストさんも変わって表紙とかデザイン一新されていますがこの話は1998年1月ソノラマ文庫から発行された「笑うUFO殺人?事件」の直接の続編です。
 独立して楽しめるように作っていますが、続けて読むといっそう楽しいと思います。

 この作品はフィクションです。実在する個人、組織とは無関係です。
 もし仮にそのように感じられる登場人物、著者、警察、国家が存在したとしたら、たぶん気のせいです。

■第一章『またもお使い、なんてやってられるか!』
「まったく、なんであたしがこんな事しなくちゃならないのよ」
 白い軽自動車の運手席で若い女がいらだち紛れにハンドルを大きく切った。
 女は小柄で肩幅も狭く、華奢な印象だ。ストレートの髪を肩にかかるほどに伸ばしている。髪も肌もきちんと手入れがされていて、もって生まれた容貌に加えての努力は、十二分に実を結んでいる。雑踏の中に入っても紛れてしまわないほどの美貌だ。
 三月、光の春。明るい太陽が緑に萌える暖かく照りつけている。うららかな気候である。野原にねっころがって昼寝でもしていたらさぞや気持ち良いだろうが、ときおりすれちがう自動車に、幸せそうな家族連れや、アベックがいちゃついている姿を見ると、鷹取怜佳はいまひとたび自分のおかれた立場を思い出さされて、むしゃくしゃしてきた。
「ええい、腹の立つ」
 レイカは我知らずアクセルを床まで踏みこみ、ピンクの春ものジャケットの肩をいからせた。
 彼女がいらだっているのは、給料が安いとか、せっかくのいい気候だというのに休みが取れずに忙しさに追われているため、などではない。決して。
 そうであれば、いかにか嬉しかったことか。
 安月給に休みが取れなかったのは事実であるし、いまも社用の最中である事は変わりない。だが、忙しさなどひとつも感じない。職場が彼女にとって忙しかった事は、一度しかない。その「一度」も変人と酔っ払い宇宙人のお守でロクでもない騒動であった。
 彼女の勤め先は〈加藤統計管理事務所〉。
 私営の統計調査の事務所である。
 だが、これはあくまで表向きで、某所では知らぬものはない、しかし実体を知る者もいないとある組織の隠れみのである。
 日本国防衛庁部外部組織の情報組織、つまりはスパイ組織であり鷹取レイカは女スパイなのである。
 スパイ組織に就職するのは並み大抵ではなかった。求人情報誌には何の宣伝もなく、苦労して合格してからも一人前になるまで地獄のようだった。悪夢のような無人島でサバイバル訓練を受けさせられ、おまけに学科試験まであったのである。そしていよいよ最前線の部署である、加藤統計管理事務所に配属されて、鷹取レイカに期待される主要な任務は、なんと「お茶汲み」だったのである。
 無論、お茶汲み以外の任務もあった。具体的にはコピー取り、残業食作り、そしてお使い。
 いかにスパイ組織とは言え、経理であるとか、事務処理は必要である。とはいえ、それがなぜこの自分がやらなくてはならないのか。
 そして、今日また、レイカは某所への出張を命じられていた。レイカの愛用の白い軽自動車〈ステルス号〉の後部座席には移送を命じられた箱が鎮座ましましていた。重要物資の移送などではない。箱の表には「お歳暮」と書かれたノシが貼ってあった。
「あたしがこんなバカな事しなきゃならないんです!」
 レイカは所長に食ってかかった。加藤所長は出るところへ出れば陸将と呼ばれる素敵なロマンスグレーで、若い頃、第二次世界大戦中はヨーロッパとの重要な連絡役であり、ベトナム戦争当時は南に与して破壊工作員として従事したと言う、つまりは戦前の教育を受けた石頭のクソジジイであった。
「見て判らんかね? お歳暮だよ。それを運ぶのが君の任務だ」
 レイカはわなわなと震える手を押えながら窓の外を差した。事務所はオフィスビルというより要塞に近い構造となっている。
 窓ガラスはすべて二十ミリ機関砲弾を弾きかえす防弾仕様で、その向こうではぽかぽかと明るい日が射している。春三月。六本木は夜の街であるが、あまりのうららかさに春らしく着飾った人々が街に溢れている。
 ついでレイカは所長のデスクにあるコンピューターディスプレイに写るカレンダーをさした。ディスプレイとは言うものの、ここにあるのは端末で、本体はビルの最上階にあるメインフレームであり、さらに対原子戦防御のなされたオプティカル・ファイバーの専用線でもって防衛庁内にあるスーパーコンピューターと繋がっている。
 レイカはついでに壁に貼ってある日めくりを取って所長の前に立てた。
 三月十日(大安)。春である。
 所長の反応は冷徹なものであった。
「君も青木秀樹氏の所のマネージャーとやらを覚えているだろう」
 思い出したくないものを思い出していた。
 レイカが忙しかったただ一度の事件、その際に顔見知りになってしまった下郎である。
 かつてレイカはある任務を言い使った。ある物品を某研究者の所へ運び込み、実体を調査してこいと言うものであった。蓋を開けてみるとある物品とは直径三十センチほどの小型空飛ぶ円盤であり、研究者とはどこへ出しても恥ずかしくてたまらないマッドサイエンティストであった。なぜ、レイカがそんな任務を言い使ったかというとまともな研究所では相手にしてくれない、というばかばかしい理由からであった。
 そのマッドサイエンティストのマネージャーが梶原浩一郎である。
 身長一八〇、体重六五キロ。すらりと背が高く、鋭く切れ長の目、緩くウェーブのかかった髪を後頭部でロンゲにまとめている。ワイルドな風貌はどこへ出しても恥ずかしくない美男子である。身だしなみさえきちんとしていれば。
 だが、中身は控え目に言って屑である。外見がどうあろうと、中身は頭に「弩」が付く金の亡者で、意地汚い腐れ外道である。何でもかんでもカネの一字で、自動販売機をみれば這いつくばって機械の下に手を突っ込んで小銭をひろい、一円落しても命を落した様に大騒ぎする。着ている服もイタリア製のブランド物であるが実態は商店街の福引であたったヨーロッパ旅行の際に、リサイクルショップで万引きして来たと言う。
「あの男がな、今になってお歳暮を要求して来た。とりあえず、縁は繋いでおきたい。無碍にもできん。で、君に行って来てもらう」
「箱の中身をうかがってもよろしいですね?」
 問いかける声も思わず低くなる。以前、同じ場所にお使いを頼まれた時には中身は空飛ぶ円盤だった。それはそれで面白かったが、酷い目にも遭った。あまりにばかばかしかった。今度はもう少しまともな目を見たい。
「かつぶしだよ」
「は?」
 レイカは目を点にしていた。

