豊玉姫命
トヨタマヒメノミコト
別称:豊玉比売命、豊玉媛尊、和多都弥(ワタツミ)豊玉比売命性別:系譜:海神(ワタツミ)の娘、玉依姫命の姉、山幸彦(日子穂穂出見命)の妻、子は鵜葺草葺不合神(神武天皇の父)神格:水の神、聖母神、福の神神社:諏訪神社、高忍日売(タカオシヒメ)神社、綿津見神社、余賀神社、豊玉姫神社、鹿児島神宮
 豊玉姫命という神名は、姿かたちの見目麗しい女性を意味する。海神の娘である豊玉姫命は、海神(ワタツミ)の宮にやってきた山幸彦(火遠理命)と結婚して子供をもうけ、夫に富と地上の王として君臨する資格を授ける。聖母神であると同時に、福を招き、出世を約束する女神である。詳しくは山幸彦、海幸彦の神話を参照していただきたい。
 最後のお産の場面は、鶴の恩返しの鶴女房と同様に、昔話の「異類婚姻譚」によく見られる「見るな」のタブーの代表的な話としても知られるものである。豊玉姫命は、異郷から訪れてくる神と結婚して、その神の子を生む女性である。逆に、山幸彦から見れば、豊玉姫命が他界の住人であり、そういう特殊な女性と結婚することによって、子供や宝物を授かったことになる。しかも、その宝物の呪力によって、兄の海幸彦との争いに勝利し、国の統治権を獲得する。つまり、豊玉姫命は、富と権力、子孫繁栄を保証する女神といえるわけである。

 美しい海神の娘といえば、昔話のなかに出てくる龍宮城の乙姫様がイメージされる。たとえば浦島太郎が龍宮城へ招かれて乙姫様に大変なもてなしを受けるという話は、山幸彦の話とほとんど一緒といっていい。豊玉姫命も乙姫様も、そもそもは海神信仰から発したものである。
 また、民話には、龍宮からやって来たみすぼらしい子供(龍宮童子)が家に入るとその家は豊かになり、逆に、その子供が去るとたちまち貧乏になるという話がある。つまり、竜宮というのは、豊かさや富の源泉として考えられた他界なのである。だから、海神の娘である豊玉姫命も、基本的な性格として龍宮童子のような福神的な機能を備えているといえる。また、富は国の繁栄を約束するものであり、富をもたらす豊玉姫命のような女性が生む神の子は、子孫繁栄の象徴ということができるだろう。
 なお、海神(=龍神)の娘である豊玉姫命は、日本の伝統的な民俗信仰の一つである水霊信仰とも深く関係し、神社によっては祈雨の神として崇敬されている。