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 陸上戦艦大和〜米大陸横断

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 2002年09月10日、KKベストセラーズより刊行


『陸上戦艦大和2、米大陸横断』

 カーテン越しに明るい陽が差しこんでくる。窓の外、木々の緑はまだ失われたままの、冬の景色だが、日差しばかりは暖かそうだった。
 ジョン・F・ケネディ大統領は目覚めてはいたが、まだベッドの中でわずかな安らぎのひとときを過ごしていた。
 一体自分はなんのためにここにいるのだろう?
 一九六三年十一月。大統領集から三年。自分はダラスを訪れていた。民主党には非協力的な州であったが、不安をうち消すような歓呼の声で迎えられた。
 熱いものを感じた。
 瞬間、自分はホワイトハウスにいた。
 時代も変わっていた。一九四一年。一二月六日。
 日本軍による真珠湾奇襲の前日だった。
 マーク・トゥエーンの小説のように、酒場でぶん殴られて時代を逆行したのだろうか? それとも、H・G・ウェルズのごとく緑の扉を開けたのだろうか?
 どちらでも構わない。
 自分は最善を尽くすのみだ。
 人は神によって生かされ、なすべきことを成す。
 ケネディは敬虔なクリスチャンであった。アメリカ大統領として最年少であり、初めてのカソリック信者であった。
 ケネディはかねてから世界の中でアメリカの置かれた立場を改善しようと必死になっていた。それが行き着くところまで行き着いたのが「もし、太平洋戦争に勝っていたら?」との発想だった。
 何が起こっているのか、詮索している暇はなかった。太平洋戦争が始まり、戦時大統領として忙殺される日々が続いた。
 時間は後戻りできないし、そもそも、太平洋戦争でケネディ自身、海軍の魚雷艇乗りとして勤務していた。最善を尽くして、負けた。
「どうしたの? あなた?」
 妻、ジャクリーンが優しく問いかけてきた。
 最初、この世界のホワイトハウスに来たとき、妻も、子供達の姿も無かった。だが、翌日、振って湧いたようにホワイトハウスで暮らしていた。マシーンたちも、また、本人たちも何事もなかったように平然としていた。
 ケネディはかれらもどこからか飛ばされてきたのではないかと水を向けてみたが、何らそれらしい反応は返ってこなかった。
「だれが私を殴ったのだろうか、考えていたんだ」
「夢よ。夢を見たのよ」
 夢? 本当に夢なのかもしれない。あるいは夢がかなったのかもしれない。
 夢の中でも、夢ぐらいかなえたい。
 いずれにせよ、神が与えてくれたチャンスなのだ。
 ケネディはベッドから降り立った。
 忙しく、厳しい一日が始まる。

