99.01.21

むうう、そろそろ家を出ようとしたときに母親にちゃーの散歩を頼まれた。
頭が痛いんだそうだ。
おかげでまたもや遅刻だ。
もっと早く言えよな。

5分ほど遅れて店に着く。
店長は「遅刻だぞーー。」と言っただけだった。
あいかわらずだ。
着替えていたらAさんが来た。
いつもよりちょっと早いかな?
こんなの二人を待ってるんだから店長も大変だ。

掃除を終え、レジに入ってすぐにAさんが鼻がかゆいと言い出した。
「はぁ?」と訊き返したら、今度はムズムズすると言われた。
かゆいとムズムズするはだいぶ違うと思うのだが。
本当はどっちなんだろう。

店長は、うちの店のオーナーと電話で話している。
うちの店はちょっと特殊で、オーナーと店長が別なのだ。
形式よりも実態の方が特殊なのだが。
電話が終わったらしい。
店長は困りきった顔をしている。
どうしたのかと訊いたら、
オーナーに客にこの店についてアンケートを取れと言われたんだそうだ。
俺自身は、古くからこの店にいる店員の接客はかなりいい方だと思っている。
最近入った奴らには、愛がないと思うが。
言っておくが、俺はかなり気を使っているんだぞ。
店員にやられたら腹が立つことはよっぽどの奴にしかやらないし。
まあいい。
店長が困っているのは、客が書いてくれるかということだった。
利便性追求のコンビニでわざわざ足止めを食らおうという奴も少ないだろう。
自分の利益になることはともかく、何の得もない。
袋に入れてまた持って来てもらえばいいと言われたらしいが、俺なら捨てるな。
そう言ってやると、店長もそう思うらしい。
店の外に目安箱でも置こうかと思ったが、ごみ箱代わりにされるのがオチだろう。
長年店員をやってると、そういう予測は良く働く。
おかげで何をやっても無駄という結論に早くたどり着いてしまう。
店長も無駄だと思っていたんだろう。
「これだから現場にいない人間は」とか言っている。
まったくだ。
本部社員にしろ、オーナーにしろ、何も分かっていない。
これ以上関わり合いになって巻き込まれるのは御免なので、俺は仕事に戻った。

公共料金の客が来た。
電話代とか、電気代とかのやつである。
レジの奴がバーコードを取って、袋の奴がはんこを押して領収書を渡すことになっている。
俺がバーコードを取ったあと、Aさんが途中で動きを止めた。
早く領収書を渡してやらないと話が先に進まない。
Aさんはまだ動かない。
気になってよく見ると、領収書を切り離すときに違うところが破けてしまったらしい。
どうやらどうしようか考えているようだ。
俺ならバレる前に適当にやっちゃうのに。
たっぷり10秒は考えた後、ミシン目通りにもう一度破って、
間違えたところをテープで貼りつけることにしたらしい。
それくらいしか手段はないと思うのだが、何を考えていたんだろう。
やはりこの人は分からない。

休憩。
新商品の角切りビーフカレーが落ちていたので食べてみる。
あっためてしまってから気がついた。
普通にカレーが盛ってあるのはいいんだが、
その上にわざとらしく1センチ四方くらいの牛肉の切れ端がいくつか落ちている。
いくら牛肉を強調したいからって、これはなしだろう。
今日売り場にやたらと残っていて、売れる気配のない訳が分かった。

休憩終わり。
レジに戻ると、Aさんが必死にレジの品物を置くところを磨いている。
あの透明のゴムの板が置いてあって、下に広告とかが入ってるところである。
そのゴム板が汚いことに今ごろ気づいたらしい。
タオルと、俺が存在さえ知らなかったクレンザーを持ってきてひたすら拭いている。
だが、Aさんの持っているタオルはもう真っ黒なのに、
肝心の板のほうは、どこを拭いたのかまったく分からない。
全体的に汚いままである。
「疲れたー。」とか言いながらもやめる様子はない。
しょっちゅうひっくり返して、どっちの面が汚いのか分からないとか言っている。
俺の見たところもうゴム自体が変色してしまっているので無駄だと思うが。
まあ言ってもやめる人じゃないので、邪魔にならないように遠くでボーっとしていた。

