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 陸上戦艦大和〜ガダルカナルの轍

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 2002年05月10日、KKベストセラーズより刊行


『陸上戦艦大和、ガダルカナルの轍』
 プロローグ
 第一章 タイムスリップ
 第二章 ミッドウェーの敗北
 第三章 陸上戦艦
 第四章 ガダルカナル蹂躙

 あとがきはなし。その代わり、前書きがあります(ファイル、見つからないの)。

ダラス
 一九六三年十一月二十二日、金曜日。アメリカ東部標準時午後零時。
 男が銃を磨いていた。
 四つに分解されたイタリア製マリンカ・カルカーノライフルである。連発は効かないが、その分、故障も起さず精密な射撃が可能だ。銃のそれぞれの部品はガンオイルを染みこませた、降ろしたての清潔な布で丁寧に磨き上げられ黒光りしている。
 先台をはずし、銃身と機関部を分け、それぞれ丁寧に磨く。
 男は執拗なまでに銃を磨き上げると、時計を確認した。ついで窓に歩み寄り外から自分の姿が確認できないような位置に立つと、そっと外の様子をうかがった。
 窓の外にはエルム通りが走っている。通りにはすでに交通規制がかけられて、道を走る自動車の姿は消えていた。まだ見物人の姿も少ない。気の早い者だけが場所を取ろうと道路際に立っている。
 男は上下スライドの窓を半開きにした。
 外から自分の姿を見た者は居ないだろうし、顔はガラスの反射に隠れている。
 時間はまだある。男はまたも積上げられた段ボールの間に戻り、作業に戻った。銃を組み立て、弾丸を込めずにボルトを押しこんで、引金を引いた。乾いた金属音が響いた。
 エルム通りがざわつき始めた。男は待った。待ちきれないように、執拗に銃を磨いた。

 ダラス市民の歓声に迎えられて、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ大統領はかつてない感慨に浸っていた。
 一九六〇年の大統領選でニクソンとは接戦だった。僅差で勝ったに過ぎない。議会も批判的だ。
【略】

 スリップ
 どこからか鳥のさえずりが聞こえる。うっすらと目を開ける。鳥が鳴いているのは窓の外だった。ホワイトハウスの窓の外は寒々しい冬の様相を呈しており小鳥たちもさぞや過ごしずらかろう。
 寝起きのぼんやりとした眼であたりを見やる。ケネディが三年間起居してきた見慣れたホワイトハウスの調度だった。見慣れた景色である、はずだった。だがどうしてもケネディは違和感を拭いきれずにいる。
 夫人、ジャクリーンの姿はない。おかしい、さっきまで居たはずなのに。そもそも、ダラスに遊説に出ていた自分がなぜDCにいる?
 説明のつかない違和感を抱いたままケネディは朝の準備を整え寝室を出る。廊下ではポーターが待っていた。見覚えのない若い男だ。
「参謀長から言伝を預かっています。すぐにマップルームへおいでいただきたいと?」
「マップルーム? 何が起こったと言うのだ?」
「日本の動きが奇妙であると、そうお伝えするようにと命じられています」
 ポーターはただの伝令にすぎない。真実に触れる部分は知るはずもない。足早にエレベーターに乗りこみ、地下のマップルームへ急ぐ。マップルームは大統領のための司令室である。
 一歩足を踏みいれてケネディは違和感を強くしていた。
「なんだ? これは?」
 ケネディの知るマップルームは高度に近代化され、電子化の進んだ部屋である。だが、いまこの部屋は古臭いパイロットランプと、手動の通信機、やけに大きなマイクロフォンの立ち並ぶ古臭い部屋だった。
 その理由を詮索するより先にケネディの前に一人の軍人が立って敬礼した。海軍の軍服を着て、星五つの肩章を付けている。知った顔ではなかった。どこかで見たような人物だったが、誰だったか思い出せなかった。
「閣下、日本が不穏な動きを見せているとの報告を受け取っています」
「日本が?」
【略】

 将軍
 真珠湾攻撃に先立つ十一月二九日。
 江戸城。
 本丸御殿、中奥。
 登城の太鼓が打ち響いた。
 将軍との謁見は通常、中奧と一続きになった「表」で行われるが、あえて中奧で行われるにはそれなりの重要性があった。
 謁見の間に、政所老中兼陸軍奉行東条英機とともに海軍奉行嶋田繁太郎が姿を表わした。軍務あるいは行政のための公務であれば洋装でも構わないが、公方様への謁見はないがしろにできない。いにしえの慣習にのっとり袴裃である。畳に膝をついて深々と頭を下げた。
「将軍に置かれましてはご機嫌よろしゅう存じまする」
 東条の挨拶に一段高くなった場所に座していた第一六代将軍、徳川家正は対照的に気さくな反応を示した。
「構わん。用向きはおおむね判っておる。その堅苦しい恰好はいい加減にせんか」
 東条や米内とは反対に将軍は洋装であった。英国の生地で作らせたスリーピースのスーツと、ネクタイ。長ズボンを履いていささか厚着に過ぎたが、これは江戸城の暖房が不十分であったためにすぎない。椅子に腰掛けた将軍の前にはマホガニーのテーブルが置かれ、ハバナ産の葉巻が煙をくゆらせている。
 だが、東条は頭を深々と下げたままであった。
「昨夜、海軍本陣は太平洋上の連合艦隊にニイタカヤマノボレを発令いたしました」
「うむ。対米停戦工作が成功すれば、引き返させる。これは忘れるな」
 しばしの間があった。沈黙を破ったのは米内の
「御意」
 の一言であった。

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