|top|挨拶|地図|梅原氏|自分本|引出し|おもちゃ|忘れたい|掲示板|ワープ||料理|


 笑うUFO殺人?事件 OLスパイ レイカの事件簿

Page bottom 

 「笑うUFO殺人?事件」は1998年1月、朝日ソノラマから、ソノラマ文庫の一冊として発行された。
 スラプスティクSFである。サブタイトルにあるようにスパイに憧れた女の子が、せっかくスパイ組織に入ったもののオフィスでお茶くみとコピーばかりやらされてキレる。そして、たまたま、お使いに出された先がマッドサイエンティストの掘っ立て小屋で……というストーリーである。
 また、著者略歴も遊んでいるので、こちらも公開する。

 あとがきを読む

 著者略歴。
 一九六〇年七月三一日。夕暮れ。おりしも激しい夕立の最中、雷鳴の轟きとともにこの世に生を受ける。マッドサイエンティストを志し東海大学理学部物理学科に進むものの、スティーブン・ホーキングの出現により自らの能力の限界を悟り、志半ばにして挫折。SF作家となる。デビュー作「赤き戦果の惑星」こそSFであったが、SFは一つも書かず「原潜伊602号浮上せり」「バトル・オブ・ジャパン」など日本が世界征服をするようなシミュレーション戦記に没頭する。星座は世界の覇王にふさわしい獅子座。血液型はまじめなA型。


