99.03.04

憂鬱である。
なぜって、そりゃもう。
今週のね、月曜日にさあ。
昼のラッシュだけ手伝いに来るって店長と約束してたのよ。
それが・・・。
前日にJくんが泊まっていたのさ。
当然夜更かしするよね。
10時半頃店長から電話があったんだけど。
携帯に。
液晶に映った店長の名前を見た俺は、約束はすっかり忘れてて、
「今日は仕事やりたくない。」とか言って無視しちゃったの。
さらに11時半頃にはAさんから電話かかってきてさあ、
ただごとじゃないなって思って出てみたら、
「今日来るのぉー?」って言われて。
すべてを思い出して、叫んだあげく、今から行くって言ったんだけど。
「えー?俺手伝おうと思って来たのにぃー。」とか言われちゃってさあ。
結局行かなかったんすよ。
しかも、店長は留守電にメッセージまで入れてくれて。
「モーニングコールのつもりでかけました。
起きたら店に電話してください。」だって。
憂鬱でしょ?
気が重いでしょ?
今日までに1回謝りに行こうと思ってたんだけど、
店長がいる時間にうまく合わせられなくてさあ。
はぁ・・・。
だから今日は20分ぐらい早く店に着くように家を出たの。

店についてびっくり。
店長1人でやってて、客並びすぎ。
速攻で着替えて、2レジを開設。
客がいなくなって、店長が何か言おうとするのを遮り、
「月曜はすんませんでしたっ!!」って言ったら、
「はぁ?」って言われた。
「あ、いや、だから、月曜の昼・・・・。」
とか言いよどんでいるうちに思い出したようで、
「あーーー、あーーーーーーー、忘れてた。」だそうだ。
俺は思わず消えそうになったね。
しかもさっき何か言おうとしたのは、タイミングいいねえ。ってことだったらしい。
シフト表になにも書いてなかったから、来ないかもって思ってたらしい。
はぁ、俺の憂鬱な時間はなんだったんだ。

次はAさんだ。
昼間に時間外労働したわけだから、店長よりは覚えているだろう。
一応謝っておかねば。

珍しく時間ぴったりにAさんが来る。
レジにいる俺を見て、開口一番、
「あれー?なんでいるのぉー?」とおっしゃる。
しまった。
意外と根に持つ人だったのか。
俺はここにはいちゃいけないって言うんだろうか。
どきどきしている俺をよそに、「今日は間に合ったのに。」とか言っている。
どうやら、時間通りに俺がいるのが不満らしい。
最近は遅刻してないと言ったら、「おかしい。」と決めつけられた。
むう、俺はそんなやつだったのか。

Aさんがレジに出てきたので、やっぱりちゃんと謝ることにする。
ところが、Aさんも忘れてたらしく、俺が謝って数秒してから、
「あー、そーだよーーーー。」とか言っている。
どうなってんだ、この店は。
さらにAさんは、「ちょーーー困ったよーーー。」と言う。
よし。あんまり困らなかったらしい。
本当に困ったことがあるやつはこんな口調は使わないだろう。
よって記憶から削除。
そろそろ俺も忘れてもいいだろう。

普通に仕事する。
いつも通り、俺はレジ打ち。
Aさんは品出し、前出し、その他。
不公平だと思うかもしれないが、Aさんと仕事するときはこれが基本。
だって俺が並べたやつを、Aさんは無言で並べ替えちゃうんだもん。
独自のポリシーがあるらしく、サクサク並べるのはいいんだけど、
もうちょっとこうコツというか、そういうのを教えてくれればいいのに。
品出しだって、どんどん1人ではじめちゃうから、残されたやつはレジやるしかないでしょ?
よって、いつもこう。
しょうがないのさ。決まりだから。

雑炊を買った客がいた。
サ●クスの雑炊は、底の方で汁がゼラチン状に固まっていて、
その上にご飯と具が乗っている。
温めると汁が溶けて、ちゃんと雑炊になる。
運搬中とかにこぼれないようにってことなんだけど。
温めたあとは溶けているので、当然、こぼれることができる。
だから、「汁の方溶けてますので、お気をつけて・・・。」と言ってやったのに。
「おう、ありがとう。」とか言いながら、ひっつかんで振り回してったよ。
あの親父。
やつにしては丁寧に持っているつもりなんだろうが、世間一般では振り回すと言うぞ。
間違いなくこぼれたな。
汁なしの雑炊なんか食ってもうまくないと思う。
こういう客がいるから、次から言うのやめようとか思っちゃうんだよ。
まったく。

俺の休憩が終わって、Aさんの休憩中。
見知らぬ男におはようございますと言われ、俺はポテチを崩した。
何事かと思ったら、しもっちの後釜のSVらしい。
今度のやつはだいぶましなようだ。
なにしろしもっちは店長をして、
「看板替えをする前から考えて、史上最悪のSVだった。」と言わしめた人物だ。
やつの転任がこの間決まったのだが、俺も店長もはしゃぎ回ったものだ。
今度のやつは眼鏡をかけたサラリーマン風のやつだ。
30くらいに見えるが、見た目よりは若いんだろうなという印象を受ける。
自己紹介をされ、名刺を出されたので、思わず受け取りそうになったが、
「副店長ですか?」との問いに我に返る。
副店長なら中にいると言って、手を引っ込める。
いやだ。副店長なんて。
俺はそこまでこの店にはまりたくない。
もうその一歩手前までいってしまっているが、やっぱりいやだ。
しばらく経って、やつは帰っていった。
俺はしもっちよりましだと思うのだが、Aさんは気に入らないらしい。
理由を聞いたら、「生理的にだめ。」とか言っている。
それでいいのか?
その後、彼の年齢のことに話題が流れ、Aさんも30ぐらいだと予想した。
もし24歳とかだったらどうするか訊いてみたら、
「もう口きかない。」とのこと。
しかも、「年下はだめ。」とおっしゃる。
待てって。
俺はどうなる。
っていうか、この店の店員は、1人をのぞいてあんたより年下だぞ?
しかし、Aさんにはそんな自覚はないらしく、ずっと「キライ。」とか言っている。
勝手にしてくれ。

だいぶ経って、今日はもうなにもないかなと思い始めた頃、不思議な客が来た。
カゴをずんとレジにおいて、「あと、ハラコ二つ。」
はい?
俺が不可解な表情を浮かべているのに気づいたらしく、もう一度言ってくれた。
ハラコ。」
俺には分からない。
魚屋にでも行ってくれ。
レジを打っているAさんに助けを求めて、すがるような視線を向ける。
Aさんはそれに気づいたらしく、レジを打ちながらこそっと教えてくれた。
ハラコ。」
もうだめだ。
なんだそれは?
俺が止まっているのをチロッと見て、
もうレジ打ちを終わってしまったAさんがはっきり言ってくれた。
赤ラーク。」
そうだったのか!!
すぐに赤ラークをふたつもってくる。
あ、たばこの名前ね。念のため。
しかし、客はともかく、Aさんがハラコなんて言うはずがない。
となると、俺の耳が悪いのか。
そんなバカな。
そういえば、耳から入れた単語を別の単語に変換するのが得意なやつがいたな。
Jくんだ!!!
これはやつの仕業か。
きっと伝染ったに違いない。
俺のこれからの人生に大きな暗雲が立ちこめてきた。

その後は何事もなく終わる。
打ちひしがれ、憔悴しきった俺は帰路についた。

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