 昨七月。
 ミッドウェイから帰った第十七代徳川幕府将軍、徳川家正は陸上戦艦の開発主任である江戸天領大学教授、千代場武を呼び出していた。
 千代場教授によって完成させられた「陸上戦艦大和」はミッドウェイ戦において圧倒的な威力を発揮していた。
 前哨戦においてはケネディ大統領の直接命令を受けたスプルーアンス提督により空母、三隻を失い、一隻を可動不能にされた。
 にもかかかわらず、大和は夜間、ミッドウェイ島に上陸。メリケン守備隊を全滅させ、翌朝には日本軍は完全制覇に成功した。
 無論、大和単艦ではなく背後には洋上の大名行列が如き一大戦艦群の艦砲射撃の援護があったが、砲撃だけではまだ相当量の兵力が残存し、更にはメリケンはハワイからの兵力を動員して、陸軍は相当の苦戦を強いられただろう。
 江戸城、中奥。
 謁見の間。一段高くなった階に洋装の家正が座していた。
 低い畳敷きの座敷には一人、紋付袴に白い髪を曲げに結った人物が平伏していた。
 千代場教授である。
「千代場、誉めてつかわす。近こう寄れ。これを」
 家正はエゲレスから取り寄せたマホガニーのデスクの上に置いた金側の懐中時計を示した。
「有り難き幸せ」
 千代場教授は応えた物の平伏したままで一向に面を上げようとはしない。将軍の面前で平気で膝を崩す人物なのに、常とは違う様子である。
「どうした? 千代場?」
 家正も千代場教授の尋常ならざる態度にいぶかしげだ。
「恐れながら、奏上申し上げます」
 千代場が平伏したまま口を開いた。
「わたくしがごとき、象牙の塔の住人が武士である公方様にこのような事を申し上げるのをお許しください。公方様はこの後、大和をどのように使い、どのようにこの戦争を終わらせるおつもりなのでしょうか?」
「確かに不躾な質問であるな」
 家正は軽い口調で応えた。
 家正は千代場に信を置いていた。それは学者としての信であって、サムライとしての助言や用兵、兵術に関する物ではなかった。将軍の大本陣には多数の軍師が控えていたし、兵の運用や育成に当たる目付もいた。
 戦争遂行は軍隊だけで行うのではない。行政立法司法に関わる三人の老中と奉行、目付が日の本のために知恵を絞っていた。
 千代場の発言は明らかにこれらの武将を無視した越権行為であった。
 時が時であれば、あるいは千代場が信頼されていなければ、無礼討ちにされてもおかしくはない情況である。
「大和があれば、太平洋の島々を維持するのも容易。東条の主張してやまぬ大東亜共栄圏も繁栄させられよう」
「御意。良っく、判りもうした。さすれば、太平洋戦争の終結にはどのように占われましょうか?」
 太平洋戦争は言わば欧州大戦が亜細亜に飛び火した物である。
 ドイツのポーランド侵攻に始まり、エゲレスが待ったを掛け、メリケンが加勢した。ヨーロッパの連合国の窮状を助けるためABCD経済封鎖ラインでドイツを支援する日本を締め上げられ、ついに日の本の怒りが爆発して真珠湾奇襲と言う挙に出た。
 ヨーロッパで戦況が安定すれば、しょせんメリケンも経済的負担には耐え切れない。講和の席に着くだろう。日の本の開戦派はそのように主張し、家正も承認した。
 だが、蓋を開けてみれば、情況は悪い方向に転がった。
 確かに開戦劈頭、メリケン太平洋艦隊の戦艦群、エゲレス極東艦隊の全戦艦をすべて海の藻屑と変え、一連の戦闘で空母も払ってしまった。
 だが、反撃は激しく、また、ヨーロッパではソビエト戦線が発生し、戦況の安定など及びもつかなかった。
 一方、メリケンは底力を発揮し始め、とてつもない量の増援物資をヨーロッパに送りこみ始めた。それまでは細々とした対英援護だった物が、堂々と兵員まで注入し始めたのである。
 この戦は長引く。
 家正のみならず、武士たちの偽らざる思いであった。
 家正は言葉に詰まった。
 陸海軍、大本陣それぞれの意見もまとまっていなかったからである。
 西へ進み、天竺を攻め落とす西進論。
 ミッドウェイを足がかりにハワイからメリケン西海岸をおびやかす東進論。
 陸軍は相変わらず北へ向かい中国大陸の安定を主張してやまない。言わば北進論である。
 現状では南太平洋での攻防が続いているが、ニューカレドニアまでを攻め落とせばオーストラリアを孤立させられるとの発想であった。事実上の南進であるが、戦略的に重要であったとしても島一つ落したぐらいでメリケンが手を上げようはずもなかった。
 千代場がわずかな沈黙を突いた。
「恐れながら、中国では首都を攻めれば、奥へ奥へと逃げ篭り、欧州を見渡しましても同様な後退をソビエトが繰り返しております。もし公方様がいずこを攻め落としたとしても、敵はそこから居なくなるのみ。決して降参などはしますまい」
「ならば、どうせよと言う?」
 将軍はこの破天荒な学者が何を言い出すのか、気になり始めていた。
「大陸横断にてございます。大和を持ってして西海岸から攻め上り、メリケン大陸を縦断し、敵首都ワシントンDCにまで攻め入る他に日本に勝機はござらんでしょう」
 最初、将軍は愕然とした。
 ついで、可々と大笑した。
「千代場、お主、正気か?」
「さあ。判りませぬ。気の違った者はみずからを正気だと主張してやまないともうします。わたくし自身、陸上戦艦による大陸横断など、とてもまともとは思えませぬ。ですが」
 千代場博士は言葉を切った。
「メリケン東海岸まで攻めねばケネディは決して手を上げますまい。ドイツがあてにならないいま、我が日の本一つでメリケンをどうにかせねば、この戦、片がつきませぬ。これにて、奏上を終わりといたします」
 千代場教授は今一度深く頭を下げた。
 小姓より下賜の時計を受け取って、中奥を後にした。
 残された家正の心中を様々な思いが去来した。
 千代場の意見は東進論を押し進めたものといえたが、基本的な考え方が東条や島田と徹底して違っていた。侍の主張する大東亜共栄圏とは違ってただ、戦いに勝つと言う部分だけに着目していた。
 下手に全体を見渡せる老中、奉行職よりも武器を作っているだけの千代場の方が一面の真理を突いていたのである。
 確かに千代場のいうようにメリケンの工業中枢を破壊しなければ戦は終わらないだろう。
 だが、陸上戦艦による大陸横断など破天荒にすぎる。
 大陸横断の意見は家正の心中に深く刻みこまれたが、将軍には片付けなければならない作業が多数存在した。
 最初に打った手がガダルカナルからの撤退であった。

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