99.02.05

むう、あれほど誓ったのにやはり遅刻だ。
だが、今日のは俺のせいじゃない。
出がけに、ちゃーが1人で寂しそうだったので遊んでやったのだ。
ちゃーは普段は全く動かないが、いったんハイになると止まらない。
家中を追いかけ回したあと、姉貴の買ってきた「それ行けサメくん」
(鮫のぬいぐるみで手にはめて口をぱくぱくできる犬用の遊び道具)で遊んでやって、
挙げ句の果てに押し倒されておでこをなめられた。
いやー疲れたぞ。
従って俺は悪くない。

店には5分遅れで着く。
Aさんの姿はない。
最悪の事態は避けられたようだ。

掃除をしているとAさんが来る。
掃除を終わらせて、レジに入ってから初めて顔を合わせたので、
おはようございますと言ったら「おはよう!!」と元気いっぱいだ。
いつも入ってくるときは死にそうなのに、挨拶の瞬間だけは元気だ。

店長帰る。
帰りがけに、今日外人が来た話をしていく。
何でも、突然現れて、「バス。バス。」と言うから、
近くのバス停を指さしてやったら、違うと言われたそうだ。
それでどこに行くのかと訊いたら、「ヨコハマ。」とのお答え。
だったら駅に行けよと道を教えようとしたらやはり違ったらしい。
結局彼はファックスと言いたかったらしく、横浜にファックスを送りたかっただけらしい。
店長は「ファックスは本場の発音ではバスに聞こえるらしい。」と言って帰っていったが、そうなのか?
Aさんは話を聞いてる間中「聞こえないよ。」と言っていたが、その通りだ。
たまには的を射たことを言う。
店長が帰ったあとも「聞こえないよねえ。」とずっと言っていた。
よほど不服だったのだろう。

今日は平和な日だ。
なにも起こらずに休憩の時間。
新商品の冬野菜のサラダうどんを食ったが、まずかった。
夏場のやつはまあまあだったのに。

Aさんの休憩。
ジュースとたばこを買うときに、万券を出してきた。
奇跡に近い。
いつもお金ないくせに、この時期はスキーなんか行くから、もっとやばいはずだ。
どうしたのかと訊いてみると、Aさんはにやりと笑い、財布の中のもう一枚の万券を見せてくれた。
俺は驚きで固まっていたのだが、Aさんは「まだ10日しか経ってない。」と不満そう。
それは給料日からの経過日数だろう。
まさかと思い、「え、まさかもうそれしか残ってないの?」と尋ねると、
Aさんは寂しそうに笑って休憩室に入っていった。
本当だろうか。

見たことのないおっさんがバナナを持って現れる。
さらにショートピースを3箱注文し、
たばことバナナそれぞれを別会計にしてくれと言って、千円札を2枚出してきた。
別にそれはかまわないのだが、俺がたばこの会計をしている間になぜバナナをしまう?
抜け目のないやつだと思いながら、「あの、バナナいいですか?」と言うと、
「おっ、わりい。隠しちゃったな。」と言ってもう一度引っぱり出してきた。
悪気があったわけではないらしい。
まあ店員の目の前で故意に商品を鞄に詰め込むやつもいないが。
しかもそいつは去り際に、「手間かけて悪い。」と言っていった。
やるなあ。渋いぞ?
まあ駆け込み客の一種だろうから2度と来ないだろう。

Aさんが戻ってくる。
店内を巡回しながら、レジ脇のたばこの前で足を止める。
ここには普通のたばこと違って、
キャンペーンもので2個セットにライターがついてくるやつとかが置いてある。
今は、オーストラリア産のたばこがでかく場所をとっている。
日本でたばこが値上げされた昨年の12月に、230円という安価で売り出されたやつだ。
当時は結構売れたのだが、今は買う者など稀である。
まずいもん。俺も買ってみたけど。
で、Aさんはそれがふと気になったらしく、手に取って見ている。
俺が興味を引かれて近づいていくと、突然
「カンガルー味だ!!!」と言い出した。
やはり始まったか。
Aさんと一緒で、1日中平和でいられるはずがない。
理由を聞くと、Aさんは箱の片隅を指さす。
そこにはイラスト化されたカンガルーの絵が。
だからってさあ。

疲れたが、気を取り直して昔友人に土産で貰った
カンガルーの睾丸袋でできた小銭入れの話をしてやる。
Aさんはえらく興味を引かれたらしく、「いいなあ。」を連発し、
今使ってるのかと尋ねてくる。
あんたは俺の財布をいつも見てるだろう。
あれのどこをどう取ったら睾丸か?
やたらと皮臭くて気に入らなかったのでどこかに放り込んだはずだ。
現在は所在不明。生存も危うい。
だいたい睾丸袋と分かって日々手でいじるのはいやだろう。
Aさんはそうは思わなかったらしく、しきりに残念がっていた。
そんなにほしけりゃ自分で行って買ってこい。

Aさんの巡回再開。
今度はできあがって置いてある写真の前で立ち止まる。
その袋に書かれた名前を見て、「お、ナカジマミユキ。」とか言っている。
どれどれと近づいて、よく見てみると名前は幸美。
これはユキミであってミユキとは違うと言ってやる。
Aさんはもう1度よく見て確認すると、こともあろうに、
「バカだねえ。ミユキにしときゃいいのに。」
と言いだした。
人の名前を読み間違えたあげく、バカ呼ばわりとは・・・・。
この人が聞いたら怒るんだろうな。
俺には関係ないけどさ。

いつもケントスペシャルマイルドを2個買う人が入ってくる。
チャンスと思ってそのたばこを2個レジに置いておく。
彼が来る。
予想通り、たばこも注文した。
レジを打ちながらたばこもさりげなく取り出して打ってやる。
無反応。
おかしいなあ。
マイルドセブン2個のやつとロングラーク2個のやつはありがたがったのに。
こっそり顔を盗み見ると、にやにやしていた。
どうやら喜んでくれているらしい。
よし。俺はいい仕事をした。
満足して彼を送り出す。

22時が近づいた。
それはいいのだが、夜勤のYくんが来ない。
あいつもよく遅刻するが、今日もか?
じりじりしながら、やはり遅刻は良くないと思う。
再び気をつける決意をする。

Aさんが掃除を始める。
シフトの入れ替えの時に掃除するのが普通だ。
いつもAさんは、夕方も夜も外の掃除なのだが、今日は中もやっていた。
来ていないからやるしかないんだろう。
俺がやろうかと思ったのだが、気づいたときにはAさんが始めていた。
レジをあけるわけにいかないのでそのまんま。
そこでAさんの中掃除を久しぶりに見る。
早い。
モップを持って走っている。
なんでそんなに急ぐんだろう。
まあとにかく早いのはいいことだ。

30分以上遅れてYくん来る。
もう用はないので帰る。

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