神大市姫神
カミオオイチヒメノカミ
別称:大市比売神性別:系譜:大山祗神の娘。素盞鳴尊と結婚し大年神宇迦之御魂神を生む神格:市場の神、五穀神神社:市比売神社、大内神社
 古来、道と道が交差する場所をチマタ(衢、巷、街)といった。 チマタには人が集まり、物が集散し、市が形成された。 全国に大市の名がつく地名が数多く残っているが、古くは市があったことと関係する。 そうした場所には、当然、市の繁栄を支配する神霊が発生した。 それが神大市姫神である。
 「神大市」という名前の意味するところは、「神々しい、立派な市」ということである。 父に山の神の総元締め大山祗神、子に穀物神の代表格の宇迦之御魂神(稲荷神)を持つことから連想される神大市姫神の原像は、山の神や穀物神を斎き(イツキ)祀る巫女的な存在だったと考えられる。 また、市の神は本来食物神(穀物神)であった。 市で交換されたのは主に食物であり、その食物を司る神の機能が、市という産業の発達によって商業の神としての機能を強め、市場の繁栄を守る神へと変化したのである。
 もともと市というのは、山の神の恵みを里の物と交換する場であった。 市で交換される食物や物資はいずれも神の恵みであり、巫女はその神を祀り、市が繁栄することを神に祈った。 あるいはまた、古くは巫女が神の託宣によって、交換する諸物価なども取り決めていたともいわれる。

 市場、つまり人や物が集まる場所は、それこそ全国各地に数多くある。 人々が生活するところには、その生活を支えるための市場が必ず発生する。 その市場を守る神として信仰されるのも、神大市姫神に限らない。 それぞれの土地によって、市神の名前が違っていることもある。 たとえば、古くから市神として祀られていたのが厳島神社の祭神の市杵嶋姫神(イチキシマヒメノカミ)である。 京都市下京区にある市比売神社は、神大市姫神と共に市杵嶋姫神を祀っている。 この神社はもとは平安京の市場の守護神を祀ったものである。 そのほかには、大国主命大黒天、あるいは恵比寿であったり、時には宇迦之御魂神であったりすることもある。
 このように神名は異なっても、その機能は基本的に同じである。 ただし、他の神さまは、その本性として直接に市に関わる神ではない。 その点、山の神や穀物神と深く関係する神大市姫神は、その名の通り、本来、「市」の繁栄を司る神として発生し、古くからの市の神として祀られてきた神霊である。 なお、市の守り神としては、今宮戎神社(祭神は事代主神)も有名である。