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保坂和志拡散マガジン
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第17号 『記憶は嘘をつく』(5/21)

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記憶が完璧なものであれば、拒絶されたときの心の痛みは何年たっても
遠い昔と変わらずに深く心に突き刺さっているだろうし、喪失感、恐怖、
罪の意識、無駄を新たな視点からとらえ直すこともできやしない。
私たちは過去のなかに凍りついたまま、過去を修復することもできなけ
れば、息をすることも、変化することも、成長することもできないのだ。
『記憶は嘘をつく』(ジョン・コートル著 講談社)
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ちょっと遅くなっちゃいましたが、こんにちは。

ここ何号かの「ぴょんかつ」は『コーリング』をきっかけとした拡散か
ら、印象、思い出、記憶みたいなことを書いてきたんですけど、それは
とりあえず先号で終わりにして、また全然べつのことでも書こうかと思っ
てたんですが、たまたま図書館で『記憶は嘘をつく』という本をみつけ
てしまって、読んだら面白く、これはきっと図書館の天使がひきあわせ
てくれたものだと思い、くどいかもしれないけど今号もまた記憶に関す
る拡散をすることにしました。

◆記憶は保存されて変化しないものではない◆

『記憶は嘘をつく』の著者はアメリカの心理学者だそうで、この本には
記憶に関するいろんなエピソードが紹介されています。

それは脳に関する科学的なものもあれば、心理学者の実験もあり、また
著者自身の身近な記憶を自分なりに整理しているものもあります。

いっぱい紹介したいことだらけなんですが、全部紹介するのはもちろん
無理で、ここではほんの一部分だけにとどめておこうかとは思います。

でも一部分だけだと、それがすべてだと思われちゃう印象があるのもま
た困ったことで、どうも一冊の本を的確にまとめて紹介するというよう
なことは元来苦手なもので、そこはあくまで批評や紹介じゃなく拡散と
いうことでご容赦を。

で、それでもあえてまとめちゃうと、わたしたちは記憶というものは一
見完璧なものだと思い込んじゃうところがあるけれど、実はそうではな
くて。
記憶はコンピューターのハードディスクに保存すれば、いつでも変わら
ず引き出せるというのではない。
人間の脳はもちろんコンピューターのハードディスクとは違うのであり、
記憶にはオープンスペースがあり、どんどん作り変えられていく。
『脳そのものが変化しているから、脳に蓄積されていることも変化して
いる』という当たり前といえば当たり前のようなことなんです。

◆暗示が記憶に与える影響力◆

アメリカではよく犯罪捜査に催眠術を取り入れて、目撃者の無意識の記
憶を催眠術によって蘇らせ、事件を解決するということがよく行われた
らしいけれど、これは記憶はすべて保存されているという考えによるも
ので、たとえば意識下では憶えていないと思っていた犯人の車のナンバー
も、無意識下では実際に目で見たものとして記憶のなかに残っている。

催眠術でどんどんそのような無意識下の記憶を引き出していけば、どん
どん証拠が出揃ってくる。
でもそのような催眠術によって記憶を引き出すというのには落とし穴が
あって、もちろん事実としての記憶である場合もあるけれど、かなりね
じまげられた記憶として、またはまったく実際になかったことがあたか
も実際に起きたことの記憶として新たに植え付けられてしまうこともあ
る。

カウンセリングによって、実際にはなかった子供時代での親による性
的虐待の記憶を植え付けられてしまい、その作られた記憶に悩まされ
るというような例は、最近けっこう紹介されているので知っている方
もいると思います。


記憶はすべて保存されているという観点から行われた実験で、ボランティ
アを集めて催眠術をかけ、四歳、七歳、十歳のときのクリスマスと誕生
パーティに年齢をさかのぼらせ、その日の曜日を被催眠者にたずねたと
ころ、なんと正解率が82%だったそうです。
確率的には1/7なので驚異的な数字です。

でもこの実験自体かなり疑わしいものであり、あとから調査したところ
実は「それは何曜日でしたか?」と質問したのではなくて、「それは日
曜日ですか?」「月曜日ですか?」などという聞き方をしていて、しか
も質問をした人は質問をするときにすでに正解を知っていた、というこ
とらしいのです。

だいぶ前に、テレビでクイズに答えられる犬というようなのを紹介して
いたのがあって、それも飼い主が答えを知っていて、犬に答えは一番、
二番、三番と選ばせるのだけれど、もちろん犬がクイズの内容を理解し
ているのではなくて、飼い主の発する言葉の響きとか動作に敏感に反応
して正解を選ぶというのと同じです。


べつに催眠状態のときだけ暗示が記憶に影響するというわけではなく、
それは日常生活でも常にあります。

暗示の力が記憶にどのような影響を与えるかという実験で、自動車事故
の映像が数秒間映っている短いフィルムを何人かの学生に見せます。
半分のグループには、車が「ぶつかった」瞬間にどのくらいのスピード
を出していたか、という質問をし、もう半分のグループには、車が「激
突した」ときのスピードはどのくらいだったか、という聞き方をします。

結果は「激突した」ときと質問されたグループの方が、「ぶつかった」
と質問されたグループよりも速いスピードを想像しました。

さらに一週間後、フィルムのなかで割れたガラスの破片を見ましたか?
という質問をしたところ、「激突した」グループやスピードを高く見積
もった人のほうに、「はい」と答えた人がずっと多かった、ということ
です。
実際にそのフィルムにはガラスの破片は映っていませんでした。