『笑うUFO殺人?事件』

 この作品はフィクションです。実在する個人、組織とは無関係です。
 もし仮にそのように感じられる登場人物、著者、警察、国家が存在したとしたら、たぶん気のせいです。

「まったく、なんであたしがこんな事しなくちゃならないのよ」
 白い軽自動車の運手席で若い女がいらだち紛れにハンドルを大きく切った。
 女は小柄で肩幅も狭く、華奢な印象だ。
 まっすぐなストレートの髪を肩にかかるほどに伸ばしている。髪も肌もきちんと手入れがされていて、もって生まれた容貌に加えて努力は実を結んでいる。雑踏の中に入っても紛れてしまわないほどの美貌は保っている。
 急ハンドルにタイヤがかすかに軋み声を上げたが、ラインは毛一筋も乱れない。見事な自制だ。もし彼女が、見た目通りの世間並みの女性であれば、ヒステリーを起こして急ハンドルでも切って、道端の溝か電柱に突っこんで救急車だか霊柩車だかのお世話になっていたかもしれない。
 もっとも、鷹取怜佳は見たままの女性ではなかったし、無駄と分かっている行動をとるような人間でもなかった。彼女自身、自分をそうあるべく鍛えていたし、彼女の置かれた状況は感情にまかせて突っ走れるものではないからだ。
 だが、いわなきゃ収まらない事もある。
 怜佳は怒りを叩きつけるようにしてアクセルを踏みしめた。
 道は都市部をぬけ、緑が目立つ郊外へと怜佳を運んでいた。よく言えばリゾート地、けなせば田舎の眺めだ。
 八月のまぶしい太陽が乾いた地面を白く照りつけている。
 ここまで晴れるとどんなに暑くても気持ちが良いほどだが、ときおりすれちがう自動車に、幸せそうな家族連れや、あるいは自動車の中をベッドと勘違いしたアベックが暑苦しくいちゃついている姿を見ると、怜佳はいまひとたび自分の立場を思い出さされて、むしゃくしゃしてきた。
「ええい、腹の立つ」
 怜佳は我知らず黄色いサマージャケットの肩をいからせた。
 彼女がいらだっているのは、給料が安いとか、せっかくの盆休みの時期だというのに休みが取れずに忙しさに追われているため、などではない。決して。
 そうであれば、いかにか嬉しかったことか。
 安月給に休みが取れなかったのは事実であるし、いまも出張の最中である事は変わりない。だが、忙しさなどひとつも感じない。職場が彼女にとって忙しかった試しなど一度もない。
 彼女の勤め先は〈加藤統計管理事務所〉。
 私営の統計調査の事務所である。
 だが、これはあくまで表向きで、某所では知らぬものはない、しかし実体を知る者もいないとある組織の隠れみのである。
 正式名称は、防衛庁統合幕僚本部調査調査四外課。
 公に存在すら知られることもないスパイ組織なのだ。
 就職氷河期に二十歳そこそこの女の子がこのような警戒厳重な場所にそう簡単に職を求められるはずもない。ここに至るまで怜佳はそれこそ血のにじむような苦労を重ねていた。様々な職業を柔軟な思考で考え抜いて「スパイ」という選択が浮かび上がってくるのはそれほど特異な結論ではなかった。
 問題はそこから先をどう実現するかだった。
 就職情報誌を調べた所で「スパイ急募」なんて広告が載っているはずもない。世の中にそういう職業が存在するからには人員募集していないはずがない。怜佳は諦めなかった。
 怜佳の意識には常にスパイ、という言葉があった。やっとその手の組織にコネを付けた。スパイ組織というものは職員の公募をしているわけではないので、慢性的に人手不足状態にある。怜佳はとりあえず歓迎を受け、最初の関門を突破した。
 それまで夢見がちな妄想を口にしていた怜佳が、統計事務所に勤めると宣言したことによって親族一堂一族郎党、胸を撫で下ろしたらしいが、怜佳の苦難はそこから始まった。
 試験をクリアしたからと言ってそれで何もかも済むわけではない。特別職国家公務員の資格をクリアするために訳の分からない試験を受けさせられた。
 小平の調査学校と言うところへ放り込まれた。自衛隊の教育機関である。外部組織から入った怜佳は短期間ですべての知識を覚えなければならなかった。通常ならば二年かかる過程を、半年で詰め込まれた。高等数学からどういう理由だか簿記まで覚えさせられた。
 ついでレンジャー部隊の訓練機関に送りこまれた。サバイバル訓練すら受けさせられた。吸血ヒルに毒蛇と猛獣が闊歩するジャングルの島だ。教官は鬼だった。その中でナイフ一本で生き延びなければならなかった。
 死ぬかと思った。怜佳はやり遂げた。適性があったのかも知れない。
 いよいよ最前線の組織に配置された。
 加藤事務所は名実共に立派な情報機関であり、所長と呼ばれる加藤氏は、一説では旧陸軍中野学校出身で、第二事大戦中、ヨーロッパとの重要な連絡役であり、また、ベトナム戦争では破壊工作員として大活躍したという。
 加藤事務所のオフィスは六本木の旧防衛庁近くのおしゃれなハイテク・ビルのワンフロアをしめ、警備会社の二十四時間態勢の遠隔監視を受け、ビルに入るだけで二重のセキュリティをくぐり抜け、オフィスフロアにはICカードと声紋確認と網膜パターンによるパーソナル・チェックが備えられている。耐震構造の建物自体は地震だけでなく戦車砲の直撃にも耐える。ビルと呼ぶより要塞に近い代物である。
 そうした環境でスパイ一年生の鷹取怜佳が期待される主な任務は〈お茶汲み〉である。
