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 北斗燃ゆ 進撃編

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 2003年10月10日、KKベストセラーズより発売予定

『北斗燃ゆ〜進撃編』
序にかえて
第一章 プロジェクト北斗
第二章 実戦出動
第三章 敵はグラマン
第四章 レキシントン撃沈

序にかえて
 私は太平洋戦争に開戦前から、終戦まで海軍航空機搭乗員として従事した。
 触れた機体も練習生時代の赤トンボに始まり、九六艦戦、零戦、彗星、実に多岐にわたった。
 その中でもっとも印象深い機体は「艦上襲撃機」とでも呼ぶべき「北斗」であろう。当時としてはすでに特異な部類に属した、機体後部にプロペラを持つ、双発推進式。機体構造も簡便で木製という特殊な機である。
 結局、北斗は真珠湾から始まって、様々な派生型を生み出しながら終戦まで使用されつつけた。
 私自身にとっても、ミッドウェイ海戦で北斗に搭乗し、以後、最も長い付き合いをする機体となった思い出深い飛行機である。
 このたび、我が青春をともに過ごした北斗を主人公とする書が、日の目を見るのに強い喜びを感じるとともに、古い記憶を呼び覚まさせてくださった編集諸氏に深い感謝の念をささげる物である。

(飯田正忠、旧日本海軍搭乗員、中尉)
 二〇〇三年一〇月


第一章 プロジェクト北斗
「ただちに第二次攻撃の要を認ず」
 十二月八日、開戦劈頭に空母翔鶴を立った北斗(当時、一式艦上偵察機と呼ばれていた)の最初の戦果は、真珠湾攻撃の戦果確認に置いて上記のような電文を発し、そして迎撃に上がったアメリカ空軍のブリュースターF2Aバッファロー戦闘機と空中戦を演じ、初の敵機撃墜をした事と言える。
 第一次攻撃隊第二派が真珠湾上空に達すると同時に、操縦員箱崎軍司少尉、偵察員篠塚信少尉の北斗が空母赤城を飛び立った。攻撃本隊発進時は夜明け間際で視界も優れず、なおかつ、うねりも大きかったが、この頃になると飛行条件には恵まれていた。
 推進式二基の栄発動機は順調に回転を続け、空路、およそ三〇分、箱崎少尉機は真珠湾に達していた。すでに攻撃隊は帰投し、対空砲火は収まっていたが、真珠湾は煙に包まれ、まだ戦いの真っ最中のように感じられた。
 攻撃隊の戦果が充分であったためか、箱崎機は大した妨害も受けず真珠湾上空に達し、篠塚少尉が偵察席後部に置かれたK8式写真機二機と、九九式手持ち式航空写真機を操作して、無事、撮影を終了した瞬間、篠塚少尉の目に後方から襲いかかってくるバッファロー戦闘機二機が飛びこんできた。
「後ろ戦闘機!」
 篠塚少尉は叫んで旋回機銃に弾倉を叩きこんだ。曳光弾が北斗に迫る。
 ほぼ同時に操縦員、箱崎少尉はスロットルを一杯に叩きつけると操縦桿を力任せに捻った。北斗、エルロンが急角度に傾き機体を中心に回転させる。急横転、今日ではスナップロールと呼ばれる動きである。
 篠塚は一体、何が起こったのか把握できなかった。安全装置は解除したものの、機銃を撃っている余裕もない。ただ、偵察席に押しつけられて耐えるだけである。
 スナップロールは機体の軸線を急激に移動させると共に、速度を低下させる。
 二機のバッファローは箱崎の北斗を追い越した。オーバーシュートである。
 同時に箱崎はスロットルに取り付けられた機銃トリガを「全発射」のセッティングで引き絞った。
 機首部分、二つのエンジンナセル前面に四門ずつ取り付けられた延べ十二挺の二十ミリ機銃が一斉に火を吹いた。零戦の実に六倍近い投射量である。この強武装も北斗の特徴の一つである。
 北斗の放った銃弾の一つが一機のバッファローの背を叩いた。二十ミリ機銃の威力は絶大だ。被弾したバッファローは黒い煙を噴いてもんどりうった。
 ダイブを続けながら、生き延びたバッファローは激しい弾幕から逃れようとする。
 箱崎はトリガを握りしめながら操縦桿を押しつける。激しい風に煽られてプロペラがこちらも機関銃のような音を立てる。重力に引かれぐんぐん速力が増す。箱崎が舵を当てて曳光弾の列をバッファローに向けようと努力を続けていると、正規の振動とは違う、岩にでも乗り上げたような揺れが北斗を襲った。
 篠塚が速度計を見やると急降下制限速度である五五〇キロを超えようとしている。このままでは空中分解する。
「ハコ、もうやめろ」
 箱崎は操縦桿を戻した。機は水平飛行に移行する。
 あちらこちらから対空機銃の煙が上がり始めた。いままで撃ってこなかったのはバッファローがあがっているのを知って同士討ちを恐れていたのだ。
 アメリカの戦艦は無惨な屍をさらしているが、陸上の対空機銃も生きている。港湾に並んだ燃料タンク群も手付かずだ。
 篠塚は電鍵台に手を置いた。
「ただちに二次攻撃を要を認ず」
 旗艦にむけて打電したが、南雲長官はこれを取りあげず、艦隊を引き上げさせた。風のようにやって来て、風のように去っていったのである。
 南雲機動部隊の行動については批判も残るが、いずれにせよこれが艦上襲撃機「北斗」初の出撃であり、始めての戦果でもあった。

「なんだい? 後ろ向きに飛んでる飛行機がいやがる」
 円タクに乗るのを渋って、小牧の飛行場への道のりをたどっていた篠塚信(ルビ しのづかしのぶ)は頭上を行き過ぎる不可思議な航空機に目を留めていた。
 推進式、先尾翼。
 当時としてはかなり奇異な機体である。
 一九四〇年当時、すでに航空機の発展は一定のレベルに達しており、第一線、あるいは第一線ならずとも一般的な航空機は全金属、単葉、低翼、牽引式という形が定着していた。
 頭上を飛びすぎる機体が全体を真っ黄色に塗られているため、試作機であるというのは理解したが、その機体にまさか自分が今後数年間係り切りになるとは想像だにしなかった。
 ハワイでの空中戦が北斗のデビューであるとすれば、小牧で頭上を飛びすぎたのが、北斗と篠塚の始めての出会い、という事になる。
「ここでちょっと待っていてくれ、すぐ担当者が来るから」
 南佐倉製作所小牧支部、看板だけは立派な掘っ立て小屋で年歳の行った職人風の人物に椅子を勧められ、篠塚は少しだけ後悔していた。

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