埴安彦神 / 埴安姫神
ハニヤスヒコノカミ / ハニヤスヒメノカミ
別称:波迩夜須毘子神 / 波迩夜須毘売神、埴山姫神 / 埴安神(総称)性別: / 系譜:伊邪那美命の子神格:土の神、田畑の土壌の神、陶器の神神社:榛名神社、大井神社、愛宕神社、迩幣姫(ニベヒメ)神社
 現代人は、土に馴染みがなくなっている。 土の神さまといっても、ありがたみは当時の人々の半分以下ではないだろうか。 今、土に霊的なものを感じているのは土に触れ、土をいじる職業の人だけだろう。 農業や陶磁器製造業、あるいは造園業や土木関係の職業といったものである。 今日でいえば、そうした業種の守護神ともいえるのが埴安神(総称としてこう呼ぶことにする)である。
 埴安神は、伊邪那美命が火の神迦具土神を産んだときに、火傷で苦しみながら糞をした、その糞から生まれた神である。 神というものは、おちおち排泄もできないものらしい。 「埴」とは赤土の粘土を意味し、古代には陶器や瓦の原料とされ、衣になすりつけて模様をつけることにも用いられたという。 広くは土の神であるが、その名前からして粘土を用いて器を作る作業をイメージさせるところから、陶器の祖神と考えられる。 陶器といっても、この場合は祭祀に用いる特別な器、たとえば酒、水、御饌(ミケツ=穀物など)を盛る土器の甕(ミカ=かめ)や深皿様の器といったものの製作を司る神さまということである。
 埴安神が作った祭具はどのように使われたかというと、当時の人々にとってもっとも大事な五穀豊穣を願う祭祀においてである。 「日本書紀」では、伊邪那美命は死の間際に土の神埴山姫神と水の神罔象女神を生んだとされている。 穀物の生育には土壌と水のエネルギーが不可欠である。 埴土を水で練って作られた祭具は、土と水の力を象徴している。 古代の人々は、その祭具を用いて新たなエネルギーを生む儀式を行うことで、作物が順調に育ち、豊かに実ることを願ったのである。
 また、昔から埴安神は田の畦や川の堤などに守護神として祀られた。 田畑の土壌を司ると同時に、堤防の堅固さを保ち、川の氾濫による災害から作物を守ってもらうことを願ったのである。 埴安神は、特に九州地方で田の畦を守る神として祀られていることが多い。 その役割からすれば、単なる土の神というだけでなく作物の実りをもたらす神であるともいえる。 そのためこの神は、食物神の豊受大神と一緒に祀られている場合も多い。
 以上のように、土のエネルギーを司る埴安神は、陶器の神であるとともに田畑の土壌に宿って穀物の豊作をもたらす神でもあるのである。