海に囲まれた島国の日本では、島の霊を神として祀ることも多い。
この神も名前の通り島の霊であることがすぐに分かるが、そのスケールが違うことから多くの島の神とは異なる神霊である。
一般に島の神というのは、漁労民が信仰する守護心的な性格をもっていると言えるが、この神の場合の島とは日本列島のことであり、つまり生島神、足島神は日本の国土に宿る神霊ということになる。
この神の生成に関しては、記紀神話に伊邪那岐命と伊邪那美命が国生みによって八つの国(島)を生むという話がある。
八つの国とは大八島国のことであり、日本列島の古い呼び方である。
このときに大八島国の国土に宿ったのが生島神、足島神であるとされているのだ。
この二神は基本的に同じ性格を持つ一対の神で、「イク」は生成、発展、「タル」は満ち足りて繁栄することを意味すると理解される。
いうなれば国土に存在するあらゆる生命の発展と繁栄を司る神ということになるだろう。
今日の生島神、足島神の神霊としての機能は以上のようなものであるが、古くはもうひとつ違った機能も備えていたようである。
別称にもある「国魂」というのは、古代の日本人がもっていた、土地にも霊魂が宿っているという考え方を表している。
もともと日本には地域ごとに多くの国魂が存在したのである。
それに対して、日本の国土全体の神霊であるとされる生島神、足島神は、そうした多くの国魂を統合した神格というふうにも理解することができる。
そういう神格としての生島神、足島神を祀る朝廷の祭儀として、平安時代の記録に見られる八十嶋(ヤソシマ)祭というものがある。
八十嶋祭というのは、天皇が即位して大嘗祭が行われた翌年に必ず行われた祭儀で、その意味するところは新しい天皇による国土の統治権を精神的に裏付けることだったといわれる。
この神は、かつてそうした特別な機能も持っていたということである。
ちなみに、この八十嶋祭の祭場とされたのが、大阪、難波の浜辺だったそうで、その地を神域として祀られているのが、生島神、足島神を祭神とする現在の生国魂神社である。