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 バトル・オブ・ジャパン8 ワシントンDC攻防戦

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 三月五日、KKベストセラーズより発売→あとがきを読む


 バトル・オブ・ジャパン8 米本土進撃作戦

§§上陸
§加州儘滅作戦
 日本軍の上陸はロサンゼルス沖五〇キロに位置するサンタ・カタリナ島に対する攻撃で始まった。
 ミッドウェイ沖海戦直後の勝利もあり、カタリナに駐留していたアメリカ軍は上陸部隊の接近にも気付いていなかった。
 また、接近を未然に防げなかった理由として日本軍が上陸支援をすべて艦砲によった部分もあるだろう。レーダー警戒を行っていたが、対空レーダーこそ探知範囲は広いものの、水平線を越えて洋上を監視する超水平線レーダーは開発の途上にあった。洋上の敵艦を監視すべき空中早期警戒機は大海戦の後、ほぼ全機が基地に帰投しており、日本軍の接近は一瞬の空隙を突いたものであった。
 カタリナ島は元来は自然保護区でありそこには取り立てて重大な軍事設備も、また、兵力もなかった。日本軍は容易に上陸し森を掃討し、飛行場を確保した。
 カタリナ攻略と同時に対岸、ロングビーチの海岸にも予備砲撃を開始した。陸上からの反撃は予想に反して微弱で、砲撃効果十分と判断して司令部は上陸を強行した。
 遠浅の海岸に輸送船が乗りあげ、物資、兵員、食糧、重火器を陸揚げし強力な橋頭堡を築いた。砂浜は自然の水上機基地となり、カタリナ島を経由せずして二式飛行艇により日本とロサンゼルスは結ばれる事となったが、今後、アメリカ軍の航空反撃が激化するであろうため、運用の本格化にはまだ時間がかかりそうだった。
 だが、予想されたような地上軍の反撃はまったくやって来なかった。
 一つはまったく政治的な理由からアメリカ陸軍は動き出せずにいたのである。

§ホワイトハウス
 マップルームは騒然たる雰囲気に包まれていた。最初の連絡はカタリナの守備隊から「降伏する」との伝達であった。なんらかの理由で発生した誤報ではないかと疑われたが、カタリナとの連絡は跡絶え確認に至らなかった。カタリナの状況を探ろうとマップルームが動き出したのと同時に、カタリナ島の対岸のロングビーチの砂浜に日本軍の戦闘艦艇が詰め掛けて来ているとの報が届けられた。いまだ情況は確定できなかった。間を置かずサンディエゴ、ミラマー海軍航空隊基地からスカイレーダー偵察機が飛び立った。
 大統領補佐官ハリー・トルーマンはこの報告が真実であった時に備えて陸軍を出動させるべきであると判断し、大統領の決断を仰ごうと振返ったが定位置に大統領の姿はなかった。大統領の最高軍事顧問であるリーヒー提督の姿もない。
 三軍の最高司令部であると言うのに、大海戦の直後でここに残っているのは連絡担当のオペレーターか予備の要員でしかなかった。行政の上で大統領に次ぐ地位にある自分ですら、軍の運用については門外漢だ。
 だが、どんな素人でも敵軍が上陸して来ているのに放擲しているのが間違っているぐらいは分かる。
 トルーマンは陸軍の担当者を捕まえた。
「防衛軍を出したまえ」
 帰って来たのはトルーマンにとって意外としかいいようのない言葉だった。
「残念ながら、自分にはそのような命令を発する立場にありません。大統領閣下がそのように言い置かれていらっしゃるのであれば別ですが」
「だが、現に日本軍が上陸しつつある。ほっておけと言うのか」
「お言葉もっともですが、どこに配置させるべきか、後方の配備をどのようにするかまで含めて兵力を配備しなければなりません」
 そのための情報と、権限を持っているのは大統領だけだ。特にポートモレスビーでマッカーサーが失敗して以来、太平洋域の指揮権はヒトラー大統領に集中され、大統領の命令がなければ大規模な戦力移動はできなかった。
 常に大統領はホワイトハウスにいる、そうした前提でマップルームのシステムは構築されている。ワシントンを離れる時は大統領も対策を取って移動するが、いま、確実に大統領は構内に居る。
 トルーマンは大統領のベッドルームへつながる内線電話に手を伸ばしたが、すぐに大統領が内線電話を無視する傾向を思い出した。トルーマンはあわてて自分で大統領のベッドルームに向かった。
 歴代の大統領はホワイトハウス三階、ファミリークォーターで暮らす。もっとも、独身であり肉親もないヒトラー大統領はその一画でひっそりと暮らす。
 大統領のベッドルームの前には二人の護衛が守っていた。銃も持たず、ただ突っ立っているだけだが、体術にすぐれ、拳銃の射撃も一流の腕を持つOSSの職員だ。
「緊急事態だ。大統領閣下を」
 トルーマンは護衛を押しのけて部屋に入ろうとしていたが、護衛にやんわりと押しとどめられていた。
「何のつもりだ?」
 トルーマンは驚いていた。大統領補佐官に対してこのような態度をとる者がいるとは思っていなかったばかりではなく、日本軍が上陸したと言うのに大統領との会見を阻まれようとしている事に会った。
「何事が起ころうと、大統領の睡眠を遮ってはならないと、そのように命じられています」
「ばかなっ」
 トルーマンは二人を押しのけようとした。だが、護衛たちはかたくなだった。お互いに顔を見合わせて、困惑したような表情を浮かべた。二人の中にはかつてオーバルオフィスから響いて来た獣じみた音があった。
「申し訳ありません」
 護衛たちは引き下がらなかった。代りにトルーマンは人をやってリーヒー提督を叩き起こした。リーヒーがやって来るまで三十分かかった。リーヒーはマップルームから西部防衛軍司令部へ連絡したが、返って来たのはすげない答えであった。
「我が軍は出撃準備を整えつつあります。ですが、大統領の直命を待つようにと以前より指示されておりました」
 リーヒーの命令では出撃できない。事実、命令系統の上ではリーヒー参謀は最高司令官への助言者でしかない。しかも、リーヒーが海軍の人間であったのが、西部防衛軍の態度を硬化させたのかも知れない。
 いずれにせよ、西部防衛軍司令部が本格的に活動を開始するには、アドルフ・ヒトラー大統領が目覚めるまで、十二時間の時を待たなければならなかったのである。

