鵜葺草葺不合神
ウガヤフキアエズノカミ
別称:天津日子波限武(アマツヒコナギサタケ)鵜葺草葺不合神性別:系譜:日子穂穂手見命豊玉姫命の子。神武天皇の父神格:農業神神社:鵜戸神社、宮崎神宮、菅生石部(スガフソベ)神社、知立神社
 実に変わった名前である。 こんなものをふりがななしで読める人材はそうはいないであろう。 これを初見で読めてしまった方には、これまでの人生をじっくりと振り返り、この先に歩むべき道を考え直すことをお勧めしよう。
 とまあ、変わった名前の神なのだが、海幸、山幸神話の主人公、山幸彦(日子穂穂出見命)が、海神(ワタツミ)の娘の豊玉姫命と結婚して産まれた神である。 この名前については、誕生の時の事情によるものとされる。 海宮で懐妊した豊玉姫命が、天神の子は海原で生むことはできないとして海辺へ上がり、鵜の羽で産屋の屋根を葺き始めたが、まだ葺き終わらないうちに産まれてしまったというものである。 だからって名前にしなくてもいいと思うが、天皇家へとつながる血をもった神々は、いずれも穀物に関する名前(日、火(ホ)=穂)を持つのに対して、この神だけが異質な点が謎のひとつにもなっている。
 その謎の説明としては、皇室の支配力の大きさを象徴するために、山と海の霊力が合わさったこの神が考えられ、あらたに皇祖神の系譜に挿入されたのではないかという説もある。 もしもその説が正しいとすれば、観念的に作られた神ということになる。 そうしてみると、父の山幸彦や子の神武天皇に比べ、この神が神話ではこれといった活躍をしていない不思議さにもうなずけよう。
 しかし一部の歴史家の間では、この時期の九州地方にウガヤ朝という王朝の存在がささやかれており、鵜葺草葺不合神はこの王朝の王であったとする説もある。 もしそうだとすると、神武天皇はこの王朝の後継者、もしくはこの王朝をうち倒したあとに建国した別の国の王であったということになる。 これは神話と史実を組み合わせた考えで、ここでの基本コンセプトと異なるので深くは触れない。 興味のある方は古本屋にでも足をのばしてみれば、いくらでもこのような内容の本を見つけることができるだろう。

 それはともかく、神話では、生みの母の豊玉姫命が、出産を夫に見られたことを恥じて海宮に帰ったあと、姉に頼まれてやってきた玉依姫命に養育され、成長すると叔母である玉依姫命と結婚して神武天皇の父となる。 というわけで、鵜葺草葺不合神といえば、初代天皇であり建国の祖でもある神武天皇の父としての存在が一般に知られる。 では、この神の霊力とはどういったものなのだろう。 先に触れたように、この神の出生は、山の霊力と海の霊力とが合体したところに特徴がある。 つまり、海山の恵みをもたらすエネルギーを司る偉大な神格というのが鵜葺草葺不合神なのである。 さらに、目立たないながらも皇祖神の系譜の正統に位置する神であるから、基本的には農業神であるともいえるだろう。