「そりゃあねぇ、モサドには経理のおばちゃんがいたっていうし、小説だけど007にも事務とってるだけの秘書もいましたよ」
 確かに自分でも、スパイとして適性に欠ける部分もあるかも知れないとは思う。怜佳は反省した。反省なくして前進は有り得ない。
 加藤事務所に入って最初の任務は某国大使館の監視だった。
 それまでの調査で大使は秘密裏にしかも定期的にある人物と会っていると判明していた。怜佳はその相手が何者か探り出さなければならなかった。
 怜佳は大使館に事務員として潜入し、毎日、大使の私室に取り付けた盗聴機のテープを交換して事務所に届けた。大使はそれらしい事も話さず、調査ははかばかしくなかった。
 やけになった怜佳は大使本人に来週の予定は? と直接問いかけた。
 大使は何を勘違いしたのか顔を真っ赤にして怜佳を別室に呼ぶと「この事は女房には黙っていてくれ」と頭を下げた。
 何の事はない。大使は浮気をしていたのである。怜佳は調子に乗っていろいろと聞き出した。大使は女房怖さの前に国家機密を洗いざらいゲロした。
 怜佳は事の顛末を報告書にまとめた。これが所長の逆鱗に触れた。
「たわけもの。被観察者に直接予定を尋ねるとは、どういうつもりだ」
 せっかく隠密裏に行動していたのに、自分の存在を暴露するような行動をとった、と叱責されたのである。結果よければすべてよし、ではないかと怜佳は主張したのだが、受け入れられなかった。
 加藤事務所でのケチの付き始めである。
 以来、事務所内のお茶汲みとコピー取りが怜佳に与えられる仕事のすべてとなった。
 だが、そこで怜佳は加藤所長の口ぶりを思い出した。
 ある出来事の直後の事だ。
「君は優秀だ。認めよう。だが、こうした職種には想像力より現実性が要求される。もっとも、それ以前にお茶汲みすらできないのではこれ以上の事をまかせるわけにはいかん」
 加藤所長は表情は変えなかったが、語尾は震えていた。
 聞くところによると、所長をかすかなりとも怒らせたのはこの五十年で東条英幾以来だというから、それについては自賛してもいいと思う。
 だけど、情報機関に就職して、主な仕事がお茶汲みではいくらなんでもあんまりである。
 スパイ組織にもコピー取りが必要なのは分かる。お茶汲みもいなければ困る、かもしれない。だけど何でこの自分がやらなきゃならないのか!
 道はのどかになってきた。道路はまっすぐでさっきまでちらほら見えていた人家もまばらになり、青く生い茂った野原が視界をしめる。自動車は真夏の野中を走り、他に行きちがう自動車も少ない。
 穏やかな風情は怜佳も嫌いではないが、運転が単調になるとただの荷物運びでしかない自分の立場が思い出され、今までの出来事が反芻されいっそう腹が立つ。
 先日、来客があった。
 アメリカ国防総省の重要人物であるとの触れこみの、ジョージ・ロバートソンなる人物である。
 ロバートソンは愚鈍で図体ばかりでかい薄のろに見えたが、駆け出しの怜佳に一目で腕利きスパイと見破られるようでは天下の国防総省の名が泣く。
「あ、鷹取クン、お茶を頼む」
 所長の一言でいつもの任務が始まった。
 普段なら予算の関係から熱い日本茶を用意するのだが、八月と言う事もあって連日の真夏日である。外を歩くと三十五度をこえる気温にアスファルトからの照り返しがたまらない。怜佳はトールグラスにアイスティーと氷を入れて応接室に運んだ。冷蔵庫に入れて冷やしておいたミルクとガムシロップも忘れない。
「この暑い日になかなか気がきくじゃないか」
 所長が怜佳を褒めたのは、この一年でこれが三度目だった。最初はあまったコピー用紙の裏でメモを作ったときと、次は夜食のカップ麺に刻みねぎを添えたときだった。
 所長の珍しく機嫌のよい顔はこれまでだった。
 ロバートソンはいかにも旨そうに喉を鳴らしながらアイスティーを飲み干した。ようやっと人ごこち着いたといった顔だった。だが、最後の一滴を飲み干したとたんに、ロバートソンの顔が弛緩した。真の抜けたカバのようであった。指先の力がゆるんで、そのままグラスを取り落とした。グラスはテーブルの角にぶつかって乾いた音をたてた。
「どーしました?」
 所長は真相に気づかないのか、ソファに深々と腰を下ろしたまま顔だけ来客に向けた。
 ロバートソンはじっと自分の手を見ている。それは微かに震えていた。震えはおさまらない。うつむき加減に手にじっと目を向けるロバートソンは表情を弛緩させたまま、前のめりにぶったおれると瀕死のカエルの如く四肢を痙攣させた。
 アメリカ国防総省の大スパイを出し抜けば、もう少しマシな仕事がまわって来るかもしれないと思った怜佳がアイスティーにしびれ薬を盛ったのである。
「気を抜くな、どこに何があるか分からない。できる物ならわしを出し抜いてみろ、所長はいつもそうおっしゃっているじゃありませんか」
 いつもそう説教されている怜佳は理不尽に感じ、怜佳は懸命に主張したが、さすがに来客に一服盛ったのでは言い抜けも出来ない。
 結果、前述のような所長の叱責となった。
 駄目押しが、今朝、所長に命じられたこの作業である。
「よろしい。きみの主張はよっく分かった」
 所長はやけに力みながら言った。
「では、君には君以外にできない作業をお願いしよう。なに、大丈夫。きみはこの作業を気に入るはずだよ、絶対に」
 嫌味たらたらならべられたあげく、鷹取怜佳は某所への出張を命じられたのである。