「何たる事だ」
 昨日の海戦はヒトラー大統領にとってかつてない厳しい一日だった。だが、ヒトラーのもっとも長い一日はまだ終わろうとはしていなかった。
 たっぷり取った睡眠ですっかりリフレッシュしたヒトラー大統領を迎えたのはあまりに衝撃的な情況であった。
「なぜ、私を起こさなかった」
 ヒトラーはそうつぶやきながらもOSS職員たちの視線を感じざるをえなかった。ヒトラーはかつて一時的に自制を効かせ切れなくなっていた。その時にOSS職員たちは気づいていたかもしれない。あれと同じ事態が起こっているのかもしれない、OSS職員はそのように懸念して第三者の介入を排除したのかもしれなかった。
「とにもかくにも西部防衛軍をロングビーチに向かわせろ」
 ヒトラーはリーヒーに振り向いた。
「海軍は何をやっている?」
 リーヒーはヒトラーと違って休もうとしたところを叩き起こされていた。疲労はいっそう積もりつもっている。
「スプルーアンスは遭難者の救助を終えてサンディエゴに向かっています。サンフランシスコから沿岸警備任務に従事していたテネシーと、カリフォルニアが出港準備を整えました。ですが、攻撃効果については疑問があります」
 連合艦隊にはまともな空母は一隻しか残っていない。だが、旧式戦艦では歯が立たないだろう。仮に航空攻撃を排除して、二隻の戦艦を送りこんだところで、大和、武蔵の二大戦艦が控えている。
「空軍は? 海軍航空隊は何をやっておる」
「西海岸の海軍航空隊はスプルーアンスの支援から返って来ていません。空軍のB29は現在出撃準備を整えつつあります」
 海軍航空隊が帰って来ていない、ほとんどが海戦に参加して空母と運命をともにしたのだ。
 大型の戦略爆撃機は運用サイクルに膨大な時間がかかる。二十四時間に一回、というのが限界である。もうまもなく再攻撃態勢に移るだろうが、遅きに失した感は拭えない。
 いずれにせよ、陸上兵力に対向するもっとも有効な手段は陸上兵力である。
 ヒトラー大統領が目覚め、西部防衛軍に出動を命じた時、すでに日本軍は強力な橋頭堡を築きあげ、同時にロサンゼルス市内は大混乱に陥っていた。
 ロングビーチはロサンゼルスの衛星都市の一つで、一大リゾート地であり、市民にも海水浴場として親しまれていた。日本で言えば江ノ島にアメリカ軍が攻めて来たような物である。市民の間に走る衝撃、風説、さらにはデマは膨れあがりながら恐慌を引き起こした。フリーウェイ、一般道から、山間の抜け道まで日本軍上陸を知ってロサンゼルス脱出を試みる住民の自動車で溢れ返った。
 日本軍上陸阻止に向かったアメリカ軍の最初の障害は脱出しつつある市民を整理する事であった。
 マップルームで日本軍の存在を示す真っ赤に染まったカタリナ島をじっと見つめながらヒトラーは考えこんでいた。カタリナ島はもともと個人所有だったものが、所有者の死後、国に寄付され自然保護区として守られて来た島である。他では絶滅してしまった動植物や、豊富な自然が残っている。
 保護区であったがため、容易に攻略され、日本軍のアメリカ本土上陸拠点としてロサンゼルスをおびやかしている。
 カタリナさえ排除すれば、ロングビーチに取りついた日本軍は航空基地を失い、容易に取り除ける。
 例えようのない苦境がヒトラーに激しい頭痛を引き起こしていた。後頭部から頭頂にかけて太く熱く熱した金属の釘を打ちこまれたようであった。あまりに激しい苦痛のため、気が遠くなるほどだった。だが、ヒトラーは持てるすべての精神力を動員した。第三者からは大統領がわずかに足をよろめかせた程度にしか見えなかっただろう。
 ヒトラーの目の前に白い輝きが見えていた。激しい苦痛の中にあって白い高貴な輝きはヒトラーを招いているかのようだった。同時に声が聞こえていた。
『東洋人どもを、追い払え』
 ヒトラーは白い光をにらみ返した。貴様の指図は受けない、私の身の振り方は自分で決める。
 ヒトラーは決意した。急速に苦痛も、不思議な光も消えていた。
「カタリナを焼き払え。たったいま、草木一本残さず、日本兵ごと燃やしつくせ」
 上陸した日本軍に対する一番最初のアメリカ軍の反攻は戦略爆撃機による絨毯爆撃であった。

