塩土老翁神
シオツチオジノカミ
別称:塩椎神、塩筒老翁神、事勝国勝長狭神性別:系譜:海幸彦、山幸彦物語神武東征神話に登場する神神格:海の神、呪術・予言の神、塩の神神社:塩釜神社、塩釜社、潮津神社
 塩土老翁神は、老翁といういかにも高齢者らしい名前がついている。おそらく物事を知り抜いた長老というニュアンスが込められたものなのだろう。名前の塩土は、海潮の霊のことで海の神であり、別称の塩筒は海路の神を意味している。
 この神が登場する神話としてよく知られているのは、海幸・山幸神話である。まあ、詳細はそちらを参照していただきたい。
 潮を司る神ということは、すなわち海路を司る霊力を備えているということである。山幸彦に会った塩土老翁神は、よい潮路に乗る方法を伝え海神の宮に行かせる。つまり、航海の道案内をしているわけで、いわば船の水先案内人といえる役割でもある。
 そして、この話でもっとも肝心なことは、途方に暮れている山幸彦に、海神の宮に行けば解決の方法が見つかると教えていることだ。これは、塩土老翁神が海神の化身だということを示しているわけだが、その行為は一種の知恵授けであり、今日でいうところの情報提供である。それと同じような例として、「日本書紀」の神武東征の話のなかにも、「(天皇は)塩土老翁から東方に美き(ヨキ)国ありと教えられて四十五歳にして東征を始めた」とある。このように神話に登場する塩土老翁神は、”未知の国(場所)”に関する貴重な情報提供者の役割を果たしている。
 船が安全に航海するためには、潮の流れや天候の変化などを正確に知ることが欠かせない。古来、航海関係者はそうした海上で遭遇する”未知の情報”を司る海の神に安全を祈った。そうした信仰の対象になったのが、航海を守護する情報の神である塩土老翁神であった。

 塩土老翁神は、製塩の技術を伝えた神さまとしても有名である。そもそもこの神は、海を生業の場とする人々が必要とするあらゆる知識を備えており、そのひとつが製塩だった。
 塩土老翁神を祀る神社の総本社、塩釜神社(宮城県塩釜市)の社伝は、次のように伝えている。高天原から地上に降った鹿島神武甕槌神と香取神経津主神の二神が、塩土老翁神に先導されて諸国を平定したのち、塩釜の地にやってきた。二神はすぐに去ったが、塩土老翁神だけは永久にこの地にとどまり、人々に漁業や煮塩の製造法を教えたという。
 塩は生物にとっては生命を維持していく上で、生理的に欠くことのできないものである。料理にしても塩は調味料の基本であり、また神道では海(の塩)に入って身の穢れを祓ったりする儀式があるように、塩は身を清める力を備えている。日頃よく目にする店先の盛り塩や地鎮祭の盛り塩、大相撲でまく塩、葬式の時の清めの塩なども、清めの材料、縁起物として塩の持つ浄化する力を表すものである。このように特別な意味を持つ塩は、日本では主に海水から作られてきた。その生産地の人々は、塩作りの守り神として海の神を祀った。そうした神は、昔から日本の各地にいたはずで、そのなかから有力な神として発展し、生き残ってきたのが塩土老翁神だということができるだろう。