「本当にここでいいの?」
 愛用の軽自動車〈ステルス号〉から降り立った怜佳の目の前に異様な風体の屋敷があった。
 鬱蒼として見えるヒマラヤ杉の林のなかに、和洋折衷の不気味な家屋が──傾いている。
 元々はトタン屋根の日本家屋なのだが、その横には西洋風の尖塔が不必要にそびえ立ち、屋根にはペンペン草どころかすすきが生え、てっぺんの避雷針には蜘蛛が巣を張り、漆喰の壁には場違いな蔦が絡まり、炎天下にしなびて、しおれかけている。いずれにしても古色騒然旧態依然としていることには変りない。


笑うUFO殺人?事件あとがき

 始めての人、始めまして。
 そうじゃない人。びっくりしましたか? 青山の新刊を見て。

 友人の作家、岡本賢一さんが「朝日ソノラマって、なに書いても許されるんですよ」と小さい声で断言した。もっとも、評論家、OM氏の言葉の受け売りらしいけれど。
「それって、SFでも構わないのかな?」
「いままで、ぼく、ソノラマでずっとSF書いてましたよ」
「なんで、それ教えてくれなかったんだよ」
 ぼくは飛び上がった。
「それって、ハードSFでもいいのかい?」
「何でも良いんだから、構わないんじゃないですか?」
 SFとはサイエンス・フィクションとも呼ばれ、古くは空想科学小説などと呼ばれる。なかでもハードSFは科学的な正確さを要求されるジャンルである。
 つまりどういうことかというと……一億年のスパンで考えると、惑星の物質が別の星に移動する可能性が数十%の割合であるらしい。最近、南極大陸の隕石の調査から判った事実である。同様のメカニズムで恒星系間での物質移動が数パーセントで有り得ると考えられ、その際に生物の構成物質がくっついて行く可能性もある。
 行った先ですべての生物が根づくわけではない。移動があったお互いの星、星系が似通っている必要がある。
 となると、ベースとなる恒星は太陽に似ている可能性が高い。ところで太陽と言うのは恒星としては暗い方に属する。だから、生物がいるような星系はあんまり明るい星、名前がついていたりするような星ではだめだ。星図のナンバーがあるぐらいで、それも大きい方がいい。たとえば千番台くらいの。
 住んでいる生物も人間と多少の共通点はあって、頭が一つ、手が二本、足が二本の酸素呼吸生物だろうけれど、きっと色は違うに違いない。

 ……と言うような小難しい理屈をこねながら書き上げたのがこの作品です。

Page top 

|top|挨拶|地図|梅原氏|自分本|引出し|おもちゃ|忘れたい|掲示板|ワープ||料理|