知らないおじさんが入ってくる。
棚の角を曲がるとき、服に引っ掛けて商品を落としてくれた。
黙って棚に詰め込むか無視する奴が普通なのに、
こいつはこっちを向いて「ごめんな、ごめんな。」とか言っている。
そしてちゃんと棚を元に戻していった。
なかなかやるな、こいつ。
あまりに珍しいので、俺とAさんが「いいっすよ。」と反応するのにだいぶかかる。
それくらい客のモラルはなってないのが現状だ。
そいつはすぐにジュース2本を持って戻ってきた。
さらに公共料金を出す。
俺が打ち終わる前に1万円札を出して、
「これしかないんだ。出してもいいかなあ?」とか言っている。
どうしちまったんだ?
なじみでもないのにここまでやる客は初めてだ。
会計は1,021円だったが、それを告げると、
「21円あるよ、ちょっと待ってね、すぐだから。」
と言って出してくる。
こいつは完璧すぎる。
だいたい1万円と打ち込んだ後に小銭を出してこっちを混乱させるものなのに。
顔を覚えようと思ったのだが、もう彼は去っていて、じっくり眺めるヒマはなかった。
こういう些細なことで印象はとても良くなるのにやってくれる奴はあまりいない。
残念なことだ。

Aさんの休憩。
ジュースとタバコ2箱を買う。
財布の中を見て「あぁーーー。」とか言っている。
「きわどいんスか?」と訊いてみたら、
「きわどいどころじゃないよー。」と怒られた。
どうやら本当にやばいらしい。
いつでもやばいのにどうやって暮らしているんだろう?

Aさんがもどってすぐに川田のおやじが来る。
うちに出入りしてる八百屋だ。
今日はみかんとバナナばかりをやたらと入れていった。
2人でそれを整理にかかったところ、
近くでカチャンといういやな音が聞こえた。
見ると、おばさんが卵を落としている。
あーあ。
Aさんがすぐに救援に向かう。
面倒なことにおばちゃんは自分で片付けようとしている。
よけい傷を広げなくていいのに。
Aさんもそう思ったらしい。
以下、俺の耳に入ったAさんのセリフ。
「いいです、いいです。こっちでやりますから。はいはい。大丈夫です。
いいですよ、そのままで。いいですから。大丈夫ですので。やります、やります。
ここで手を洗えますから。気にしないでください。はい。はいはい。」
身近な人間の電話での母親に対する態度に似ている。
Aさんの努力の甲斐あって被害は最小限に食い止められた。

発注を頼まれる。
だが、新商品は多めに入れなければいけないので、数がうまく合わない。
困ったので、Aさんを呼ぶ。
Aさんはすぐにやってきて、
「あー、このへんいいよ。もっと削ろう。」
とか言ってどんどん数を減らしていく。
「いや、それ先週きれいに売れてるんだけど・・・。」
と言ってみたが、
「え?いいよ、売れない売れない。」
とか言ってバキバキ減らしていく。
俺は今までけっこう考えて発注してたのに。
あほらしいので今後発注は適当にやろうと決意する。
さらにAさんは書類を調べ始めて、
「廃棄1万円にしなきゃいけないらしいよ。」
とか言い出した。
今は1日で1万6千円ほど出ている。
無理すぎる。どうやって減らせばいいんだ。
俺がそう思ったとき、Aさんは、
「知らない!!」と言ってレジに戻っていった。
いいのか、おい。

そのまま休憩に入る。
なにごともなく終わり。
Aさんが休憩する。

その間にタバコの客が来る。
ケントスーパーライトの100'sを頼まれた。
見ると、100'sがひとつだけ普通の長さのところに刺さっている。
チャンス!!
俺はそれを取り、「これでいいですね?」と言ってレジを通した。
案の定、普通のやつだと思ったらしい。
「あの、ロングで・・・。」とか言ってきた。
かかったな。まだまだ青い奴よ。
「これですよね?」と言ってじっくり見せてやる。
納得しやがった。
己の未熟さをかみしめるがいい。

Aさん戻る。
すぐに品出しに行ってしまった。
暇なのでレジにいる。

客がグランツーリスモのカードを持ってくる。
懐かしさを覚えてソフトを探す。
・・・ない。
在庫がないやつのカードを置くな!!
謝って断る。
客がいなくなってからAさんが戻ってくる。
グランツーがなかったと言ったら、
「あ、ないかもねぇ。かわいそーーー。」と言ってた。
客より俺のほうがかわいそうだ。

やっと終わる。
疲れたので帰る。
Tくんは時間を守るのでたいへんよろしい。

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