§迎撃戦闘
「多聞丸が死んだぁ?」
 山口多聞連合艦隊司令長官戦死の噂が流れると、一番素っ頓狂な表情を見せたのは饗庭だった。情報を持ってきたのは艦隊に残されていた森田だった。森田自身は偵察機の電信員から情報を仕入れていた。
「嘘だろう? あいつは殺したって死ぬタマじゃないぜ」
 翔たちはすでに空母瑞鶴に収容されて上陸作戦の支援を割り当てられると発表されていた。瑞鶴に移ってからの出撃はまだ例がなく、異常は感じられなかった。
「だとしたら、艦隊の指揮はだれが執っているんだ?」
「宇垣長官だそうですよ」
「あの戦艦屋の石頭かぁ」
「でも、俺たちの上は大西長官でしょう? 結局は変わらないんじゃないですか?」
「それをいうな」
 饗庭隊長が顔を押さえた。
 すぐに出撃命令がでた。瑞鶴に移ってからの最初の出撃は大型機の迎撃だった。
 翔は瑞鶴から飛び立ち、待機高度まで上昇する烈風の操縦席にあった。翔はときおり機首を下げて前方視界を確保して、接近する敵機が無いか確かめながら上昇しつつあった。
 すでに瑞鶴は後方に過ぎ去ろうとしている。左側にはカタリナ島とアメリカ本土が見えるはずであったが、距離が離れすぎていた。
「戦闘機隊は進路一一〇。大型爆撃機、戦爆連合、第一群四百、第二群三百、第三群三百およそ、接近中。高度一万」
 戦爆連合、およそ一千、そう聞いて翔はげっそりしていた。千と言うと、開戦初期であればとてつもない大編隊だった。今もまた、大規模な数字であるのは間違いない。東京空襲で、翔は決死の思いで出撃して行った。ほぼ同数の敵機だと言うのに、時翔の中に浮かんだ感慨は後ろ向きなものだった。

あとがき
 バトル・オブ・ジャパンが終わった。
 ぼくにとって最長のシリーズであり、執筆中、出版点数を二〇冊を越えた記念的な作品となった。
 当初、プロット段階では烈風によるB29邀撃を中心として三巻か、長くて四巻程度で終わるだろうとの目算であった。書き進める内にふくらみが生じ、プロットの再修正が必要となった。

 八巻を書き終えるにあたって幾つかの解説が必要だと考える。
 小説だからこのような終り方になったが、多くのシミュレーション戦記が描いているように太平洋戦争が日本側の勝利で終わるとは有り得ないと考える。
 もし勝てる、としても日露戦争のようにうやむやの講和になる程度であろう。GNP、GDPで比較すると太平洋戦争当時、日米の国力差は十倍と言われている。十倍の予算の差があっては、いかにやりくりをうまくやろうとも勝てるはずがない。今日の世界で言えば、中国とマレーシアほどの差があるのである。
 唯一、善戦する可能性があったとすれば連合軍の「下手な鉄砲も数うちゃあたる」方式に対して「一発必中の銃は、百発一中の銃、百門の銃に優る」の思想で誘導兵器を実現して多用する事であっただろう。
 それでも、結局、善戦にすぎないとは思うが。