あとがき
 今から五年くらい前、大場惑と真剣に話をしたことがある。
「ファーストコンタクト物、そろそろ書いといた方がいいんじゃないのか?」

 「はじめて月へ行く人類」の話がSF作家たちのトレンドであった時代があった。これによってえがかれた作品としてヴェルヌ、ウェルズの「月世界旅行」、ハインラインの「月を売った男」、傑作は少なくない。
 だけれど、アポロ十一号が静かの海に着陸して以来、月への一番乗りをえがいた作品は姿を消した。
 ファーストコンタクトも、実現したとすると、二度と描かれなくなる種類のテーマである。

 ファーストコンタクトとは今更説明するまでもないかもしれないが、地球人がはじめて宇宙人とあう出来事をさす。フィクションの世界では月世界着陸と同様、なかなか古典的な命題で、色々な作家が、様々なパターンの作品を発表している。
 無論、対照的に生じてくる命題として「すでに地球に宇宙人は来ている」であるとか「宇宙人がやって来て、すべての人々は幸福に暮らせる」的な発想もある。ウルトラの星からやって来たクラーク・ケントがバッタバッタと悪のなめくじ型火星人をやっつけるのもまあ、ファーストコンタクトと言えなくもないとは思うけれど、どうせだったらマジメにやらなくては面白くない。
「いまやるのだったら、やはり国際謀略モノのパターンだろうね」
 このあたりでぼくと大場さんの意見が一致した。
「やはり、国際謀略モノとなると、大国の面目がかかって、どうにかなる、ってストーリーだろうねぇ。大国の一つはアメリカだとするともう一方はどこだろう?」
「ロシアか、そろそろ金のある中国か……」
「でもさ、そういう時って、絶対抜け駆けする奴がいるんだよね」
「……日本だ」
 二人とも大真面目にうなずいたのであった。

 という、いきさつで生まれたのが本書です。
 ……とやると、真面目すぎてちと受けないので、もうちょっと、不真面目に行きましょう。

 せっかくスパイ組織に就職したはいいものの、お茶くみ、コピーとりにこき使われる女スパイがロクでもない場所に送りこまれて、宇宙人とともに騒ぎを起こす、と言うのがこのお話です。
 まあ、いままでカタい調子でやって来たので、いきなり信じられないかもしれないけれど、スラプスティック・ドタバタコメディ、ぱっと読んでおかしけりゃそれでいい、という本です。

 宇宙人標本集積所はチャイナレークではなく、ネバダにあると言う説もありますが、チャイナレークにしました。チャイナレークの方が長くて字数が稼げるからです。それに地図調べたらほとんどとなりでした。

 宇宙人! というと、まあ、いろいろ難しい色々な事考える人もいますが、この本ではムツカシイことは考えません。宇宙人はただの宇宙人です。

 このお話に出て来る登場人物にはすべてモデルが存在します。
 梶原や、怜佳すらいます。あなたの横を怜佳が歩いているかもしれません。気をつけてください。まあ、ワルサー乱射したりはしないとは思いますが。
 青木のモデルもいますが、ぼくではありません。そこ、疑ってはいけません。

 例外は宇宙人で、残念ながらこれに似た人をぼくは知りません。どなたか、宇宙人のお友達をお持ちの方は紹介してください。モデルにして書いてしまいます。

 チェストナッツ・マッシュという人が出て来ますが、この人はクリントンではありません。チェストナッツは「栗」、マッシュは「潰した」ぐらいの意味で「潰した栗」、つまり栗きんとんです。念のため。

 しかし、不倫疑惑隠しのため本当にイラク空爆するとは思わなかった。

 続きはあるかもしれません。
 ないかもしれません。もの凄く売れればぼくが嫌だと言っても出るでしょう。


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