◆過去の子供時代の記憶を語るいま◆

子供のときの思い出を大人になってから人に話して聞かせることはよく
あると思うけれど、それは純粋に子供時代に体験したことではなく、ど
うしても今の大人の目がはいってしまうんですね。

幼児期前半の記憶を語らせるという実験で、四歳児を対象にした場合、
クライマックスがあってそれから一件落着するという典型的な形で話
をしたのはわずか12%であったのに対し、思春期の若者を対象にした
場合は、50%以上がクライマックス、一件落着という典型的な話し方
をした。
また思春期の若者の場合は、幼児のころにはない複数のモノの見方の
理解が記憶に投影されていた、ということです。

目の高さの変化、
クライマックスや結びをこしらえて話しに起伏をもたせる、
複数の見方を織り込めるようになる、

子供時代の思い出を大人が語る場合、話の構造は子供のときのままでは
なく、大人になってからできあがったものがつかわれてしまう。


突然話が飛んじゃうようですけど、田中小実昌さんが亡くなって、いつ
か「ぴょんかつ」でも『ポロポロ』のことを書こうかと思ってたんです
が、このへんのことは直接、小実昌さんの「物語」「お話」ということ
と結びつくかなとは思ってます。

◆記憶に関するエトセトラ◆

『記憶は嘘をつく』からのエピソードはこのくらいにしておきます。

でもほんとに「記憶」ということを考えるといつまでも無限にああでも
ないこうでもないと深みにはまっちゃいそうです。

わたしも以前「小説」のようなものを書こうと思い、実際いくつか書い
てみたんですが、幼児期の記憶に限らず、過去の記憶をいま現在語ろう
書こうという行為はほんと難しいとつくづく感じました。
書きながらも、なんか違うなあ、ほんとはこうじゃないんだけどなあ、
と思いながら、書いたものは全部フィクションなんだから、と自分に納
得させて、エイヤッという感じで書いていました。
まあそのへんは今の「ぴょんかつ」でも同じかもしれないですけど。


以前の「ぴょんかつ」にも書いたようなことだけど、自分では過去に
相手に対して言った言葉を忘れていても、相手の方はその言葉を憶えて
いて、というかほとんどその言葉そのものが、その人にとってのわたし
の印象として重要なものになってしまっているというようなこともあり、
非常に怖い部分があります。
ひとはそのひとなりに筋を通しているつもりでも、なかなか自分の全行
動、全発言に責任を持てるかとなると、ちょっと自信がありません。
まあ、脳だけじゃなく肉体も少しずつ変化して今の自分は過去の自分と
は違っちゃうんですから、それも仕方ないかなと。
というのはやっぱりちょっと無責任すぎるかなあ。


よく、あの頃は楽しかったなあ、などと昔のことを思い出したりするけ
れど、まあ実際楽しかったんだけれど、だからといってその時の自分に
戻りたいかと聞かれれば、断然「NO」ですね。
そのことは楽しかったかもしれないけれど、全体的にみてそのときの自
分には戻りたくないなあと。
すくなくとも今はそうです。
ということは自分なりに進化、成長してるということなのかも。

これが、ほんとにあの頃に戻りたいなあと実感するようになっちゃうと
まずいのかなあ、と思っちゃいます。
そんなことを思いながら、まだ自分には新しい未来がどんどんあると
能天気に信じ込んでいる今日この頃です。

◆執筆後記◆

今号から「ぴょんかつ」購読してくださった方が結構いらっしゃるよう
で、はじめまして(?)これが「ぴょんかつ」です。
これからもよろしくお願いします。

結構な数といっても、今までの「ぴょんかつ」の読者数の推移と比べて
ということで、たぶんみなさんが思っているような数ではないと思うん
ですが。

もちろん読者数が多けりゃそれでいいかというわけではないんですが、
どうしても発行者としては読者数が気になってしまって。
小さな増減に一喜一憂してしまいます。
どっかの掲示板に、メールマガジンの購読者を減らさないようにするに
はどうすればいいかというのがあって、それにはメールマガジンを発行
しないことが一番だ、とあって笑っちゃいましたが。

「ぴょんかつ」の方向性にしても、どういうのがいいのかなあと考えた
りすることもありますが、基本的にはわたしの思いつきと気分で書いて
います。
だからもっと保坂さんの作品自体について書いて欲しいというひともい
ると思うし、保坂さんの作品のことを書かれても全然わからないという
ひともいるかと思います。

で何が言いたいかといえば、さっき、これが「ぴょんかつ」です、といっ
ちゃったけれど、正確にはそうではないかなと。
もちろん、これが「ぴょんかつ」なんですけど、これだけが「ぴょんか
つ」っていうわけではないですよ、というか。

自分としては、ワンパターンにならずに、いろんな可能性を探っていき
たいとは思っています。

まあ発行もしばらくあいちゃうこともありますが、できるだけ継続して
いきたいと思いますので、自分でいうのも図々しいけど、「ぴょんかつ」
を暖かく見守ってやってください。
そして気がむいたら感想など頂けるとうれしいです。
でもまあ自分でもそうですけど、メールマガジン読んで、なんか感想が
あっても実際にメールで送るとなると結構手間だったりするんですよね。

なんかながながと書いちゃいましたが、それではまた。


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