 マップルームの位置について、トルーマンの回顧録を読むと「オーバルオフィスから廊下を渡ってエレベーターで地下に入った」と記されているが、現在のホワイトハウスの案内書を参照すると一階のなんの変哲もない部屋がルーズベルトの司令室であった、と記されている。確認方法がないため、創作上の要求からトルーマン説を採用した。

 一巻以来、作中に登場する航空機、艦船はすべて実在のものか、空想上のものにしても実現可能であっただろうと思われるものばかりに限った。これは作品に一種のリアリティを与えたと思う。
 最終巻に登場する航空機で烈風四型に相当する機体は存在しない。他は実在である。登場するハ四四は、実際の烈風が搭載したハ四三より若干大きいが、烈風の大規模なエアフレームと、ターボチャージャー付きの機体まで計画されていた事実を考えあわせるとこれより巨大なエンジンを搭載したとしても運用可能であっただろう。烈風より小さなコルセアですらワスプメジャーのようなエンジンを搭載したのである。
 航空機ではないが作中に登場するA10、A9はいずれも計画されていた。実現すれば大体作中に登場するような性能を発揮したと思われる。実際にペーネミュンデの発射台は百トンの噴射重量に耐えられるように設計されていた。
 特筆すべきはA9である。有翼の弾道弾の研究は今日でも続けられており、機動弾道弾と呼ばれるが、驚くべき点はいまだ実現していない部分にある。あるいは、実現していたとしても寡聞にして耳にしていない。そんなものを六〇年も前に研究していたとは、まったく唖然とさせられる。

 作中、侭滅作戦で日本軍が十字路を監視して輸送を断ち切るシーンがあるが、これは日本軍が取った作戦ではない。沖縄上陸戦の際にアメリカが実施した方法である。
 沖縄上陸に先立って、アメリカ軍は常時、艦載機を十字路に張り付かせ、車と名の着くものすべて、軍用の自動車から、住民の脱出用の大八車まで、なにもかも破壊した。撤退して戦力を立て直そうとする陸軍の態勢を崩す目的があったのだろうが、殺人効率としては侭滅作戦と変わりないものになった。

 最後に、ぼくは良心的ナショナリストでありたいと思う。
 作中でも一定の主張を繰り返して来たが、西欧的なものをすべて否定するつもりもないし、日本的なものをそのまま受け入れるつもりはない。当たり前だが、どんな場所や主張にもそれなりのよい部分が、悪い部分がある。だが、現在の日本は西欧的なもの、特にアメリカ的なものを受け入れすぎている。
 歴史的な経緯を思えば仕方ないのかもしれないが、現状は無批判に過ぎると思う。
 今の日本を見廻すと確かに目を覆いたくなる現状も存在するが、世界を見廻すと遥かにひどい情況はいくらでも目に着く。
 幾つかの欠点をあげつらって針小棒大に日本はだめだと叫ぶ声も耳にするが、日本はだめだ、住むに値しないと感じるのであれば海外移住すれば事は解決する。いまの世界と日本人にとって海外移住はそう難しくもない。
 今の日本は、理想国家には程遠いがまあまあの場所にあると思う。

 バトル・オブ・ジャパンを始めるにあたって、幾つかの目的があった。うちの一つが反戦小説を著わすことである。本書が反戦小説として成功したかどうかは読者の判断にまかせるしかないが、それがぼくのモノ書きとしての矜持である。
 反面、英語圏で著わされた明白な反戦小説としてぼくはカート・ボネガットの「スローターハウス5」、ハリイ・ハリスン「宇宙兵ブルース」以外、思い浮かばない。
 この二人に肩を並べたなどと大それた発言をするつもりはないが、いまだに「ベトナム戦争は間違っていなかった」的な娯楽作品を生産、提供して恥じない英語圏の創作者達よりは、我々は誇りを持てる国に生きている。

 執筆に当たって、可能な限りDIFFNCE MAPPING AGENCYのOPERATIONAL NAVIGATION CHARTを参照した。百万分の一の航空地図である。

 最後に最後の最後まで叱咤激励して、執筆を陰になり日なたになり、助けてくれた編集部のみなさん、どうもありがとうございました。

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