99.02.11

雪!!!
ああうっとうしい。
なんで俺がバイトする日に雪なんか降るかね?
雪なのでずいぶん早めに家を出る。
そういえば今日はFF8の発売日だ。
たしか予約が70件以上入ってたな。
俺もそのうちの1人だが。
それでうちの発注は100本だ。
足りるのかね?そんなんで。
とにかく店に行く。

今年入って数えるほどの遅刻をしない日。
店長に俺は雪が降ると遅刻しないらしいと言うと、苦笑いされた。
勘弁してくれってことなんだろう。
まあ俺も鬼じゃないし、今後少し早めに家を出てやろう。

早速だがFFの売れ行きを聞いてみる。
どうもやたらと売れたらしく、今日の昼の時点で昨日からの1日分の売り上げが90万オーバー。
普段50万行けばいい方だから恐ろしいことだ。
だいたい販売開始が朝7時。
それから13時までの間に40万円分売れたってことだな。
危険すぎる。
俺もやらねば。

そうだった。
今週から、店長が20時まで残って、Aさんは20時からになったぞ。
その代わり朝8時に交代するらしい。
5時と17時だったのがちょっとずれただけ。
結局二人とも12時間ずつ働くってわけだ。
人件費削減だかなんだか知らないが、確実に寿命を縮める作戦だな。

で、しばらくは店長としゃべる。
店長は休憩時間が適当で、客がいなくなるとすぐ休もうと言い出す。
それは大歓迎だが、1回の時間が短いので落ち着かないな。
飯食ったらすぐ出なくちゃいけない。
たばこぐらい吸いたいのだが、店長がそのタイミングで出てくるので、
俺だけってわけにもいかないだろう。

俺が到着の時点でFFの予約外在庫11本。
19時には最後の1本になってしまった。
まったく欲しいなら予約すればいいのに、なんで飛び込みで買おうとするかね?

最後の1本が売れる時が来た。
加害者はまあまあ若い部類に属する女。
息せき切って入ってきて、「FFってありますか?」だと。
その顔は探し回ったって顔だな。
だから予約しろと言っただろうが。
こいつには言ってないか。
で、ちょっと格をつけてやろうと思って、
「いや、ちょうどこれが最後のやつですよ。」と言ってやる。
心底ほっとした顔。
むうう、よいぞ。
いいことをした気分になる。
こっちが売ってやろうとしたとき、彼女は「あれ?」とか言い出した。
財布を忘れたらしい。
どうせ車の中かなんかだろうが、迷惑なやつだ。
やつが取りに行っている間、別のやつがFFをくれと言ってきたらどうしようか頭を悩ませる。
うっちまったら彼女がかわいそうだが、目の前にあるのにないって言うのもなあ。
さいわい、すぐに財布付きで戻ってきて、俺の思考実験は無駄に終わったが、
あまり店員を困らせるものではないぞ。

あーあ、なくなった。
これで、次にくれと言ってきたやつの愕然とした面を拝めるな。
さりげない楽しみが増えるのはいいことだ。
まあ余計な期待をさせるのもなんだし、売り切れって書いておくか。
コピー機の中から適当な紙をとりだし、『FFは売り切れました。』とでっかく書いて、
レジの後ろとデジキューブの前に貼り付ける。
これで俺に訊いてきたら絶望を味あわせるまでさ。

ここまでの作業が終了してから、元店員のHが弟を伴って現れた。
どうせFFだろうと思ったら、その通りだった。
予約はしてないらしい。
なんでしなかったのか尋ねたが、要領を得ない。
悪いが、ないものはない。
電話なりで言ってくれればキープしたのに。
彼女はまだ探す気らしく、そそくさと立ち去っていった。

20時になる。
時間が変わってもAさんは変わらない。
要するに遅刻だ。
まあいい。
来るまで待つ。

Aさん到着。
入ってくるなり、第一声が、
「雪だぁ!!!」だった。
スキーもボードも好きなのは分かるが、はしゃぎすぎの感は否めない。
着替えて出てきて、次に言ったのが、「FF売れた?」だった。
もうないと言ってやると、「え!?」と絶句したあと、
「みんなおかしー。」とおっしゃる。
ゲームの発注はあんただろうが。
売れないと思ってるなら100本も発注しない方がいいぞ。
だいたい、この国ではみんなおかしいことはあり得ないぞ。
みんながやってることがいいことなのだ。
よってここは買わない方がおかしいってことになるな。
俺がそう考えている間にも、Aさんはよほど意外だったらしく、
「おかしーよ。」と言い続けていた。

さらに、俺が貼った売り切れの紙を発見したらしく、
「これ誰が書いたのー?」と訊いてくる。
俺だと言ったとたんに笑われた。
確かにズバッと殴り書きしたよ?
素早くしないとFFを求める客がすぐにでも来そうだったんだもん。
おかしいか?ちくしょう。
俺が憤って「え?おかしい?」と訊いても、
くすくす笑うだけで具体的にどうおかしいのか分からなかった。
相手にしても無駄だと思って休憩する。

休憩の間に、朝のFFの状況について訊いてみる。
7時にはAさんは店にいたはずだからな。
7時前には、店内にかなり人が集まり、レジを遠巻きに丸くなってじっと7時を待っていて、
かなりカンジ悪かったらしい。
うちの店員のYくんも来ていて、
こいつだけはレジの真ん前で待機していてさらにやなカンジだったそうだ。
そうだったのか。
あの売り上げだもんなあ。
朝はそれくらいでも不思議じゃない。
昔ゲームショップで起こったことがコンビニに輸入されたようなものだろう。
恐るべし、FFだな。

休憩が終わっても事件は起こらない。
張り紙の効果か、FFをよこせと言うやつもいない。
Aさんは、雪の興奮とFFの意外さに打たれて疲れたらしく、おとなしい。
すぐ22時になってしまった。

このあと俺もFFをやらなければいけない。
帰る。
さらに俺を待ち受けていた運命は過酷なものだったが、
この日記とは関係ないので書かない。
いずれ語る日も来るだろう。

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